大炎上
『日刊ランキング100位か……お父さんなかなかやるじゃん?』
『まー炎上効果だけどね。あんた嫌われすぎ。煽り耐性0?』
「……」
誘拐先の待遇がよほどいいのかマリの声は明るかった。
誘拐犯は誘拐犯で口調がくだけてきたし、電話に緊張感はなかった。
『せいぜい頑張れ。じゃあな『創造主』……いや、大作家A……』
電話は切れた。
「ふぅ……」
愛之助はため息をつきながら仕事部屋の襖を開けた。
『涼しいハルワ憂鬱』と書かれたTシャツをきた騎士が仁王立ちで愛之助を待っている。
(まだ怒っているのか……こんなに怒られるのは何十年ぶりだろう?しかも相手は三十路ニート……)
「お父さん!そこに座ってください!」
「わかったわかった……」
「正座ぁ!」
「……」
愛之助は畳の上に正座した。
正座も何年ぶりだろうか?
「なんでこんなことしたんすかー!?あなた大人でしょー?」
「すまん……」
全ては『あの感想』が始まりだった。
ユーザー名『ノーネーム』
良い点……ポイント稼ぎに必死なところ。
悪い点……ちょっと多すぎて書ききれない。
その他……ジャンル詐欺にもほどがある。
せめて会話文の最後に『。』はいらないことぐらい知っとけ。
勉強しろよ。
新聞とか読んだことある?
返信『大作家A』
愚か者!アマチュアが生意気に語るな!
新聞?五社契約して毎朝二時間隅々まで読んどるわ!
会話文の『。』は絶対のルールではない!お前が知っておけ!
お前夏休みの学生か!?貴様こそ勉強しろおぉぉ!
愛之助のこの返信がまずかった。
一件や二件ではない。
愛之助は片っ端からくる感想くる感想に噛みつき感想欄は荒れに荒れ、インターネット掲示板『ぬチャンネル』の『なろう最低作者を晒すスレ』でも叩かれ、現在、悪い意味で愛之助はなろうの有名人になった。
ただネット上で『大炎上』したことにより多くの野次馬(?)が愛之助の作品に興味を持ったのもまた事実で愛之助の作品のポイントはうなぎのぼり。
『大作家Aの作品をランキング一位にしてなろうユーザー泣かそうぜwww』なる会も発足し、この勢いは止まりそうになかった。
「もー!僕は今から『ガールズ&パンツ四枚』のブルーレイボックスを買いにいかなきゃいけないのにぃぃぃ!もうっ!お父さんのバカ!アホ!ち○ぽ!炎上効果には限界があるんだよ!?」
「なんだそれは……」
そんななじられかたは経験にない。
(なぜに男性器だ……?)
「あー……お前。念のためきくがブルーレイボックスを買うということは金を稼いだということか?」
「僕はね!人と目を合わせて話ができないんです!働けるわけないでしょ!こんなときにジョークはやめてようっ!」
気を付けの体制のままぴょんぴょん飛ぶ騎士はまるで胞子を巻き散らかす毒キノコだった。
(お前がち○ぽだろっ!)
「じゃあブルーレイを買う金は……」
「もちろん親の金さ!!!」
騎士は後ろを向き、両手を広げて上半身だけ振り返ってそう叫んだ。
(偉そうにいうことかぁ!)
「とにかく!僕が策を講じるまでお父さんはなにもしないで!……いや!宿題!なろうの人気作をたくさん読むこと!ライトノベルも読みなさい!」
「ぐえっ?」
それは愛之助にとって拷問に近いことだった。
「勉強しなさい!なろうにはなろうのルールがあるの!今のお父さんは『野球の試合中フリーキックの技術を見せてドヤ顔してる痛いメンヘラ』ですよ!」
『ドヤ顔』と『メンヘラ』の意味がわからなかったが騎士を刺激せぬよう愛之助は黙っておいた。
☆彡
(なんだこの表紙は!恥ずかしい!)
バリバリに変装して本屋にきた愛之助は『太宰治』と『芥川龍之介』の復刻本でライトノベル数冊をサンドイッチしてレジに向かった。
「いらっしゃいませー」
「あー親戚の子供がなー。お使いでなー。まったく大人をなんだとなー。いやはやお恥ずかしい。こんな漫画本みたいな小説なにがいいんだか……」
聞かれてもいないのにいいわけがましい事を言う自分を愛之助は少し嫌いになった。
「あれー!作家の勅使河原愛之助先生ですよね!?先生もライトノベルよまれるんですね!」
「……」
こんな時に限って顔バレがはやい。