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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
大天魔武装大会
87/100

試合の裏で

 ファイナ達が会場の一番後ろにある立見席で入場してきた時には、もうすでに予選グループの「四」までが終わっていて、まさに「五」が始まろうとしていた。


 解説者から主だった出場者の紹介も終わり、観客は開始の合図を盛り上がって待っている。そんな周りの熱気にセリアは戸惑いつつ、人波の中をぬって進む。


「李さん、ここにいますかね?」


 先行するファイナは人波を押し退けて進み、


「分からない。が、いないとも限らないだろう」


 会場中、どこからでも見える場所にある魔断大帝に目をやる。刀祢が言っていた通り、魔断大帝は選手が控えている建物の三階にあり、ケースに納められて横たえられている。


「本当にアレを狙っているのならな」


 ファイナの顔の向きに誘われて、セリアも魔断大帝を目にする。離れすぎていて小さくとしか見えないが、間近で見たセリアは刀を覚えている。あれのせいで天見が大変な目にあっていると思うと、ムッとする。


「…………大会に出場していたりするんでしょうか?」


「どうかな? そんな真っ当な方法を取る奴とは思えないし、メンバーも足りないはずだ」


「そう言えばそうですよね」


 崑崙は妹のミヤと妖精のモドリスを含めれば三人だが、ファイナとセリアは妹と妖精が戦力になるとは思っていない。まあ、その二人の正体は天使と神なんだが。


「私達は観客を確かめていくぞ。参加者の方はハビエに任せればいい」


「……試合に熱中して気づかなかったり……」


「言うな」


 話はそこそこに(元々この二人、コミュニケーションが苦手で会話が全く続かない)、二人は黙々と観客の顔を確認するという地道な捜索を再開する。


 そして、予約していた席に座るハビエは、舞台上に面白そうな流派の人を見つけて豪快に笑っていた。



 三十三人の猛者が入り乱れて戦っている舞台で、鋼燕は刀を抜かずに腕組みをし、


「早雲流、嵐!」


「バリアブル奥義、ゴールドミャクサッシュ!」


 戦場の端っこで流れて飛んでくる魔法をやる気なさげに避けている。


 そんな時、飛来してきた矢を左に避けた所へ、巨大な斧が振り下ろされた。


 避け終わった瞬間を狙われた一撃だったが、軸足で地面をねじって回転し、斧には前髪を触らせるだけで通過してもらった。


「てめえ、やる気あんのか!」


 巨大な斧を扱うに相応しい巨体の男が激昂するが、鋼燕は腕組みの姿勢を崩さず、


「くだらん見世物の場で無暗に魔法をひけらかすのは好まない」


「なら、さっさと消えろ! ゴーギャスティン! ブロージットヴァル!」


 雷をまとわせた斧の一撃が、鋼燕の頭上へ落ちてくる。今までのように紙一重で避けても放電する雷でダメージを負ってしまうし、背後に飛び退けば場外負けになる。


 鋼燕は散歩のように気負いなく歩を進め、巨体に近づくとターンをして男の後ろに回る。


 斧の一撃は舞台に深く突き刺さり、雷が激突の強さに比例して激しく放電する。その激しさは遠く離れた観客席にまで届いたが、術者である男の方へは一切襲って来なかった。


 広範囲に及ぶ魔法ほど術者の背後は安全という、この類の魔法と戦いなれた避け方だ。


 巨体の男はいきり立って振り返ろうとしたが、その前に背中に軽く手をそえられ、


「はっ!」


 裂帛の気合いで強く押され、呆気無く場外に落とされた。


「くだらん」


 戦った相手に一瞥も無く、鋼燕はため息をついた。


 舞台上では参加者がひしめき合い、激しい熱気が渦巻いている。その熱気を冷めた目で見つめる鋼燕は刀を抜き、躊躇なく戦場に突入する。だが、参戦することはなく縦横に動くだけだ。


 時たま変に動く鋼燕に気づく者から攻撃を受けるが、刀でいなして受け流す。そうしてひとしきり戦場を横断した所で、柄のガジェットにチップを入れる。


 この時、一人の参加者が足を滑らせて転んだ。


「ん? なんだ?」


 舞台が濡れていることに気づいたが、その男もすぐに追撃されて水どころではなくなった。


 誰も舞台上が濡れていることに気づかない中、


「起動」


 声に反応して、鋼燕の周囲にモザイク処理された文言が展開される。


「闇夜をさらに惑わす霧雨、月の姿は見えがたく星の明かりは地に届かない――明暗月夜流刀剣術、朧月!」


 円を描くように振られた刀から水が飛ばされ、舞台上の水も魔法に呼応し、舞台は濃霧で覆われて観客の目から完全に隠れる。


「なんだ!?」


「誰かの魔法なのか!?」


 いきなり自分の手すら見えない程の濃霧に、参加者も混乱してざわめく。


 そんな中これを仕掛けた鋼燕は、手刀で空気を斬るような動作をした。次の瞬間、参加者達は一斉に背中を水の刀で斬られた。どうやら鋼燕はただやる気がなく突っ立っていたわけではなく、参加者全体をよく観察していたようだ。彼らがどのように動いていたか、おおよそ把握していた。


明暗月夜流刀剣術(めいあんつきよりゅうとうけんじゅつ)奥義、白霧(はくむ)(おん)(ぎょう)水陣(すいじん)。貴様らには過ぎた技だ」


 そして濃霧が晴れた時には、舞台上に立っている者は僅かしかいなかった。そのことに鋼燕は軽く目を見張る。


「少しは骨のある奴もいるようだ」


 鋼燕が刀を構える前に、一人の男がかぎ爪を振るって飛び込んできた。それを受けずに体を斜めに傾けて避け、通り過ぎるついでに胴薙ぎした。さらに一人が減った。


『おそらく参加者の誰かの魔法による結果でしょう! 第五予選、残り四人!』


 霧が出ていた短い間でいきなりの大量脱落。それに混乱していた観客だったが、解説者のコメントで再び盛り上がり出した。


 その時、鋼燕の刀に革製の鞭が絡みついた。


「やってくれるな、ジジイ」


 刀を奪われないよう力比べをしている相手は、小柄な男だ。体格の割に力が強く、少しでも気を緩めればすぐに奪われかねないので気を抜けない。


「バッシュアーズサウンド!」


 男が放った雷魔法は、鞭を伝って鋼燕に襲い掛かる。すぐに鋼燕は刀を深く舞台に突き刺し、その場から跳ぶ。


 雷は鞭から刀を通り、地面に残った水へと流れる。跳び上がった鋼燕が着地した時には、すでに放電されていた。


「ちっ!」


 せめて刀を引き寄せようと鞭を引くが、舞台に深く突き刺さった刀は動かない。


 その間に鋼燕は鞭の隣を走って男へ近づき、そのままの勢いで掌底をくり出した。


 男は血反吐を吐いて後方へ吹っ飛び、ダウンした時にはもう動かなかった。鋼燕は男の手から放れた鞭の持ち手を掴み――鋼燕を狙ったこん棒が舞台の床を砕いた。


 鞭の弾性を利用して大きく飛び去って避けた鋼燕は、自身の刀の場所にまで戻ってきた。


 すぐに刀を舞台から引き抜き、鞭を取っ払う。無骨なこん棒を担いでいる男とそれを守るように控える大きな盾を持つ男。


「鉄壁の防御と」


「全てを粉砕する攻撃! 無敵の俺達グリマー兄弟に敵う奴なんていねえのよ!」


 力強く名乗ってもらっているのだが、鋼燕は応じる様子もなく剣先は下を向いている。


「……疑問なのだが、二人ともここにいるということは別々のチームなのだろ? どういう狙いがあるのだ?」


「そんなん決まっているだろ!」


「二チームで出た方が優勝できる可能性が二倍あるだろ!」


 得意気に言われて鋼燕は訝しげに首を捻った。言っていることは何となく分かるが、戦力を分散するそれに意味があるのか? と思う。まあ、こうして同じグループに振り分けられて協力出来ているのだから、まんざら失敗ということでも…………。


「ちなみに、私を倒した後に本戦へ進むのはどっちなんだ? 本戦へ進めるのは各グループ一チームだぞ」


「ふ、チャチな作戦だな!」


「大方俺達を仲違いさせて隙をつくつもりだろうが、もうその手には乗らないぞ!」


 どうやら鋼燕の前にも同じ質問をした奴がいて、その時はまんまと引っかかったようだ。だが、純然たる疑問から聞いただけでそれで隙をつく気なんてなかった。


「邪魔者がいなくなればもちろんジャンケンに決まっているだろ!」


「仲のいい兄弟だな」


 鋼燕は柄のチップを入れ替え、刀に手をそえて「起動」させる。


「闇夜を照らす月、姿を変える月は水面に映る。明暗月夜流刀剣術、水月!」


 刀身を水で覆って一足飛びで間合いを詰めると、こん棒の男は反応が遅れた。


 決定的なタイミングで斬りつけたのだが、硬質の音が甲高く響き、鋼燕の一撃は盾によって防がれた。こん棒の男に比べて盾の男は反応が早い。狙いが自分で無いと分かるやいなや、横に移動して兄弟を守った。


「くらいな! グラビティハンマー!」


 鋼燕も盾の男もその場から飛び退いて避けたが、こん棒が叩きつけた舞台にはヒビではなく黒い円が出来た。


「避けやがったか。だが、その小さな体じゃ一発でも喰らえば終わりだぜ!」


 こん棒を振りかぶって男は追撃してきた。その巨体の動きは鈍く、くり出す攻撃も動作が大きく避けるのに苦労は無い。だが、その空振りから発せられる風圧が、一撃の巨大さを物語っている。離れているというのにその風圧は鋼燕の顔を歪めるほどだ。もしガードの上からでも叩かれたら、男の言う通り一発で終わるかもしれない。


 しかし、男の攻撃はこん棒を降り下ろすだけという単調なものだった。攻撃力は鋼燕も認めるものだが、こうもマンネリ気味だと体が攻撃のタイミングを覚えられる。


 何度目かの振り下ろしの瞬間、こん棒を避けた鋼燕は攻撃をして顔が下がった男の顔面を狙って刀を真一文字に振るった。


「コネクトガーディアン」


 鋼燕の一撃は再び盾によって防がれ――バカなと目を見張る。一瞬前まで、盾の男は間違いなくこん棒の男の後ろにいた。タイミング的に彼の攻撃に割り込めるわけがない。


「俺の盾に攻撃を加えた者は、それ以降この盾以外攻撃することが出来なくなる。他の対象を攻撃しようとすれば、必ず盾が邪魔に入る」


「よくやった! オラァ!」


 さすがに味方は避けて、鋼燕だけを狙った一撃は下から上へとくり出された。


 こん棒によって打ち上げられた鋼燕は、体が軋みそうな圧迫感を覚えながら頂点でそれから解放された。目を開くと、舞台が一望出来るほどの高所だった。


 落下した時の衝撃もかなりのものとなるが、そんなことは後回しにして鋼燕は刀を真下へ向け、


「水月・満月の型!」


 刀を覆っていた水で一気に水球を作り出すと、直径が一メートルほどのものが出来た。それが重力も味方につけて眼下にいる兄弟を狙う。


 魔法の効力により、盾の男が水球の落下地点へと来て……盾の全面で降り注ぐ水を受け止めた。そのため、当然ながら水圧に負けて男は潰された。


 五〇〇キロを超える水の固まりが射出速度と重力を合わせて落ちてきたのだ、この結果は当然だろう。完璧に攻撃を防ぐ機能が仇となった。


「兄貴ィ~!」


「なんだ、そっちが兄だったのか」


 着地して再び刀に水をまとわせる鋼燕を、こん棒の男が睨みつける。その怒気がこもった視線を涼しげに受け流す彼は、


「先程の攻撃、本気で仕留めたかったのなら兄貴諸共真横に吹っ飛ばして場外を狙えば良かったものを」


 ショックを受けた男は顎が外れるぐらい落ちて大口を開ける。


「ななななんて極悪非情な……発想すらなかった。よくそんなこと思いつけるな? 人情とかって知ってるか?」


 無骨で角ばった凶悪そうな面構えの大男にマジで聞かれ、ちょっと鋼燕は反応に困った。


「とにかく残るは――貴様だけだ」


「てめえだけだよ!」


 あらぶった男が先手を取って踊りかかって来た。


「グラビティハンマー!」


 しかしやはり男の攻撃は大振りで、鋼燕は難なく避けて男の背後へ周り――、


「!?」


 動きが止まった。


「かかったな」


 ニヤリとした男がゆっくりと振り返る。


「テメェの足下を見てみな」


 言われて鋼燕が足元を見ると、黒い円があった。


「俺のグラビティハンマーで打ち付けてマーキングした所を踏んだ奴は動けなくなるんだよ。てめぇ、俺の攻撃をノロいと思ってただろ?」


 男はこん棒を大きく振りかぶり、二の腕の筋肉は倍ほども張り詰める。


「動けなければ関係ねえだろ! 起動! 粉々になってふっとべや~! 鈍砕(どんさい)!」


 攻撃の衝撃が激しく会場中に響いて、観客の体を震わせた。思わず目をつぶった観客が目を開ければ…………鋼燕は変わらずその場に立っていた。


「知らなかったか?」


 振り抜いていた男のこん棒は根元からスッパリ斬られ、打突する部分はスライスされて舞台に転がっていた。


「どんな魔法でも斬れるのが明暗月夜流だ」


 マーキングされていた黒い円は一か所に何か刃のようなものが突き刺さった跡があり、その跡から全体へかけてヒビが入っていた。


「な、なんで? ……動けなかった、はず」


 パンッと破裂したように男の胸から袈裟斬りの傷が血を拭いて現れ、そのまま男の体は舞台に沈んだ。


「種明かしはせん。秘技だからな」


 歓声が上がる中、鋼燕は納刀した。


 解説者が勝ちぬいた明暗月夜流の名を宣言した。



 さらに予選は進行していき、その間も観客席をしらみつぶしに回っていたセリアは人の多さも相まってかなり疲れてしまった。人の少ない比較的空気が冷えた場所で少し休憩していると、


「……おい、これを見ろ」


 セリアのことを何と呼べばいいのか迷ったファイナが、迷ったあげくそんな風に呼びかけて紙を差し出した。


「あ、はい」


 まだファイナに慣れないセリアが戸惑いつつ紙を受け取り、内容を確認する。それには予選を通過した七つのチーム名が書かれていた。そして、


『第八グループ勝利チームは『セブンイースター』!』


 解説の声を聞いて、今全ての予選通過チームが出揃った。


「序盤の試合は見ていないが、どのチームもそれなりに有名な流派や個人のようだ。やはりコンロは参加していない」


「そうですか……」


「あと燕のところと鬼面夜行も通過している。強かったのだな、あそこ」


 何の気なしに言っているが、心象でファイナは素直に驚いている。見た感じ強そうな印象を受けなかったからだ。


「しかし、観客席にもいないし大会にも出ていないか」


「あ」


 自分が休んでいる間に観客席の確認を終えてきたことを知り、セリアは申し訳なさそうに肩をすぼめた。が、ファイナとしては全く気にした様子もない。


 一仕事終えたファイナも休憩するように壁に背を預け、腕組みをする。


「ホントに奴は魔断大帝を狙っているのか? もしかして水鏡を抹殺しようと追いかけて行ったんじゃないだろうな」


「えっと……本当に李さんは天見さんの命を狙ったことがあるんですか?」


「あったし、容赦はなかったな。水鏡が一人の時を狙った奇襲に戦いで疲れた所を狙った襲撃。えげつない程勝つために抜け目がなかったが……まあ、水鏡が勝った」


「天見さんはさすがですね」


「それほど水鏡をつけ狙った奴だ。もしまだ機会を窺っているのだとしたら、水鏡が戦いに敗れて心身ともに疲れている所を狙わないわけがない」


 自分で言っていて不安になってきたファイナは心象で不安そうな顔を見せる。


「でも、天見さんは最初から李さんを連れてくるつもりだったんですよね? それなら天見さんには李さんがもう自分を狙っていないと思う、何かしら確信めいたものがあるんじゃ……」


「どうだかな。水鏡はアレで戦いを求めているからな。わざと隙を見せようと連れて来たのかもしれないぞ」


「いくら天見さんでもそんな……」


 と苦笑して言いつつ、セリアは心の中で天見ならやりそうだと思ってしまう。なにせ常日頃からコピー魔法を使うタイミングを狙っている人だ。正当防衛ならコピーされても向こうも親告しにくいだろとは、天見がいつも言っている言葉だ。


「…………水鏡のことは心配だが、ひとまずハビエと合流するか」


「そうですね。もしかしたら大会に出場したけど負けてしまった、ということもあるかもしれませんし」


 そうして移動しようとした時、ファイナの足がピタリと止まった。体を動かした時に何かが見えたような気がしてそちらを見直したら……そこに猫がいた。


 背中に茶色模様がある白い猫は、立見席の後方の壁上にいた。ただ、舞台を挟んで向こう側のため豆粒のように小さい。ファイナはよく気づいたものである。


 ファイナが足を止めたのが気になってセリアも視線をそっちへ向けたら、彼女も白い猫に気づいた。


「グリューテイルさん、あの猫ってもしかして」


「おそらく間違いなくコンロが連れている猫だろう。捕まえるぞ」


 二人は急ぎつつも目立たないよう走ることはしない。幸いなことにミヤの視線は舞台上で行われている本戦の抽選に注がれているため、壁際を早歩きしている二人に気づかない。


 そして、近くまで来てどうやって捕まえようか悩む。壁の上にいるミヤは三メートルほど上にいることになる。ちょっとしたジャンプではもちろん届かない。


「というか、どうやってあそこに上ったのだ?」


「猫って不思議ですよね。でも、あの猫がいるなら近くに李さんがいるんじゃ?」


「そうかもしれないが、そうやって探している内にあの猫を見失うのも困る。まずは、あの猫を捕まえる」


 ファイナは背後のセリアに目をやり、


「君は確か風属性だったな? 君が飛んで捕まえるのはどうだ?」


「あ、え~……今はスカートなので、ちょっと……」


 ロングスカートをはいているのをチラリと確認して、すぐにファイナは視線を前に戻した。それで呆れられたと思ったセリアは目を潤ませて頭上に「ガーン」と浮かばせた。


 が、ファイナは別に呆れたわけではなく、何も思っていなかっただけだ。彼女は腕輪型のガジェットにチップを入れ、


「起動。二頭一対の理に爆砕せよ」


 小声で文言を唱え、威力を加減してジャンプをし、両足を輝かせる。


「双爆輪唱」


 着地した瞬間に足裏で爆発し、それを推進力に使ってファイナは高く跳んだ。猛然とミヤに向かって行くが、直前で気づいた彼女はファイナの腕から逃れて壁から下りた。


 だが、その下でセリアが待ち構えていた。


 捕まえられると思ったセリアだったが、ミヤが後ろ足で空気を蹴ると少し落下位置がズレた。セリアの顔面に乗ったミヤは、そこを踏み台にして地面に着地した。そして、すぐに駆け出していった。


「追うぞ!」


 高く跳んだため着地するのに時間がかかったファイナは、踏み台にされてよろけたセリアに声だけかけて走った。少し遅れてセリアも一匹と一人の後を追いかけた。


 ミヤは階段をひとっとびで下り、階下へ向かう。試合が終わったとはいえ、まだ明日の組み合わせ抽選をしているため帰る人が少ないので、ファイナとセリアも遠慮なく走って追いかけられる。一階にまで下りたミヤはそのまま出口へと走り、会場の外へ出る。


「ここなら」


 会場から出口まで続く長めの一本道。そこに人がいないのを確認し、セリアは胸元にあるブローチ型のガジェットにチップを入れ、起動させる。


「この風をつかまえ、天空に達せよ」


 右手を大きく返して、人差し指と中指をそろえて上へ向ける。


「天翔流、アップバースト」


 足下から噴く強烈な風によって、ミヤは空へ放り上げられる。


「よしっ!」


 今度はファイナが落下点へ入る。どう動こうとも捕まえる自信があったが、ミヤは空中を蹴ってむしろ彼女へ向けて加速した。一瞬驚いたファイナはタイミングをミスり、両腕は虚しく空気をかいた。


 ミヤは二人から離れた場所で一旦止まり、肩ごしに振り返って二人を鼻で笑った。


「……何でしょうか、今すごいバカにされた気がします」


「奇遇だな。私もだ」


 ファイナとセリアの背後でやる気の炎が燃え始めた。それをスカすようにミヤが再び走り出した。


「もう容赦はしない!」


 ファイナはチップを入れ替え、


「起動! 紅の時雨に空よ染まれ――朱雀宝門流、紅雨!」


 射出した十数の火球がミヤの背中に迫るが――背中に目でもついているのか、ジグザグに走っただけで全てを避けた。


「逃がしません」


 激しい追い風に乗ったセリアが一度のジャンプでミヤの前に回り込んだ。


 挟み撃ちにあったミヤは確かに戸惑った。前と後ろのどちらにも逃げ場がないと、何度もキョロキョロとする。


 その隙を逃さず、ファイナとセリアは腕を大きく広げて踊りかかった。が、キラーンとミヤの目が光った。


 目の前から掻き消えるように素早くジャンプをされ、「え?」と思った二人は勢いを止められずそのまま頭をぶつけ合った。


 ゴイーン! と鈍い音が響き、二人は頭を押さえてうずくまる。


 ミヤはそんな二人を放って、悠々とこれ見よがしに歩いていく。


「こ、の」


 復活が早かったファイナはここの地面が土であるのを確認し、


「二頭一対の理に爆砕せよ! 双爆輪唱!」


 光る足で思いっきり土を蹴り込んだ。爆発は爆炎と土砂を放射状に飛ばし、ミヤに避ける術を与えなかった。だがしかし、ミヤは高速で移動する燃える残骸を足場に、炎の波を乗りこなす。


「バカな! なんだあの猫は!?」


「覚醒の恵風」


 残骸を足場に上へ行ったのをチャンスと見て、セリアが必殺の魔法をくり出した。


 爆炎も土砂もセリアが投げ放ったブーメランが作る高速回転に引き寄せられる。さすがのミヤも例外ではなかった。彼女もまたブーメランに引き寄せられ…………引っかき一閃! 魔法の核であるブーメランを破壊した。


「……え」


 信じられず、セリアの口から呆けた声が漏れ出た。


 核を失った魔法は霧散し、土砂と共にミヤが降って来て着地と共に二人から離れていく。


 お互い必殺技をかわされてフリーズしていたが、ミヤを見失ってしまうことに気づいてハッと意識を取り戻した。再度追いかけようとした時、


「何をしている!」


 会場の建物の方から月光花家元流のスタッフが大挙して出てきた。


 旅行先で捕まって家に報告されてはマズイ! そう思った二人は、顔を見られないように一目散に逃げた。必死で逃げたため、途中でミヤの姿は見失ってしまった。


 だが、ミヤを会場で見つけたことで、やはり崑崙も魔断大帝を狙っている可能性が高いことは確認できた。


 だとすれば、明日明後日の本戦中に何か動きがあるかもしれない。

 みなさん球の体積の求め方って覚えています? 私は覚えていませんでした。

 さて、鋼燕の戦いは結局ごっそり削りました。ホント言うと、前半は倍ぐらいありました。変わったキャラの変な魔法とか出していたのですが、読み返してみたらくどいし長いで切りました。多人数が戦い合う所って難しいですね。

 それで、ファイナとセリア。天使に歯が立ちませんでした。ようやく魔法を使う機会だったのに。とりあえずこれで、崑崙も魔断大帝が気になってることになったかな? まだ弱いか? う~ん。

 それでは次回予告。大会の裏で暗躍する者は確かにいる。それに気づいている者もいるし、気づかず大会に集中する人もいる。次回からは本戦が始まります。

 本戦で天見の出番はあるのか? とりあえず毎回のことですが、しばらく影が薄くなります。それではまた次回。

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