夜のお散歩でエンカウント
最後の試合は下馬評通り月光花家元流が勝ち、一日目が終わった。
残ったチームはAグループが月光花家元流とセブンイースター。Bグループが鬼面夜行流と月光花家元流となった。
二日目はそれぞれのグループでまず準決勝を行い、勝ち上がった二チームで決勝が行われる。
全ての試合が終わり、会場から帰る人波の中、ファイナは無表情ながらやさぐれたため息をつく。
「結局、日がな一日試合を見ていただけ……何をしていたんだか」
「張り込みが空振りに終わるなんてよくあることだ。気にするな」
言葉通り全く気にしていない様子のハビエは、今日の熱戦に満足してホクホク笑顔だ。
「……ホントにこんなので天見さんの助けになっているんでしょうか」
セリアも目に見える結果が得られていないので不安げだった。
崑崙が大会のどさくさに紛れて現れるのを期待して張り込んでいるだけで、ファイナとセリアの二人には何かをしている感が全くない。天見に崑崙のことを頼まれているだけに、今日何もなかっただけで二人に焦りが見られる。
だが、この空振りもハビエの狙いではあった。
天見から直接二人のことを頼まれたハビエは、二人が突拍子もない行動を取って危険に遭遇しないようにしていた。
特に注意しておかないといけないのはファイナだ。なにせ猪突猛進な行動力と短絡的な発想の持ち主で、大抵のことは容易に実現できる家名と財力を持っている。
「張り込みに必要なのは忍耐だぞ」
暗に「動くな」と釘をさしているのだが、二人は返事をしなかった。ハビエは仕方なさそうに嘆息し、
「まあ、崑崙にしろ他の奴にしろ、何か仕掛けてくるとすれば優勝者が決まる明日だろ。何があっても動けるよう、明日は気合いを入れろよ」
そう言って、二人の意識を明日に向けたつもりであったのだが…………その夜。
旅館をこっそり抜け出したファイナとセリア。
「あ、あのグリューテイルさん。こんな夜に何をするんですか?」
一緒に抜け出したというより、ファイナがどこかに行こうとしていたので心配でついて来たセリアがオズオズと尋ねる。
それについてファイナは振り返って、
「いい? 昔から言われていることだけど悪人は寝ない。悪い奴が何かをするとしたら夜だって相場が決まっている。つまり、夜にコンロを探さずいつ探すのだ」
「でも、こんな夜に女子だけで歩くなんて危ないんじゃ……」
現在の時間帯は十時を過ぎたぐらい。こんな時間に滅多に外に出ないセリアは、悪いことをしている気がして戸惑っている。
「それならあなたは旅館で待っていればいい。私は行くから」
躊躇いの無いファイナは平然とツカツカ進んでいく。その背中を慌ててセリアは追いかけた。
この時間帯だと大きな通りでもあまり人通りがなく、静かな町中には酒場の喧騒ぐらいしかない。
少し不安を覚えるセリアはキョロキョロと落ち着きがないが、ファイナは迷いなくわき目もふらずに歩いている。その様子にセリアは「すごい」と思いつつ、
「何か心当たりがあるんですね」
「無い」
「――え?」
あまりに即答で思っていたのと真逆の答えが返ってきて、セリアの目が点になる。
「相手の意図がまるで分からないのだ。勘で動く以外方法がないだろ」
当然のように言い放たれ、セリアの頭に大きな汗が流れる。
「あ、あの~動かないっていう選択肢は……」
「ジッとしてなどいられない」
その気持ちは分かるが、さすがに考え無しの勘って所はいかがなものだろう? 早速だけど、今夜は無駄足に終わると、セリアはヒシヒシと感じていた。
と、ファイナはカクッと曲り角を曲がった。
「あれ? 会場の方へ行かないんですか?」
おそらく唯一目安に出来るものがあるとすれば魔断大帝だろう。それなのに、ファイナは魔断大帝がある会場に向かわない。
「あえて意表をつく」
誰の!? とセリアは思ったが口に出せる訳も無くただ付き従った。
そんな風にファイナの勘頼みでフラフラカクカク歩いていたら、慣れない町というのもあって、もう自分達がどこを歩いているのかもよく分からなくなった。
ちゃんと旅館に戻れるのかなっとセリアが不安に思っていると、何の前触れもなく二人の目の前に黒衣をまとった人間が現れた。
突然のエンカウントに二人がフリーズし、どうやら黒衣の方もフリーズしたようで二人に顔を向けたまま動かない。
それでも、一番先に動きを見せたのはここ数か月で色んなことを経験してきて、突然のアクシデントに慣れてきてしまったファイナだった。
著作権フリーの火球を掌中に作り、それごと相手の顔面を狙って掌底を放った。
先手を取られた黒衣は体を捻って避けるのに精一杯で、足はその場から動いていなかった。ファイナは外れた掌底の手を捻り、火球を黒衣が避けた方へ投げつけた。さすがに体勢が悪すぎてそれは避けられなかったが、著作権フリーの魔法ごときにダメージは受けず、反撃をしようと拳を握り込む。
だが、最後に反応したセリアの著作権フリーの暴風に押され、黒衣は攻撃することが出来ずに後ろへ飛ばされた。
黒衣は足から着地し、地面を足裏で削りながらようやく止まる。
間合いが離れたことで、ファイナとセリアはあらためて黒衣の相手をマジマジと見る。
身長はファイナより拳一つ分ほど低く、黒衣を頭からかぶっているので髪色も分からないし、顔も黒い布でグルグル巻いているので分からない。どんなガジェットを持っているかも分からない。そんな分からない尽くしの相手を見て、
「言い訳不能なほど怪しい奴」
「あ、あの、危険な人なんじゃ……」
「不可解なことを言うな。どこをどう見てもそうだろう」
「ですね~」
涙目のセリアはなぜだか逆に少し笑ってしまった。なんか絶望的にリアクションに差がある二人だ。
「私の勘も捨てたものじゃなかったということだ。あいつを捕まえれば、もしかしたら何か分かるかもしれないぞ」
「全く別件の怪しい人って可能性もありますけどね。あの人の仲間とか近くにいないでしょうか」
意欲的に燃え、腕輪のガジェットにチップを入れるファイナと、冷静に周りを警戒するセリア。対する黒衣は二人の相手をする気がなく、身を翻して走り出した。
「待て! 有無を言わず逃げるとは、さらに怪しい!」
「間違いなく何か後ろ暗いことがあるんでしょうけど……こんな危険なことをしていいんでしょうか」
戸惑いながらもファイナの勢いに引っ張られてセリアも黒衣を追いかける。しかし、相手は思っていた以上に素早く、このままでは見失ってしまう。
「――くっ! おい、私を飛ばせ!」
「え? え~っと、思いっきりですか?」
「聞き返すな! 不可解な! 当然! 早くやれ!」
「は、はい!」
せっつかれたセリアは両手を突き出して強風を起こし、ファイナの背中を押して加速させた。
常人を遥かに超えるセリアの著作権フリーの魔法で、ファイナは一気に黒衣を追い越して回り込んだ。
「そう簡単に逃がすと――!?」
悠長に話すことも出来ず、黒衣の貫き手が襲ってきた。それを寸での所で避けたが、掠めた頬が浅く切れた。さらに黒衣は貫き手を引き戻した動作の流れで、左足でミドルキックをくり出す。
ファイナは膝を上げてガードし、響く衝撃に顔をしかめる。予想よりも攻撃が強く、反撃までは出来なかった。
その隙に黒衣はファイナの右手首を取り、彼女の背中に回して捻り上げようとした。が、
「!」
ガチッと固定したように動かなかった。
「リストは重点的に鍛えている。起動!」
すぐさま手を放して退こうとした黒衣だが、それより早くファイナの左手が動いた。正体を隠すために重ねた黒衣――そのため普通の服よりも厚みがあり掴みやすかった。逃さず引っ掴み、
「二頭一対の理に爆砕せよ! 双爆輪唱!」
左手で黒衣を引き寄せつつ、輝く右拳を叩きつけた。発動した爆炎が黒衣を焼いたが、ファイナは拳にヒットした感触を感じていなかった。
頭上から聞こえた衣服がはためく微かな音。それを逃さなかったファイナは体を横に開く――風圧を感じるほどに間近を黒衣の踵落としが通過していき、二人は弾かれたように間合いをあける。
「私相手に接近戦を挑む奴は久しぶりだ」
「……何も見なかったことにして帰れば、見逃してやる」
布のせいでくぐもった提案を、ファイナは鼻で笑う。
「少し戦ってそんなお願いをしてくるなんて、大したことない奴だな」
「…………」
気配りを挑発で返してきたファイナへ、黒衣はもう言葉をかけなかった。
そこへ、二人の背後で様子を見ていたセリアが声をかける。
「グリューテイルさん、もしかしたらその人、本当に魔断大帝の盗難未遂事件に関係しているかもしれません」
「なに?」
「あそこの人が言ってたんですけど、盗みに入った人は黒衣の人物で素手でもすごい強い人だったらしいんです。他には妖精を連れていたらしいんですけど、この証言は目撃者が一人しかいないので、見間違いの可能性もあります」
確かに目の前の黒衣の人物に当てはまる要素が多い。
「なるほど。どうやらなおのこと逃がす訳にはいかないようだな」
さらにやる気を見せるファイナに、黒衣は布の下でため息をついた。
「死んでも恨むな」
ゆらりと揺れた黒衣が一気に距離を詰めてきた。だが、まだ間合いの遠い所からなぜか腕を振り始めた。ファイナはそれを避けるまでもないと考えたが、体は過敏に反応して背後に跳んだ。
そして、何かがファイナの前髪を裂いていった。着地してから鼻先に引っかかった髪の毛を払って、ファイナは黒衣の左手の中にある獲物を見つめる。
それは小刀より少し長い、脇差と呼べる刀だった。
セリアがそれを見て短い悲鳴を上げるが、ファイナは動揺した素振りすら見せず、
「そんなものを隠し持っていたのか」
「悲鳴を上げて逃げるなら追わないが?」
「ふ」
「何がおかしい?」
「刃物を持った黒装束との戦いなら経験済みだ」
「すごいこと経験してますね」
再度黒衣がファイナへ斬りかかる。その一撃を避けて彼女は反撃をしようとしたが、普通の刀よりも短く軽い脇差は、止まることなく斬撃がVの字に跳ね上がってきた。
体をそらして何とか避けたが、ファイナは一方的に攻撃を受けた。しかし、それで怖気づくこともなく、
「起動」
退くこともしない。
「二頭一対の理に爆砕せよ! 双爆輪唱!」
輝く右拳を振り上げ、ファイナの方から間合いを詰める。
先に攻撃が可能になるのは脇差を持つ黒衣の方だとファイナは分かっているので、突撃の途中で火球を投げつけた。
火球を避けるか防ぐかすれば、黒衣はその次にあるファイナの攻撃に対応するのが苦しくなる。
冷静にダメージの大小を考えれば、著作権フリーには構わず、ファイナの魔法に対応するべきだろう。しかし、突然目の前に放られれば反射的に反応する。
かと思われたが――黒衣は火球を気にも止めず、ファイナへ向けて脇差を突きこんだ。顔面の左半分に火球を受けながらも、的確に攻撃してきた。
ファイナはそのパターンも想定していたので避け、黒衣の左側へ回った。そちらは火球を喰らったため視界が半減して死角になっている。それでも黒衣は、彼女がいるであろう方へ勘で脇差を振り下ろす。
その一撃が不用意な一撃だった。
脇差の持ち手である左手をファイナが輝く右手で受け止めると、双爆輪唱が発動して黒衣はコマのように回転して吹き飛んだ。
「カウンターのようなものだ」
「――――」
黒衣はすぐに立ち上がったが、左腕は垂れ下がって力が入っていない。それでも脇差を手放さないでいる。だが、気づけば背後を壁に塞がれ、追い詰められていた。
「さてと、中々のやり手のようだが勝負はあったな。身元が特定されないように魔法を使わなかったのが敗因だ。さらに言えば、逃げようとしても無駄だ。こちらには反則級の風の使い手がいるからな」
戦闘には参加しなかったが、セリアは黒衣が逃げる素振りを見せないかずっと見張っていた。
黒衣は観念したのか、肩から力を抜いて姿勢を正す。
「どうやらこの場は負けを認めなければいけないようだ」
敗北宣言をした黒衣は脇差を右手に持ち替え、素早く背後の壁に映った影に突き刺し、
「しかし、私を捕まえることは出来ない」
黒衣は影に沈み込むようにして姿を消した。
しばし、ファイナとセリアは目を丸くしてフリーズしていた。そして、ようやく相手が消えたことを認識し、
「な! 何だ今のは!」
納得できないファイナの叫びが夜の町中に響いた。
ちなみに、グルグル回って自分達もどこを歩いているのか分かっていなかった二人は、そこが月光花家元流道場の近くだと気づいていなかった。
結局疲れるだけ疲れて決定的なことは何も得られなかった。
ファイナとセリアのおかげで、謎の人物についてもちょっと紹介できました。結局、盗難未遂事件を起こしたのは崑崙なのか、違うのか?
まあ、そんなことはおいといて。ついに次回! 主人公が出ます! ついに出ます! しかもバージョンアップして!
それでは次回予告! ついに大会は準決勝まで進み、Bグループの試合が行われる。月光花家元流VS鬼面夜行流の大将戦に出てきたのは、なんと天見だった! そして、対戦相手は刀祢! 前回無傷のパーフェクト負けをきっした相手に、天見はどうするのか!?
次回更新は金曜日です。めでたく天見自身は強くなることなく、パワーアップしております(どういうことかと首をひねるが、それがコピー魔法使いってことで)!
あ、それと夏に書いてた小説が落選したのでこっちに載せますね。「怪盗カササギの超常騒動」ってやつ。興味があったら見てください。




