キーワードは女の子
「……」
二時間で数十冊のライトノベル、ネット小説を読んだ愛之助は疲れ果て、テレビをつけた。
「電子映像機械起動!」
なんとなくテレビのつけかたも必殺技っぽくいってみた。
『ひらりスカート♪あなただけにみてほしーい♪私の秘密のデリケートゾーン♪ドキッ!となりの席になーちゃったー♪ワキガだけどだいじょーぶかなー♪におわなーいかなー?初恋のはいチュウキッス♪はいチュウキッス♪』
音楽番組がやっていた。
50人以上の十代の女の子たちが可愛い衣装で可愛いダンスを踊りながら特徴的なリズムの歌を歌っている『美少女百人隊』で『恋する乙女のはいチュウキッス♪』
どうやらオリコン一位らしい。
日本は大丈夫か?
(ようするにだ……男は若い女が大好きだ。大好きな若い女がたくさんでてくる……だから人気がでる……このアイドルグループと同じだ。『可愛い女の子』それが私の小説に足りないものだろうか?)
「ふん……私の時代は硬派を気取って女に囲まれたい欲求を隠したもんだが……」
時代は変わったもんだと愛之助は顔を歪めた。
(小説ではその女の子たちの輪に入れる……それどころか自分を好いてくれる……カタルシスだな)
グチグチいいながらもまた読書を始めた。
(しかしなんだこの気持ちは?ダンシモンズを読破したときのような……星新一に初めて出会ったような……『火の鳥』が未完に終わったときのような謎のときめきとモヤモヤ感……)
☆彡
『とあるバールで肘をガンッ!』のヒロインのミココが愛之助の前に立っている。
「いや……よくきたねミココ君。えっと……焙じ茶でも……」
「ここはどこ?ユートはどこ!?おじさん誰!?」
「くっ……」
愛之助の心はひどく傷ついた。
彼女が主人公であるユートを好きなのは知っている。
だが、今は……今は自分を見て欲しかった。
「お父さーん!そんなんじゃ二次元美少女は落とせないよ!」
「貴様!」
なぜかイケメンになったスーツ姿の騎士がネクタイを緩めながら壁ドンした。
「くっ!貴様は部下で……私は上司だぞ!」
「Hなことに……上司も部下もないじゃん?」
「やめろ!クビに……クビにする……ぞ!ヒンッ!」
騎士が愛之助の尻を撫でる。
愛之助は甘美な声を漏らした。
「お父さん……いや、愛之助って呼ばせてもらうね?もしかして……初めて?キス……していい?」
「ふざ……け……むぐっ!
」
☆彡
(最低の夢を見た……)
「くそっ!読書しながら居眠りしてしまうとはっ!よりによってあんな夢をぉぉ!」
机の上には『とあるバールで肘をガンッ!』とボーイズラブ小説『生意気上司のし・つ・け・か・た♪第96巻』が乗っている。
(このボーイズラブというジャンルだけは本当にわからん……というか読む必要あったのだろうか?)
「あ」
携帯が鳴っていたので寝ぼけたままでた。
……騎士だった。
夢のせいかなぜか愛之助の頬が紅くなった。
照れ臭くて仕方がない。
『……コロンブスの卵ですよ!ジャンル詐欺だと騒がれるなら本当にファンタジー小説を書いちゃえばいいんです!主人公以外のキャラは女の子にしちゃいましょう!この『殺し屋集団』とかも!ラノベで殺し屋といったら女子高生ですからね!』
「あー。うん。わかったわかった」
電話を早く切りたかった。
騎士の話す内容はまったく頭に入ってこないが空返事でごまかした。
「わかってますぅ?『読者が惹かれる魅力的な女の子キャラ』を書くのは『とんでもなく難しい』ことなんですよー?まぁいいかー。ガンガンエロ同人に使われるような最高のヒロインを書きましょうね!それで版権で儲けて……どゅふふふふふ!」
「うんうん。うーんうんうん……」
(早く切れ!)
『あっ!今日財布拾ったんですよー!お金たくさん入っててラッキー……みたいな?デュフフフフフフ!あれーなんだこれー?パケに入った小麦粉?まーいいやー!これでカードゲームのカード大人買いしよっ!またねー!』
「うむ」
このあと意識がハッキリしだした愛之助はメチャクチャ後悔した。
「その小麦粉は小麦粉じゃないぞ!」