連理の枝VS飛燕
現在の天見のストック状況……1、原初の光輪 2、双爆輪唱 3、平和の象徴 4、覚醒の恵風 5~9、光・火・水・風・体
「そういうことなら、分かりましたですの!」
天見からの申し入れを受け入れるやいなや、飛燕は右手に太刀、左手に脇差を握り、太刀の柄頭へ器用にチップを入れて一足飛びに天見へ迫る。
「起動!」
「ちょ、ちょっと待った!」
慌てる天見だが、飛燕は止まることがない。
「闇夜を照らす月、姿を変える月は水面に映る。明暗月夜流刀剣術、水月!」
鍔元から刃先まで一気に水で覆われた。
上段からの一撃を天見は横へ飛んで避けたが、そちらに避けるよう誘われたか、脇差が逆袈裟切りに振り上げられた。
脇差に頬を浅く斬られ、天見はバックステップで間合いを取る。
「明暗月夜流の許可は!?」
「出すわけないですの!」
「だと思いましたよ!」
後ろへ逃げた天見を追いかけ、飛燕はさらに間合いをつめる。その時――、
「許可する!」
声が聞こえた瞬間、逃げるだけだった天見は後ろにやった左足で地面を踏みしめ、左拳を思いっきり引く。
「ナンバーツーインストール!」
ベリメスが魔法を天見のモノクルにセットするが、それを放つより断然飛燕の方が速い。
飛燕は構わず、刀を振り下ろそうと――。
「〝倍速〟コピースタート!」
天見の指輪が唸りを上げて〈粒子〉を集め、あり得ない速度で彼の口が動き、文言から発言までが圧縮されて一まとめに発せられた。その速さに連動して天見だとありえない速度で体が動き、輝く左拳がくり出された。
ギリギリで飛燕は刀の軌道を変え、正面から天見の拳を迎え撃った。
水月と双爆輪唱がぶつかり合い、飛燕は押し負けて爆炎に呑み込まれて吹っ飛んだ。だが、やはりかなり威力が殺されていたため、彼女は足から着地して、数メートル後退したに留まった。
「――くっ」
弱まっていたとはいえそれなりのダメージだったようで、飛燕はひとまずその場で休みつつ天見を警戒する。そんな彼はというと、左わき腹あたりを押さえて顔を俯かせていた。
なんだかよく分からない決めポーズだなっと思いつつ、飛燕は視線を天見から先程声がした方へ向ける。
「あなたもいたんですの、ファイナ=グリューテイルさん」
そこにはいつの間にか舞台に上がっていたファイナが立っていた。
「当然だ」
そして、ファイナはツカツカと天見に近づいて隣に立つ。
「水鏡、大丈夫か?」
「魔法の方じゃなかったからね」
天見は頬から流れる血を拭いながら答える。
見学にしてはファイナが不自然に近く、飛燕は疑問符を浮かべる。
「いきなり始まって出遅れてしまったが、ここからは私も一緒に戦わせてもらう」
「え!?」
「なっ!?」
その宣言に驚いたのは飛燕と鋼燕の二人だけだった。むしろ、燕は当たり前のような顔で、
「だから、二人の邪魔をしないでってさっき言ったじゃない」
などと、父親の鋼燕に言う。
「ちょっと待ってくださいの! これは魔断大帝の所有権をかけた戦いじゃなかったんですの!?」
「そうですよ。ただ、こっちがこうする理由を話す前にそっちが斬りかかって来たから、なし崩しに始まっただけです」
「こうする理由……ですの?」
そんなものがあるのかと飛燕は怪訝な顔をする。
ファイナはいつもの無表情で、
「あなた達はピーコーの水鏡を巻き込んだという意識かもしれないが、こちらからしてみればそうではない。私の『連理の枝』である水鏡が策に利用されたのだ」
そう言われて、飛燕はハッとした。
「『連理の枝』の絆は強く、分かたれ難いものだ。当人の水鏡はそれほどではないが、私はパートナーを利用されて相当気分が悪い。犯人にはなんらかの粛清をしてやろうと思うぐらいには怒っている」
「その怒ってるってホント!?」
「そんなに絆強かったっけ?」
とは、ベリメスと天見からの言葉だ。
刀祢と燕を説得する際にすでに言っているのに、何度聞いても驚かずにはいられないといったリアクションだ。
周りの人が大きな汗を頭に張りつけている中、ファイナは天見の肩を強めに掴んで悲鳴を上げさせている。
……とりあえず、再び話は戻って。
「それにあなたには決着前に逃げられている。そうでしょう?」
深夜での一戦のことを言っているが、それについて飛燕は否定も肯定もしない。気づかれていたとしても、認める気はないようだ。
「あんなスッキリしない結果で終わらすのは趣味ではない。だから、この勝負には私も加わらせてもらう」
右手の腕輪型ガジェットにチップをいれるファイナを見て、飛燕は肩から力を抜いて嘆息した。
「……まったく、父さんを引っ張り出すためとはいえ、とんでもない人達を呼び込んでしまったですの」
あらためて、飛燕は太刀と脇差を構える。
「容赦はしないですの」
「こちらのセリフです」
と、視線の火花をぶつけ合う二人のそばで、天見は何となく置いてけぼり感を味わっていた。
「起動!」
先に動いたのは飛燕。モザイク処理された文言が展開するのに合わせて、ファイナもガジェットにチップを入れ「起動」する。
「明暗月夜流、激流回旋!」
「朱雀宝門流、寂静火壁!」
飛燕から放たれた渦巻く放水とファイナが作った火の壁がぶつかり、拮抗する。
「ファイナ! 後ろ!」
火の壁が前面に出たことで、ファイナの影は後ろに大きく伸びた。その影から飛燕が斬撃をくり出しながら出てきた。
背後からの奇襲だったが、ファイナは天見の声に反応して地面に身を投げ出して避けた。くるりと一回転して起き上がると、飛燕は彼女に追撃せず、天見へ刃を向けていた。
すぐにファイナは天見を助けに動こうとしたが、体が動かなかった。見ると、月明かりでできた自分の影に脇差が突き刺さっていた。
「魔断大帝か!」
動こうとしても指一本動かない。話に聞いていた効力がここまで強力だったことに、ファイナは戦慄する。
「ナンバーファイブ、インストール!」
「コピースタート!」
飛燕から逃げつつ天見がファイナへ放った著作権フリーの光で、魔断大帝の頸木から影が外れた。
体の自由を取り戻したファイナはすぐさまその場から離れ、ガジェットのチップを入れ――急遽飛燕は狙いを天見から変更し、ファイナへと向かった。
突然向かってこられてもファイナは動揺せずチップを入れ替え、起動させる。だが、彼女が文言を唱え始める前に、飛燕の切っ先から水の塊が飛ばされた。
それをファイナは文言を唱えつつ避け、さらなる追撃を警戒するが、飛燕は彼女に迫らず舞台に突き刺さった魔断大帝を回収した。どうやら狙いはそっちだったようだ。
「朱雀宝門流、紅雨!」
十数の火球が飛燕に迫るが、彼女は自分の影を切り裂いて潜り、消えた。
「くっ!」
上手く逃げられ、ファイナは悔しさに呻く。
「ファイナ。この遮蔽物がない舞台上なら、出て来られる影は限られているだろ」
「そうか」
天見とファイナは自分の影を凝視し、出てくる瞬間に迎え撃とうと構える。
どれぐらい影の中に潜っていられるのか分からないが、出てくる場所さえ見当がつけばそれほど脅威ではない。むしろ、チャンスになりえる。
待っている間にベリメスが「ナンバーツー」をインストールし、ファイナもチップを入れ替える。そして、両者の影に波紋が生じた。
「コピースタート!」
「起動!」
と、離れた所にいるファイナの声を聞いて、天見は嫌な予感を覚えた。考えるよりも速く彼の体が動き、そこから飛び退いた。
天見が動いたのとほぼ同時に影から飛び出してきたのは、飛燕でなく水の斬撃。
迎撃態勢に入っていたファイナは避けられず、水の刃をカウンター気味に喰らってのけ反ってしまう。
ファイナがのけ反ったことで、彼女の背中の下に影が出来上がる。そこから出てきた飛燕が、水で覆われた太刀を突き上げようとした。
「覚醒の恵風! Ⓒセリア=フラノール」
間近に迫る風のブーメランを見て、それを無視できない飛燕はファイナを刺さず、水で覆われた刀でブーメランを十字に斬った。
その間にファイナは体勢を立て直した。チャンスを逃した飛燕は、悔しさを滲ませた視線を天見へ向ける。
「やってくれるですの。確かその魔法は水平に撃ってはいけなかったはずですのに……パートナーを無視して、巻き添えにしてまで私を倒すつもりでしたの?」
「俺の魔法についても書かれただろうって、燕の手紙を信じたんですよ。覚醒の恵風の威力を知っていたら無視できないでしょ。ま、一か八かですよ」
どうにかピンチを回避したが、二人は飛燕の攻撃に押されていた。今のところ『連理の枝』の良いところを全然引き出せていないと思ったファイナは、
「水鏡、数の利を生かそう。私が接近戦を引き受けるから、隙ができたら狙ってくれ」
火の槍を作り出し、手の中で回してから構えた。
飛燕は今二人の間に立っている。そのためファイナが著作権フリーの魔法で秘技を狙っていると分かった天見は、口に出さずコクンと頷いた。
「そう簡単にいくと思うですの?」
飛燕はしゃがみ、脇差を持つ左手で自分の影に手を伸ばす。何をしているのかと、天見とファイナが怪訝な顔で見ていると、飛燕の左手が脇差の影に沈み込み、勢いよく引っ張り上げると影が立ち上がった。
天見とファイナだけでなく、ベリメスと燕、刀祢まで飛燕と並び立つ影を見て驚いた。
「魔断大帝・影法師。さあ、いくですの!」
飛燕の影は闇で形作られた太刀と脇差を構えて天見へと襲い掛かり、飛燕は水に覆われた太刀だけでファイナへと襲い掛かる。
「ったく! ホント神具ってどれもとんでもないな! ベリメス!」
「ナンバーファイブ、インストール!」
「拡大コピースタート! 二〇〇%!」
天見は頭上に巨大な光球を作ったが、飛燕の影は消えることなく迫った。
「無駄ですの! その影法師を消したければ、太陽でも持ってくるですの!」
飛燕の刀とファイナの槍がぶつかり合った。
「みか――ッ!」
天見に声をかけようとしたファイナの眼前を、飛燕の剣先が通過していった。こっちはこっちでよそ見している余裕が無い。
「ナンバーナイン、インストール!」
「コピースタート!」
著作権フリーの体属性を使った天見は、影の太刀を斜め後ろに跳んで逃げる。すると、飛燕の影は正確に天見を追いかけてきた。
その速さはあまり速くなく、天見は背中をさらして逃げ出した。逃げながらチラッとファイナの方を見れば、激しく剣と槍で切り結んでいた。
「影を操作している余裕はなさそうだな。飛燕さんと動きが連動しているわけでもないし……オートで動いているなら、何を目印にしているんだ?」
「そんな目印なんて必要ないんじゃないの? 神具なんだし」
「そうかもしれないけど……試しにベリメス、火」
ベリメスに言って著作権フリーの火を使い、逃走方向とは違う方へ放ったが、影は変わらず天見を追い続ける。
「熱でもないか。俺には〈粒子〉がないから体内〈粒子〉でもないはずだし、他に可能性は……」
「天見!」
焦るあまり考えに集中し過ぎてスピードが緩んだ。
影が飛び掛かってきたのを見て、天見は再び著作権フリーの体属性をかけ、身体能力を少し上げた。
脳天に振り下ろされる太刀を体を横に開いて避け、背中側から薙ぎにきた脇差をしゃがんで避ける。
しゃがんだままがら空きの右わき腹を殴ってみたが、感触がゴムタイヤを殴っているみたいで肉感はなかったし、ダメージを感じていないのかすぐに脇差で攻撃してきた。
天見はエビのように後ろへ跳んで、どうにか避けた。
「人間相手じゃないし、原初の光輪で吹っ飛ばしたら楽なんだけどな!」
「するの?」
「自分のことながら呆れ果てるが、したいと全然思わない!」
「でしょうね」
焦りながらも笑っている天見ならそう答えると分かっていて、ベリメスも笑った。
天見にとって魔法使いとの戦いは、勝敗以前に過程が大事なのだ。結果だけを求めるなら、いつも開始一発『原初の光輪』で済む。しかし、そんなのはワビサビがない。
天見は魔法使いとの戦いは、知力を尽くして挑みたいのだ。
「コピースタート!」
再び体属性で身体能力を上げ、影の攻撃をどうにか避けつつ間近で影を観察する。遠くの方でファイナと飛燕がやり合っている音がこっちにまで聞こえているから、音を追っているわけではない。
体属性の効力が切れた瞬間、影の顔面へ向かって火球をぶつけた。だが影は怯まず、間合いの近い天見に柄頭を叩き込んだ。
呻く天見がヨロヨロと後退したところに、太刀が振られた。
(斬られる!)
と思った天見は、反射的に腕を上げてガードした。そんなことしても腕ごと斬られるだけかと思われたが、影の刃は斬ることなく天見を叩き伏せた。
どうやら影が引っ張り出された時に飛燕の刃が水で覆われていたので、影の太刀もそれを引き継いでいるようだ。
だが、鉄の棒で叩かれたようなダメージは天見の骨にまで響き、右腕が激しい鈍痛で動かせなくなった。
それでも、天見は考察をやめない。
影は顔に火球を喰らっても眩まず、攻撃にも怯まなかった。そして、
「ナンバーエイト、インストール!」
「コピースタート!」
著作権フリーの風を起こして、自分の周囲の空気を上空に吹き飛ばした。これで臭いも影の方にいかなかったのに、影は天見に向かってきた。
(というか、のっぺらぼうだしな、こいつ)
四つん這いになっていた天見は地面を蹴って影の攻撃を避け、地面を数回転して起き上がる。
「天見! やっぱり目印なんか無いんじゃないの!?」
神具は非常識で反則級に高性能だ。その可能性はもちろんある。
天見は顎に伝ってきた脂汗を手でぬぐう。
「分かったことが、一つある」
影がトドメとばかりに、一際大きく踏み込んで来た。
「ナンバーツー、インストール!」
「コピースタート! 二頭一対の理に爆砕せよ、双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」
影の内側に一歩踏み込み、輝く左拳をストレートで叩きこんだ。爆炎に呑み込まれて、影は吹っ飛んでいった。
「やっぱりな。あいつ防御しない」
天見は激しく肩で息をつき、たまらず膝をついて右腕を押さえる。心配そうに彼の顔をのぞき込むベリメスだが、回復魔法はかけない。戦闘中は極力手を貸さないことにしているからだ。
天見は痛みを奥歯で噛みしめて我慢し、立ち上がる。見れば、ファイナも飛燕の猛攻にほとんど防戦一方だ。
急いで加勢しようとした駆け出した天見は、背後から重たい一撃を喰らった。舞台に倒れこむと、さらに踏みつけられた。
苦しげに呻く天見が肩ごしに見上げると、そこには飛燕の影が変わらぬ姿でいた。
影は太刀を逆手に持ち、天見に振り下ろす。
ドンッと影の胸に火の槍が突き刺さり、その勢いに影は後退し、天見の上から離れた。
火の槍を投げたのは当然ファイナ。だが、武器を手放した瞬間を飛燕に狙われ、胴薙ぎに一撃喰らった。
飛燕は会心の一撃に笑みを見せ、どうにか立ち上がりつつも驚きを隠せない天見を見て笑う。
「魔断大帝・影法師。影ゆえに無敵ですの!」
影はおもむろに火の槍を胸から引き抜き、舞台上に捨てる。何一つ変化がない影を見て、さすがの天見も冷たい汗を流した。
もうちょっと書くはずだったのに~! 申し訳ない! あまり見直しもしてないので、変なところがあるかもしれません! あとでキチンと確認してみます。
とにかく、次回でバトルは終わらせるつもりです! でも、ちょっと魔断大帝を厄介にし過ぎたかな……無敵ってどうしよう。
とりあえず、来週もどうにか更新する予定です!




