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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
コピー魔法、バージョンアップ!
92/100

倍速コピー

 バージョンアップしても、天見自身は強くならない。そこをクリア出来たので私は満足です。大体にして、魔法使いに接近戦をやらせること自体間違っているんですよ、本来は。

 魔法力を攻撃力に変換させる武器を持ってたとしても、高々しれてるんですから。光魔の杖なら別の話ですけど。

 まあ、残った天見のがんばりを見てやってください。

 疑問は持ちつつも、天見の満身創痍な姿は演技などではないと、刀祢は刀身に水を溜めて動き始める。直線的な動きを主体に、天見にギリギリまで近づいては離れ、横に移動する時はわざとスピードを殺して見やすいように動いた。その緩急で、常人には刀祢が分身しているかのように見えるだろう。


 しかし、ここで一つ刀祢はミスとも言えないミスをしていた。普通なら刀祢の動きに天見はついていけなかっただろう。だが、刀祢の刀が魔法を使用していることで、天見は容易にその動きを目で捉えていた。


 とは言え、動きを追っていても今の天見だと回避行動は満足に取れない。


 何度も行われた虚偽の突入の中に紛れ込ませた実の突撃で、刀祢は完璧に天見の背後を捉え、


「〈赤の書〉バージョンフォー! ナンバーエイト、インストール!」


 素人の天見では背後からの攻撃は防御すら難しかったはずだ。しかし、いきなり飛んできた水の刃が刀祢の腹部にヒットし、彼の体をくの字に曲げた。


 水の勢いに押されて吹っ飛んだ刀祢は、舞台に手をついてダウンするのを拒否した。


 何が起こったのか……見えたようで全く理解できなかった。気づいたら天見が振り返っていて、刀をふり切っていたのだ。そこまでなら分かる。その反応速度と刀の速さは納得できないものがあるが、それだけならまだ偶然や偶々で納得できる。しかし、さらに魔法を使われたなんて信じられない。明らかに天見は文言も発言も唱えていなかったはずだし、そんな暇はなかったはずだ。


 そのように表情も脳内も疑問で一杯にしている刀祢。天見がコピー魔法使いということで、何かしらの反則も考えたが……その時、苦痛がついに口をついて出た天見が、痛々しい叫び声を上げる。


「っが! ぐぅぅぅ~……あああ~!」


 木刀を杖にし、柄頭に額を押し付けるようにして体を曲げる天見の背中は、激しく上下する。汗と混ざった血が頬からつたり落ち、舞台上に血だまりを作る。その血だまりの広さから、どうやら流れているのは顔からだけじゃなく、全身からのようだと察せられる。


「天見! やっぱりその体じゃ無理よ!」


 普段ならば天見の戦いに口を出さないベリメスが止めようとする。だが、彼は首を横に振って拒否する。


 天見に不審なものを感じていた刀祢だが、


「天見君……君はすごいよ。そこまで魔法に自分をかけられる人はザラにはいないよ」


 魔法使いに褒められて、天見は笑って体を起こす。もう肉体は限界だというのに、充実した精神だけが彼の体を動かす。


 息も絶え絶えの状況で、天見はしゃべる。


「コンセプトは『オリジナルの経験を逆手に取る』です。ちょっと体がキツイから、そっちから近づいてきてくれると助かるんですけど」


「…………分かった」


 天見を倒すのならば、もうほんのちょっと押すだけで事足りるだろう。だが、そんな終わりを誰が望む?


 刀祢は刀を構え、天見も木刀を構える。ただ、天見の切っ先はふらつき、ともすればすぐにでも下がりそうだった。


「起動!」


 モザイク処理された文言を展開しながら、刀祢が駆ける。


「ナンバーエイト、インストール!」


 ベリメスが天見のモノクルに魔法をセットするが、やはり遅い。すでに刀祢は間合いに入り、文言を唱えている。


「満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」


 あえて水の刃を放たず、水を溜めた刀身で天見の脳天へ振り下ろす。木刀で刀を受けようと、その木刀の内側に水の刃が発生し、天見を打つはずだった。


 その時、ようやく天見の口が開く。


「〝倍速〟コピースタート」


 天見の指輪が唸りを上げて〈粒子〉を集め、あり得ない速度で彼の口が動き、文言から発言までが圧縮されて一まとめに発せられた。その速さに連動して天見だとありえない速度で体が動き、木刀が煌めいた。その時には、顕現した水の刃が刀祢の胸元を真一文字に斬っていた。


「経験を逆手に取る……か。まさか、止めるだけでなく、早回しも出来るとは。見事だ」


 刀祢の最後の一刀は放たれず、天見の目の前で彼は膝をつき、そのまま舞台上に倒れた。


 天見もそのまま体を傾けて倒れそうだったが、足を一歩踏み出してどうにか耐える。


 その瞬間、解説者が勝利者に天見の名を告げた。


 万雷の拍手が降り注ぐ中、天見の手から刀が滑り落ち、


「……まったく、『コピー』魔法使いにこんなことさせないでほしいな~……。もう、武具相手に一対一はコリゴリだ」


 などと言いつつ、天見は笑いながらついに倒れた。


 コピー魔法を究めて、オリジナルにかしこさだけで勝とうとしている天見。また一歩、コピー魔法の極みに近づいた。




 観戦していたファイナとセリアだが、勝負が着くといてもたってもおられず、係員の制止を振り切って舞台へ飛び下りてしまった。


 刀祢が先に担架で運ばれていき、天見は舞台上でベリメスに回復魔法をかけられている。そこへファイナとセリアは駆け寄り、


「水鏡!」


「天見さん!」


 不安げに天見へすがり付く。


 そんな二人を見て、ベリメスは「あら、いたの」とばかりに目を丸くする。


「心配いらないわよ。天見が動けないぐらいボロボロになるのはいつものことでしょ」


「そこに慣れていいのか、保護者!」


 ボケとツッコミに乗り遅れたセリアはあたふたする。


「見応えのある試合でしたな」


「まあ、負けてたら顔を合わせる度に恨みがましくネチネチ言ってやろうとは思っていたけど」


 上機嫌に近づいてきた鬼面夜行流の二人。その発言からファイナとセリアは、キメルにムスッとした視線をやる。


「自分も負けたくせに」


「私が戦ったのは相手チームの実質的大将よ? ギリギリ僅差で負けたってしょうがないでしょ」


「あ、あの~、開始一分以内で負けていたはずですけど……」


 と、セリアの弱めのオズオズとしたツッコミではくじけず、


「順番通り私がさっきの相手と戦っていれば楽勝で勝ってたのに。ピーコー程度に負けるような奴ならわけなかったわ!」


 などと胸を張って誇っているキメルに、ベリメスとファイナはぷちぷちと頭に怒りマークを張りつける。


 どんだけ天見が苦労したと思ってるんだと、視線に殺気がこもる。


 モリスが間に入って「何卒、何卒」と止めるので、彼に免じて怒りをおさめる。そしてベリメスはため息をついてから、


「見ての通り、天見に決勝は無理だからね。まあ、怪我をしてなかったとしても、相手チームがコピー魔法使いとの戦いなんて嫌がるでしょうけど」


「まったく、軟弱で虚弱ね」


「そういうあなたは決勝に出られるんですか、その怪我で」


 錬磨にボコボコにやられたキメルは、もうドクターストップがかかっている。ということで、現在鬼面夜行流は交代要員の天見も含めて、試合に出られるのがモリス一人しかいない。


 一人残されているモリスは困ったように袖に手を入れて腕組みする。


「拙僧だけではたとえ勝ち抜き戦を挑んだ所でいかんともならないだろう。なにせ相手は三人共に揃っておるからな」


「へ~、あの子の所は随分な快進撃ね」


 昨日の時点で準決勝の組み合わせだけは調べていたベリメスが、そんな感想を持つが、


「あ、ベリメスさん。もしかして勘違いしているんじゃ……」


「ん?」


「Aグループを勝ち上がったのは、燕達ではない」


「へ?」


 キョトンとするベリメスにファイナが教える前に、


『さあ! それでは両グループの勝者が出揃いました! セブンイースターVS鬼面夜行流の決勝戦を行います!』


 と、アナウンスされた。


「え!? そうなの!?」


 てっきり燕達の明暗月夜流が勝ち上がると思っていたベリメスは、意外そうに驚いた。


 難しそうな顔で唸るファイナが、


「意外ではあった。セブンイースターのロイドという奴は捉え所がない。戦い方に不可解な点が多く、底が知れないというか……燕が常に攻めていたのだが、場外にまで追い込んだ時に返し技を出されて、燕の方が場外負けになってしまった」


「聖籠さん、随分と戦い難そうでしたよね。魔法の相性が悪いというのもあったんでしょうけど」


「拙僧も見ていたが人をあしらうのが随分と上手かった。のれんに腕押しという様子だ。舞を元にして作られた魔法のようだから、そういった着眼点かもしれないな」


「戦う前から気弱になってどうするのよ。とにかく、あんたは勝てばいいの!」


 無責任で横暴な言葉に、モリスは疲労から肩を落とした。彼に若干の同情を感じたが、もうファイナ達にとってはあまり関係ない話だ。


 一通り天見のやばい箇所を回復させたベリメスが、待機していた担架を持つ人達に天見を乗せるように指示をした。それで、ファイナとセリアも担架に乗せられた天見と一緒に舞台を下りる。


 彼女達とすれ違ったスタッフが、慌てて解説者席に飛び込む。すると、スタッフ達は混乱して騒ぎ出し、慌ただしく何度も何度も確認してせわしなく行き交う。


 そして、ついに決断が下された。


『え~、皆さんにお知らせがあります。突如としてセブンイースターが不調を訴え、決勝戦を辞退しました』


 ん? と観客席に戸惑った雰囲気が広がるが、それに構わず解説者は勢いで言い切る。


『それにより、決勝戦は鬼面夜行流の不戦勝! 第三回大天魔武装大会優勝は、鬼面夜行流になります!』


 一瞬静まり返った後、会場からは不満げな「え~!」という言葉が上がった。



 会場の外で、セブンイースターのロイドは仮面とマントを外してそこら辺に捨てた。


「あ~疲れたね」


 仮面の下から現れた顔は、誰であろう崑崙だった。彼の体には流線型のガジェットが装着されているが、どうやら先程までマントで隠されていたようだ。


 崑崙が捨てたマントと仮面を甲斐甲斐しく拾った、後ろにいるマントの人も顔を出す。


「ポイ捨てなんてやめてください、まったく」


 少女姿のミヤは自分の分のマントも外して、崑崙の分と合わせて両腕で抱える。そして、最後尾にいる人からマントを取り上げると、そこには誰もいなかった。


「モドリスがいれば、そんなカカシみたいな小細工しないですんだのにね」


 セブンイースターに変装して大会に出ていた崑崙達だったが、三人目にしようとしていたモドリスがいつまでも帰ってこなかったので、仕方なくミヤが魔法を使って人を形作ってマントをかぶせていたのだ。


 結局、当初の予定通り崑崙しか戦わなかったので、三人目はどうだってよかったけど。


 ミヤはマントと仮面を丸めて圧縮し、空間に出来た穴にポイッと投げ込んだ。穴の先は病院で寝ているセブンイースターの面々に繋がっているので、これで返却出来たはずだ。


「私が何だって?」


 どこからともなく現れたモドリスが、ミヤの頭に腰掛ける。


 全部終わってから帰ってきたモドリスに、崑崙は責める視線をやる。


「どこに行っていたのね?」


 が、それに堪えた様子も無く、モドリスは億劫そうにピンクの髪をかき上げる。


「ちょっと天界にね。鍛冶の男神が代わりの刀が用意出来たって言うから取りに行ってたのよ」


「そのようなこと、私に言ってくだされば――」


 と、言い切る前に、モドリスは頭に怒りマークを張りつけ、黒いオーラを全身から噴出させる。


「忌々しいベリメスのせいで、用が無いと天界に戻れないのよ。どうして知恵と美の神である私が、下界に常駐しないといけないのよ!」


「そんな設定、すっかり忘れていたね」


「大体、あなたがベリメスの下僕に勝っていればね~!」


 頭の上でケンカを始めそうになったモドリスを、ミヤは慌ててなだめ、崑崙へは「刺激しないでください!」と涙ながらに訴えた。


 それで、ひとまずは矛を収めたモドリスは、


「天界に戻ったついでに、ゆっくりとリフレッシュしてきたのよ」


「まあ、ご苦労だったね。でも、もう刀は必要ないね。天見がいるチームが優勝したし、魔断大帝は問題なく回収できるね」


「あらそうなの」


「というわけで、一旦地球に帰らせてくれる約束は守ってもらうね」


「分かっているわよ」


「崑崙さん、故郷に帰って何をするんですか?」


 ミヤは小首を傾げて尋ねる。急に異世界に召喚させられたから、親しい人に挨拶でもしてくるのかな~と考えたが、


「向こうに金を残していてもしょうがないから、こっちの生活を快適にするために色々買い揃えてこようと思うね」


「あ、そうですか」


「変なの持って帰ってこないでよ。あ、もう必要ないならこれはあんたにあげるわ。神具じゃないから何の力もないけど」


 モドリスがパチンと指をはじくと、虚空から刀が出現した。それを崑崙はキャッチし、


「ちょっと待つね」


「なによ?」


 手の中にある太刀と脇差を両手に持って、


「どうして、二振りあるね!?」


 訳が分からないとばかりに叫んだ。

 タイトルでネタバレ! ついに出ました倍速コピー! 早く魔法が放てるだけで、別に強くなってるわけじゃありません(キッパリ)! しかし、一度の特訓で二つの必殺技とは、天見の発想力はすごいですね。

 そして、決勝戦は不戦勝。よくあることです。デスピサロもやってましたし。

 次回のお話は小ネタとして書いた、準決勝前日のお話です。ファイナとセリアが謎の黒衣と戦った後で、本編とは関係ないやつです。

 それでは、また来週~。

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