コピー魔法、バージョンアップ
連休の始まりということで、早めにアップしま~す(律儀に曜日が変わるの待ってました)。天見~! カッコイイよ、天見~! すごく主人公っぽい、珍しく!(←これも問題だと思うな~)。
〈大天魔武装大会〉準決勝・決勝当日、明暗月夜流道場に悲鳴が響いた。
「飛燕姉さん、なにその手~!」
驚きと共に燕が指差す先には、包帯が巻かれた飛燕の左手があった。
「う~ん、ちょっと朝ごはんの用意で火傷しちゃったですの~」
申し訳なさそうな苦笑を浮かべる飛燕を見て、鍔蔵に衝撃が走った。
「鍔蔵?」
そのあまりにも驚愕し、恐怖すらも感じている表情に燕は首を傾げる。
「こ、これが! セブンイースターの強運の力!? ここまでくるともう恐ろしくなってくる! この後朝飯食ったら俺達食中りするんじゃねえ!?」
パニックでふざけたことを言っている鍔蔵をキュッと絞めて黙らせ、燕は飛燕に話を戻す。
「で? 大会には出れそうなの~?」
「無理をすれば何とかですの」
正直に答えた。それによって正確に状況を把握した鋼燕は腕組みをし、
「そうか。それでは準決勝は飛燕の代わりに鍔蔵を出すか」
『え?』
「ホント、父さん!」
喜んで聞き返してくる鍔蔵に鋼燕は頷く。だが、燕と飛燕は難しそうに唸る。
「いいのかな~」
「何だか不安ですの。自分が出る方が気楽ですの」
「心配ないって! 俺だって立派な明暗月夜流の一員なんだぜ!」
やる気に満ち溢れているが、その分空回りしそうだな~っと姉二人は予想する。それでも鋼燕が決めたことなので別に反対はしないし、相手が相手だからまあ、どうにかなるかな~と思う。
「試合形式は勝ち抜き戦を提案するつもりだ。鍔蔵は思いっきり行け」
「大船に乗ったつもりでオッケーだ!」
色々と不安は覚えるが、とりあえず、今日は一段と頑張ろうと燕は思った。
太陽が一際高くなる昼頃。コウヤの町近くにある山中で、ベリメスは町の方から感じる〈粒子〉の動きで出番が近いことを知った。
「天見。そろそろみたいだけど、準備はいい?」
大きな岩に腰掛けて静かに座っていた天見は、スッと立ち上がる。
「うん。いつでも大丈夫だ」
「それじゃ、はいコレ」
ベリメスから黒鞘に納まった刀を受け取り、天見は刀身を確認して頷く。
「ありがとう」
「ようやくお披露目の日ね! 張り切って行きましょう!」
今にも鼻歌をしそうなほどやる気に満ちているベリメスを見て、天見は小首を傾げる。
「ベリメスもちょっと楽しそうだね」
「もちろん。コピー魔法をこんな風にバージョンアップさせるなんてね~、さすが天見だわ。面白そうだから早く実戦で試してみたいのよ」
ベリメスは〈赤の書〉を胸元に抱いて、笑顔で頬ずりまでする。そんな彼女に同調して、天見も笑みを見せる。
「そうだね。どうにかこうにか出来たことだし、後はアイディア次第だ。知恵を尽くして行こうか!」
天見のセリフにベリメスが「お~」と応えてから、彼女はパチンと指を弾いた。すると、二人は光の球体の中に消えた。
『Bグループ準決勝、鬼面夜行流VS月光花家元流の総当り戦! 先鋒戦は鬼面夜行流のモリスが勝利し、中堅戦は後が無かった月光花家元流、本来なら大将であるはずの錬磨を出してきて勝利! 一勝一敗により、勝敗の行方は大将戦の結果に委ねられました!』
Aグループの準決勝から熱戦の連続で、会場の盛り上がりは最高潮に達している。解説者も声に熱が入り、マイクを持つ手に血管が浮いているほどだ。
『さあ! 大注目の大将戦! すでに月光花家元流からは刀祢がスタンバッております。しかし、鬼面夜行流の代表者はまだ出てこない。これはどうしたことか!?』
舞台の下ではモリスにキメルがやさぐれた視線を向けている。
「……ちょっと、どうなってるのよ?」
「いや、拙僧に言われても……」
「あいつがこの前のことを引き合いに出したから、しょうがなく交代要員にエントリーしておいてあげたのに、来ないってどういうことなのよ!」
「う~ん、出番になったら飛んでくるらしいが……」
「こうなったら私が出るしか」
「やめときなさい。本当は病院に行かなければいけない怪我なんだよ」
医務室で簡単な手当てを受けただけのキメルは頭に包帯を巻き、左腕を首から布で吊っていた。
そして中堅戦が終わり、そろそろ十分が経とうとした時、
『え~……どうやら鬼面夜行流は激闘の連続により、出場選手がいなくなってしまったようです。よって、非常に残念ですが…………大将戦は鬼面夜行流の不戦敗と――』
「待った~!」
その時、会場の上空に光の球が現れ、その中から天見とベリメスが飛び出してきた。そしてダンッと、舞台上に強く着地した天見は足から来る痺れに言葉も無く呻いた。しばらくは無理だと思ったので代わりにベリメスが、
「待たせたわね! 交代メンバー『コピー』魔法使い水鏡天見、ここに参加を表明するわ!」
力強くハッキリと宣言した。
急な出現とコピー魔法使いということで、観客は訝しげにざわつく。
〈大天魔武装大会〉は流派の魔法を扱う者が多く出場するので、コピー魔法使いの参加も観戦も禁止している。
その疑問に答えてくれたのは解説者だった。
『ただ今ご説明いたします! こちらの水鏡天見は先日のエキシビションで刀祢の相手を見事つとめ、大いに盛り上げてくれた方です。その報酬として、特別に大会への参加を認められ、縁のあった鬼面夜行流の交代要員として登録されました。しかし、彼の参加には最低限相手チームの許可が必要となり、相手チームが認めない場合は参戦することは出来ません!』
ということで、会場中の視線は舞台上の刀祢へ向けられた。彼は少しも考えず、
「もちろんオッケーだよ。大将戦がなければ盛り上がらないしね」
あっさりと許可を出した。
とにもかくにも、白黒はっきりさせる大将戦が行われることになって、観客が歓声を上げる。その頃にはようやく足の痺れがとけ、動けるようになった天見が刀祢の対面に立って軽く会釈する。
「どうも~」
かけられた明るい声に、刀祢は目を丸くした。試合だったとはいえ、刀祢は天見をぶった切ったのだ。怒りとか恨みを抱き、仕返しに躍起になるのが普通の感覚だと思うのに、そういった感情を少しも感じられない。
「……怪我はもういいのかい?」
「う~ん……痕は残ってますけど動く分には問題ないですよ」
と、天見は襟を引っ張って服の中を見下ろしつつ言う。その能天気な様に、刀祢はますます彼の感性が分からなかった。天見の人となりは聞いていたが、実際に接してみると想像以上に……変な人だった。
しかしそこは精神修養がバッチリな刀祢。そんな考えはおくびにも出さず、
「大会の参加は許したけど、実を言うとまた君と戦うとは思っていなかったよ」
「そうなんですか」
「まあ、こちらとしては完膚なきまでに倒したつもりだったからね。また挑んでくるなんて思わないよ。よっぽどいい刀を手に入れたのかな?」
「見ます?」
おもむろに天見が刀を鞘から出すと、その刀身に刀祢は目を見張った。
「もしかしてそれって……」
「はい。木刀です」
天見が持つ刀の刀身は固い材木で作られたものだった。
「そんなもので」
「いや、魔断大帝に比べればほとんどの刀は木刀と変わりがないかな~って思って……たんですけどね~。魔断大帝用意しなくていいんですか?」
「優勝賞品を参加選手が使う訳にはいかないだろ。それに君相手に必要とも思えないし」
と、ちょっと挑発してみたが天見は「そうかもしれませんね」と軽く流した。刀祢は手応えの無さに肩から力が抜け、
「刀を変えてくるなら早くしてくれないか」
「いや、いいですよコレで」
「それに天見には本身の刀ってちょっと重いわよね」
「そうそう。振り回してたらすぐ疲れちゃうから」
刀祢は「ふ~」とこれ見よがしにため息をつく。前回はコピー魔法使いの弱点である武器の差と、あえて言わなかったが身体能力と剣の腕の差で敗れることになったのに、それらの改善が全く見られない。
「君もこりないね。まあ、一日や二日で何かが変わるわけもないし、やるだけ無駄だと思うけど」
そんな短い時間で何とかなるとしたら武器の調達だけだろうが、それすらも天見は怠っている。そんな相手では、観客にエキシビション以上の試合は見せられないだろうと刀祢は諦めた。
だが、天見は当たり前のように反論する。
「ここが変わりますよ」
トントンと指で自分の頭を叩いた。
刀祢は頭上に疑問符を浮かべたが、そろそろ試合時間も迫ってきたのでそれ以上は聞かず、天見から距離を取った。
「念のための確認ですけど、そちらの魔法は使ってもいいですよね?」
その問いかけで天見が月光花家元流以外の魔法を使う気がないのを知り、刀祢は適当そうに「いいよ」と答えた。
二人が適度な間合いを開け、舞台上で対峙する。
『それでは準決勝第二試合、大将戦! 始め!』
解説者の合図で、すぐに二人は刀を抜き放って構える。
まず刀祢は刀身を水で覆ったが攻める気がなく、天見の出方を見ていた。すると、何の変哲もなくベリメスが〈赤の書〉を開き、天見がコピーをし始める。
全く変わりばえ無く水の刃が天見から放たれ、刀祢へ迫る。最早避けるのも面倒とばかりに刀祢が斬り捨てようとした。
が、刀祢の刀を素通りするかのようにして水の刃は彼を直撃した。
無様に魔法を喰らった刀祢は、侮っていたこともあり足腰に力が入っておらず吹っ飛び、舞台上に倒れ込んだ。予想外のその光景に、観客が静まり返る。
「コピースタート!」
その静けさの中に天見の声が響き、容赦なく追撃する。
「可憐な華に満ちる棘――月光花家元流、華針硬流!」
天見が刺突をくり出して放った水の刃は倒れている刀祢へ迫る。それが突き刺さる直前に刀祢は起き上がり、水の切っ先を切り飛ばした。だが、水の断面から細い水が牙のように広がり、刀祢を迂回して彼の背中から突き刺さろうとする。
刀祢の刀が閃くとそれらの水は全て斬りおとされ、形を失って舞台上で水たまりとなった。
天見は残念そうに「ちぇ」と言うが、その顔は嬉しそうだ。
「さすがに、耐性がある分復活も早いわね」
「まあ、一発で終わるとは思っていなかったけど」
遅れて、会場から大きな歓声が上がる。
『こ、これは意外! 刀祢は前々回、前回の大会でも無敗のまま優勝し、今大会に至っては今まで無傷で勝利してきました! その刀祢に初めて攻撃を与えたのがピーコー!?』
コピー魔法使い程度には期待していなかった分、観客の衝撃は強かったようだ。解説もワンパク遅れて興奮している。
「一体何をした?」
攻撃を喰らったことが腑に落ちない刀祢が、立ち上がってすぐに聞いてきた。その質問に興味がある観客も、ゴクリと唾を呑んで天見の答えを待つが、
「さあ、何でしょうね」
「そう簡単に種明かしするわけないでしょ」
天見達は当然教えなかった。それで観客からは「もったいぶるな!」とかって野次を飛ばされ、天見は仕方なさそうに、
「じゃヒント。ズバリ、オリジナルの魔法使いとコピー魔法使いの違いは?」
それを聞いた観客が頭を悩ませている間に、
「ナンバーエイト、インストール!」
「コピースタート! 満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」
天見は水で刀身を覆った木刀を横に振り、水の刃を放った。迫る刃を見定める必要もなく、刀祢はそれを熟知している。タイミングを見誤るはずもなく、今度こそ完璧に両断する。はずだった――!
「フリーズ(一時停止)!」
天見の声に反応し、水の刃は時が止まったように空中で停止した。そして、刀祢の刀は空振り、
「リスタート(再開)!」
止まる前となんら変わらず動き出した水の刃が刀祢の腹部にぶち当たった。だが、今度は吹っ飛ばされずにどうにか耐える。
「くっ! やはり見間違いではなかったか。君は、発動中の魔法を途中で止めている!」
「正解!」
「一体どうやって……」
「天見の想像を実現させるために頑張るのが私の役目。仕掛けは内緒のトップシークレット!」
「それに、魔法の仕掛けとか止まることは問題じゃないと思いますけど?」
「…………」
天見の言う通りだと察する刀祢は、反論せずに押し黙って刀を構える。
「どうして当たるんでしょうね? 止まるからどうだってことに気づかないと…………負けるよ、刀祢さん!」
「ナンバーナイン、インストール!」
「コピースタート! 風に舞い散る華よ、我と共に踊り遊べ――月光花家元流、風華遊々殻那!」
天見は鍔元から切っ先へ手を走らせて刀祢に放つ。
刀祢はまだ天見の言いたいことに気づけないが、途中で魔法が止まることもあると思っていれば対応は難しくない。
一直線に走ってくる太い水を、刀祢は斬らずに横に飛んで避ける。そして、天見へと走りながら水の縄を斬ろうとしたが――天見が刀を振るうと切っ先から連動してウェーブし、太い水にうねられてかわされた。
天見の魔法を両断できなかったのは残念だが、構わず刀祢は彼を狙う。魔法の扱いが上手いとはいえ、彼自身は問題にならないぐらい弱い。接近戦に持ち込めばすぐにも決着が着く。
天見もそれは分かっていた。刀を振ってうねらせた水の縄の先端を舞台上に打ちこみ、すぐに縮める。それで刀祢が接近する前に上へ逃れた。
「満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」
逃げられるのは予測していた刀祢が、上空にいる天見へ水の刃を放った。だが、その刃は水の縄を硬化させてビタッと止まった天見の前方を通過していった。
「そんな二次元的な攻撃法だと、空中を三次元的に動く相手には当てにくいと思うけど」
「その縄の動きを止めるのが目的だよ!」
タイミングを少しずらして放たれた二撃目の水の刃が、天見の水の縄を両断した。けっこうな高さから落ちてきた天見だが、刀に残った水を放出してどうにか無事に着地する。
そこへ、落下点を予測していた刀祢はすでに迫っていた。
「ナンバーセブン、インストール!」
「コピースタート! 可憐な華に満ちる棘――月光花家元流、華針硬流!」
天見の刀身から水の棘が花の様に咲き乱れた。それは抜群のタイミングで放たれ、前進する刀祢は顔から突っ込むかと思われた。しかし、彼は刀を舞台上に突き刺し強引に急ブレーキをかけ、迫る水の棘をバックステップでかわし、棘が収縮するのに合わせて再び突っ込む。
「フリーズ(一時停止)!」
収縮が止まったそこへ突っ込んでしまい、刀祢に棘が突き刺さった。
「くっ!」
刀祢は目だけは咄嗟に腕でガードしたが、不用意に突っ込んだ自分を恥じて下唇を噛む。そうやって彼が怯んでいる隙に、天見は魔法が止まったままの刀を袈裟切りに振り下ろす。
さすがに隙があるとは言え素人の刀を無様に喰らうわけもなく、刀祢は後ろに大きく退いて避けた。
「リスタート(再開)」
刀祢が間合いから大きく離れたことで、天見は魔法の効果を再開させて終了させた。
「さてと、そろそろ考えついたかな? オリジナルとコピーの違い」
刀祢の攻め気をスカす様に、天見は絶妙なタイミングで切り出した。実際刀祢は天見を休ませることなく攻めようとしていたが、話を聞いて止まった。
一旦刀の切っ先を下ろした刀祢は、考えついていたことを口にする。
「……それは、やはり経験があるかないかだろう」
「正解! オリジナルは経験によって魔法や武具の扱いに熟達し、応用を効かせることが出来るようになる。コピー魔法使いはその差を知恵で埋めていかなければならないんだけど、まあそれは蛇足だね。重要なのは、オリジナルには経験があるってこと」
「そんな当たり前のことが今さら何だと言うんだい?」
「そこが今回バージョンアップするにあたっての、重要なコンセプトなんですよ」
「コンセプトだって?」
おうむ返しする刀祢に、天見とベリメスは会心の笑みで頷き返す。
「今回のコンセプトは『オリジナルの経験を逆手に取る』!」
経験を逆手に取ると言われても、どういう意味だか分からない人達は頭上に疑問符を浮かべる。刀祢も天見の言いたいことが分からず、
「それが魔法を途中で止めることだって言うのかい?」
聞かれて、天見は「ん~詳しく言うとですね」と前置きしてから、
「オリジナルはその経験によって、魔法のリズム・テンポ・タイミングが体に染みついています。多くの魔法は一定のそれらがあるので、オリジナルの方々はコピー魔法使いに魔法を使われても避けやすいし、迎撃しやすいんですよ。そこまではいいですか?」
「ちょっと待ってくれないか。一定と言うが、文言から魔法を発動させるまでは毎回バラバラだ。人によっては接近するまで発言を遅らせる人だっている」
「文言からじゃありませんよ。発言を唱え終わってから魔法が顕現して放たれるまでが一定なんです」
刀祢が使った霧の水分を刀に構築させる魔法など、アレンジによって後から効果を重ねる魔法は別だが、多くの魔法は発言を唱えるとすぐに魔法が発動する。相手との距離や当たるかどうかなど、発動してからの要素は色々あるが、オリジナルはその経験から放たれた魔法がどういう結果になるか、相手の初動で予測は出来る。そして次の行動を起こす。
天見が狙っているのは、そう言った経験がもたらす行動だ。
「つまり君は、魔法を強制的に一時停止することで一定のリズム・テンポの中に一瞬のノイズを入れて、オリジナルの感覚を狂わせているのか!?」
「そうですよ。飛んできた水の刃のスピードはこれぐらいだからこのタイミングで斬れることを知っているオリジナルの魔法使い。なら、そのタイミングを止めてずらす。だから刀がスカされて当たる。魔法の効果終了時間はこのタイミングだから、ここで接近すれば魔法が終了した瞬間に攻撃できる。そのタイミングを止めて終了させない。だから効果中の魔法に飛び込んで刺される」
今まで刀祢が魔法を喰らった場面を例に出して説明することで、多くの人がその仕掛けを理解した。
「…………なるほど、オリジナルの逆手を取るか……」
説明を聞き終わった刀祢は再び柄を握りしめ、正眼に構える。
「だが、所詮は小細工! 君自身が強くなったわけでも、こっちの魔法を変質させて使っているわけでもない!」
「当たり前ですよ。コピー魔法使いの美学ひとつ! 工夫はしても変質させるな! 魔法使いに敬意を表して大きさや速さを変えても、姿や効果は変えない!」
「なら、多少やり辛さを感じたとしても、純粋な武器の経験値で勝てる!」
そこに気づかれてしまって、天見とベリメスは困ったように苦笑する。
「ほら、天見。得意気にネタ晴らしするから」
「バラしてもバラさなくても、こっちの勝率はいいとこ二割程度だったろ。と言う訳で、勝機の低さは俺の身体能力の問題になってきますのであしからず!」
刀祢が一足飛びに間合いを詰めてきて、上段からの振り下ろしをどうにか受け止めた天見だが、すかさず斜め下段からの振り上げに変化した斬撃には反応できず、胴を斬られて後ろに吹っ飛ぶ。
「っ浅いか!」
手応えの軽さから天見が自ら後ろに跳んだのを察した刀祢は、刀身に溜めこんだ水を球にして放った。
天見は左手でお腹を押さえつつ、右手だけで刀を振るって水の刃を作って迎撃した。
「今回はハンデがないからね。遠慮なくいかせてもらうよ」
「当然そうするでしょうね。なんせ魔法使いって接近戦に持ち込まれればかなり弱いですから!」
下がる天見に刀祢が肉迫する。スピードが段違いで、圧倒的な身体能力の差に天見の背筋に寒気が走る。
眼前に迫られ、天見はまた後ろに下がりつつ右手で刀を振るおうとしたが、それより早く刀祢が腕を畳んで斬撃をくり出す。
天見の右腕の内側が水で覆われた刀身で斬られ、鈍くなった攻撃を刀祢に軽々と避けられ、後ろ回し蹴りで腹を蹴られて吹っ飛ばされる。
刀祢は柄のガジェットにチップを入れ、
「起動! 瀑布を昇り、龍へと昇華せよ! 月光花家元流、滝昇生龍!」
舞台を切っ先で斬りつけ火花を散らし、下段から刀を大きく振り上げた。
舞台上を水が走り、倒れている天見にまで到達すると巨大な水柱が彼を上空へと噴き上げた。
打ち上がった天見は、圧倒的水量で体がバラバラになったかに感じ、天地がどちらにあるのかも見失った。背中から舞台に落ち、ゴロゴロと転がってうつ伏せで沈黙した。
刀祢が攻勢に出てあっという間の出来事だった。そのあまりの呆気無さと天見がボロ雑巾のように転がる姿から、観客は静まり返った。
刀祢は勝利を確信し、刀を納めて天見に背中を向ける。
「ナンバーテン、インストール!」
「コピースタート! 風雨に散る花霞により、桃源へと誘われるがいい――月光花家元流、花霞水債霧!」
舞台上にある水たまりが天見の魔法に反応し、刀祢の膝下までを覆う霧が発生する。
刀祢は「まさか!」と驚愕しつつ振り返ると、霧に体の大部分が隠れながらも天見が体を起こしていた。
舞台に突き立てた木刀を支えにし、頭から血を流し、痛みに顔を歪めていても、天見はモノクルをしている左目で刀祢を見続け、戦意を保ち続けている。
「そろそろ使われるかもしれないから、こっちが先に使わせてもらいました。この魔法は周囲に水気が満ちないと使えないから……早い者勝ちでしょ」
刀祢は膝上まである霧を見下ろしてから、
「……なるほどね。だが、君はここから奥義を使うことが出来るのかい? あの奥義は単に水の刀を構築させればいいってものじゃない。相手の動きを先読みして翻弄させなければ威力は半減する。いくら君といえども、存分に扱うことは出来ないだろう」
「そうですね」
それ以前に、天見はあの奥義を使うことはできない。あの奥義は霧を発生させる魔法と水の刀を構築する魔法の二段使用なのだ。魔法をコピー中の天見は、その魔法を中断させなければ他の魔法を使うことができないし、中断させて強制的に終了させてしまえば、その魔法は消えてしまうからだ。
しかし、使えないことを悟られる訳にはいかない。天見は自嘲気味の笑みを見せ、
「これは苦し紛れに使ったにすぎないんです。あなたに奥義を使われないようにさせるためです。今近づかれたら、どうしようもない」
「……………………」
押し黙った刀祢は刀を抜き放ち、柄のガジェットにチップを入れて構える。
そして……睨み合う。刀祢の目には、天見の体のほとんどが霧に隠れて見えない。木刀を握っていない右手は霧の中で何をしているのか? いつまでも立たないのはダメージが大きくて立てないのか? それとも立たないのか?
しばし迷った刀祢は刀を大きく振りかぶって、胴体に隙を見せる。だが、天見は何も行動を起こさない。
「起動!」
刀祢がモザイク処理された文言を展開させても、まだ天見に動きは見られない。
「私は君を過小評価しない。たとえ奥義を使えなくても、この膝下が隠れた状況ならば近づかない方が得策だろう。どんな仕掛けをしているかも分からないし……だが! 君のダメージは決して小さいものではないはずだ!」
決心した刀祢の視線が天見を射抜く。もうこれ以上の時間稼ぎは無理だった。天見はまだほとんど体が動かせないのを自覚しながらも――決断をする。
「ベリメス。使うぞ!」
「え!? あれも!? でも、今の天見の体じゃ――」
「出し惜しみはしないし、して勝てる相手でもない!」
ベリメスが戸惑っている間に、刀祢は文言を唱える。
「これで終わりだ! 満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」
上段からの一刀。その軌跡に合わせて放たれた水の刃が天見に迫る。
体勢は不十分、体力はギリギリ、魔法を唱えてもいない。そんな天見がその一撃を避けられるはずがなかった。
しかし、その水の刃は天見の直前で消え去った。
「なっ!?」
驚きに刀祢の体は硬直した。まさか迎撃されるとは思ってもいなかった。ということは、やはりこの霧の中に何か仕掛けがあるのかと、膝下を疑わしげに見下ろそうとしたが……いつの間にか霧は晴れていた。
「別に、霧の下には何もなかったですよ」
天見は膝に手をつき、キシる体を無理やり動かして立ち上がる。だが、それが精一杯の行動だと、肩で息をつく様から見て分かる。
「ならば、どうして!」
天見はニヤリと笑ってから、傍らを飛ぶ疲弊したベリメスを指さす。
「誰が、バージョンスリーだと言いました?」
超人的に目の良い人なら見えただろう。ベリメスが手に持つ〈赤の書〉の表紙に刻まれた番号が、「四・〇」だと。
え~、まことに不本意ながら、長くなりそうなのできりがいいところで切りました(確信犯です!ごめんね)。
残りの字数は二千文字足らずなので、連休中に載せますね。
それにしても、いや~コピーの機能も増えてきましたね。拡大・縮小に一時停止・再開。そしてホニャララ。基本のコピーと中断も入れたらけっこう多いですね。
では、次回で決着がついてバージョンフォーの機能も分かります。お楽しみに。




