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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
魔断大帝盗難事件
83/100

瀬戸際

 切る場所に困って、結局長めのを載せちゃいました。ストックもないっていうのに何をやっているんだか。

 会場の入り口から観客席の方へ出ると、真四角の舞台を囲むようにある。


「大会では参ったをするか場外に落ちると負けになる。解説者はいるが審判はいない。戦いはそれぞれの格闘意識に委ねられるのさ。勝敗を生き死にと思っている人ならば、とことんまでやる人もいる」


 先頭を歩く刀祢の解説に荒っぽさを感じて、セリアは少し顔色を悪くした。


「血沸き肉躍る武具の祭典と、去年一昨年と評判だったの。ワシもどれほどのものか気になったから、今年は絶対に来るつもりだった」


「それは嬉しい限りですね。今年が期待外れにならないよう、去年一昨年の優勝チームの一員として頑張らせてもらいますよ」


 一行は入口と反対にある建物に入っていく。そこの内部にも観客席があるというので、屋根の無い他と違って上等な席なのだろう。


 その建物の最上階(と言っても三階程度の高さ)に行き、重厚な扉を刀祢が警備員に言って開けさせ中に入る。部屋の中にも数人の警備員がいて、部屋の中央壁際にケースに納められた刀があった。


「これが魔断大帝だよ」


 ケースの中にあるのは、黒塗りの鞘に納められた刀。刃渡りはおよそ一メートル五〇ほどで、柄には龍を模したガジェットが取り付けられている。


「今は会場側の壁が下りているけど、大会の時は壁を上げて舞台・観客席からも見られるようにするんだ。アピールは大事だからね」


 天見は肩に乗せているベリメスと一緒にケースへ近づき、しげしげと眺める。


「え~っと、それじゃまずは犯人についてお聞きしたいんですけど、妖精を連れている以外に何か特徴はありましたか?」


 とりあえず天見は、一番気になっていることをまず聞いた。


「それが黒衣に身を包んでいたから全く分からないね。その妖精だって、犯人が逃げる間際、明るい場所に出た時に気づいたんだ。犯人の黒衣に潜んでいるのを私がチラッと見たにしかすぎない」


「それじゃ見間違いっていう線もあり得るんじゃない?」


「いや、これでも目は確かだよ。黒衣の隙間から見えたピンクの髪と羽は間違いなく妖精のものだ」


 ピンクの髪と聞いて、セリアはドキッとした胸に拳を当てて落ち着かせた。崑崙についている妖精のモドリスも、ピンクの髪をしている。


「犯人は何か武器を持っていたか? それか何か身元の手掛かりになりそうな魔法は使わなかったか?」


 ハビエの問いかけに刀祢は首を振る。


「相手は素手でした。そして魔法も使いませんでしたね。まあ、私がこの部屋に来た時に逃げてしまったので私自身は見ていませんので、警備員の証言です」


 天見は視線を刀祢からケースへ移して、


「このケースは頑丈なんですか?」


「もちろんだよ。生半可な力や魔法じゃ壊れないね」


「それで、昨日の警報はどの段階で鳴ったものだったの?」


 ベリメスの質問に刀祢は若干目を見張った。


「ケースに魔法が当たった時に鳴ったものだね」


「ふぅ~ん……つまり盗人がここまで侵入し、魔断大帝を奪い取ろうとした直前まで、犯行が発覚しなかったんだ」


「警備に問題があるのではないか」


 遠慮のないハビエの言葉に、周囲で警備をしている人達はギロリと彼を睨む。が、彼はそんな視線なんてどこ吹く風と平然としている。


 言われた刀祢は苦笑して後ろ髪をかき、「普通の人なら誰にも見つからずに忍び込むなんて出来ないほどの警備だったんですけどね」とことわっておく。


「それでコレって、本当に魔断大帝なんですか? もしかしたら、刀祢さんが駆けつけた時にはすり替えられていたかもしれませんよ」


「確かに私が駆けつけたのは遅かったが、それまでに誰も駆けつけなかったわけじゃない。警備の者がこぞってここに来て……私が来た時にはほとんどがやられていたけど……守っていたんだ。その刀は間違いなく本物だよ」


「どうしてそう言い切れるの?」


「そのケースは破壊もされていなかったし、開けられてもいなかった。犯人の想像以上に頑丈だったんだね」


 そして、刀祢はまとめるように話し出す。


「おそらく犯人は警備の目をかいくぐってこの部屋に侵入。部屋の警備員三人を手早く倒してケースの破壊を試みた。しかし予想以上の固さでケースは破壊できず警報が鳴り、警備員に駆けつけられて仕方なく撤退した。今は都警の刑事さんが足取りを追って、町中で聞き込みをしているよ」


 ハビエとセリアが頷いている中、天見は顎に手を当てて考え込んでいる。その態度に気づいた刀祢は、


「なにか気になることがあるのかい?」


 天見はまだキチンとまとまっていないながら、ケースに手を置いて、


「厳重な警備をすり抜けるほど手際の良い犯人だ。おそらく事前の下調べは入念にしていたはず……そんな犯人がケースに警報装置がついていることを知らなかったなんてあり得るかな?」


 その話を聞き、ハビエは興味深そうに顎を撫でる。天見は後ろ髪をかきながら、唸りつつ話を続ける。


「本当に犯人はこの部屋の警備員を昏倒させた後、すぐに警報を鳴らしたのかな? 盗まれていないことを誤認させるため、何らかの方法で魔断大帝をすり替えた後に警報を鳴らして、あたかもケースの破壊に失敗したと思わせたのかも……」


 ざわつき出す周囲が不安げにケースを見る。だが、刀祢は別に動揺した素振りも無い、


「ちゃんとケースを開けて、一度しっかりと真贋を確かめた方がいいんじゃない?」


「なるほどね。しかし、こうも考えられないかい?」


 刀祢は何気ない様子で天見へ近づきながら語り出す。


「犯人はケースが一筋縄でいかないことを知っていた。そのため、まずわざと盗みに失敗する」


「わざと……ですか?」


 セリアの不思議そうな声に刀祢は大きく頷く。


「そうとも。そして、後から仲間を差し向けて所有者の不安を増長させケースを開けされる。その時にまんまと盗み取る」


 ギョッとした天見の手首を刀祢は掴み取る。その瞬間扉が開いて、都警の刑事が二人部屋に入ってきた。


「ごめんね。刑事さんが聞き込みをして、犯人と目される人と天見君が一緒に港から出てきた情報を入手していたんだ。どうしても話を聞きたいらしくって……逃げられないようにここまで引き込ませてもらっちゃったよ」


「あ、もう知ってたんですか。それじゃすっ呆けても無駄か」


 呆気に取られるセリアと比べて、天見は観念したのか動揺は見られない。左右をガタイのいい刑事に抑えられ、「署まで同行願おう」に「はいはい」と答えていた。


 ただ、歩き出す前に近くにいる刀祢に尋ねる。


「確認ですけど、話を聞きたいのは俺一人でいいんですか?」


「他の二人は身元がハッキリとしているからね」


「……そうですね。怪しいのは俺と崑崙ぐらいですよね」


 その時、ようやく展開に追いついたセリアはすがるように隣にいるハビエを見上げるが、


「任意同行ならばワシは止めんぞ?」


 腕組みをして動こうとしない。


「セリアとファイナを頼みます。変なことをしないように」


 手錠こそかけられなかったが、しっかりと腕を抑えられて歩き出す。


 反射的に動こうとしたセリアの肩をハビエが押し止め、天見はドアから刑事に伴われていなくなった。


 天見がいなくなって、何とも言えない雰囲気が部屋に満ちる。


「まあ、それほど心配しなくてもいいよ。さっきも言ったように、彼のアリバイは私が一番分かっている。実行犯でないのは確かだ。あとは……犯人の仲間かどうか」


「絶対に違います」


 セリアが珍しく初対面の相手に対して強い否定の意思を見せる。


「そうは言っても、彼には魔断大帝を欲しがっているという動機がある。大会には出場できないし、手に入れるのが難しいと知って凶行に及んだと考えられなくもない」


「そんな……でも――」


 なにかを言い募ろうとしたセリアを、ハビエがやんわりと止める。


「今はここであ~だこ~だ言っても仕方がない。ピー小僧はあれでいてしっかりしているからな、心配はいらないだろう」


 それでも、セリアは不安げな表情で天見が消えたドアを見つめる。


「さて、確かあいつにはもう二人女がいたな」


 と、ハビエはちょっと面白そうに呟いた。



 その時間、ファイナは燕の道場を訪れていた。聞いていた住所を頼りにして探したので多少時間がかかったが、どうにかたどり着いた。


「来ると思っていましたよ~、ファイナさ~ん」


 玄関まで出迎えに来た燕は、ファイナを見た後にキョロキョロして、


「あれ? お一人ですか~?」


「なにか差し支えがあるか?」


「いいえ~」


 それは機嫌が悪いだろうな~と、深く尋ねないように流した。


 燕はファイナを招き入れて、


「燕ねえ――何たる美人!」


 廊下を歩いている途中で遭遇した鍔蔵が、ファイナを一目見て衝撃を受けた。


「あ、ファイナさん。これは放っといていいですから~」


 燕がツツツと滑るように近づいて、掌底気味の勢いで鍔蔵の口を押さえた。だが、ファイナという名前を聞いた瞬間、キュピーンッと鍔蔵の目が光った。


 燕の手を力ずくで押しのけ、


「まさか、その人があのピーコーのプァートヌゥァー!? ……………………神は死んだ! あんな取り立てて目ぼしいものがない男に、こんな美人が~……このような不公平が公然とまかり通るなんてぇ~!」


 燕は頭を抱えて叫ぶ鍔蔵の両肩を持ち、引きつけながら腹に膝を入れた。それでようやく静かになった。


 お腹を押さえて痙攣している鍔蔵を廊下に放置して、


「さ、行きましょう~」


「……中々バイオレンスだな」


 鍔蔵を気にしつつも、ファイナは燕と並んで廊下を進む。


「え~弟にならアレぐらい普通ですよ~」


「そういうものか……」


「ファイナさんだって妹がいるんですよね~? ケンカなんて日常茶飯事なんじゃないんですか~?」


「中等部に上がる前から会っていない」


「え、え~……マジですか?」


 ビックリして丸い目を向ける燕に、ファイナはコクンと頷く。


「妹は中等部には上がらず両親について行った。定期的に課題提出とテストをすることで中等部課程は卒業し、今は高等部課程をやっているはずだが…………両親と違って年始にも顔を見せに来ないから、どう成長しているのか」


「ちょ、ちょっと待ってくださ~い。何気なく振った話題がかなりのものだったので、立ち話じゃなんです~」


「? そうか」


 燕の部屋に行き、二人は座布団に座ってちゃぶ台の上に湯呑を置く。


「で、妹さんとは仲が悪いんですか~?」


 満を持して尋ねてくる燕だが、当のファイナはお茶をすすっていつも通りの無表情で、


「良好の方だとは思う。別にケンカ別れをしたわけではないからな。だが、私達はいつか戦う宿命にある……向こうも慣れ合うのを避けているのだろう」


「いやいやいや宿命って……」


 堅苦しいと思ったが、ファイナはいたってマジメに言っていた。これが水鏡さんの『連理の枝』を敬遠していた理由かと思うと、分からなくも無かった。


「ところで、水鏡が燕の家に行きたくなさそうにしていたのだが、昨日何かあったのか?」


「う~ん……まあ、私も来てもらっては困りますし」


「そうなのか?」


「水鏡さんにも言いましたけど、水鏡さんは油断も隙も無く魔法をコピーしますからね~。使う使わないは別にして、流派の者からしたらいい気分はしませんよ~。だって、その魔法を習得するためにこっちはすんご~い努力をしているんですから~」


「ふむ。まあ、確かに私も朱雀宝門流の免許皆伝に至るまでは中々苦労したが……」


「そう言えば、ファイナさんはそこから奥義を学ぼうとは思わなかったんですか~?」


「『連理の枝』に専念したかったからな」


 木皿に入った煎餅に手をつけ、気持ちのいい音を立てて割って、破片を口に入れる。


「それでようやく『連理の枝』になれたというのに……」


 無表情だが不満げなのは分かった燕は、やんわりと話の路線を変える。


「聞きましたけど~、水鏡さんは魔断大帝という刀を欲しがっているんですよね~?」


「そうだ。水鏡が私も旅行のメンバーに入れていたから仕方なく来てやったのだ。本来なら私が来る道理はないのだが……あれほど熱心に頼まれては、パートナーとして無下には出来ない」


「へ~」


 まあ、水鏡さんに限って魔法以外でファイナさんに熱心に頼みごとをするなんて考えにくいから、たぶん誇張されているんだろうと燕は心の中でだけで思う。


「それでセリアさんも来ているとか」


 その名前が出ただけで心象のファイナはムスッとしたが、当のファイナは眉一つ動かさない。


「それだけではない。何を考えているのか……あのコンロまで同行させているのだ」


「え、崑崙さんも来ているんですか~?」


 初耳の情報に燕は目を見張る。


「ああ。命も狙われたこともあるというのにあの危機感の無さ……あいつだけは何をしでかすか分からない。気を許さない方がいい」


「確かに崑崙さんは目的を達成するためには手段を選ばないらしいですけど~、だからこそ意味も無く人を傷つけないっていうか~、目的が無い時はけっこう面倒見がいい人ですよ~」


「……不可解だ。燕だって奴とは大して付き合いが長いわけではないだろう。それなのに、なぜ評価が高い?」


 聞かれて、燕は頬を少し染めて照れ笑いをする。


「え~、えへへへ。単純にタイプなだけですよ~。ああいう細身で隙が無さそうな人がいいんです~。ああいう人をこっちの事情で振り回したいっていうか~」


「そ、そう……なのか」


 意外な答えに、あのファイナがドモってしまった。


「そういうファイナさんはどんな人がタイプなんですか~?」


「タイプなど……考えたこともない」


 この手の話を友達とするのが初体験のファイナは、どうにか無表情をキープしているが、湯呑を持つ手がすごい振動している。


「え~? でも~、何となくこういうのがいいな~っていうのはあるんじゃないんですか~? 背が小さいとか、魔法に真剣だとか、妖精を連れているとか」


 明らかに誰か特定の人を指す条件を上げているが、動揺しているファイナは気づかない。


「ないものはない。大体にしてそのようなもの、いつかはあてがわれるものだ。考えるだけ不毛で不可解だ」


「あれだけ『連理の枝』のパートナーは吟味していたファイナさんが、他人の用意した人を漫然と受け入れるんですか~? ちょっとイメージと違いますね~」


 ファイナは心中で「くっ」と呻く。彼女の中で恋など『連理の枝』と違って真剣になるものではない。というより、『連理の枝』に構いすぎて疎かにしてきた。だから、今さら言われた所で困ってしまう。


 それなのに、あの燕の目と口調――侮られている。


「私には恋愛などにかまけている暇はない。『連理の枝』の上達が至上の命題なのだ」


「まあ、何かに打ちこむっていうのも青春ですからいいですけどね~」


 今はこれ以上乱さない方がいいと思って、燕が退く。それにせっつきすぎてファイナが天見のことを変に意識してしまったら、今度こそ天見はファイナから離れるかもしれない。


 燕ですらそう思うぐらい、ファイナの恋人という立ち位置は面倒そうだ。


 とりあえず満足した燕は煎餅を口に放り込んでからしゃべる。


「こういう話もいいですね~」


「不可解だ。何一ついいとは思えないが」


「え~? そうですか~? 女子トークってやつですよ~。寮では水鏡さんがいますからできませんけどね~。ホント、今日は水鏡さんがいなくてよかったで~す」


「こんな話をすると分かっていれば、首輪をつけてでも水鏡をつれてくればよかった」


「やめてくださいよ~。今日は父さんがいるんですから~、私の友達という体でもピーコーを道場に入れるなんて反対するに決まってるんですから~」


 ちょうどその時、どこかから大きな声が聞こえてきた。


 聞こえたからには気になった二人が部屋を出る。


 言い争いが聞こえる部屋を見つけ、燕が静かに障子を開けて中を窺うと、飛燕と父親の鋼燕がいた。


 燕は重たいため息を吐いた後、躊躇なく障子を全開にした。


「な~にまたケンカをしているの~。友達が来ているんだからもうちょっと静かにしてよね~」


『いい所に来た(ですの)!』


 現れた燕を見て、両者味方が来たと中に引っ張り込んだ。


「燕聞け! 飛燕の奴、あろうことかあの見世物の大会に出るべきだと言い出したのだ! 伝統ある『明暗月夜流刀剣術』があのような低俗な大会に出てしまったら、流派の質が落ちてしまう!」


「差し出がましいのは承知の上ですが、もういい加減限界なんですの! ぶっちゃけ言いますとお金がありませんの! このままではもう道場を維持していけませんの!」


「え~、うちってそんなにやばいの?」


 家から離れている燕が驚いたように確認すると、飛燕は困ったように頬に手を当てて頷く。


「どれだけ切りつめても、燕が著作権委員になるまでは持たないですの。つまり、燕が著作権委員になってうちの著作権見直しをやるまで耐えられないんですの」


 それからキッと真剣な目をした飛燕は、バンッと畳を叩く。


「だから今回の大会に出場して優勝すれば明暗月夜流の強さが再認識されるし、賞金が入るし、なにより刀が戻ってきますの! そうすれば、門下生だって増えますの!」


「……ならば飛燕は屈しろと言うのか。伝統ある魔法の要所だけを盗み取り、我が物顔で使い、教える奴らを認めろと……大会に出場するということは、奴らを認めるようなものだ!」


「だからって、無視するのも限界ですの!」


「少しいいですか」


 そこへ、今まで話を聞いていたファイナがいきなり入ってきた。二人の言い合いを困ったように見ていた燕の隣に座って、


「燕から多少は事情を聞き及んでいますが、流派の魔法を変質されて新たな流派を作られたとか」


 鋼燕の「何者だ」という不審げで強めの視線に負けず、ファイナは口を出した。これぐらいの威圧の視線なら、親戚とのやり取りで慣れている。


 燕が「友達のファイナ=グリューテイルさんです」と説明してから、ファイナは話を続ける。


「その流派を著作権法違反で営業停止に追い込むのは、おそらく不可能です」


「なっ!」


「言い方一つですが、その流派の魔法は明暗月夜流の魔法の昇華と言えなくもありません。そう言った魔法は著作権法の存在意義で守られています」


「存在意義ですか~?」


「著作権法は魔法の文化的発展を妨げないために存在します。おそらくその流派はそこを強みにして、あなた方の最初の親告を退けたのでは?」


 鋼燕は腕組みして押し黙った。まさにファイナの指摘通り、そこを月光花家元流が主張する矛と盾として使われた。まあ、それを利用した月光花家元流の弁護士が優秀だったのも敗因の一つだ。


「勝手に魔法を流用したという主張も、相手が流派の関係者でもし免許皆伝以上でしたら魔法のデータ閲覧は自由。著作権法第五条に『魔法の開発又は改良のための試験に用いる場合は使用することができる』とありますから…………まあ、裁判官の心情に訴えかけられたらプラスに働くかもしれませんが」


 そこまで話した所で、燕がチョンチョンとファイナの肩を叩いて耳打ちした。


「どうしたんですか~? やけにしっかりとしたことを言ってますけど~、そんなに著作権法に詳しかったでしたっけ~?」


 そう言われて、心象のファイナはちょっとムスッとしたが、当のファイナは耳打ちをし返して、


「水鏡があれだろ。いつか問題を起こして訴えられても勝てるよう色々考えているのだ。魔法の昇華という言葉のチョイスは、その内の一つだ」


 納得したように燕が頷く。


 そんな燕を、ファイナは視線で鋼燕に促しつつ、


「燕は確かに能力が高く、良い意味で強情で、有利になりそうな交友関係も持っています。ですが将来著作権委員になり、この問題を見直したとしても難しいでしょう。それなら、そちらの方が言うように土俵に上がるというのは一つの手です」


 ファイナが視線を飛燕に向けると、彼女もコクンと同意する。


「私が習った朱雀宝門流も、今まで多くの著作権法違反紛いの流派間問題が起きていると聞きます。裁判では平行線になることが多く、相手の魔法を停止させることは出来なかったそうです。ですが、その時朱雀宝門流の上の方達は相手の魔法を認めないのではなく、認めた上で打ち倒したらしいです。所詮流派の世界は弱肉強食。単純なようですが、今も残る伝統的な流派はそうやって日々勝ち残ってきたわけですから」


 しかし、鋼燕は腕組みをして若干ソッポを向いて聞いているのかいないのか……。飛燕の方はここが勝負所だと感じ、言葉に力を込めて訴えかける。


「父さん、あいつらを利用してやるって考えるんですの。再び明暗月夜流が脚光を浴びるための踏み台にするんですの。三回目にもなって大会は肥え太り、まさに旬を迎えて食べ時ですの! というか、来年までこっちが残っているかどうか分からないですの!」


 全てを言い尽くして、部屋は静まり返る。鋼燕も反論することはなく、ずっと黙っている。


 そこで、それまでどちらにもつかず黙っていた燕が、


「本当に低俗な大会かどうか見てから決めない~? 確かあの大会、参加締め切り前にエキジビションがあるでしょ~。どっかから送られてきたパンフレットに、そのエキジビションの入場券も同封されてたよ~」


 と提案した。


「……いいだろう。奴の程度の低さを見て笑うのも一興だ」


 嫌々という様子だが、鋼燕が動いたので飛燕は安堵して息を吐いた。



 騒ぎが治まったので、ファイナと燕は部屋へ戻ろうとする。そこへ背後から飛燕に声をかけられ、


「さっきはどうもありがとうですの。燕の姉、聖籠飛燕ですの」


「礼を言われるようなことをしたつもりはないです。燕が家のことで悩んでいたのを知っていたので、私なりの解決案を一例として提出したにすぎません」


「気遣ってくれたのは嬉しいですけど~、単純な話強い方が正義っていう脳筋戦法ですよね~。著作権法問題って本来はそういう解決を選ばない、もっと理知的なものなんですけど~」


 ちょっと不満がある燕は口をすぼめる。


「だが、分かりやすいだろ。せっかく魔法を習うのならば、強い魔法を習いたいというのが心理だ。ちょうどいいから白黒つければいい」


「そうですの。いい加減、決着をつけないといけないんですの……」


 飛燕は呟いた後、朗らかな笑顔を見せて、


「ファイナさんもエキジビションに一緒に行きましょうですの」


「いや、私は……」


「まさかあれだけ言っておいて知らんぷりですか~? それはちょっと薄情ですよ~」


 心象のファイナは仕方なさそうにため息をついて、


「分かった。いいだろう」


「それじゃ私はちょっと出かけてくるですの。夜のエキジビションまでには戻って来るですの」


 会釈をして、飛燕がそそくさと廊下を進んでいった。


 そこへ逆側から鍔蔵がやってきて、


「あれ? 飛燕姉さん出かけたの」


「何か用でもあったの~?」


「魔法の練習に付き合ってくれる予定だったんだけど……」


 それを聞いて燕の頭上に疑問符が浮かんだ。飛燕はそういう約束事はしっかり守るタイプだ。破るにしても必ず一言断りぐらい入れる。


(まあ、武具大会に出場するかもしれないから急にやることが出来たのかな~)


 と思っていると、


「昨日も見てくれるはずだったのに出かけたし」


「あ~、水鏡さんが帰った後にね~。でもあれって夕食の買い出しだし、あんた手に怪我してたからどうせ無理だったでしょ~。というか、今日も念のためやめといたら~?」


「大丈夫だって、あれぐらいの怪我」


 鍔蔵が元気を表すように腕を回すので、心象のファイナは微笑ましいものを感じて、


「少し体を動かしたいから私でいいなら付き合おうか?」


「ホントですか!?」


「え~、悪いですよ~。それに鍔蔵、ファイナさんは手加減なんて器用なことが出来ないからやめといた方がいいわよ~」


「失礼だな。手加減ぐらい楽勝だ」


「美人にしごかれるなんて……ちょっとドキドキ」


 二人の様子を見て「ハァ~」とため息をついた燕は諦めた。


 炎の槍でもって鍔蔵がボコボコにされ、前髪を焼き切られてチリチリになるまで、そう時間はかからなかった。



 そして、稽古がたたってダウンしている鍔蔵は家に置いてきて、鋼燕に飛燕、燕とファイナの四人で〈大天魔武装大会〉の会場に来ていた。


 登録締切日の夜に行われるエキジビションは招待制で、協賛の企業の方や大会への招待出場選手、名門名家の有力者とその関係者が訪れる。エキジビションの試合の後は、場所を少し移動してパーティも行われる。


 入場した四人は観客席に並んで座り、試合が始まるのをジッと待っている。その間に観客も増えていき、招待客のみだというのに観客席の四分の一ほど埋まっている。


 華やかの会場の雰囲気に鋼燕は見世物を感じて顔をしかめているが、これだけの人数が招きに応じて足を運んでいるという事実に、大会の大きさも感じる。


 そうこうしている内に主催者である錬磨が挨拶に出てきて、早々にエキジビションが始められる。


 解説者の呼び込みでまず出てきたのは刀祢。手に持つ獲物は観客がお目当てにしている魔断大帝だ。


 そして、彼の対戦相手が出てきてファイナは思わず立ち上がった。


 間違える訳がない。彼女の『連理の枝』であり『コピー』魔法使いである水鏡 天見がそこにいた。

 途中の女子トークをカットすれば文字数がいつも通りになるんですけど、この二人友達になってからそんなにらしいことをさせていなかったので入れました。

 ちなみに燕の母親は生きています。昼間は仕事に出ているので登場する機会がないだけです。奥さんも家計を支えているので、お金の話を出されて鋼燕はちょっと悩んでいたのです(こういうのもちゃんと作中で説明しないといけないと思うので、忘れなければどっかで入れよう)。

 展開の方はいきなりですがこんな最後にしちゃいました。ストーリーは時系列を丁寧になぞるだけでは面白味に欠ける。という試みでやってみました。

 そういうわけで、次回予告。天見VS刀祢! もちろん武具対決です!

 次回更新は来週の金曜日予定です。

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