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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
魔断大帝盗難事件
85/100

後悔と決意、そして没頭

 前回武器の質で勝負が決まったのはコピー魔法使いの倒し方の一つですね。それに追随するような形ですが、基本的な身体能力で圧倒するのも倒し方の一つになりますね。私が考えていた倒し方は一通り出したので、他に何かあるかな?

 ファイナは燕達を放って、会場の医務室へと駆けつけた。


「水鏡!」


 飛び込むほどの勢いで入室すれば、そこにはセリアとハビエがいた。知り合いの顔を見定めたファイナは、足早に近づいてセリアの両肩を掴んだ。


「不可解過ぎる! どうして数時間目を放しただけでこんなことになったのだ!」


「わ、私に言われても……」


 迫力に負けて及び腰になっているセリアは目をバッテンにして戸惑う。


「まあ落ち着け」


 ハビエがなだめようとしたが、ファイナは彼を睨み上げ、


「これが落ち着いていられるか! 水鏡は無事なのか!?」


「さてな」


「さてなって……とりあえずこんな簡易施設ではダメだ! さっさと病院へ――」


「うるさいわね、少しは落ち着きなさいよ」


 カーテンの向こうから出てきたベリメスが、呆れ顔でファイナを見る。


「そんな血相変えて……いつものクールぶっている装いはどこに捨ててきたの?」


 指摘されたファイナはハッとして、乱れた濃紺の髪を手で撫でつけて直す。そして、表面上は普段の無表情を取り戻した。


「ちょうどいいわ。あなただけちょっと」


 ベリメスに手招きされ、ファイナだけがカーテンの中に入る。そこにベッドで寝ている天見がいた。シーツは半分に折られ、脚にかけられている。出ている上半身には怪我の場所に包帯が巻かれている。


「……怪我はそれほどではなかったのか?」


 血色が良く、安らかな顔つきのためファイナはそう思ったが、ベリメスは首を横に振る。


「けっこう危なかったわよ」


 その証拠に、怪我を治療したと思われるベリメスの表情には疲れが見える。


「なら、念のためちゃんとした病院へ」


「そういうことを言い出しそうだから呼んだのよ」


「?」


「忘れているのかもしれないけど、天見は『コピー』魔法使いなのよ」


「それは以前聞いた。忘れようと思っても忘れられないものだぞ」


 天見は自力では一切魔法が使えない、魔法使いを模倣した者――『コピー』魔法使いなのだ。それは日本人の天見が体内に属性も〈粒子〉も持たないからなのだが……。


 覚えているというので、ベリメスは説明を開始する。


「基本的な回復魔法は術者の〈粒子〉を患者の体内〈粒子〉に作用させて、自己治癒能力を高めるものでしょ?」


「そうだな」


 平然と答えて反応が無いファイナに、ベリメスは呻く。この子にどう説明したら分かってくれるんだろうと悩むが、


「天見は体内に〈粒子〉を持たないから、術者の〈粒子〉だけで回復させないといけないのよ。そのため普通の人よりも効果が薄いわ。それに天見は〈粒子〉を体内に蓄積させることができないから、回復用の〈粒子〉もすぐ体から抜け落ちてしまう。だから、常に魔法をかけ続ける必要があるのよ」


「なんだか随分と面倒そうだな」


 自分なりに噛み砕いて説明したつもりなのに……察しが悪いファイナにベリメスはげんなりする。


「だから、天見のそういう特異体質を知られたくないから、病院とかはやめてほしいの。怪我とかなら私がほとんど治しておいたから」


 最後まで言ってようやく理解したのか、ファイナは「なるほど」っとしきりに頷いた。


 天見が相手なら最初の説明で理解してくれるのにと、ベリメスはフラフラと飛んで彼と一緒の枕に横になる。


「じゃ、私も疲れたから休むわね。後のことは外の二人に聞いて」


 色々と聞きたいことがあったファイナだが、天見と共に寝入ってしまったベリメスを起こすわけにはいかなかった。


 だが、とりあえず天見が無事だと分かり心象でホッとする。ファイナは天見の寝顔を見ていて……両手の重りに気づいた。休むためには外した方がいいだろうと、両足の重りから外して、両手の重りも外した…………外して、天見の開かれた手に自分の手を重ねる。


「あの~……天見さんは大丈夫ですか?」


 外からのセリアの声でファイナの肩は跳ね上がった。自分は何をしていたんだと、慌てて天見から手を放し、深呼吸して調子を整えて、


「問題無いようだ。しばらく休ませておけば自然と起きるだろう」


 いつもの冷静さを取り戻してカーテンの外へ出た。


 それを聞いて、心底安心したようにセリアは胸をなでおろした。


「ほう、あの妖精の回復能力は余程すごいんだな」


 腕を組んで笑っているハビエに、ファイナが視線をやる。


「それで、本当に何がどうなって水鏡がエキジビションをやることになったのだ?」


「えっと~、実はそれについては私達もよく分からないんです」


「どういうことだ?」


 天見とベリメスが事情聴取のために都警と任意同行していった所まで伝え、


「その後にワシは、一応おまえに事情を話しておいた方がいいと思って、この子と一緒に旅館に帰ったのだがおまえはまだ帰っていなかった。この子から話を聞けば明暗月夜流の道場へ行っていたらしいな。そこまで行こうかどうか迷ったんだが……」


「そんなことがあったのなら迷わず来てほしかったのだが」


 ハビエは腕組みしながら顎でしゃくってセリアを示し、


「この子が随分と思いつめた顔をしていたので、先に都警にピー小僧の様子を聞きにいったんだ。そしたら、こっちの心配がバカらしくなるほど早くに出てきた」


「証拠不十分だったからか?」


「それもあるだろうが、捜査に協力的だったようだ」


「でも、出てきた天見さんはとても困っていて、崑崙さんを探さないといけないと言っていました。それで探しに行こうとした所にあの人が現れて……」


「ビックリするぐらいスムーズにピー小僧は試合の話を受け入れていたな。隣の妖精はげんなりとしていたが」


「ああ、また水鏡の悪い癖が出たか」


 魔法を使わせてあげると唆されたのだろうと、見てきたように想像できるファイナも心象でげんなりした。


 ファイナはため息をついてから仕切り直して、


「それで? ベリメスが言っていたが、私は何をすればいいのだ?」


「別におまえが何かをする必要はないぞ。頼まれたのはワシだし」


 そう言うと、ファイナとセリアはハビエに詰め寄る。


「私は水鏡のパートナーだ」


「わ、私も協力します」


 案の定のセリフにハビエはニヤリと笑い、「ならば」と前置き、


「ワシらは崑崙達三名を探し出す。無論、犯人に仕立て上げられるより前にだ」


 衝撃を受けた二人は驚きを隠せず声を上げた。


「そ、それは一体どういう……」


「詳しいことはまだワシも分からん。ただ、ピー小僧がそう言っていた」


「天見さんが……」


「それよりも急いでやらなくてはいけないことが他にもある。今から人に会いに行くが……おまえらはどうする? ピー小僧が心配ならばここにいていいぞ」


 と言われて、ファイナとセリアはカーテンの方を見つめつつ考える。天見を心配する気持ちはあるが先程協力すると言った手前、初めからお任せしましたでは格好がつかない。


 結局二人とも足早に進むハビエについていき、


「人に会いに行くのはコンロに関係しているのか?」


「いや、それとは無関係だ。ピー小僧の頼みごとを伝えに行くだけだ」


「天見さんの頼みごと、ですか」


 不安を覚えるタイトルの案件だなっと、さすがのセリアも顔を曇らせる。彼女も無理難題級の天見の頼みごとを出会いでクリアしている一人だから。


「まあ、面倒だが大丈夫だろ。主催者の許可はエキジビションに出る交換条件でクリアしたし、相手には借りがあるからな」


「水鏡に借りを作るとは……愚かな」


 ファイナは顔も知らない相手に同情した。


 そして、三人がいなくなり静かになった医務室ではしばらくして、天見が呻きながら目を覚ました。ゆっくりと上体を起こしたが、痛みに呻いて胸を押さえる。彼が動いたことで目を覚ましたベリメスは、


「ちょ、ちょっと天見!?」


 天見がサイドテーブルに置いてあった制服の上着を羽織っているのを見て、仰天した。


「何をやってるの!? 安静にしてないとダメよ!」


 自分も少なからず疲れているのに構わず、天見の眼前に飛来して止めようとするが、


「とても寝てなんかいられない」


 鬼気迫る表情に気圧され、立ち上がるのを止められなかった。


 天見はフラフラする足取りで歩き、医務室にある紙とペンを見つけると走り書きで書置きを残して出て行く。そして、彼を心配するベリメスも当然ついていった。



 エキジビションが終わった会場では満足げな歓声が上がる中、勝利者である刀祢がインタビューを受けている。


『ピーコー相手に素晴らしい戦いでした。戦いを盛り上げた手腕はさすがですね』


『いえ、相手の天見君が強かったのでこちらも必死でした。そんな盛り上げるなんて余裕はありませんよ』


『いやいや、ピーコー相手にそんなご謙遜を。オリジナル対コピーなら、オリジナルが勝つのはもうお約束みたいなものじゃないですか。それなのに、エキジビションの相手にあえてピーコーを選ばれたのはどうしてですか?』


『そうですね、オリジナルとコピーが戦ったらオリジナルが勝つ。そう思われるのは当然でしょう。しかしです。オリジナルとは言えその座にあぐらをかき、向上心を失ってただ漫然と過ごしていれば周りに取り残されるというもの』


 チラリと刀祢は明暗月夜流の三人がいる方を見ながら、


『それに皆さんが見たように天見君のコピー魔法は劣化版の猿真似ではなく、知恵をもって工夫された新たな使用法だと言えます。私は素直に彼の技を受け入れようと思います』


 会場に戸惑いと動揺の波が広がる。どよめく中、インタビュアーはハンカチで額を押さえつつ、


『え~っと、そ、それは……』


 コメントに苦心している彼に刀祢は笑いかける。


『何も驚くことはありません。それが本来のコピー魔法の姿です。魔法の文化的発展のためのコピーならば許されることは、著作権法第五条に定められていますからね。それなのに相手の苦心の功績を認めずにただコピーされた、著作権法違反だと騒ぎ立てるのは、武芸者として少々器が小さいと言わざるをえないでしょう』


 そのコメントは明らかに明暗月夜流に向けて放たれていた。


 燕はムッと口をへの字にしたが、隣から感じる気に顔を向けると、ビクッとして思わず身を引いた。


 父親である鋼燕が前のめりになって膝に肘を置き、手を組んだ上に口元を乗っけているのだが……その背から噴出する憤激のオーラが、彼の周囲から人を遠ざけていた。


 あまりの迫力に娘である燕ですら隣の飛燕に抱きついている。


「自分達ならば、たとえ新たな魔法が台頭してきたとしても遅れは取らないとでも言うつもりか、錬磨」


 ギリッと歯噛みした鋼燕は「これみよがしに」と憎々しげに呟き、まだ舞台でくっちゃべっている刀祢を睨みつける。


「いいだろう。そこまでこちらを引きずり出したいというのなら受けてやろう」


 鋼燕の言葉に姉妹は驚き、「本気!?」と確認を取ると姿勢を正して大きく頷く。


「勝つのは我らだ」


 驚きで固まっている燕を抱いている飛燕は、出場を喜んでかすかに笑った。


 そして三人はその後にあるパーティには出席せず、大会の登録だけして帰った。



「天見! そんな体でどこに行くつもりよ!」


 ベリメスが声を荒げて何度も制止させようとするが、天見は包帯の上から傷を押さえて歩みを止めない。


 天見は必死で歩いているが、ベリメスも必死で彼を止めようとしている。


「今は安静にして体力を回復させないといけないのよ! 魔法に耐性がない天見にとっては回復魔法だってかけ過ぎは毒になりかねない! 休みつつ段階的に治療していかないと!」


 それは天見にも分かっていた。この世界に来て〈柱〉の事件を解決した時、倒れた天見が数日寝込んだのは魔法での回復を最低限に抑えたためだ。


 途中で天見は建物の壁に寄りかかって息を整える。心配そうに覗きこむベリメスに、天見は真剣で真っ直ぐな瞳を向ける。


 その一点の曇りの無さにベリメスは胸を突かれ、止める言葉が出てこなかった。


「そんな暇はない。武具を相手取った時の弱点が分かったんだ。どうにかして対抗する方法を考えないと……もしもの時に――勝てない。それはすなわち……」


 天見は中々続きを話さなかった。と、「くそ」と悔しそうに呟いた後、天を仰いで涙が零れるのを必死で耐える。


「コピー魔法を攻略されたってことになる」


「でも、それは仕方ないんじゃないかしら。武器の差も確かにあったけど、他にも身体能力は大きく下回っていたし、剣の腕だってそうでしょ」


「……ああ。俺だって魔法使いとして、体の虚弱さや武具の攻防力で敗北するのは、どこか仕方ないと思っていた。それが魔法使いの短所だからな」


「なら」


 でも、天見はハッキリと首を横に振った。


「俺が我慢できないのは、仕方ないと思ってそれに対して考えていなかった俺自身だ!」


 天見は震える拳を振り上げて壁を叩いたが、その程度では収まりがつかなくって、今度は自分の顔を思いっきり殴った。


「天見!?」


 手加減をしなかったその一撃で、天見はぶっ倒れた。震えながら体を起こし、地に手と膝をつきながら、


「情けない。魔法使いの最大の武器はかしこさだって分かっていたはずなのに! コピー魔法使いたるもの! 知恵でオリジナルを超えないといけないという答えにたどり着いておきながら!」


 悔恨の叫びを喉の奥から思いっきり吐き出す。


「俺は――バカだ!」


 そして、静寂がその場に落ちる。ベリメスはかける言葉が無かった。


 しばらくして天見が地面を拳で押して立ち上がる。その時には、もうベリメスも彼を止めるつもりはなかった。


「コピー魔法にはまだまだ可能性がある」


「可能性?」


「質の良い武器を持っていれば……、相手より身体能力が高ければ……、その程度のことでコピー魔法が攻略出来たと思うなよ。不可能を可能にするのが魔法だ。その短所を補う長所を見出してやる」


 天見の口ぶり、それは『コピー魔法はどんな事態が起ころうとも対応出来る』と証明したいかのようだった。弱点が無い完璧なもの……ハッキリ言って、そこまで魔法に全能性を見出している人間はおかしいと言わざるをえない。だがしかし、ここまで突き抜けているからこそ、天見はベリメスに選ばれてここにいるのだ。


「それでももし負けたなら、その時は俺にしか敗北の理由は無い。コピー魔法は勝っていた。でも、術者のスペックが低すぎて負けた。その敗北ならむしろ俺は満足だ」


 ならば、召喚した者として付き合うしかない。


「なにかアップグレードの案があるの?」


 以前天見はコピー魔法に〝拡大・縮小〟をつけたしたことがあるが……。


「ある」


 そして天見は左手でモノクルを触りながら、


「命に代えてもアップグレードさせる」


 断固とした決意を表明した。


 最早天見の頭の中には、崑崙のことも魔断大帝のことも無かった。己の体のことも使命も無く……頭も体も、全てはコピー魔法のために動かされた。

 天見は武器の差や身体能力の差が「弱点」ではなく、せめて「苦手」レベルにはしたいと考えていると思います。それなら、そこでの勝敗は術者の腕に大きく左右されることになるからです。

 古き良き魔法使いの仕方ない部分をつかれた形の今回は、どうにかして「温故知新」の形に持って行けるよう説明を頑張りたいと思います。出来ない時は、万能魔法使いになってしまうのかな? それは嫌だな。

 次回予告としては、ようやく大会に入って行きます。まだ姿を消している人が出てくるかどうかは分かりません。

 ストーリーの進行がカツカツの状態なので、ろくな次回予告が出来ないのを申し訳なく思っています。ごめんなさい。次回更新は金曜日予定です。

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