第003話 「鎖に囚われし勇ありき者(訳:気が付けば牢の中)」
「そう、俺は今異世界にいる」
とりあえず颯太はそう宣言してみた。
(……なんでやねん)
普通に考えれば夢の中だろう。
はっきりと自分が夢の中にいることを自覚してるんだから明晰夢ってやつではないだろうか。
(しかし、何でまたこんな中世っぽい雰囲気なのか。それに人も多いな)
颯太はこれだけの世界を夢として作り出した自分の脳に感動する。
(夢は確か記憶の整理が映像化されたもの。こんなところで無駄遣いしてたのか。なるほど、小学生のときに習った漢字すら間違えるはずだよ)
で、どうすればいいんだろう?
折角の夢なのだ、現実じゃ出来ないこととか、色々とやってみたい。
(あ、あそこにいる二人とか丁度良さそう)
颯太は見た目15歳位の街娘風の少女が二人、道端でおしゃべりしているのに目をつけた。
まずは、念じてみる。
(スカート捲れろ、スカート捲れろ、スカート捲れろ……)
少女二人に何か通じたのだろうか、二人は両手を自分達のほうへ向けてぶつぶつと呟いている颯太のほうへ顔を向ける。
(ん? くすくす笑ってねぇ? うん、あれは絶対俺を見て笑ってるな)
颯太は自分の姿を確認してみる。
石畳の道のど真ん中で毛布をかぶった、ティーシャツ姿。
少女二人が自分を笑っている理由はすぐにわかった。
(そうだよな、いい年した男がイチゴ柄の毛布はありえないよな……)
颯太は反省した。
お気に入りの毛布ではあるが、確かに見栄えはよくない。
どうやら念じただけではスカートが捲くれるとか、パンチらするとか、颯太に惚れると言った都合のいい展開は起こらないらしい。
自分を包んでいた毛布を丸め、脇の下に持つと颯太はあらためて周囲の様子を観察する。
(何か露天商いっぱいいるなぁ。めっちゃ客寄せしてるけど、何言ってるのかわかんねぇ)
とりあえず日本語じゃないことはわかった。
りんごにしては細長いが、見た目がりんごっぽいのでりんごなのだろう。
それを売っている露天であぽーあぽー言ってなかったから英語でもない。
(ということはフランス語か)
颯太は確信した。
フランス語ならどうにかなると。
ジュテーム、ラヴィアンローズ、シルブプレ。
完璧である。
フランス語でならまだ会話できる、そんな自信が颯太にはあった。
「ジュテーム、ジュテェィム? オー! シルププレェッ」
ためしに、買い物している成美によく似た若奥様に話しかけてみる。
悲鳴を上げられた。
声をかけた当初は不思議そうな顔していた若奥様であったが、颯太の顔を見た瞬間に悲鳴を上げた。
(え? 俺の顔の所為? そんなにまずい?)
さすがに、颯太だって自分がイケメンだとはうぬぼれてはいない。
せいぜい、テレビに映っている五人組のアイドル程度であると思っていた。
(妹がよくやってる乙女ゲームのイケメンには勝てないがな)
夜、鏡に映った自分の顔に驚いたことがあったが、そんな記憶は颯太の中から綺麗さっぱりと削除されていた。
ふと気がつく。
よくよく見れば、この夢の中の住人は美男美女率が高い。
(もしかしたら、俺程度ではこの世界じゃ不細工なのか……!?)
脈絡もなく成美の顔が頭をよぎった。
さっき声をかけた若奥様は成美によく似ていた。
だから声をかけたのだ。
つまり成美はそれだけの美少女だったのだと、確信する。
そして、颯太の顔を確認した時の若奥様の引きつった表情。
成美が颯太の息子を蔑んだ目で見たことを思い出させるには十分だった。
実際には、成美は颯太の息子に目など向けていないが、颯太の脳は都合よく事実を捻じ曲げて記憶するというすばらしい能力を持っていた。
(とりあえず、折角だし公衆面前プレイでもしとくか)
夢の中だからこそ出来る行為である。
まして、この夢の中は美女率が高い。
普通の男なら当然その結論に至るだろう。
颯太は脱いだ。
捕まった。
牢屋に入れられた。