大会を終えて
新年おめでとうございます。と、挨拶はおいといて、いや~時間がなかった。この話も後はラストバトルだけなんですけど、そこまで行くのがまあ、大変です。
盛り下がりに下がった授与式を終え、モリスは刀を手に持って大会の医務室に向かう。その道中にハビエとバッタリと出会い、
「あなたは都警の……」
「おお、久しぶりだな。見たぞ、お主の試合。中々やるな」
「いや、拙僧などまだまだ修行中の身ゆえ、お恥ずかしいものですよ」
「ガハハハ、優勝チームの言葉だとすると、謙遜を通り越して嫌味に聞こえるな」
「驚きですよ。一体セブンイースターはどうしたのでしょうか」
腑に落ちないモリスは表情を曇らせるが、ハビエは「ガハハ」と笑いながら彼の背中を強く叩く。
「まあいいではないか。確かに少し物足りんかったが、もらえるものはありがたくもらっておけ」
「…………まあ、キメルは喜ぶでしょう」
そこで二人は医務室のドアを開けて中へ入る。と、待ち構えていたキメルが、モリスの手から賞金の目録を奪い取る。
「ぃやった~! 一〇〇〇万ストンよ~! これだけあれば、立派な道場を開くことが出来るわ~!」
頭上に掲げて狂喜乱舞するキメルは、自分の怪我も忘れてはしゃいでいる。現金なものだ。
その姿にため息をつくモリスの隣をハビエが通り過ぎ、ベッドに座っている天見の元へ行く。彼はベッドの上で上体を起こせる程度には回復していた。
「ピー小僧。中々面白い試合だったな」
「いや、もう~ホントに苦労しましたよ」
「どうだ? 今度ワシとやってみんか?」
「遠慮します。勝てるイメージがまるでわきません」
すぐに断った天見をハビエは愉快そうに笑った。
それから天見はモリスの手にある刀を見て、
「ところでモリスさん。ハビエさんから聞いてます? 魔断大帝は――」
「ああ、分かっているよ。もし優勝することができ、それに少年が貢献していたら、魔断大帝は君に売り渡すという約束だった」
天見がハビエに頼んでいたことは、鬼面夜行流に交代要員として登録してもらうことともう一つ、万が一優勝することが出来たら魔断大帝を売ってもらうことがあった。
鬼面夜行流は闇属性の棍を扱う流派なので、刀は無用の長物だろうと思ったのだ。しかし、キメルがそれでもタダは嫌だとゴネたため、買い取ることになった。
モリスが刀を真贋するために抜く前に、キメルがこっそりと、
「けっこうぼりなさいよ」
「賞金まで手にしておいて……」
「バカね。お金なんていくらあっても困るものじゃないでしょ」
その会話がバッチリ聞こえていた天見とベリメスは頭に大きな汗をかく。
「ベリメス?」
「まあ、最初から買う可能性も考えていたから、予算はあるけど……」
「不可解だったのだが、どうしてベリメスはそれほど財産があるのだ? 水鏡の生活費も出しているのだろ?」
「え、そうなんですか?」
ファイナとセリアから驚きの視線をもらっているベリメスは、呆れたように嘆息して肩を竦める。
「まあ、私は天見の保護者だから」
と、生活費を出している理由だけ答え、財産がある理由に関しては答えなかった。
その間にモリスは刀の柄を持って刀身を少し出した。そして、すぐに眉をひそめる。おもむろに刀を抜き、窓の近くに移動して陽光の下で確かめる。
「…………」
さらに刀身を水平にして刃を確かめ、陽光を反射させて確かめ、難しそうに唸る。
「どうかしたの?」
「……あまり出来がいいとは思えないのだが……」
「そうなの?」
「柄を外して銘を確認したい所だが…………それにしてもこれが神剣とは、どうも思えない」
天見はモリスの評価を聞いて、ベリメスに視線をやる。だが、彼女は首を振って自分には分からないと仕草する。
「確かめてみればいいのだろ」
「え?」
ファイナは言うが早いか、いきなりモリスへ向けて火球を放った。急なことに驚いた彼は反射的に持っている魔断大帝で飛んできた火球を斬った。が、その火球は斬られたことなんて関係なしに刃を素通りし、モリスにペチッと当たった。
部屋の中が静まり返った。
魔断大帝はどんな魔法でも斬れるというのがうたい文句のはずなのに。
「ちょ、ちょっと、何よそれ!」
始めに声を荒げたのはキメルだった。
「あんた、もしかして偽物掴まされてきたんじゃないでしょうね!?」
「いや、そんなはずは……」
モリスが口ごもって戸惑っている間に、キメルは「ちょっと文句言ってくるわ!」と言って医務室を飛び出して行った。
残った面子はようやく気を取り戻して、
「偽物?」
「ほほう。この期に及んで渡すのが惜しくなったのか?」
「不可解な。ならば、最初から景品になどしなければいいものを」
「でも、確かに惜しい一品ではありますけど、偽物を渡す方が流派の名を貶めますし、問題になってしまいそうな……」
「事前の約束を破るなど、武芸者の風上にもおけない」
この仕打ちの意図に天見は首を傾げる。みんなの意見を聞くと、こういった風に欺くのは有り得ないことらしい。
確かに優勝賞品として出したものが偽物だとすれば、これまで培ってきた大会の信頼度が一気に崩れかねない。ひいては、月光花家元流も信用を失い、道場の運営も怪しくなるだろう(協賛の企業にも見限られるだろうし)。そうなってしまえば、神具が手元に残ったとしても本末転倒のような気がする。
ならば、月光花家元流も偽物だと知らずに渡したのか? それとも、偽物だと知っていて渡して来たとしたなら、流派を危険に冒してまで何をしたいのか?
と、その時医務室のドアが開いた。
キメルでも帰って来たのかと思ったら、
「やっほ~、水鏡さ~ん」
燕が手を振って入ってきた。
「燕」
「お見舞いにでも来たのか?」
「そんなもんです~」
「でも、あなたの方は大丈夫なの? だって、負けたんでしょ?」
ズバリ言われて、燕は多少怯んだ。
「う~、ベリメスさんも痛い所をハッキリと言いますね~。確かに負けましたけど~、場外負けですから怪我なんてしていません~」
「負けたことを恥じたらどうだ? 追い詰めた相手に返し技を出されて場外負けなど、完璧に相手の掌で踊らされたということだろ」
「不思議ですよね~。な~んであんな綺麗にハマっちゃったんでしょう~?」
「確かにあのロイドという奴の動き、お前の習性まで知っているような作戦の組立だったな。あれだけ見事だと、あっけない最後でも見ている方は清々しかったがな」
「少しは慰めるとかないんですか~。こっちは負けて凹んでるんですから~」
ファイナとハビエに涙を流しながらツッコむ燕に、天見とセリアは頭に大きな汗をかいて同情する。
「えっと~、お見舞いに来たんだろ?」
「何かお品があれば受け取りますけど」
「あ、そんな気をつかったものは用意してないんで大丈夫です~」
常識人のフォローをぶち壊すヌケヌケしさに、天見とセリアは言葉を失った。
「それじゃあなた、何しに来たのよ?」
呆れたベリメスが尋ねると、燕はピッと人差し指を立ててモリスが持つ刀を指す。
「実は魔断大帝を譲ってほしいんです~」
「って、譲るわけがないだろ」
至極冷静に当たり前に返した天見に、燕は合掌して頭を下げる。
「そこを何とか~」
「大体にして、俺が欲しがってるって言っておいただろ。それなのにどの口がそんなこと言うんだよ」
「だって、それは元々私の家のものですよ~」
「いや、元々は鍛冶の……」
ベリメスの言葉を天見が手で遮って、
「事情を聞かせてくれれば、考えてもいいよ」
ニコヤカに提案した。
文句を言うために、キメルはズカズカと進んで会場外にある事務所へ向かった。その事務所には人気がなく、彼女は誰にも止められずドアを開けようとして、ピタリと動きを止めた。
何やら中で言い争っている声が聞こえる。気になってこっそりドアを開けて覗くと、刀祢と錬磨が言い争っていた。どうやら人気がないのは、この親子ゲンカを避けてらしい。
入口のキメルからは錬磨の背中と、彼と向き合って対峙している刀祢の顔が見える。
「正気か、刀祢!」
声の様子から、錬磨がかなり怒っていると分かる。しかし、刀祢はいたって涼しげな様子で、
「正気だよ、父さん。今回の大会を機に、父さんは一線を退くべきだ」
衝撃的な発言に錬磨だけでなく、関係ないキメルまで声を失って驚いた。
そして、場には不穏な空気が流れる。親子がかもし出すものとは思えない、殺気混じりの緊迫したものだ。思わず、見ているキメルはゴクリと喉を鳴らした。
刀祢は殺気が漂う中にいながらも強張った様子は無く、
「ピーコーに負け、大会の連覇記録も途切れた。月光花の評価も下がり、強さに疑問を覚える人も出るでしょう。だからこその心機一転。それもトップが変わるとなれば、誰の目にも新しくなったと映る。それで来年の大会で優勝出来れば、月光花の芯の強さというのが示されるというもの。一度負けたら弱くなっていく流派は多くあるけど、負けて強くなる流派は少ない。月光花は這い上がる強さがある」
「当然だ」
見解の同意に刀祢は満足そうに頷き、
「それに、父さんは明暗月夜流もそうあってくれればと思っていたんでしょう?」
「…………」
返答しない錬磨に、刀祢は呆れたように首を横に振る。
「父さんも素直じゃないね。だから愛情が分かりにくくて空回りするんだよ。道場を継いだ弟弟子のために憎まれ役を買って出て、魔断大帝の片割れを奪うほどの徹底ぶりで危機感を煽ってあげたのに……魔断大帝を取り返しにこさせようと仕向けたのに無視される。私はそれを見て、自分の心には正直に生きようと思ったよ」
常に世間に目を向け上昇志向を失わない。それが生き馬の目を抜く流派の運営には必要なことだ。その意識が流派の存続だけを考えている鋼燕には足りないと、錬磨は気づいていた。だから、強引でも明暗月夜流を他流同士が戦う場に引っ張り出そうとしていた。
まあ、空回りどころか恨みしか買わない結果になってしまったが。
「俺にそんな意識は無い! 道場経営に四苦八苦して、自分の鍛錬を怠っていた鋼燕を叩きのめしただけだ!」
「いや、おっさんのツンデレっていらないから。ホントに頑固だな~」
まだガミガミと反論する錬磨をまるっと無視して、刀祢は深いため息をついてから背筋を伸ばす。
「でも大丈夫。その願いは私が上に立てば叶うよ」
「なん、だと?」
「それでもまだ退くのが嫌だというなら――」
何気ない動作で刀祢が錬磨に近づき、そして――錬磨の背中が一度大きく震えた。
「父さんの代理をしておくよ。怪我の療養中のね」
キメルからは見えないが、刀祢は帯刀している刀の柄で錬磨の腹を打った。ただし、その柄頭から数センチの闇の刃が飛び出ていた。
苦悶の表情を浮かべる錬磨は刀祢の肩を強く掴み、
「な、何を、考えている」
「父さんが安心して任せられるトップになっておくから、ゆっくり大会の怪我を治してよ」
錬磨は歯を食いしばり、刀祢の体を強く押し退けた。腹から出る血を気にせず、刀の柄に手をかける。
「まさか、自分が俺に成り代わりたいがために、わざとピーコーに負けたのか!」
「わざと?」
刀祢はおもむろに服のボタンを外し、前を開かせる。そこには痛々しいと思えるほど、きつく包帯が巻かれていた。
錬磨と刀祢は睨み合い、場の空気が固まる。両者共に不用意に動けないでいた。が、急に錬磨の体が震え出した。そして、いきなり膝をついた。
「……刀祢、一つ答えろ。そこまでの実力を持ちながら、本気でピーコーに勝てなかったのか?」
限界が来たのか、錬磨は俯き、激しく肩で呼吸を繰り返す。彼は本気で刀祢へ斬り込むつもりだった。それこそ相打ちになろうとも。だが、その隙すら見つけられなかったため、どうしても刀祢がピーコーに負けたことが信じられない。
「形振り構わなければもしかしたら……でも、彼は強かった、純粋で強かった」
それを聞くと錬磨は力尽き、床に倒れた。床にはジワリと血が広がる。
刀祢は手早く包帯を巻いて錬磨の止血をする。
「ごめんね、父さん。どうしてもうちの評価を下げる必要があったんだよ…………準決勝では負けるつもりがなかったけど」
そして、出入り口に顔を向ける。足早にそこへ近づき、ドアが閉じているのを確認してから押し開ける。
左右と事務所の周囲をザッと確認するが、誰もいない。
「気のせいか。さて、父さんを病院に運ぶか」
錬磨を背負った刀祢が事務所を後にし、ドアが静かに閉じられる。そして、刀祢が遠くへいなくなってから、ドアの影になっていた所がペラッとめくれた。
『夜の帳』を使って影と同化していたキメルが出てきて、緊張で詰めていた空気を一気に吐き出した。
「と、とんでもないもの見ちゃった」
とりあえずその場に留まっているわけにもいかず、急いで医務室へと戻った。
風呂敷をたたまなければいけないんですよ。これがまた頭を悩ませます。ボンヤリとは決まっているんですけど、字に起こすとね~。
まあ、まだまだ天見は休ませないってことにはなりそうです。
それでは次回予告。燕から内情を聞き、天見は考える。そして、一つの結論に達する。所までは書きたいです。頑張ります。
次回更新は来週の金曜日予定です。




