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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
大天魔武装大会
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大天魔武装大会予選日

 ファイナ=グリューテイル……他人に自分の好き嫌いや感情を読み取られるのを嫌い、基本的に無表情をキープしていた。学園では『孤高の銀雪』と呼ばれるほど他人に興味が無く、一人でいることが多かった過去を持つ。なんか書いてて懐かしい。

 珍しいことに、ファイナが分かりやすい程怒っていた。どれだけ怒っているかと言うと、天見が姿を消して一晩経っているのに、彼女の背後から「ゴゴゴゴ」という擬音が消えないほどだ。


 同じ旅館に泊まっているハビエが、今日の予定を決めるためにファイナとセリアの部屋を訪れると、すぐさま涙目のセリアが助けを求めるような視線を向けてきた。


 ハビエは苦笑しながら、夏だからという理由以上に暑い部屋へ、手をうちわの様に仰ぎながら上がる。


「な~に怒っとるんだ?」


 気軽に話しかけてくるハビエにファイナはキッとした視線をやり、


「別に怒ってなどいない」


 バレバレなのに、そんな強情を張れるのはある意味スゴイ。


 ハビエはファイナの対面に座り、


「ピー小僧なら律儀にちゃんと書置きを残していっただろ『修行』って。戦いに敗れてすぐさま強くなろうとするなんて、中々根性があるじゃないか」


 ドンッとファイナが強くテーブルを叩いたので、セリアはビクッと肩を跳ねらせた。


「元気になってからならともかく! あんな体で動くなどバカだ! 大体にして修行ならばどうして私を同行させない!」


「…………天見さん、大丈夫なんでしょうか……」


 一人は怒って、一人は不安げにしている。二人の様子を見たハビエはため息をつく。


「ピー小僧の立場になって考えてみろ。おまえらを連れていくわけがないだろ」


 ハッキリと言われて、ファイナはテーブルに手を叩きつけて腰を上げ、ハビエに食ってかかる。


「なぜだ! 私は水鏡の『連理の枝』だぞ!」


「頼りにならないかもしれませんが、私だって修行のお手伝いは出来ます」


「あ、そういう問題じゃない」


 と、ハビエが呆れたように手を振る。


「いいか? ピー小僧はコピー魔法使いなんだぞ。そいつが修行とくれば必然的にコピー魔法に関することになる。知っての通りコピー魔法は邪法だ。おまえらみたいな立場がある人間を関わらせるわけにはいかないだろ」


 片やグリューテイル家という『連理の枝』の名家の娘。片や風魔法の道場(しかもかなりの大手)『天翔流』の正統後継者候補。本来なら、ピーコーと接することすらあってはいけない二人なのだ。天見ならば、コピー魔法アップデートの片棒を担がせてはいけないと思っても不思議ではない。


 セリアは顔を曇らせて胸元のブローチ――フェザー型のガジェットを触る。天見の気遣いが分かって、言いたい言葉を失ってしまった。彼が自分のことを慮ってくれたのは嬉しいし、理由を聞けば書置きを残して消えたのも分かる話だ。でも、心にある不満まで消えたわけではないのでその表情だ。


 しかし、同じように気遣いと理由を知っても我慢ならない人もいる。


「だから私は、水鏡のそういう察しが良すぎる所が大嫌いだ!」


 ファイナの濃紺の髪が熱気にあおられて吹き上がる。彼女は天見と出会った時から、彼の気配り・心配りに助けられると共に……爆死をさせられたりイライラさせられたりしてきた。


 それがまた、正しさにそったものだからなおのこと反論しにくいのだ。もし反論しようものなら、聞き分けのない子どものワガママのようで……つまり、毎度ファイナは天見に諭されているようなもので……荒々しく髪を振り乱して首を横に振る。


(もう私達は正式なパートナーになっただろ! そういう気遣いや遠慮などは余計なものではないのか!? 本当に水鏡は分かっているようで全然分かっていない! 『連理の枝』のことも、私のことも!)


 意気込んで立ち上がるファイナを見て、ハビエはポツッと言う。


「ピー小僧を探しに行くのはいいが、一度やると言っておいてこっちはほっぽり出すのか?」


 それを聞いて、ファイナの足がピタリと止まる。天見は自分を見込んで頼んできた。それを放棄してどこにいるかも分からない彼を探すのは、その信頼を裏切ることになるのでは……。


 そんな風にファイナは心象で考えこむが、実際天見に頼まれたのはハビエなのだが。


 熟考の末元の場所に座り直したファイナは、


「それで、どうするのだ」


 と、不機嫌そうに言った。


 ファイナの熱気もおさまったので、ようやくセリアも座布団に座ってテーブルについた。


「昨日も言ったが、ワシらは崑崙を見つける」


「まったく、あいつのせいでこっちはいい迷惑だ。だからあんな奴をつれてくるのはどうかと思ったのだ」


 不満の矛先を崑崙に向けてぶつくさ言うファイナを放ってセリアが、


「天見さんは李さんが犯人に仕立て上げられる前にって言っていたんですよね? それじゃ、刀を盗もうとしたのはあの人じゃないんですか?」


「まだハッキリとしたわけじゃないが、ピー小僧の中には何か確信めいたものがあるようだったな。そこの所はワシの方がおまえ達に聞きたい。崑崙とはおまえ達のほうが付き合いはあるのだろ?」


「いえ、それがあまり……」


「私も奴のことは知らん。燕ならば人となりを知ってそうだが……そういえば、結局向こうはどうしたのか」


 ファイナはちょっと燕の家族が気になったので、後で時間があれば様子を見に行こうと思った。


「ならば仕方がない。とりあえず聞いておくが、おまえらが奴と別れたのはいつでどこだ?」


 それでファイナとセリアは船から下りてほとんどすぐに港で別れたことを告げる。


「ふむ……犯行時刻を考えると無理ではないが……ちょっと変だな」


「何がですか?」


「犯行の手際の良さから犯人は警備体制を熟知していた可能性が高い。とすると、当日やってきた奴が犯人というのは当てはまらない」


「だが、奴にも一人妖精がついている。そいつを先行させて潜りこめば、案外上手くいくのではないか」


「…………可能性はあるが……ちなみに、崑崙は強いのか?」


「強い……と思います。グリューテイルさんの、え~っと確か……テオキルさんを一人で倒しに行きましたから」


 いきなり出てきた名前にファイナは心象で驚いた。


「まさかそれはこの前のことか? テオキルは著作権委員に取り押さえられたと聞いていたが」


「はい。それが李さんです」


 テオキルはバーニングハートという流派の奥義取得者で、ファイナの『連理の枝』候補にまで上がってきた実力者だ。ファイナもテオキルと戦い、あわやという所まで追い詰められた。それを倒したとなれば、崑崙はファイナと同等レベルの実力者という可能性もある。


 崑崙の実力にファイナが人知れず驚いている間、腕組みをして考え込んでいたハビエは、


「奴の目的も『魔断大帝』なのは間違いないか?」


 ファイナとセリアは顔を見合わせてから首を傾げる。


「たぶん、です」


「私はそれが表向きで、実はまだ水鏡の命を狙っている可能性もあると思っているが」


 仲間内でもバラバラになる証言に、ハビエの頭上にぐしゃぐしゃの線が浮かぶ。こういうバラバラの証言を有用無用に分けてくれる便利な相方も今はいない。


 それでもハビエは、崑崙がよく接する人にも自分を中々見せない奴なんだろうと、人物像を想像する。


「よし、ならまずは魔断大帝がある所に行ってくるか。もしかしたら、普通に大会に出場しているかもしれんしな」


 その発言に、ファイナとセリアの頭に大きな汗が流れる。


「さすがにそれは……」


「登録時に誰かが気づくだろう。というか、まさかあなたが大会を見たいだけなのでは?」


 怪しむようなファイナの視線に、ハビエは「ガハハハ」と笑って答えなかった。




〈大天魔武装大会〉の予選日を迎え、大会会場は人で溢れていた。


 入場するためのチケットを買い求める人の列を最後尾から見ながら、燕は呆けていた。


「燕、私達はそっちじゃないですの!」


 飛燕に呼ばれて、ハッとした燕はいつの間にか持っていた『最後尾』の立札を後ろの人に渡して列から離れた。


 出場選手は裏手から入場することになっているので、そちらへ向かう。でも、燕はまだ入り口前の賑わいが気になるようで、チラチラと後ろを気にしている。


「こんな規模の大会だったんだ~」


「大会を無視していたから知らなかったですの」


 飛燕はついてくる燕の様子を見て「ん?」と違和感を覚え、


「もしかして燕、緊張しているんですの?」


「え!? いや、そんなことはないよ~」


 上ずった声を出しながら手を横に振る。


 妹ながら図太い神経を持っていると思っていた飛燕にとって、これはちょっと予想外だった。選手入場口近くで待っていた鋼燕と鍔蔵に合流したら、やっぱり二人も燕の様子に気づき、


「燕姉さん緊張しているのか? よし、それなら補欠の俺が代わりに出てやるよ!」


「交代要員を一名登録できるから一応鍔蔵の名前を書いたけど、あなたを出すつもりはありませんの。絶不調でも燕の方が強いですから」


 ハッキリと言われた鍔蔵はガックリと影を背負って項垂れた。


 そんな鍔蔵の頭に鋼燕が手をやり、ガシガシと手荒くかき混ぜる。


「おまえぐらいの歳ならば、実際にやるよりも上手い奴らの戦いを間近で見る方が勉強と刺激になる。交代要員でも会場に入場できるから、戦いの空気を肌で感じろ」


 次に鋼燕は燕に目をやり、


「燕、おまえに足りないのは経験だ。人前での戦いに慣れていないだろうが、実力的に通じないとは思わん。まずは思いっきりいけ」


「は、はい~」


 燕にまだ硬さが残るが、時間も差し迫っているので四人は一緒に受付を済ませる。


 受付では本人確認と流派の確認、それとクジを引かされた。


 それから入場し、選手達が控えている大きな広間で待つ。


 しばらくすると時間になり、選手達の前にスタッフが現れて予選の説明を開始する。


『今回、私達の予想以上に参加者が登録されたので、例年とは予選の方法を変えさせてもらいます。まず、各チーム代表者を一名選んでください。そして、入場時に引いたクジの番号ごとにグループを分け、バトルロイヤル形式の戦いをしてもらいます。ひとグループおおよそ三十二~三十五人で争われ、勝ち残った一人がいるチームが明日の本戦に進めます。グループは八グループありますので、まず一番のクジを引いた方達、代表者を選出してください。三十分後に開始いたします』


 その説明を聞き、鋼燕はあらためて引いたクジを確認する。


「父さん、私達は何番ですの?」


「五だ」


「な~んだ、けっこう後じゃん」


「それで、誰が出るの~?」


「私だ」


 燕の問いかけに鋼燕がすぐに答えた。


「え、意外に積極的ですの」


 予想外だった飛燕が丸い目をして鋼燕を見れば、彼は苦虫を噛み潰したような不機嫌面を見せる。


「予選程度でつまずくわけにもいかんし、おまえ達に怪我をされても困る。大体にして、大人数相手の経験などあるのか?」


 そう言われて飛燕と燕が考えてみると、数人相手ならばあるが、さすがに三十人以上は経験がない。案の定と頷いた鋼燕は、


「選択の余地もないということだ」


「いきなりあなたの戦いが見られるなんて、嬉しい限りですね」


 いきなりの横手からの発言に、四人の目が向けられる。そこに立っていたのは、ニコニコ笑顔の刀祢だった。


「一階と二階で会場の様子を見られるらしいですの」


「じゃ、早めに良い場所取っとこうよ」


 トコトコと移動し出した四人の前に、慌てて刀祢が回った。


「ちょっと冷たい!」


「何ですの? あなたはホストチームとして忙しいんじゃないんですの?」


 仕方なさそうなため息を飛燕がついてから言ったら、刀祢は朗らかに笑いながら後頭部に手をやり、


「今日はそうでもないよ、試合がないからね」


「え~、どういうことなのそれ~。まさか自社開催だからって予選免除~? ずる~い」


 口を尖らせてブーイングを上げる燕に刀祢は困ったように笑って、


「いや、ズルとかじゃなくって……前回大会優勝チームだから予選免除なんだよ。それと招待チーム七組も予選免除だから、明日の本戦は合わせて十六組で行われるんだ」


「出ろ出ろとせっついてきたわりには、私達は招待チームじゃないんですのね?」


「出るか分からないチームを本戦に登録なんて出来ないよ。でも、飛燕なら常に僕の心に登録されているよ」


「抹消しておくですの」


 懲りずに刀祢がウインクして星を飛ばしたが、飛燕に手で払われて落とされた。でも、彼はめげた様子もなく鋼燕へ顔を向ける。


「まあ、だから激励に来たんですよ。父もあなたと本戦で……しかも、決勝で戦えるのを楽しみにしていますよ。予選程度で躓かないでください」


「…………」


 刀祢の顔を見たくもないのか、鋼燕は軽く目を閉じて腕組みをしている。嫌われているなっと、刀祢が肩を竦めていると、


「私が出なくてどうするのよ!」


 何やら耳に響く高い声が聞こえたのでそっちを見ると、どっかの番号「一」を引いたチームが、予選に出る面子で言い争っているようだ。


 周囲を気にせず騒いでいる女性に、仲間の二人も困ったようにあたふたしている。


「ほら、さっさと行って納めてくるですの、スタッフ」


「分かっているよ。それじゃ頑張ってね、飛燕」


 刀祢が軽く手を振って離れる頃には、燕一家は会場を見学するために移動していた。


 そして予想通りと言おうか……騒いでいるのは鬼面夜行流のキメルだった。それをなだめているモリスは、


「しかし、集団戦ならば経験豊富な父君に出てもらった方がよいのではないか?」


 鋼燕と同じ理由から隣に立つキメルの父親を推薦するが、


「ダメ。華が無い」


 キッパリと娘に切って捨てられ、キメルの父親は影を背負って落ち込む。


「いいこと? 著作権法が切れて私達は満を持して大会に出場できるようになったのよ? その一発目! ここがいっちゃん大事な場面でしょ! 言うなればほら……あれよ、土壇場?」


「正念場ではないか」


「そう、それ!」


 スッキリした笑顔でキメルがモリスを指さすが、彼の方は不安一杯の表情になる。


「ここで可憐な美少女がバッタバッタと敵を倒してこそ、盛り上がって人気が出るってものでしょ!」


 別にモリスはキメルの実力を疑っているわけではない。彼女の腕前ならば信用出来るし、もし敗退したとしても文句は無い。だが、ここまで意気込んで有頂天になっていると、変なポカをやりそうで怖い。


 戦いにおいて平常心というのは大切なものだ。特にバトルロイヤルみたいな周り全部が敵の状況ならば、なおのこと重要になってくる。早い話、このままのキメルを出したらあっさりと後ろからやられそうだ。


 モリスは「む~」と唸ってから袖に腕を突っ込んで組む。


「だが、待ってくれキメル。真打ちは遅れて登場するものだ。少しぐらい出し惜しみした方が本戦でのインパクトは上がるのではないか?」


 言われてみればという表情でキメルがピタリと止まった。効果があったとモリスの目が光り、さらに畳みかける。


「それにバトルロイヤルなのだから、途中までは人の多さに埋没して目立てないと思うのだが」


「よし、お父さん行って来て! 骨は拾ってあげる。でも、死んでも勝ってね。私の出番無くしたら怒るから」


「うん……頑張るよ、父さん」


 キメルに背中を叩かれて送り出された父親は、会場に向かう他の選手達に紛れてすぐに見えなくなった。


 何となくその背中に哀愁を感じたモリスは、


「父君にあのような態度でいいのか?」


「いいのよ、うちはあれで」


「しかし、父君が予選で燃え尽きて本戦が危ぶまれたら……交代要員は彼だぞ?」


「……………………」


 ハッとしたキメルは慌てたように隣のモリスを見て一言。


「すっかり忘れていたわ」


 昨夜あれだけぎゃあぎゃあ文句を言っていたのに本気か? と、モリスは顔に手を当てて言葉も無かった。


 そして、駆けつけた刀祢にはモリスが問題なく執り成しておいた。

 相変わらず、天見のファイナに対する優先順位ってあまり高くないですよね~。まあ、彼の天秤に何をのせたら魔法より重くなるのかって言われたら……たぶんないんでしょうけど。

 う~ん、バトルロイヤルにしてしまった~。書いているんですけど、難しい! 細かく書こうとすると果てしないし、小さくすると一対一がたくさんっぽくなる。とりあえず、マンガを参考にして書いたらダメなのは分かった。少しの出番しかない人名がたくさん出ることになる。わけわかんなくなる。

 というわけで、次回予告です。ファイナ達が会場にやってくると、ちょうど「五」のバトルロイヤルが開催されていた。

 はい、「一」は終わっています。そして、「五」以外の試合もやらない予定です。果てしなく長くなってしまうので、それではまた来週の金曜日に。

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