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作家になろう

『……つまりライトノベルとは女と手をつないだこともない童貞の惨めな妄想でありこんな物を購読するバカ者は犯罪者予備軍の負け組であり……』


「ダメですよぅ!お父さん!そんなこと書いちゃあ!ネット住民を怒らせたら怖いんですよぅ!ドゥフゥフフフ!!!!!」


「ふぉっ!?」


大御所作家『勅使河原愛之助てしがわらあいのすけ』がお気に入りの万年筆で執筆していると、いつのまにやら背後に娘のマリの彼氏である『騎士ナイト』が立っていた。


「びっくりした!またお前か!定職につくまで、この家の敷居を跨ぐなと言ったろう!?仕事部屋まで入ってきおって!」


「ライトノベルはもうカルチャーとしてアクセプトされた若者のニーズなんです!そんな狭いマインドじゃディスられますよ!」


騎士はおかまいなく喋り続ける……

愛之助はこの男が本当に嫌いだった。


「うるさい!やたらと英語を使いたがるな!賢さアピールか!?逆にアホに見えるぞ!」


「ドゥフゥフフフ……ドュッフッフフフフ!お父さんはライトノベルの素晴らしさがなにもわかっちゃいない!まるでえーっと……ストーン……化石だ!」


「英語がわからなかったのか!?バカたれ!」


(ああ……イライラする……マリはなぜこんな三十路の無職を彼氏なんかに……)


高一の娘の彼氏が三十路ニートの彼氏……薄毛のおかっぱ。カビの生えたメガネ、ラブなんちゃらライフのTシャツ、ガリガリの頼りない身体……なんでこんな男を……愛之助の胃がキリキリと痛んだ。


「君!仕事は決まったのかね!?」


「決まるわけないじゃないですかー!こんな職歴もないガリガリ!デュフフフフフフ!お父さん!ナイスジョーク!」


「笑い事かぁ!」


こんな騎士だがなぜか愛之助以外には好かれており、なんと女にモテるらしい。


「まあまあ見ててくださいよー!僕はお父さんと同じ『作家』になってみせますよ!」


「『作家』ぁ!?……ふざけるなよ!純文学の世界を甘く見る……」


騎士は携帯ガラケーを愛之助の顔面に突きつけた。


「これをみてくださいよぅ!純文学?そんなのはオールド!過去の遺産!僕はライトノベルの世界で天下を取ります!」


「私の目の前でよくそんなことが言えるな!?これはなんだ!?オールドだなんだ言う前にスマホを買え!私でもスマホだぞ!なんだこれは!?『作家になろう』……?」


(聞いたことがある……アマチュアの小説投稿サイトでここで人気がでればデビューもできるという……なんだか使用者の中に殺人犯がいたとか新聞で読んだな?……こいつまさか……?)


「お父さんのは老人向けの『ラックラクスマホ』じゃないですかぁ!もしかして字が老眼でみえない?」


もう軽口にいちいちかまってられない。

我慢しようと才蔵は心に決めた。


「ん?『なろうライトノベル大賞審査中』……お前まさかこれに?」


「もちろん!参加済みでふ!純文学作家の父親にライトノベル作家の夫……マリもご近所に鼻が高いよね!」

 

我慢の限界は三秒でやってきた。


「ふざけるなぁぁぁ!作家を甘くみるな!ライトノベル?あんなものはな!糞だ!ウンコ製造機だ!こんなサイトはウンコ工場だぁぁ!あと娘を呼び捨てにするなぁぁ!結婚なんてさせるか!」


「いやぁぁん!!器物破損!」


愛之助は騎士の携帯を膝でへし折った。









☆彡



マリの携帯専用の着信音がなる……

愛之助は慌ててスマホを手にとって見た。


「えっと……通話ボタンは……いまだにスマホはなれんな。

もしもしマリか?お前なにしとる?なんで昨日は帰ってこなかった?嫁入り前の娘が朝帰りなんて……」


『作家の勅使河原愛之助だな……?』


「……誰だ?」


ボイスチェンジャーを使った声。


『勅使河原マリは俺たちが預かった。この事を他言したら問答無用でコイツを殺す……お前にはあることをしてもらう』


「なにっ!?」


『助けてパパ……この人たちの言うことをきいて……』


「マリ?マリ!?」


『娘の声は聞こえたか?イタズラではないことがわかったな?』


「……何者だ?」


『先週のプレイガール……読んだよ。散々書いてくれたな?』


「プレイガール?」


週刊プレイガールの『勅使河原愛之助の若者(バカ者)に物申す!』は愛之助の連載の一つである。


(先週号は確か……『若者に人気のライトノベルをたたっ切る!』だったな……)


『ライトノベル好きは童貞の犯罪者予備軍……ライトノベルは純文学の搾りカス……純文学を書けないものの逃げ道……ずいぶんな言いぐさだ』


(チッ!こいつらライトノベル好きか?事実犯罪者になってるじゃないか!アホめ!しかし刺激をしてはいけないな……)


「わかった……頼む……マリを傷つけないでくれ。私は何をすればいい?」


『『作家になろう』というサイトを知っているか?』 

「なろう……?うむ知っとる」


『そこでランキング一位になれ。それだけだ』


「それだけ……?」


愛之助は心の底から安堵した。

プロの作家である自分がアマチュアに負けるはずがないと思った。


「いいだろう……そんなことでいいんだな?」


『『そんなこと』?ずいぶん自信あるじゃないか……今は夏休み。なろうは学生であふれてるぜ?』 


(だからなんだ?学生でアマチュア……?相手にならんわ!)


『楽しみにしているよ……『創造神メン・オブ・クリエイティブ』……勅使河原愛之助よ……』


「えっ?なに?あっ!」


切れた……


「マリ……呆けてる場合か!急がんと!」


愛之助は慌てて『なろう』を検索した。


「『ユーザー登録』……『パスワード』……ええい!ややこしい!」  


(はやく小説を書かせろ!

とっておきのプロットがあるのに!どうればいいんだ!)


「お困りのようですね!お父さん!」

 


「うおぅっ!ビックリした!……またお前か!」


アイドル……なんとかマイスターだかのTシャツをきた騎士が背後に立っていた。


「毎度どこから入ってくる!」


「これは……『なろう』じゃないですかー!お父さんもやるんすか?てことは僕がパイセンじゃないですかー!やだー!ジュース買ってこい!……なんつて!」


「お前は……」


追い出そうと思ったが登録の仕方と執筆の仕方ぐらいこいつに訊いておくかと踏みとどまった。

娘の命がかかっている。


「おい」


「はい?……おっと!」


愛之助はスマホを騎士に投げ渡した。


「登録とやらをして……執筆できるとこまで調整しておけ」


「マジっすか!?うほぅ!僕スマホはじめて!」


「……」


(そうだ。こいつスマホじゃなかったな……まあいい。私よりはマシだろう)


「ジャンルは異世界ファンタジーすか!?それともvrmmo冒険?意表をついて乙女ゲー恋愛?」


「……なに言っとるかわからんわ……勅使河原愛之助といえば歴史ロマンじゃろ……それより!私がこんなサイトを利用してることを誰にも言うなよ!」 


「テンッス!」  


(待ってろよ……マリ……なにが『作家になろう』だ!すぐに一位になって……私が王様になってやる!)


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