さんごくし!
「そんなわけはない。ちゃんと確かめて欲しい。君も大人なら間違いは認めた方がいい」
『そういわれましても……システムは正常で……あの……』
「はいはい!お父さんかわって!」
「あっ!コラっ!」
騎士が愛之助からスマホを奪って話し始めた。
「すいませんねー。この人、現実がみれないんです。なにもわからないおじさんが言う事ってことで垢バンだけは勘弁してください。それじゃ!」
『あっ……はい……』
「えーい!電話を貸せ!私の『三国和国英雄伝』のアクセスが『12』だなんてシステムの不具合に違いないんだー!」
愛之助が満を持して投稿した小説……三国の英雄と日本の武将が闘う『三国和国英雄伝』の第1話から第3話の初日アクセスは『12』……お気に入りは0だった。
「もう切りましたよー!お父さん落ち着いてください!自分の人気のなさを運営のせいにするなんて最低ですよ!」
『ていおん!』と書かれたアニメTシャツをきた騎士が電話を切ってスマホを置いた。
「『三国和国英雄伝』はメジャー雑誌『せせらぎ』に連載するために構想を練った大作だぞ!人気がでないわけがない!システムに異常があるに……」
「いい加減にしてください!お父さん!はっきり言います!お父さんの小説……わけわかんねーっす!」
これに愛之助がキレた。
「文学を理解できぬ……この低脳がぁぁ!いたぁっ!」
殴りかかった愛之助の腕を取り、騎士はアームロックの体制になった。
意外に動きは素早い。
「落ち着いてくださいよ!あくまで『今は』ですよー!デュフフフフフフ!僕がお父さんの小説を面白くしてあげますよー!」
「生意気いうな!いててててて……貴様に小説のなにがわかる……いててててて……私は天下の勅使河原……いててててて……もう暴れないから離してくれ」
「はい」
騎士はアームロックを解いた。
「ふぅ……貴様が私に小説を『教える』?舐めるなよ?」
そうは言っても愛之助にはわかっていた。
『今のままではどうあってもなろうで一位は取れない』
ことを。
「ここの低脳使用者どもは私の小説の崇高さが理解できんのだ……それだけだ。私にも私の小説にもなんの問題もない」
「大ありですよー。小説もお父さんも。あー。マリ早くかえってこないかなー?山奥に旅行だなんてつれないなー」
周りには『マリは夏休みを利用して旅行にいっている』と伝えて置いた。
『彼氏になにも伝えず旅行へいく不自然さ』になんの疑問も持たない騎士のそのちゃらんぽらんさは愛之助にはありがたかった。
(というか、コイツは何しにここに来てるんだ?)
「さー帰るかー!僕も忙しいし!」
「帰れ!帰れ!ん?『忙しい』?バイトでもはじめたか?」
「ブヒャヒャヒャヒャ!僕みたいなパソコンにふれたこともない人間が働くわけないじゃないですかー!ナイスジョーク!」
腹を抱えて笑い出す騎士……クネクネとするその姿はボウフラのようだった。
「だから笑い事か!」
「夕方からの『プリティーキュアー』の再放送をみるに決まってるじゃないですかー!」
(知らん!)
「さーてお父さん……僕からのアドバイス……」
「ききたくない!」
「あ、そ……試しに『タイトルをひらがなにしてみたら』とかは余計なお世話でしたかー?『さんごくし!』とかね。僕のアドバイスが聞きたくなったら電話してください」
「誰が!」
(タイトルをひらがな……?絶対せんぞ!)
「あとお父さん……『作者が読者を馬鹿にしている小説』とそうでないもの……読者はどちらを読みたいでしょうねぇ!あそこのユーザーはお父さんが思っているより鋭いんですよー!『読者が理解できないだけ』?理解させる努力はしたんですかねー?お父さんはプロなんですよねー?ブフン!ばいばーい!」
「……うるさい」
(少しカッコイいこといいおって……)
☆彡
「なんでやねん」
関東出身の愛之助は思わず関西弁になるほど衝撃を受けた。
第6話まであげて、相変わらずアクセス数は10~20台だった『三国和国英雄伝』の第7話から冗談半分に……
藁にすがる思いでタイトルを『さんごくし!』に変えたら一時間でアクセス数が80、お気に入りが2ついた。
(わっ……訳が分からん……)
なぜ『三国和国英雄伝』が駄目で『さんごくし!』はいいのだ?
愛之助はパニック状態だった。
(わからん……もしかして……あの男に訊けばもっと……)
騎士に教えをこう……これ以上ないほどの屈辱だが『娘の命がかかっている』と愛之助は無理やり登録された騎士のナンバーをプッシュした。
(やはりやめと……)
『グーテンモルゲーン!お父さん!かけてくると思ってましたよ!』
ワンコール鳴り終わる前に騎士がでた。
(暇なのかおまえは……?暇なんだろうな……)