本戦一回戦
いや~、ギリギリの執筆速度が続く続く。今回もギリギリで何とかです。そして、天見は出て来ません。おそらく当分出て来ません。主人公~!
滞りなく予選を終えたその夜、刀祢は自室で本戦のトーナメント表を眺めていた。
本戦はAとBの二つのグループに分かれていて、A、Bそれぞれの勝者が決勝で激突するようになっている。
一回戦は予選通過チームと招待チームが戦う組み合わせになっていて、Aグループに明暗月夜流がいて、Bグループに月光花家元流がいる。
「中々気が利いた組み合わせになったな。日頃の行いが良いおかげかな」
「白々しい」
部屋の隅から聞こえた唐突な声に、刀祢は顔を向ける。すると、タンスの陰から音も無く黒衣の人間が現れた。
だが、刀祢は驚くことなく相手に微笑みを向ける。
「白々しいとはどういうことかな? 別にインチキなんてしていないよ」
「そういうことにしておく」
その相手はゆったりとした黒衣を頭からかぶっているから体格は分からないが、少し高目の声からして女性かもしれない。
「しかし、作戦がこうも上手くいくとは……まるで全てを見透かしているかのような神算だね」
「それも全ては協力者からの情報があったから。それにこちらの立案を取り入れたのはそっちよ。その柔軟性は評価する。で、約束は覚えている?」
「もちろん。全てが上手くいけば『魔断大帝』は私のものだ。その暁には君に進呈するよ」
「それなら問題はない」
黒衣の人間は部屋を横切ってふすまの前に行き、
「もう帰るのかい? よければこの後――」
「あのピーコーには注意しておいた方がいい。波乱を起こすことに定評があるらしい。まあ、大会には出られないだろうから用心するのは終わった後になるだろうけど」
そう告げ、黒衣の人はふすまを開けて飛び出した。その姿は夜の闇とすぐに同化して消えた。
それを残念そうに見送ってから刀祢は、
「波乱か…………大会が盛り上がるのなら、私は大歓迎だけどね」
トーナメント表を再度見下ろす。月光花家元流がいるBグループに鬼面夜行流の名前があった。
それとほぼ同時刻、暗闇の一室で流線型のガジェットのキーボードを開いた崑崙がカタカタと操作していた。ガジェットから伸ばされたジャックは壁の中に入り、そこに埋め込まれているケーブルと繋がっている。
「またそんなことをしていると、著作権委員に怒られますよ」
声に振り返ると、少女姿のミヤが呆れ顔で立っていた。崑崙は光るキーボードをしまい、ジャックを引っこ抜いて回収する。
「大丈夫ね。足取りを掴ませないように遠回りしてアクセスしているし、痕跡もちゃんと消してるね」
「ですから、それだけの技術を持っている人は限られるから崑崙さんの仕業だと分かっちゃうんじゃないんですか?」
「……あ~なるほどね。まあ、その程度の言いがかりで追及してきたらすっ呆けるだけね」
「……まあ、いいですけどね。それより、これが本戦の組み合わせ表です」
差し出された紙を崑崙は受け取り、細い目でつぶさに見つめる。
「あと、ベリメス様とあの水鏡さんの行方は不明です」
「まったく、何を考えてエキジビションなんて受けたんだか……それに、わざわざ相手の土俵で勝負するなんて理解に苦しむね」
「そうですよね。相手の強さは分かっていたでしょうに……」
「ハンデもあったんだから天見が勝つ方法はいくつもあったね。あれだけ水を扱う相手なら風か雷の魔法を用意しておけばよかったのにね。まあ、だから天見は見ていて飽きないね。今何をやって、今度現れた時は何を見せてくれるのか……楽しみね」
喉の奥で笑う崑崙を見て、ミヤは頭に大きな汗をかいた。その時、ふと気づいて部屋の中を見回した。
「モドリス様は?」
てっきり部屋の中でまどろんでいるんだろうと思っていたが、姿が見えない。
「知らんね」
このビックリするほどの興味の無さ。崑崙が神や天使についてほとんど関心がないのはミヤも知っているが、さすがにさっぱりし過ぎていて頭に大きな汗をかいてしまう。とは言え、彼女も主の行方は気になる所だが、あまり干渉し過ぎて不興を買うと後が怖い。望んで単独行動をしているのならば、放っておく方が無難だ。
「それよりちょっと出かけるね」
「え!? だって今、町中では都警が崑崙さんのことを探していますよ? だから私が一人であっちこっち行って――」
「ただ面倒だから頼んだだけね」
「そんな~!」
昨日今日と町を猫で少女で駆けずり回ったミヤは、崑崙にすがって涙を流す。それに対して鬱陶しげに顔をしかめた崑崙は、
「調べなくちゃいけない魔法があったのも確かね。よくやったよくやったね」
明らかに投げやりな感謝にミヤは頬を膨らませた。
「で、どこに行くんですか?」
「俺が何を調べていたと思っているね? この組み合わせ表が来るのを待っていたね。さっさとついてくるね」
「え? 私もですか?」
まだまだこき使われそうな予感に、ミヤは肩がガッツリと下がった。
今日の勝利を祝って酒盛りをしている四人。明日への英気を養って、程よく気持ちよくなってきた所、急に周りが静かになったことに気づいた。
「なんだ?」
耳がおかしくなったのかと耳元をトントンと叩く奴もいるが、勘のいい一人が、
「もしかしてこれって、結界?」
『おまえらがセブンイースターね』
結界の中で反響して響く声に四人は身構え、すぐさま仮面型のガジェットを装着する。
「誰だ!?」
「姿を見せろ!」
どこからともなく現れた人はマントや布で正体を隠していたが、左腕に流線型のガジェットを装着していた。
「感謝するね。貴様らの勇名をとどろかせてやるね」
翌日、長蛇の列に並んで入場し、どうにかハビエと並びで座れたファイナは頭に怒りマークを張りつけていた。
「で、どうして本戦まで見に来ることになる。最早ここに用はないだろ」
「そうでもないぞ。崑崙が狙うお宝はここにある。さらに奴が連れていた猫が昨日現れたってことは、奴も現れる可能性は少なくない。それならここで張っているのは間違いない」
「そうなんでしょうか」
ハビエの理屈にファイナの隣に座るセリアは疑問を持つが、
「手がかりもなく町をウロウロしたってしょうがないだろ。犯人が一番立ち寄りそうな場所を見張るのが張り込みってもんだ。それにお友達が出場しているんだ、応援してやれ」
どうも取って付けのような理屈だが、専門家の刑事がそう言うと二人は反論しにくかった。広い町での人探しが難しいのは先月経験済みだし。
ムスッとした顔を心象に隠し、ファイナは腕組みをして舞台を見下ろす。
「で、本戦はどういう形式なのだ?」
「基本的には一対一を三回する総当り戦だが、双方が合意すれば勝ち抜き戦や三対三の団体戦も出来るぞ」
「随分と自由ですね、見ている人を飽きさせないためでしょうか」
「それより、Aグループの初っ端の試合に出て来るぞ」
舞台上に現れた明暗月夜流の面子を見て、さすがにファイナもそちらへ視線を向けた。
遠目からだが燕の様子を見て、ファイナは違和感を覚えた。普段と違い、どこか動きに固さが見える。
「緊張でもしているのか? 柄でもない」
ファイナのその考えは当たっていて、三六〇度から注目される舞台上に立つ燕は体を強張らせていた。
「大丈夫ですの、燕?」
と、飛燕が声をかけたのだが燕は応えもしなかった。
これはダメだと、鋼燕もさすがにため息をついた。
「仕方がない。多少荒っぽいが試してみるか」
そう言って鋼燕は、開始前に対戦相手の下へ行く。試合の形式を決めるついでに、ちょっとした世間話も交えて。
『明暗月夜流刀剣術対聖騎士フリズナー、始め!』
解説者の掛け声で試合が始まり、盛り上がりの声を聞いて燕はハッとした。いきなり三人に踊りかかられ、考えるよりも先に体が動いて後方へ大きく飛び退いた。
「燕! すぐに次が来るですの!」
「…………え……」
背後からかけられた飛燕の注意に、心ここにあらずの燕は呆けた声を出す。
「サンシャインインパクト!」
緊張から体が固くなった所に一撃を受け、吹っ飛んだ燕は受け身も満足に出来ずに倒れた。攻撃を受けたことでさらに頭の中はパニック状態に陥り、どうして地面が目の前にあるのかもよく分かっていなかった。
「立て、燕! 寝たままではやられるぞ!」
鋼燕の声に反射的に反応して飛び起きると、それまで燕がいた場所に剣が突き刺さる。危うく串刺しにされる所だ。
「そしてさっさと刀を抜け!」
抜刀の所作は最早体に染みついている燕。刀を抜けばそのまま柄のガジェットにチップをセットして、普段を少し取り戻す。
体の痛みを自覚すると共に、戦っているんだと気づく。
「起動~!」
間延びした声に反応して、周囲にモザイク処理された文言が展開される。
「闇夜を照らす月、姿を変える月は水面に映る。明暗月夜流刀剣術、水月!」
手を刃の根元から切っ先に走らせると、刀身が水で覆われた。
相手の剣を刀で受け、力比べをせずまた後方へ飛び退いて――、
「おい」
鋼燕が手を出していた所へ燕は飛んでしまい、背中が思いっきり反り返った。
「ぎょへっ!」
などという変な声を出し、燕は背中を手で押さえながら震える。
「逃げてばかりいないで少しは攻撃しろ」
「だからって、味方を戦闘不能に追い込みかけないことしないでよ~! って、二人とも何で刀も抜いていないのよ~!」
燕の指摘通り、後ろに控えていた鋼燕と飛燕は刀も抜かずに傍観していた。
「仕方ないだろ。おまえが相手チームを罵って煽るから一対三なんかの事態になるんだ」
「何の陰謀!? それ私知らない~!」
「燕、危ないですの!」
注意喚起に振り返れば、光の刃が飛んで来ていた。燕は振り返る動作の流れで光の刃を両断して霧散させる。
「燕が『聖騎士なんてよく名乗れるわよね~。カッコイイと思ってるんでしょうけど、有象無象の雑魚だと名前負けしてない? 招待選手なんておだてられてノコノコ出てきて分不相応の実力だって分かってないのかしらね~。面倒だからまとめてかかってきてほしいわ。やられシーンでも出演できただけ涙して感謝してもらいたいわ』と、言っていたのを伝えただけだ」
「罵詈雑言にしたって果てしないでしょ~! なに娘を陥れているのよ~!」
「一応三対三の団体戦だけど、そんなわけで燕が狙われているんですの~。とりあえず頑張ってくださいですの~」
鋼燕に文句を言おうとしていた燕だが、目の端に敵が見えたので魔法を避け様に相手を胴薙ぎする。一人がそれで倒れ、次の相手の剣を刀で受け止める。
鍔迫り合いの状態から腕の力ではなく、膝を屈伸させて体の勢いを利用して押し勝つ。少女相手に押されると思っていなかった相手は後ろに尻餅をつき、燕は相手の胸板を蹴って押し倒し、構えた刀を突き刺した。
その次に、相手から引き抜いた刀の切っ先で円を描き、
「水月! 新月の型!」
出来た水の円盤で光の波動を弾いた。
残ったのはリーダー格の甲冑姿の男(おそらく彼がフリズナー)。剣と盾を構え、鉄仮面の隙間から燕を警戒する。
刀身の水を使い切った燕は再び水をまとわせるが、相手に斬り込む隙が中々見いだせず睨み合っている。
相手の騎士は剣を横に構え、刀身を眩しい程輝かせた。思わず目をつぶった燕の手から刀が弾き飛ばされた。
喰らった衝撃とは逆の方へ転がって逃げた燕は、立ち上がって目を開ける。飛ばされた刀は相手を挟んで向こうに落ちている。
「終わりだ!」
騎士が剣を突き出すと、光が一直線に燕へ迫る。掌に水球を作り出した燕は、光の射線上へそれを置く。光は水球に入ると若干屈折し、彼女の頬を掠めていった。
相手が魔法を放った直後を狙って、燕は刀を取りに走った。だが、その前にいる騎士もただ通すわけがなかった。騎士が迎え撃つために飛び出すと、燕の姿が彼の目の前から消えた。
燕は相手の間合いに入る前に素早く斜めに沈み込むように体を落とした。普通ならば目で追えたかもしれない動きだったが、騎士は鉄仮面をしていたため視界が狭い上に、燕は狙って相手の盾を持つ方へ動いた。彼女の姿は盾にも隠されたため、騎士からは消えたように見えたのだ。
呆気に取られた騎士の背後で、
「起動~!」
すぐさま騎士は振り返るが、そこにもう燕はいなかった。
端で見ていた鋼燕とファイナはようやくと苦笑してため息をついた。
「動きを取り戻したか」
「遅い。まったく、何を手間取っていたのだか」
騎士の背後から剣を振り上げた燕が飛び掛かり、
「水面が揺れ、月は歪に乱れる! 明暗月夜流刀剣術、水心!」
刀身と水の刃が首にある鎧の隙間を寸分たがわず薙いでいった。
延髄に強い衝撃を受けた騎士は気を失って倒れ、解説者から明暗月夜流が勝利者としてコールされた。
「おい燕、そんなに怒ることないだろ。あれはおまえの緊張を解きほぐすためにだな~」
舞台から下がってから鋼燕はずっと燕に謝っているのだが、彼女は頑として無視したままだ。それほど鋼燕がした行いに怒っている。
「あ、燕そっちはBグループの方ですの~。私達Aグループはこっちですの」
と、間違った方へ行こうとした燕の袖を飛燕が引っ張って止めた。
「AとBで待機場所が違うの~?」
「そうですの。Aは東側控室、Bは西側控室で三階は立ち入り禁止ですの。三階は協賛の企業の人の観戦場所と魔断大帝があるかららしいですの」
「ふぅ~ん」
その時、入れ替わりでBグループの一回戦チームが舞台へ上がって行った。
それから間もなく、会場の大歓声を燕は背中で聞いた。
「な、なに~!?」
「随分と盛り上がっているですの」
燕と飛燕が振り返って出入り口から舞台上を見れば、すでに選手一人が倒れている。
キメルとタッチして入れ替わったモリスは漆黒の棍を構え、メリケンサックを装着している巨体と相対する。
巨体ながら体属性でスピードが強化されて素早い攻撃を見せるが、モリスは動揺することなく突進してきた相手の鳩尾に棍を突きこんだ。
『すごい! 圧倒的な強さを見せて二勝し、鬼面夜行流が勝利しました~!』
総当り戦を行ったようで二勝した時点で勝負が決まり、三人目の出番がなく試合が終わった。
あっという間に終わった試合を見て、鋼燕は顎をなでながら笑う。
「ほう、けっこう強そうな所もあるようだな」
「次は父さんと姉さんだけでやってよね~」
「わかったわかったから機嫌を直せって」
だが、まだムッとしている燕はプイッと顔を背けて足早に控室に行ってしまった。
その後も滞りなく一回戦が進み、ついにAグループの最後の試合となったのだが……。
舞台上に待機しているのはフードとマントで姿を隠している『セブンイースター』チームの三人のみ。相手の招待選手はまだ姿を現さない。
観客席は待つのに飽きた雰囲気でざわつく。
『え~、どうやら『アースオブウインド』チームは会場にいらっしゃらないようなので棄権とみなし、『セブンイースター』の勝利とします!』
何となく消化不良の拍手に送られ、『セブンイースター』の三人は退場していく。
すっかり待つのに飽きていたファイナはやっとかと思いつつ背伸びをしてから、
「招待チームだというのに棄権など、そんなことがあるのか?」
「こういう激しい大会だと稀にあるぞ。戦いが想像以上で腰が引けてしまって敵前逃亡とかな」
ハビエの答えにファイナは左程興味無さそうに「ふぅ~ん」と頷いた。
「午前中は次のBグループの一試合で終わりですね。午後からは二回戦の四試合があって、明日に準決勝の二試合と決勝があるんですね」
セリアが手持ちのトーナメント表に勝利チームを書き込みながら確認する。
「やっぱり招待チームは強いんですね。七チーム中四チームも残っていますよ」
「そして、前回優勝チームの『月光花家元流』か」
最後の試合に出ているのは月光花家元流で刀祢だ。明暗月夜流の燕に対抗しているのか、彼も一人で三人を相手取っている。
離れていても実力の違いが見て取れた。案の定、大した時間もかけずに刀祢が一人で終わらせた。
「…………天見さん、修行するってことはあの人に勝つつもりなんでしょうか……」
ハンデ戦でも天見を無傷で倒した実力から分かっていたことだが、刀祢は間違いなくかなりの実力者だ。
ファイナも顔にこそ出さないが、心象ではどうしたって天見が勝てる方法があるとは思えなかった。自分と二人で戦ってももしかしたらと思わされるほどの相手だ。
「それに挑むってんだから、ピー小僧は面白いのよ!」
二人はハビエほど楽観的には思えず、沈黙していた。
本戦が始まりました~。燕が緊張している様子はとあるボクシングマンガを参考にしました。緊張を解くいい方法って一説には怒りらしいですよ。試したことがないので本当かは分かりませんけど。
いい感じにチームがAとBに分かれてくれてとても助かっています。当然ながら、見せ場は二日目の準決勝になってくるわけで、そこまでにどうにかして主人公を登場させたいですね。
それでは次回は一日目午後の部です。更新は来週の金曜日予定です。




