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諸悪の根源

 ようやくこのお話も終わりそうです。あと少しなんですが、まとめ作業はやっぱり難しい。

 朝に目覚めて、ファイナは少し離れた隣に天見が寝ていないのに気づいた。夜に起きて隣の部屋に戻ったのかと、ボンヤリと考えてから起床する。


 洗顔しに洗面所へ行く途中、空になったお盆に手書きのメモがあるのを見つけた。


『ごちそうさま。おいしかった、ありがとう』


 それを見ていたファイナの背後から、


「グリューテイルさん、おはようございます」


 先に起きて支度を整えたセリアが声をかけた。


「あ、メモを見たんですね? 天見さん、ちゃんとオニギリを食べてくれたみたいで」


 嬉しそうに話しかけるセリアに振り返ったファイナの顔は、いつにもまして無表情だった。


「不可解な。水鏡が夜に食事をしただけだろ。たかがそれだけのことに、何をはしゃぐことがある」


 とは、心象で喜んでいる自分にも向けての言葉だ。どうしてこれほど弾んだ気持ちになるのか? 謎だ。


 苦笑いをしてコメントに苦慮するセリアは、頭に大きな汗を流しつつ、


「……えっと……天見さん、食欲もあるみたいですし、休養もタップリとったでしょうから、元気になってますよね」


「まったく……やはり水鏡の課題は体力だな。しっかりと鍛えてやらねば。とりあえず、水鏡に返す前に手足の重りを増やしておくか」


 それを止めることなんて出来るはずがないセリアは、言葉に出さず天見の冥福を祈った。


 そして、朝食の時に天見と顔を合わせると、彼はまだ若干の疲れが残っているのか眠そうにしていた。


「天見さん、大丈夫ですか?」


「……ん~、大丈夫。ちょっと筋肉が突っ張っている感じはするけど、筋肉痛まではいってないかな」


「日頃から体力向上メニューをサボっているからそうなるのだ」


「魔法使いにはいらないと思いたかったのに……」


「あなた、パートナーのことを少しは労えないの? 昨日天見はあんなに頑張ったのよ」


 ベリメスからたしなめられるように言われ、ファイナは何が悪かったのかまるで分からず、心象で疑問符をいくつも浮かべた。


 食事の最中、セリアは天見の箸の進みが遅いことに気づいて、


「天見さん、食欲無いんですか?」


「あ、違うんだ。ちょっと考え事していて」


 注意されて、天見は箸のスピードを速めて食事に戻る。


「考え事? 魔断大帝がどこに行ったのかということか?」


「うん。それもある」


「それほど固執することもないと思うが? どうせ水鏡が手に入れた所で無用の長物だ。扱おうとすれば自分の手を間違って斬りかねないぞ」


「うん……そうだね」


 励ました上で優しさを見せたはずなのに、どうしてか天見は儚げになった。


「やっぱり、一度文句を言いに行った方がいいんじゃない? 向こうの不手際っていう可能性もあるだろうし」


「そうだね」


「あ。ハビエさんや鬼面夜行流の人達は昼頃に帰られる予定らしいですよ」


「そうなんだ。じゃ、挨拶はしておかないといけないな」


「几帳面だな」


「いや、普通だと思うけど? けっこうお世話になったし…………ていうか、ファイナは挨拶しないつもりだったの!? お世話になったよね、ハビエさんに!?」


「…………挨拶というのは、基本的に向こうからしにくるものではないのか?」


 悪気がないと分かっているのだが、久々のお嬢様発言に、天見達は頭に大きな汗をかいた。



 天見は朝食を終えて、ベリメスと一緒に部屋に戻って来る。すると、周りに心配する人がいなくなった途端、頭を抱えて唸り出した。


「まだ考えているの? あんまり根を詰め過ぎると熱が出るわよ」


 ベリメスは座った天見の前に、甲斐甲斐しくお茶を淹れてあげて湯呑を置く。


「ベリメスが〈粒子〉の反応だけじゃなく、神具の在り処も分かれば苦労しないんだけど」


「そんな能力があったら、神具の回収作業が全部私に回ってくるじゃない。絶対に嫌よ、そんな面倒なの」


「…………うん、俺も嫌だ。その能力が無いことに感謝すらするよ。今回ですらこんなに大変なのに、頻繁に任されたら死ぬ」


 天見はお茶をすすって、大きくため息をつく。


「もう~、どこいったんだよ~。魔断大帝の太刀の方~」


「あそこの流派が隠し持っているか、どっかの誰かが盗んだんでしょ」


 ベリメスの言葉を聞いて、天見は頭を横に傾けた。何かが耳から出てくるんじゃないかと思おうほど左右に傾けてから、


「隠し持ってる……………………あ、そっか。あのタイミングか?」


「何か分かったの?」


 天見はコクンと頷く。


「盗んだって言うから分からないんだ。魔断大帝は偽物とすり替えられてたんだ」


「だから、盗まれたってことでしょ?」


「いや、すり替えた人は持ち主だから盗む意味があるのかってことで」


「え?」


「エキシビションで魔断大帝を使っていた刀祢さんなら、終わった後に本物と偽物をすり替える隙がけっこうあったと思うんだ」


「つまり、大会時に飾ってある時にはもう偽物だったってこと?」


「たぶん」


 意味が分からないが、確かにタイミングで言えばその時しかないと言える。だけど、やっぱり意味が分からない。


 ベリメスは頭上に疑問符を浮かべて、首を傾げる。


「え? それをやって何の意味が?」


「意味が分からないって言うなら、大会後の刀祢さんの行動も分からないよ」


「あのお父さんを斬ったって話? お父さんの地位が欲しかったからでしょ?」


「でもさ、その地位っていつかはもらえるものだろ? あれだけの強さなんだし、息子なんだし……父親に逆らって無理やり奪う意味が分からない。焦り過ぎだと思うんだけど」


 刀祢は師範代で門下生にも頼りにされ、良い意味で怖がられていた。確かに待っていれば、錬磨が引退する時に何の障害もなく回ってきそうだ。


 それが分からない人物でもなさそうだから、やけに不自然だ。


 分からないことだらけだが、取っ掛かりに手がかけられたような気がする。


「その焦りが何によるものかが分かれば、何か発展するかもね」


「それじゃまずは月光花に行って、昼にお見送りをして――」


 と、今日の予定を立てている時に、


「水鏡さ~ん! どういうことですか~!」


 キレ気味の燕がズカズカと遠慮なく入ってきた。


「えっと、何が? というか、どうやってここが分かったんだ?」


「この前ファイナさんに聞いといたんです~。そんなことより! この魔断大帝、偽物じゃないですか~! 私を担ぎましたね~!」


 バシッと畳の上に刀を置いて、天見につめ寄る。


「え!? だってあれ、表彰式でもらったものをそのまま渡したんだよ!」


「ホントですか~!?」


「うん、ホントホント」


 大仰に驚いて、騙す気はなかった風を装う。ただ、コメントの中に「偽物だったとは知らなかった」と混ぜない所は、天見の性格が窺える。あの時も今も、ウソは言っていない。


 天見も被害者だったことが分かった燕は、ふむと考える。


「とすると~、訴えるべきは月光花ですね~…………ふふふ、こんな分かりやすい不正を働くなんて、最早月光花の名は地に落ちたも同然です~! さあ、水鏡さ~ん! 一緒に新聞社にのり込んでその悪行をリークしましょう~!」


 こんな生き生きとした燕、著作権法違反して斬りかかる以外で見たことない。天見とベリメスは彼女のテンションに一歩追いつけず、頭に大きな汗を流す。


「容赦ないね」


「情けは無用です~。私達と奴らは所詮やるかやられるかの関係~。根っこを同じくする私達は、相手を滅さなければ生けていけないんです~」


 ハッキリ言って、月光花がどんな末路をたどろうと天見達の知ったことではないが、新聞社に優勝賞品が偽物だったことをリークし、騒ぎのゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。そういう面倒ことは嫌いなので、天見は腕を引っ張る燕を止め、


「聞きたいんだけど、月光花って大会前にやばいことになってなかった?」


「ふえ? そんな素晴らしいことになってたんですか~!?」


「いや、聞いてるのはこっちなんだけど」


「差し迫った事態になっていたとか、そういったことはなかった?」


「う~ん? 向こうはこれまで順風満帆でしたよ~。そのせいでこっちは苦労して、崖っぷちまで追い詰められたんですから~」


「え? 崖っぷちって経営的に?」


「いや、まあ~……察してくださいよ~」


 さすがの燕も家の貧窮を友達に言いたくなく、視線をそむけて呟いた。天見が空気を読んで黙ったので、燕は切り替えて朗らかに笑う。


「でも、大会で準決勝まで行ったことで、今日とか道場に見学者が来るんですよ~! それで父さん母さん張り切っちゃって~」


「あなた、お母さんいたの? この前会わなかったけど」


「そりゃいますよ~。ただ、昼間はお仕事をしてうちの家計を支えてくれているので、いなかっただけです~」


「つまり、燕達にとっては大会に参加して得をしたってことか」


 天見は大会に出るつもりがなかった燕に、どうして出場したのか聞く気でいたが、魔断大帝だけでなく賞金目当てだったんだなっと察して黙ってあげた。


 そんな慈愛に満ちた天見の視線に気づかず燕は、


「聞きたかったんですけど~。水鏡さんって鬼面夜行流とはどこで知り合ったんですか~?」


 どうやら向こうも出場理由が気になっていたようだ。


「出会いはかなりおマヌケな事件だったわね」


「アホ臭い狂言に巻き込まれて」


 思い出すと疲れのため息がハ~と漏れた。でも、「狂言」と言ったことで天見の頭の中でカチリと何かがはまった。


 口元に手を当てて考え込みだした天見。いきなり黙りこくった彼を心配した燕が、叩けば直る理論を実践しようとチョップの体勢を取ったので、慌ててベリメスが止めた。


「水鏡、準備はできたか?」


 そこへファイナとセリアがやってきて、


「あ、聖籠さん。おはようございます」


「来たのか」


「はい~」


 と和やかに挨拶をする。部屋の中だというのに、三人はなぜか立ったまま日常会話を始める。


 周りの騒がしさも気にせず考えていた天見は、思考が終わって顔を両手で覆う。


「天見?」


 ただ一人、天見を気にしていたベリメスが声をかけると、彼は顔から手を放してこめかみを引きつらせる。


「分かった。大まかに分かった」


「どうかしたんですか~?」


 のほほんと近づいてきた燕に、天見はキッとした視線を送り、


「おまえが諸悪の根源だ!」


 力強く指さした。


 そして燕が指をさされて衝撃を受けている時、


「あ、ごめんね。昨日手違いが生じて、防犯のため用意しておいた偽物の方を渡しちゃったみたいで……」


 申し訳なさそうにお詫びの粗品と魔断大帝を持った刀祢が部屋に訪れた。


 これから佳境に入りそうな時だったのに腰を折られ、部屋にいた全員の何とも言えないような視線が刀祢へ注がれる。彼も部屋の中の不思議な雰囲気を察したのか、「ん?」という様子を見せる。


「とりあえず、捕獲」


 ふってわいた最重要人物を、天見の号令を受けたファイナが捕まえた。


 部屋の中で燕と刀祢を並べて座らせ、その二人の前に天見達も並んで座る。


「い、一体全体どういうことだい? 確かにお冠になる気持ちは分かるけど、ちゃんと誠意を持って謝りにきたんだよ?」


「どうして私が正座させられないといけないんですか~!」


 訳が分からないとばかりに刀祢と燕は声を上げているが、天見側に座っている方にも事態を理解していない人はいる。


「どういうことだ、水鏡?」


「聖籠さんが諸悪の根源って、どういうことですか?」


「説明はこれからするけど……二人には協力してもらう。俺達をダシに使ったんだから嫌とは言わせない」


「へ?」


 燕はキョトンと疑問符を浮かべるが、刀祢は気まずそうな顔で視線をそらした。



 そして、その夜。人気のない大会会場に黒装束が現れた。


「待っていましたよ」


 舞台の中央にいた天見は、手に持っているロープを引っ張って、グルグル巻きになって連結している燕と刀祢を晒す。


「約束通りこの二人は魔断大帝と引き換えに解放しますよ、飛燕さん」


 表情が隠れている黒装束だが、その視線は悔しそうに揺らいでいた。

 強引な手を使い出した天見ですが、彼も怒っています。でも、これでラストバトルの舞台は整った! 後は天見に飛燕を倒してもらって、魔断大帝を回収してもらって終わり!

 ああ~、そんなすんなり行けば私も楽なんですけど、まだ説明しきってないし、燕が諸悪の根源なんて苦し紛れの突発適当発言じゃね? と思われたくないし。

 次回はお部屋での説明回になる予定で、夜の大会会場の方までいけるのかな? で、たぶんですが、ハビエさんとかのお見送りは全カットになりますね。やってる暇がなさそうだし。

 それでは、また来週です。

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