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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
魔断大帝盗難事件
84/100

天見VS刀祢

 天見の魔法ストック状況……1、原初の光輪。2、双爆輪唱。3、平和の象徴。4、覚醒の恵風。5・6、著作権フリーの火と風。7、華針硬流。

 観客席では天見のことをほとんどの人が知らないのでざわつき出す。みんなは見応えのある試合を期待してやって来たのだから、無名の男との試合なんて肩すかしもいい所だ。


『現在一部でかなり有名になりつつある知る人ぞ知るピーコー水鏡 天見君! 今回の試合に限りですが、彼には月光花家元流から全ての魔法の使用許可が出ています。どの魔法を使おうともおとがめなしです』


 解説者のコメントを聞き、さらに観客が騒ぎ出す。ピーコーとの試合を見させられるなんて馬鹿にしていると。中には係員につめ寄る人までいる。そして刀祢の実力を見極めようとやって来た招待選手の中には、期待するものが見られないと判断して立ち上がる者もいる。


 不満が野次になり、解説者が進行に苦心している時、舞台ではもう動きがあった――ベリメスが『赤の書』を開く。


 野次の中を突き進んで最前列にまで来たファイナは天見に声をかけるが、野次にかき消されて届かない。そして、彼女は見た。天見のモノクルが眩しいほど光り輝くのを。


 舞台上の声も野次にかき消されて天見の文言は聞こえてこないが、ファイナと燕だけはその魔法が何か知っている。そのため、天見が狙うであろう刀祢の背後に――射線上にいないことにホッとし、耳を手で塞ぐ。


 天見の指輪が鳴動し、渦巻くように光を集める。そして、彼自身が静謐な雰囲気をまとう。


 天見の目が見開かれ、掌を前に突き出された瞬間、怒号を置き去りにして放たれた光の奔流は刀祢の刀によって真っ二つに斬られ、霧散した。


 一瞬の出来事の後、会場中は水を打ったように静まり返った。そして、すぐに割れんばかりの歓声が上がった。


 抜き放った刀を一振りし、刀祢は納刀する。


「すごいデモンストレーションだ。そんな凄まじい魔法を持っていたなんて知らなかったよ。でも、外すように撃ったのはどうしてだい?」


 刀祢の指摘通り、先程の天見の魔法は彼が何もしなければ、彼の頭上を通り過ぎて彼方へ消えていくはずだった。


 天見は頷きながら両腕を組み、


「いや、その刀が本物かどうか確かめたかっただけだから」


 そして、本物だと確信した。さすがに偽物の刀に『原初の光輪』を斬られるとは思えない。


「それにこの魔法で人を打つ気はない。そんな面白味にかけること俺はイヤだ。やっぱりコピー魔法の醍醐味って言ったら、オリジナルを知で凌駕してこそだろ!」


 はしゃぐ天見にベリメスはため息をついてから、


「それにしても、よくあなた反応できたわね」


「相手の手の動き、視線、気配から魔法を放つ一瞬を察知する訓練を受けているからね。でも、さっきのはラッキーの要素と魔断大帝の力によるところが大きかった。もう一度やれって言われても、無理だろうね」


 観客から魔法を見た衝撃が徐々に治まってきて、解説者はルール説明の続きを開始する。


『水鏡天見君は刀の扱いが不得手とのことで、ハンデ戦といたします。刀祢の方からは彼に接近しないことになっています!』


 天見は『原初の光輪』を使うため舞台に置いといた刀を拾い上げる。これで、刀祢の魔法をコピーする準備は出来た。


「しかし、天見君が今回のことを快く引き受けてくれたのは、魔断大帝の真贋を確かめるためだったのか……とすると、もう目的は達してしまったのかな?」


 その質問に天見は頷いて答える。それで刀祢は困ったように頬を指でかき、


「頼むからこの後投げやりにならないでくれよ。こんなに観客が盛り上がっているんだから」


「投げやり?」


 ピクリと反応した天見は、ゆっくりとした動作で鞘から刀を抜く。そして、切っ先とともに吊り上がった視線も刀祢へ向ける。


「どんな場面であろうとも、俺が魔法に対して手を抜くなんてありえない!」


 強めの語気がプレッシャーになって飛ばされ、刀祢はニヤリと笑う。


「それはよかった。実は私、君と戦うのを楽しみにしていたんだよ」


 刀祢も刀を抜き、鞘はタスキ掛けにして背中に背負う。それから柄の龍を模したガジェットにチップを入れて構える。


「起動!」


 裂帛の気合いでガジェットが動き出し、刀祢の周囲にモザイク処理された文言が展開される。


「満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」


 振るった斬撃の軌道が水の刃となって放たれる。工夫も無く放たれたそれは明らかにエサで、難なく避けた天見はありがたくそのエサに食いつく。


「ベリメス!」


「分かっているわよ。ナンバーエイトインストール!」


「〝拡大〟コピースタート、二〇〇%!」


 天見のモノクロが水色に点滅し、左手の指輪が渦巻くように〈粒子〉を集める。


「満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」


 流派の魔法は出典先が発言に組み込まれているので、天見は発言をそのまま唱え、刀を振るった。


 刀祢の倍ほどになる大きさの斬撃が水の刃となって放たれる。その大きさに驚きつつ、彼は迫る水の刃を両断して散らせた。


「ちょっと驚いたけど、天見君の紹介はこれぐらいでいいか」


 刀祢の魔法をすぐにコピーした天見の能力に観客が驚きと感嘆の声を上げる中、天見はどこか怒った様子で、


「…………お客を意識し過ぎだ。もっと魔法に集中しろ」


 天見なんてわき目もふらず、声援の中に紛れるファイナが自分の名を呼ぶ声にすら気づかないのに。


「それはすまない。でも、見せたい人がいるんでね」


 大勢の観客の中からでも飛燕を見つけた刀祢は、そっちへ向かってウインクを飛ばした。まあ、一切相手にされなかったが。


 それから仕切り直した刀祢は、魔断大帝の刃に手をそえ、


「起動。風に舞い散る華よ、我と共に踊り遊べ――月光花家元流、風華(ふうか)遊々(ゆうゆう)殻那(がらな)!」


 鍔元から切っ先へ向けて手を走らせると、水が滑るように刀から放たれた。一直線に向かうそれを天見が避けた時、水が蛇行し、その切っ先が彼の足を穿った。


 魔法耐性の無い天見は激痛に顔を歪めながらも走り、水の切っ先を足から引き離す。そして、引き抜かれた水は収縮して刀祢の刀身へ戻った。


 足の穴から血が流れ、舞台に血溜まりを作る天見は今にも膝をつきそうになるが、そんな相手にも容赦せず、刀祢はガジェットのチップを入れ替えて続けて文言を唱える。


「起動。可憐な華に満ちる棘――月光花家元流、華針(かしん)硬流(こうる)、群生!」


 くり出した突きを地面に向かって放ち、切っ先から溢れ出した水が天見へと向かう。


「まさか、これは!」


 察した天見の声に、刀祢は満足そうに笑う。


「いいと思ったものは素直に取り入れる! その柔軟さが生き残るためには必要なんだよ!」


 流れ出してきた水が天見の近くまで来た時、水面から水の刀身が突き出してきた。これは午前中に天見が使った使用法だ。


 天見はすぐに体をそらして避け、その場から退避しようとしたが、すでに周囲まで水が流れていた。


「さあ、逃げ場はもうない!」


「くっ! ベリメス!」


「ナンバーナイン、インストール!」


 中心にいる天見へ向かい、周囲から水の刀身が十数も突き出される。


「コピースタート! 風に舞い散る華よ、我と共に踊り遊べ――月光花家元流、風華遊々殻那!」


 天見は鍔元から切っ先へ手を走らせて真下に放つ。一直線に走った水はすぐに地面にぶつかり、逆に天見を上へ押し上げる。


 刀祢の水の刀身は虚空を突き刺したが、すぐにその刀身は水面に戻り、代わりに一本の長い刀身が上空へ逃げた天見を追いかける。


 天見が上へ逃れる速さより、追いかけてくる水の刀身の方が速い。天見の顔面に突き刺さる寸前、放った棒状の水が半ばから柔らかくなり、半ばから急角度で曲がった。


 水の刀身を避けただけでなく、地面に広がった水面からも離れた場所に天見は着地する。そして、刀の切っ先と舞台に打ちこんだ水を繋げたまま走り、腕を回して縄跳びの要領で水を高速で回す。


 水を打ちこんだ場所を中心にし、天見は円を描くように走る。刀祢はその円の内側にいるため、高速で回転する水が彼に迫る。


「面白い使い方をする。けど、その程度の速度、見切れないと思わないでほしい!」


 刀祢は迫る水の縄の動きを難なく見切り、素通りするように入ってジャンプをして抜けようとした。が!


「原初の光輪を斬ったんだから、それぐらいは予想の範疇! しかし、この魔法は術者の意思で硬質と柔軟を選択できる!」


 天見は急ブレーキをかけて止まり、回転していた水の縄は棒へと戻り、刀祢の腹へと食い込――ギリギリで、魔断大帝が棒になった水を両断した。


 引っかかるのを期待して踏ん張っていた天見は、抵抗を失って後ろへたたらを踏んだ。


「ちっ、厄介だな! 魔断大帝!」


 天見のプランでは、刀祢の腹に水の棒が食い込んだ後、柔軟さを取り戻して縄を回して拘束する予定だった。


「さて、そろそろ舞台にも水が満ちてきた」


 刀祢はチップを入れ替えて刀身に手をかけ、まぶたを静かに閉じる。


「起動」


 気負いなく文言を唱え始める。


「風雨に散る花霞により、桃源へと誘われるがいい――月光花家元流、(はな)(がすみ)水債(すいさい)()!」


 発言と同時に舞台上に広がる水が呼応して光り出す。


「こ、これは! 足元を覆うほどの霧が発生している!?」


 天見の言葉通り、舞台上は霧に覆われていた。だが、観客に分かりやすいようにその霧は膝より少し高いぐらいだ。


「これこそ、月光花家元流の奥義を使うための戦陣!」


 考えるよりも早く危機を察した天見は霧から脱するためジャンプをしたが、足に鋭い痛みが走ってもんどりうって倒れた。それでも、霧の中で倒れているのはマズイと、すぐさま起き上がる。


 立ち上がってから感覚だけで、足首を鋭い何かで斬られたと分かった天見は、


「霧を構成する水が凝固し、刀身になるのか」


 言い当てられ、刀祢は少し驚いた後に笑って、


「そうだよ。言うなればこの霧全てが私の刀」


「こんなことも出来るのか」


 天見が驚くのも無理はない。燕も似たような魔法を使ったことがあるが、それを彼は知らない。それと言うのも、彼女とけっこう一緒にいながら天見はほとんど明暗月夜流刀剣術の魔法を見ていない。


 それは燕が今まで魔法をコピーされるのを警戒し、細心の注意を払っていたため極力天見の前では魔法を見せてこなかったからだ。


 そのため初見の天見は、


「この無茶苦茶こそ、魔法!」


 特に喜んだ。


 天見のコメントに大きな汗を流すベリメスは、


「天見、著作権フリーの風で足元の霧を吹き飛ばせば――」


「そんなことはしない! 一対一の場合はオリジナルと同じ魔法を使うのがコピー魔法使いの美学!」


「やっぱりね」


 無駄だと思いつつ言ったベリメスのアドバイスは、やっぱり無駄だった。


「聞きしに勝るバカだね。そんな訳の分からない意地を張っていると、死ぬことになるよ!」


 攻撃の意思を感じてその場から飛び去った天見だが、着地した場で待ち構えていた水の刃で足を斬られた。


「くっ! ベリメス!」


「ナンバーナイン、インストール!」


「コピースタート! 風に舞い散る華よ、我と共に踊り遊べ――月光花家元流、風華遊々殻那!」


 天見は鍔元から切っ先まで手を走らせ、自分の足下へ水をぶつけ、再び上空へ逃れようとするが、その水が半ばから水の刀身で斬られる。


「無駄だよ! この戦陣は回避も防御も不可能だ! これこそ月光花家元流奥義、白霧(はくむ)無限(むげん)(とう)水陣(すいじん)!」


 舞台に着地した天見は手をついたが、その手も薄く斬られた。


 度重なる魔法によるダメージで、天見は最早限界で滲む汗が頬を伝って流れ落ちる。


「回避も防御も不可能――なら、攻める!」


 天見は足を交互に霧から抜き出しつつ走る。もう余裕がないその動きは、工夫もフェイントもなく一直線に刀祢へ向かう。


「せっかくこっちから近づかないってハンデを設けたのに」


「どうせこの霧が晴れる前にはやられる。なら、どこにいたって同じだろ」


 しっかりと勝負の展開が分かっている。事実刀祢はそうするつもりだった。


 だが、天見自身に飛び込んで来てもらっているので、少し計画を変更する。


 刀祢は動かず、迎え撃つために構える。途中で力尽かせてしまっては観客も喜ばないと判断してだ。


「それに、無謀で危険だと分かっていても! やりたいことを思いついたら試さずにはいられない性質なんだよ!」


「ナンバーエイト、インストール!」


「コピースタート! 満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!」


 天見の刀身が水で覆われるが、そのまま放たず刀身に水を留め、刀祢の直前で踏み切ってジャンプし、直接刀で斬りかかる。


 素人の斬撃を刀祢は難なく受け止めた――が、その瞬間天見は魔法を発動させた。魔断大帝に受け止められた所は顕現しなかったが、水の刃は魔断大帝の内側に出現した。


 瞬時に刀祢は天見の刀をいなし、体を半身にずらして水の刃を避けた。


 着地した天見と体を捻った刀祢の視線が交差する。


 刀祢は体の捻りを無理して直さず、あえて回転することで体勢を戻そうとする。その流れの中でチップを入れ替え、


「起動!」


 天見は間合いが近すぎると、刀祢に近い右足を引いて、左足を前にした左半身の体勢で、刀を斜め下段に構えて、


「コピースタート!」


 そして、両者同時に文言を唱える。


『満ちる花から落ちる花弁。月光花家元流、ひとひら!』


 天見は前回と同じく水を刀身に留め、刀祢もあえてマネをする。


 振り下ろしと振り上げが正面からぶつかり――甲高い硬質な音の後に、片方だけの魔法が放たれた。


 交錯した天見と刀祢…………お互い立ち尽くし、脱力して腕を垂らしている。


「天見君……君は本当に素晴らしい魔法使いだ。魔法の威力は完璧で、魔法の理解度はオリジナルの経験を凌駕する。無手の魔法使いが君に勝つのは無理かもしれない。だが――」


 霧が晴れていく――両者の垂らした手に持っている刀が観客の目に触れられた。


 魔断大帝が刀祢の手の中で光り、天見の刀身は半ばから真っ二つに切断されていた。


 その瞬間、天見の肩から腰にかけて一直線の傷が刻まれた。天見は血飛沫が激しく舞う傷跡を押さえ、舞台に膝をつく。


 刀祢は刀を一振りし、背負っている鞘に納める。


「他が同じだからこそ武器の差が如実に表れる。だから天見君は私に勝てなかった」


 口から血を流す天見は自嘲しながら、


「――そっか。魔法使いが武器を持って戦うってことは……武器の質も重要な要素になってくるのか……俺の想像力も、まだまだだな」


 そこで力尽きて、天見は舞台に倒れ伏した。


「天見!」


 すかさず解説者が刀祢の勝利を宣言し、観客の歓声と拍手が降る中、天見は担架に乗せられて運ばれていった。

 燕はぼんやりしていると思いきや、けっこうしっかりとしています。一応確認のため見直してみたら、ホントに天見の前で魔法を使ってなかった。自分でちょっとビックリしました。

 さて、天見は魔法使いの武器といったら杖というステレオタイプ的考えの持ち主なので、今回のような失態を犯してしまったわけです。今回のストーリーはこれを天見がどうクリアするのかというのがメインですかね。

 それでは次回予告。次回はそうですね~、それぞれがどう動くのかを決める回になりますかね。

 次回更新は金曜日予定です。

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