コンプリート
「ねー騎士!なにやってるの……?」
「少し静かにしてて……ね?」
「うん……私、騎士の言うことなら何でも聞く……」
マリの誘拐はたやすかった。
騎士の主人公補正で大人しくしていてくれているし、協力的だった。
「あっ!みてよ!これ!」
「んー?あっ!」
『大作家A』
『異世界勇者マーヴェラス』
「しっゃあ!」
スカーレット、ワーストの順番で騎士はハイタッチをした。
とうとう愛之助がファンタジーを書き始めたのだ。
「やったぜ!ここまでくりゃーもう大丈夫だろっ!?」
「騎士……ううんマーヴェラス!あんた見た目と口調が……」
「あん?……おおっ!」
たくましい体、普通の口調、騎士はまた『マーヴェラス』となった。
スカーレットとワーストもまた本来の姿を取り戻す……
「戻ったはいいが……この姿じゃ創造主には会えねーな」
マーヴェラスは『騎士』を演じて愛之助に電話をかけた。
……
「よしっ!これでいいだろ!後は……俺たちの未来は創造主にまかせよーぜ。あー恥ずかしかった!」
マーヴェラスは『人類は激減しました』のアニメTシャツを脱いだ。
☆彡
「みんなどうしたの……?なんで透けてるの?」
『勅使河原賞生中継』をパソコンで見ている三人の姿がどんどん薄くなっていく……
「君は全て忘れる……ありがとうマリ……最後に言わせてくれて……『学園編』はねーだろ」
「……」
マリは騎士の記憶を全て失い意識を失った。
「ウケるわー」
画面では愛之助が若手お笑い芸人に説教し、ライトノベルを押しつけていた。
「変わったな……あのおっさんも」
中継を切り、なろうを開いた。
ランキングを見る。
日刊一位『異世界勇者マーヴェラス』『作家A』
(気づいてないんだろーな。あのおっさん……)
「今作では『ワーストは死なない』のね……」
「やったす!」
「愛之助は新しい『マーヴェラス』の物語を書き始めたんだ……そして俺たちが消えかかってるってことは……」
「ミッションコンプリート……私たちは異世界に戻るわけね……」
「少しさびしいっす……」
三人の姿はもうほとんど透明に近い。
「新しい物語がはじまるのさ。めでてーじゃねーか。あばよ二人ともこれから先はきっと……」
「うん」
「はい……」
『自分たちは小説の登場人物である』
この記憶がなくなることを三人は確信していた。
マーヴェラスが産まれる所からまた物語は始まる。
そしてスカーレットとワーストに『初めて』出会うのだ。
「……」
(とどいたかな?どーかな?)
スキル『神秘的交信』
……マーヴェラスは愛之助に感謝を伝えた。
「お別れだ……あばよ!『創造主』!」
☆彡
「……」
愛之助はスマホで『異世界最強マーヴェラス……の弟子』
を書いていた。
30年ぶりの『異世界勇者マーヴェラス』の続編である。
(騎士のこと、あの原稿のこと……私にはなんのことだかさっぱりわからないが……)
「私はファンタジーが書きたい!」
それだけは確かだ。
『書き続けていればまた騎士に会える』
なぜかそんな気がした。
「お前には言いたいことが山ほどあるんだ」