天見、エネルギー切れ
自転車操業のように、今週載せるやつを書いてはストックを失い、書いては失いを繰り返しています。ちゃんと整合性が合うのか、すっごく不安です。
話は少し前に戻って、燕は椅子を引っ張って来て、天見のベッドの傍らに座って『魔断大帝』について話し始める。
「魔断大帝は父さんのお師匠が持ってたもので~、継承者となった父さんが流派の名と共に受け継いだんですよ~。ところが、兄弟子の一人である錬磨さんっていう人が納得できずに明暗月夜流をやめて、町からも出て行ったんです~。そして、数年前にフラ~っと戻って来た時、父さんと一騎討ちの勝負をしたんです~」
「あなたのお父さんわざわざ受けたの?」
「はい。まあ~父さんも実力的に上だった錬磨さんを差し置いて継承者になったので、色々と思う所があったんだと思いますよ~。それで戦った結果、負けたんですよ~」
「実際、相手の方が強かったのだな。継承者に必要なものは強さだけではないが……」
「けっこうな傷を負ったんで大変でしたよ~」
燕は仕草で自分の体を斜めに斬った。
「で、錬磨さんが魔断大帝の太刀の方を持って行ったんです~」
「れっきとした勝負の結果なのか。それなら問題はないようだが」
「私だって武芸者の端くれとして、ぶつくさ言うつもりはありませんよ~。でもですね、本来二つで一つであるべきものを引き離したから、禍根が残ったって言うか~」
「そこだよ、聞きたいのは」
天見が止めたので、燕は小首を傾げる。
「魔断大帝って、二振りあるのか?」
すると、燕は悪びれもせず笑顔で、
「は~い。太刀と脇差の二刀です~」
言い切った。
「魔断大帝の回収が目的だって言った時に教えろよ!」
「え~、だって~、教えてたら「くれ」とかってごねそうでしたし~」
天見はまったく腑に落ちなかったが、言い合いをしても仕方ないとやるせない感情を押し殺した。それで、一応念のためにベリメスに耳打ちする。
「で、この話は本当なの?」
「聞いてないわよ、私も。あの鍛冶のボケ」
情報伝達で不備があったのか何なのかは知らないが、そんな大事なことはキチンと教えて欲しかったと、天見は顔に手を当てて深いため息をついた。
「それから錬磨さんは月光花家元流を名乗って道場を開いて、私達の著作権法違反の訴えをかわして、魔断大帝の活躍も相まって名立たる大会で勝ち、道場運営を成功させたんです~」
「話だけ聞いていると、思いっきり継承者を間違えたとしか思えないな。実力から経営手腕から、圧倒的に相手の方が優れているような気がするのだが」
「ファイナさん。継承者には伝統と魔法を守り、伝え残すっていうのが必要なんです~。錬磨さんのように、大幅に魔法を変えるような人はちょっと~」
それでも痛い所を突かれたのか、燕の頭に大きな汗が張りついている。
大まかな事情を聞き終わり、天見はややこしいことしてくれちゃってと腕を組む。
「ところで、脇差の方にも何か効果とかってあるのか?」
「ありますよ~。脇差は影を斬れるんです~」
言われても、よく効果が分からず全員の頭上に疑問符が浮かぶ。燕は説明のため、指を一本立てる。
「影を斬ることで中に入って移動したり、相手の影を突き刺して動きを止めたりできます~」
『え!?』
驚きの声が揃ってファイナとセリアの口から飛び出た。どうしたのかと思ったみんなの目の中、天見だけが探るような鋭い目を二人へ向けた。だが、ファイナはそんなパートナーの視線に気づかず、
「燕、それはもしかして――」
「それじゃ燕、アレ持ってく?」
ファイナの言葉を遮って、天見はモリスの持つ刀を指さす。
「え!? いいんですか~!?」
天見の申し出に驚いて、燕は話しかけたファイナを忘れて彼につめ寄る。
「話も聞かせてもらったし、俺と燕の仲だろ。そんな事情を聞いたらな~……アレでいいなら、遠慮なく持って行ってくれ」
「ありがとうございます~!」
燕は天見の手を取って、大仰に上下させる。それに少し彼は迷惑そうにしていた。
「でも、いいの? 一騎打ちで奪われたものを親切心で返してもらうなんて、武芸者として後ろめたいんじゃないの?」
ベリメスに言われて、燕は「う~ん」と顎に指を当ててしばらく考え込んで、
「…………まあ、負けたのは私じゃありませんし~。とりあえず持って帰ってみます~。何はともあれ、これで二つが揃いますから~」
モリスから刀を受け取って、燕はホクホク顔で医務室を出て行った。それを天見は手を振って見送ってから、
「で、ファイナとセリア。何か気になることがあったみたいだけど……」
「そうだ。なぜ邪魔をした」
無表情に見下ろされ、天見は引き気味になる。
「ややこしいことになりそうだったからさ。とりあえずこっちで一度整理したいんだ。新しいことが分かり過ぎて、俺も一杯一杯だし」
「そうですよね。それに天見さんさっきまであんな凄い試合をしていたんですし、休んだ方がいいですよ」
「ありがとう。助かるわ」
と、天見は起こしていた上体をすぐベッドに戻す。彼のしんどい状況に全く気付かなかったファイナは、心象でやるせなさを感じて頭を抱えた。
(どうやったらそういうのに気づけるのだ?)
ファイナがそうやって悶々と考えている時、
「大変よ! 月光花家元流が何かゴタゴタしていたわ!」
飛び込んできたキメルの焦り様から天見は泣きそうになり、
「休ませてくれ」
本心が漏れ出た。
慌てているキメルの「ここはもうやばい」という意味不明な切迫感と、天見がゆっくり休めるよう場所を移動し、ファイナ達が泊まる旅館に戻ってきた。
ハビエに背負われて運ばれてきた天見は、温泉に軽く浸かった後にファイナとセリアから黒装束と戦った時の話、キメルから刀祢と錬磨のいさかいを聞いた。
聞き終わった浴衣姿の天見は、眠そうな半目で欠伸を手で隠した。もう限界そうだ。ベリメスも心配そうに彼の肩に座って様子を逐一気にしている。
そんな天見の代わりに、ハビエが腕組みをしてため息をつく。
「おまえら、あの日にそんなことやっていたのか? 張り込みっていうのは体力はもちろん神経が疲れるんだから、しっかりと休め」
「ジッとしたままなど性に合わない」
コレに関してはハビエも言葉が無かった。天見からファイナ達のことを頼まれ、危ないことをしないよう、あえてそれっぽい仕事を任せて目先を変えさせたのだが、こうまで勝手気ままに動かれるとは…………曲がりなりにも彼女をコントロールし、振り回している天見はスゴイなと、ハビエは素直に感心した。
「刀祢という者のトップ簒奪か……月光花内にも問題があるのか?」
「それより、結局本物の魔断大帝はどこいったのよ!」
「……李さんも結局行方知れずですよね……もしかして彼が……」
それぞれ謎を口にし、話題が飛び交う。
黒装束の正体と武器、魔断大帝の行方、刀祢の行動の意味、崑崙の居所。
話し合いの終わりが見えそうになかったので、ベリメスは手を叩いた。
「はいはい、今日はもうおしまい。解散」
ついにコックリコックリと舟をこぎ出した天見のため、強制的に終わらせた。
モリスも怪我をしているキメルを彼女の父が入院している病院に連れていきたいので、賛成してすぐ腰を上げる。その帰り際、
「拙僧達はキメルと彼女の父の体調次第だが、明日にはクレッセントに帰る予定だ」
「ワシもだ。明日の午後にはクレッセント行きの列車に乗らんとな」
見送りに出ていたファイナとセリア、ベリメスはそれを聞いてから部屋に戻ると、天見が力尽きて寝ていた。
「やっぱりね」
「水鏡、寝るなら隣の部屋に戻れ」
と、起こそうとするファイナをセリアが止める。
「寝かせておきましょうよ」
「悪いわね。そうしてもらえる?」
それから甲斐甲斐しくセリアは布団を敷き、天見を寝かせた。ファイナはそれを見ていただけだが、何だかすっごく差をつけられたような気分だった。
結局天見は夕食の時間になっても起きなかったが、深夜になってのっそりと起き上がった。喉が渇いたので洗面所に行って水を飲むと、お腹に入れたせいか空腹を訴えるように鳴った。
「天見、起きたのね」
ベリメスが飛んできて、天見の肩に座る。彼の顔を確かめると、まだ疲れているようだが血色はよかった。
「今何時?」
「日が変わって一時ね」
そんな時間じゃ空腹を我慢するしかないかと、天見はため息をついた。
「こういう時に、コンビニがあればな~」
「それが何なのかは分からないけど、お腹が減っているんならいいものがあるわよ」
「え?」
ベリメスに手招きされて部屋に戻れば、テーブルの真ん中に布巾にかけられたものがあった。それを取ってみると、お盆にのったオニギリが四つあった。
思っても見なかった食事に、天見は目を見張った。
「どうしたの、これ?」
「あの子達が用意したのよ。天見がご飯も食べずに寝ちゃったから、夜に空腹で目を覚ますかもしれないって」
ベリメスが指差す先に、ファイナとセリアが寝ていた。彼女達が寝ているのは先程まで天見が寝ていた隣だ。
「あ、ここで寝落ちしたんだ。悪いことしたな」
「大して迷惑に思ってなかったみたいだけど?」
天見は苦笑して、お盆を持って月明かりが差す窓際の席に移動する。お盆には形が良くて小ぶりなやつと、大きくてしっかり握られていないボロボロなやつと二種類ある。
「こっちがセリアでこっちがファイナ」
前者をセリア、後者をファイナと見当をつける。
「正解」
しっかりと当たったので、二人して声を殺して笑った。
天見はお茶を用意してから、手を合わせてありがたくオニギリをいただいた。
「これからどうしようっか?」
「う~ん、そうだな~……崑崙と合流して、何か掴んでいないか確認したい所だけど」
「そうだと思われて、ご説明に来ました」
どこからともなく登場した猫のミヤに、少なからず天見とベリメスは驚いた。
「随分と都合のいいタイミングね」
「えっと~、モドリス様が一番驚くタイミングだと……」
「さすがは性格が悪い女神」
ベリメスは額に手を当ててグシャグシャの線を浮かべてから、
「それで? あなた達は姿をくらまして何をやっていたのよ? 魔断大帝を盗んだんじゃないかって疑いまで持たれているのよ?」
「それは誤解です。私達はこの町に来てからずっと大会参加者の情報を集めていたんです」
「大会参加者の? どうして?」
「その人達に成り代わって大会に参加して、優勝して魔断大帝をいただくためです。バカ正直に参加して、予選なんて面倒なことしていられないと、崑崙さんが」
あけすけなコメントに、天見とベリメスの頭に大きな汗が流れる。
「崑崙らしいっちゃらしいな」
「一応あいつもピーコーの部類だから、表立って出場は出来ないとはいえ……手段を選ばないわね」
その時、天見はハッと気づいた。
「あれ? それじゃもしかしてセブンイースターって……」
「はい。私達でした」
ガクッと、天見とベリメスは肩から崩れた。
「崑崙さんはあなたがいるチームならどうせ魔断大帝は手に入るし、決勝なんて面倒だと言って……」
「あ、もう分かった」
天見はオニギリを口に放り込んで、お茶を飲む。
「それで崑崙さんからの伝言です。『魔断大帝は二振りあるね。残りの一つはたぶん燕の家にあるね。関わりたくないから天見に任せるね』と」
「う~ん、見事なほど既存の情報しかない」
「こんな投げっぱなしでやめるつもりなの!?」
「ええ~っと、崑崙さんとモドリス様は、もう十分援護はした……一つはこっちのおかげで手に入っただろっと」
ベリメスは頭から湯気を出して不満のようだが、天見はまあ仕方ないかと納得する。結果的に天見もトーナメントに出場出来たが、本来なら出場も出来ない立場なのだ。もし本来のままだったら、魔断大帝の太刀を手に入れる可能性があったのは崑崙達だけだ。
「確認しておくけど、会場に盗みに入った黒装束は崑崙じゃないんだね?」
「はい」
「やっぱりね」
予想が当たっていた天見は驚きもせず、掴むはしからボロボロに崩れるオニギリを苦心しながら食べる。
「最初から天見はそう思っていたみたいだけど、どうして?」
「崑崙は準備を万端にして行動を起こすタイプだからね。来てすぐによく知らない場所に忍び込むなんて変だと思ったんだ。やるにしても、二日三日後だよ」
「そう言えば、初めて会った時も天見が一人の時を狙って襲って来たわよね」
「すみません」
「それに刀祢さんが言ってたけど……ピンク髪の妖精が黒衣の間に潜んでいたって……モドリスだったら、崑崙の懐に入らないだろ? 絶対」
「あ~」
と、ベリメスが納得して頷いた。ミヤも「間違いなく」と太鼓判を押す。
「だからまあ黒装束は崑崙じゃないから、都警にあらぬ疑いで捕まる前に、ハビエさんあたりと合流して、著作権委員の人に連絡つけてどうにかしてもらおうかなって考えたんだけど……まさか大会に堂々と出場していたとは」
「都合よく仮面をつけた人が予選を通過してラッキーとは言ってましたよ」
ミヤは笑ってそう言ってから、不満そうにムスッとなる。
「でも、それじゃその証言をした人が崑崙さんに罪をきせようとしたんですか?」
「まあそうなるのかな……………………ん?」
指についていたお米を食べていた天見は、違和感で止まった。
「どうかしたの、天見?」
「いや、ちょっとよく分からなくなって……」
そのまま天見が考え込みだしたので、ベリメスはせっつかずに待つ。
そして、しばらく経って天見は天を仰いだ。
「あ~、不思議な展開なのは分かったけど、不思議な理由が分からない」
「どういうこと?」
聞かれて、天見は自分の考えをしゃべり出した。
黒装束は魔断大帝の盗みに失敗し、刀祢はウソの証言で黒装束を守った。黒装束は所持している武器から明暗月夜流の人間である可能性が高い。そして、刀祢がウソをついてまで守る相手とすれば、彼があからさまな好意を向けている飛燕だろう。
飛燕の動機は魔断大帝の思い入れから分からなくもない。
しかし、この刀祢のウソ証言が気になる。
まず一つ、どうして刀祢は正体が分からない相手を飛燕だと分かったのか? 候補者で言えば、飛燕の他に三人もいるのに。
その次に、どうして刀祢は髪がピンク色の妖精と言ったのか? 明らかに崑崙を疑わせるような証言だ。だが、刀祢と崑崙には面識がないはずだ。それに、この町に来ていることを知っているはずもない。
しゃべり終わっても「う~ん」と唸る天見は、
「しかも、肝心の魔断大帝の行方が何も分からない。エキシビションの時のは間違いなく本物だから、その後ってことになるけど……大会始まっているし、未遂事件でなおのこと防犯はしっかりしてたし、盗まれるタイミングがな~」
「そうね~」
二人で考え出したので、ミヤは何となく所在なさげになった。
「あ、あの~、伝言は以上ですので、そろそろお暇しますね」
「うん。崑崙達によろしくね」
ミヤは二人に会釈して消えた。
気だるげに寝ていたモドリスは、戻ってきたミヤの気配に気づいた。
「ちゃんと魔断大帝が二振りあるって伝えてきた?」
「はい…………」
返事をした後にまだ何か言いたそうにしている様子に気づき、「何よ?」と追及すると、
「あのことを、本当にお伝えしなくてよろしかったので?」
「そこまでサービスするつもりはないわ」
「でも」
「ベリメスのしもべは「かしこさ」を売りにしてるんでしょ? 精々頭を働かせてもらおうじゃないのよ。ま、少し考えれば思いつくでしょ。刀と同じで犯人も一人じゃなく、共犯者がいるんだって」
それっきりで、モドリスは再び眠りについた。謀略の女神でもある彼女には、どうやら全て分かっているようだ。
お嬢様のファイナは当然料理をしたことありませんし、何ならパン食でオニギリなんて食べたこともありません。でも、セリアに張り合ってマネて作ってみました。
さて、もうちょっと! あとちょっとで説明が終わる! ちゃんとできるかは不安だけど、とにかく終わる! もう、頭が疲れる!
そしてこの後、まだ一文字たりとも書いていません! バカか俺! ヤッホイだな!
…………なんか、疲れているのかな、俺?
というわけで、予告も何もあったもんじゃありません。とりあえず来週載せられるようがんばります。




