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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
魔断大帝盗難事件
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魔断大帝盗難未遂事件

 前回からちょっと懐かしいキャラが出ています。どういう人達か知りたい方はコピー魔法使いの事件簿を見ると大体分かります。

 山の中腹にある墓地。その中にある立派な墓石を前にして、冥福を祈っている黒髪の男がいる。


 閉じていた目を開け、合掌を解き、一礼して墓の前から辞する。そして、墓地から出た所で赤い髪の男と出会った。


 二人の四十代の男達――赤髪の男の名は聖籠 (こう)(えん)。黒髪の男の名前は日暮(ひぐれ) 錬磨(れんま)


 鋼燕は墓地から出てきた錬磨を細い目で睨む。


「なにしに来た」


 問い詰めるような強い口調だ。


「師の墓参りと三回目になる大会の報告だ」


「もはや袂を分けた貴様がヌケヌケと」


 鋼燕の鋭い気を錬磨は笑って受け流し、


「学ぶことが無くなったのだから仕方ないだろう」


「それで我らが明暗月夜流の技を盗み、新たな流派を作ったか。貴様のような後ろ足で砂をかける男に師の墓参りをする資格などない」


「相変わらず実直で堅物な男だ。伝統を守る観点から見れば、貴様ほど後継者に相応しい輩はいないだろう。だが」


 錬磨が鋼燕の視線を真っ向から受けると、周囲の空気が緊張し始めた。鋼燕が持つ花が震え、桶の水面に波紋が生じる。


「歴史を重んじることと不変であることは同じではない。いや、同じべきではない。魔法は日々進化している。こもっていれば外界から取り残され、いずれ時代遅れとなり淘汰される。自然の摂理と同じだ。それはもう教えてやったはずだろ」


 錬磨が自分の体を斜めに切る仕草をすると、鋼燕は歯を噛みしめ持っている花ごと胸元を掴む。


「身勝手なことを……貴様のやっていることは邪道に他ならない! 流行りに迎合し、伝統を疎かにしている!」


「流行りに迎合しているとはお門違いな。俺は生き残るための経営努力をしているだけだ。貴様と違ってな」


 錬磨は歩を進め、あっさりと鋼燕の横を通り過ぎる。


 鋼燕が振り返ると錬磨は足を止めた。だが、彼はそのまま振り返らず、


「で、どうする気だ? 今回も大会を無視するつもりか? おそらく今回が最後だぞ」


「こちらを公衆の面前に引っ張り出して打ち倒すことで、完膚なきまでに潰す腹積もりだろうがそんな安い手には乗らん。数年後、貴様の道場は著作権法違反で営業停止になる」


 背中を向けたままだが、ため息をついたことは明らかに分かった。それほど大きなため息だった。


「我が師ながら、貴様を後継者にするなど愚かな選択をしたものだ」


 花束と桶が鋼燕の手から放れ、宙に浮いた。


 墓参りのため無手だった二人。


 鋼燕の貫き手が錬磨の背中を貫いた。が、それは残像で実際は半身になってかわされ、その動きのまま錬磨は裏拳をくり出した。空いている左手で拳を受け止めたが、錬磨の勢いは止まらず肘を畳まれて体当たりをかまされた。


 寸前で後ろに飛んだ鋼燕は、元の場所で地面に落ちるギリギリだった花束と桶を手にする。


「おまえの代で明暗月夜流刀剣術を途絶えさせたいのなら、最後まで閉じこもっているといい。だが、取り戻したいのなら出てこい。それが兄弟子としてのせめてもの情けだ」


 何事も無かったかのように錬磨は去って行った。


 その背中が見えなくなってから、鋼燕は詰まっていた息を吐き出した。


 頬にかいた汗を拭い、滞りなく墓参りを済ませた。




 翌朝、大浴場の朝風呂帰りの天見は浴衣姿で旅館のフロント近くを通りがかった。すると、何かざわついているのに気づいた。


 何事かとぼんやりと眺めていたら、後ろからバンッと背中を強めに叩かれた。


「おう、こんな所で会うとは奇遇だな。ピー小僧」


 咳き込みながら振り返ると、巨体の男が腰に手を当てて豪快な笑顔を見せて立っていた。筋肉質の体に浴衣が笑えるほど似合っていない彼は、ハビエ=イシュット。クレッセントの町で刑事をやっている人だ。


「ハビエさん、どうしてここに?」


「休暇を取って武道大会を見に来たんだ」


「リュカさんもですか?」


 ハビエとよく一緒にいる部下の名前を出すと、


「ガハハハ、あいつには仕事を任せてきた」


 押し付けてきたんだと、遠くにいるリュカに天見は同情した。


「というわけで、今のワシは刑事という立場を忘れて純粋に武道大会を楽しみにしている一格闘技ファンだ。久々の休暇っていうこともあるし、くれぐれも面倒を起こすなよ」


 天見はそのコメントが振りにしか聞こえないなというのは黙って、愛想笑いをしていた。


 すると、やはりハビエもフロントのざわつきに気づいた。そういう性分なのか、ズカズカと近づいて行き、何やら手短に話をして戻ってきた。


「昨日、盗難未遂があったから怪しい人物が泊まっていないか都警が調べにきたらしい」


「盗難未遂ですか、物騒ですね」


「大会の優勝賞品である魔断大帝が盗まれそうになったらしいぞ」


 吹き出した天見は咳き込んで背中を丸める。


「おっ? 怪しさ満点なリアクションだな。今の内に吐いといた方が楽なんじゃないか」


「身に覚えがありませんよ、失礼な。それより未遂ってことは盗まれてはないんですよね?」


「そうだろうな。まったく無粋な奴もいたもんだ。下手したら大会が中止になるかもしれないぞ」


 そこの心配かとは思ったが、天見も魔断大帝の無事は気になった。


「ハビエさん、観光とかの予定がないなら少し付き合ってくれませんか? 魔断大帝の関係者から話を聞きたいので都警の人が一緒だと心強いんですけど」


「ほう、意外なコネがあるの。非番じゃがいいだろう、ワシも気になるからの。朝飯を食べ終わって用意ができたら玄関に集合だ」


 天見はコクンと頷いてハビエと一旦別れた。



 天見はみんなと朝食を食べ終え、ファイナとセリアの部屋で、


「今日は月光花家元流の人に会いに行くから」


「……どうしてそう勝手に決めるのだ。私は燕に会いに行きたかったのに」


 無表情ながら不満そうな雰囲気を漂わせるファイナに天見は首をひねり、


「いや、会いに行ってきていいよ。別に旅行先まで一緒に行動することないだろ」


「することなのだ、連理の枝ならば」


「……俺はちょっと、燕の家は遠慮したいところだし……」


 気取られないように、天見は心の中でため息をついた。この前、ファイナの身内から自分達の『連理の枝』を黙認されるようになってから、彼女はご機嫌なのだ。


 ほぼ正式な『連理の枝』をついに手にしたことで浮かれているのだろうが、天見はそれのせいで行動などを制限されたくはない。天見の目的は魔法世界を満喫することで、堅苦しいのと不自由なのはゴメンだ。


「初めはいいかもしれないけど、そんな風に相手に合わせていたらくたびれるぞ。パートナーに合わせて自分の都合を崩すことなんてないだろ」


 正論っぽいことを言われて、心象のファイナはふて腐れて頬を膨らませる。『連理の枝』を認めてもらってホヤホヤなのに、天見は相変わらずなのだ。


 苦楽を乗り越えてようやくパートナーに認めてもらったのだから、もっとこう……テンションが上がってしかるべきなのに。


「それはそうかもしれないが、水鏡の場合は目を放しておくとすぐ面倒に巻き込まれるから、監視をしておかなければ――」


「大丈夫よ。私がついているから」


「勝手に著作権法違反されてはなお困る」


「あ、あの~、天見さんには私との魔法がありますし、私も同行しますから……」


「しますから何なのだ」


 ファイナの無表情の瞳に睨まれ、セリアは俯いて縮こまる。どうして一日の始まりからこんなゴタゴタするのかと、思わず天見は唸る。


(今日の獅子座の運勢はおそらくビリだな)


 などと現実逃避気味に考えてから、


「頼りになる刑事のハビエさんも同行してくれるから大丈夫だよ」


「あら、あの人も来てたの?」


「うん、フロントで会った」


 それを聞いて、ファイナは言うことを無くしてか黙る。でも、不機嫌な様子は組んでいる腕をトントンと指で叩いている様子から察せられる。


「…………分かった。ならば私は気にせず燕の所へ行く。それでいいな」


「いいよ。気にせず遊んできなよ」


 天見なりに気をつかったつもりだが、ファイナは何が不満なのかそっぽを向いた。



 何はともあれ、ようやく天見は旅館から出発できた。


 目的地は月光花家元流の道場ではなく、昨日も行った大会会場だ。もし昨日の警報が魔断大帝の盗難時に鳴ったものだとしたら、保管場所はすでに道場ではなく会場にあると思ってだ。


 会場に着くと昨日と同様に多くの人が参加登録しているが、その他に警備のためか帯刀している人が随分といる。


 とりあえず天見は刀祢に話を聞ければと思い、事務所の方へ足を向ける。だが、その行く手を帯刀している人に阻まれた。


「な、なんですか」


 尋ねるが、仲間内で話しているだけで返答はない。セリアは人見知りを発動させて天見の影に隠れるし、ハビエは楽しそうに「ほほう」と顎を撫でている。


「ちょっとこちらに来てもらおうか」


 と、天見の手首を掴んだ男の手をハビエが叩き払った。


「素人が任意同行など愚かなことだ。聴取をしようとしたところでろくなものは得られん。思い込みと決めつけで犯人でない者も犯人にしてしまうだけだ。聞きたいことがあるならば、都警の警官を引っ張って来るんだな」


「貴様」


 ハビエに対して男達は刀を抜いた。


「躊躇なく抜き過ぎだろ」


「精神修養が足りないんじゃないかしら」


 相手が柄にチップを入れるのを見て、ハビエは銀の輪っかを頭に装着する。それが彼のガジェットなのだ。


『起動!』


 男達の言葉が重なった所で、周囲の人は安全のため距離を取った。


「勇猛なる行進を遮る者無し!」


「闇夜に花咲く可憐な華よ!」


 ハビエは腰の所で両の拳を握り込み、男達は刀の鍔元に手をかけて一気に剣先に走らせる。


「一直線に(バイソン)猛る牛拳(フィスト)!」


「月光花家元流、月光開花!」


 先に動いたのは刀身を水で覆った男達だ。容赦なくハビエに斬りかかり、刃を受けた彼を見てセリアは短い悲鳴を上げた。


「大丈夫だよ。よく見てみな」


 斬撃を喰らったはずのハビエは蹴りと突きで手早く二人を倒した。そして、スッパリと裂けた服の下にある肌には赤いアザがあるだけで血の一滴も流れていない。


「ハビエさんの魔法は体の密度を高める魔法だから、生半可な刃じゃ斬れないんだ」


 さらにハビエに一人やられた所で、一人の男が大きく間合いを取る。そして、ハビエに向けて突きの姿勢を取り、


「可憐な華に満ちる棘――月光花家元流、華針(かしん)硬流(こうる)!」


 刺突をくり出すと刀の切っ先から水の刃が伸びた。ハビエは体を横に開き、体をそらすように避けた。だが、水の刃の途中から新たな刃が横に伸び、ハビエの顔面をとらえた。


 水の刃はハビエの歯で受け止められ、次には噛み砕かれた。


「なっ!?」


 驚いている男へ一足飛びに近づき、ボディに拳を一発叩きこんで昏倒させた。


「ふん、歯ごたえの無い奴らだな」


 その時、騒ぎを聞きつけてさらに警護の男達がやって来た。さすがにその大人数を一人ずつ倒していくと時間がかかると思って、天見は手近に落ちていた刀を拾い上げる。


「ベリメス」


「いいのかしら?」


「正当防衛ってことで!」


 笑う天見に応じて、ベリメスは赤い表紙の本を手の中に出現させた。


「ナンバーセブン、インストール!」


「コピースタート!」


 天見は突きの姿勢を取り、


「可憐な華に満ちる棘――月光花家元流、華針(かしん)硬流(こうる)!」


 刺突をほぼ真下の地面に向けてくり出した。切っ先から流れた水は見る見るうちに円形に広がっていき、集まって来た男達の足下まで濡らした。そして、男達全員の足下から水の刃が伸び、足の甲を貫いた。


 いきなりの痛みに足を押さえてもんどりうつ男達。


「ほほう、中々やるのピー小僧」


「ちょっとやりすぎかも……」


「水量の問題で数センチぐらいの刃しか作れないから足を狙うしかなかったんだよね」


 天見は刀を鞘に納め、気絶している持ち主に返す。


「はははは、お見事お見事。聞きしに勝る規格外のピーコーだね」


 拍手しながら近づいて来る刀祢に、倒れている男達が声をかける。


「師範代!」


 だが、刀祢は倒れている男達を一切気にせず天見の前まで行って頭を下げる。


「先走った門下生が迷惑をかけたね」


「事情を聞かせてもらえますか」


「もちろん。ここまで迷惑をかけていて話さないわけにはいかないだろ」


 刀祢はハビエとセリアにも目を配って――セリアにはウインクもしたがそれで天見の背中に隠れられてしまった。


「彼女が君の『連理の枝』かい?」


「あ、違います。友達のセリアですよ」


 天見からちゃんと「友達」と言われたことに、セリアは隠れながら感動を噛みしめていた。


「で、そちらのタフガイは?」


「知り合いの刑事さんです。盗難未遂事件のことを知りたかったので、付き添ってくれると心強いと思って」


「意外とコネクションが広いね。いいことだよ」


 和やかに話している刀祢を倒れている男達は呆然と眺めている。


「あ、あの師範代。我らの仇とかは……」


「勘違いも甚だしい上に、自分達の魔法をやり返されて無様にやられた君達の仇なんてとる必要ないだろ。あんまり愉快なことをし過ぎると重りをつけて川を泳がせるよ」


 笑顔の刀祢のセリフに男達は押し黙った。異論なんてあるはずもない。


「分かったらそんな所で寝ていないでさっさと持ち場に戻る。君達の仕事は犯人探しじゃなくて不審者が会場に入らないようにする警備なんだから。もし動けないって言うなら私が運んであげようか?」


 天見に足をやられた人達はよろよろと立ち上がり、ハビエにのされた人達を回収して去って行った。ほとんどの人がいなくなったのを見計らって、話を元に戻す。


「それで、なぜこのピー小僧を狙ったんだ? まあ、いつ誰に襲われても不思議じゃない顔をしているが」


「顔じゃなくって、『コピー』魔法使いだからでしょ!」


「それがですね~、昨日私が撃退した犯人なんですが……正体は分からなかったんですけど、妖精を連れていたんですよ。それが数少ない手がかりですね。ただ、犯行が起きた時に天見君とその妖精さんは私と一緒にいたので、犯人でないことは分かっています」


「なるほどの」


 ハビエは納得するように頷いていたが、天見とベリメスとセリアは嫌な予感を覚える。


「あ、あの……李さんとモドリスさんはどちらに……」


「ベリメス?」


「ちょっと待って……………………ダメ、反応が探れない。確信犯的に隠れているわ」


「天見君、妖精繋がりで何か心当たりはないかい?」


 聞かれて、天見は動揺した素振りを見せずに「そうですね~」などと呟いて、


「とりあえず、犯行現場を見せてくれませんか? 妖精をつれているということだけではちょっと……」


 そつなく平然と答える。その態度にベリメスとセリアは感心するしかなかった。


「それもそうか。でも、魔断大帝を目にしたからといって盗もうとしないでくれよ」


「しませんよ」


 などと和やかに話しつつ、一行は会場に入って行った。

 大会までの道のりが長い。まあ、今回の目的は大会出場じゃなく魔断大帝なので最悪出場させなくてもいいんですけどね。しかし、崑崙は一体何をやっているんだか。あまりややこしいことしないでほしい。

 そういえば、前回更新しようと思ったらページが開けなくて焦った焦った。ギリギリだったので考えていたタイトルを間違えちゃって編集することになってしまった。

 それでは次回予告。刀祢から事情を聞いた後に天見は彼から拘束される。そして、燕の道場へ遊びに行ったファイナの方でも何だか大会に関してゴタゴタしていた。

 天見になにが起こるんだか、次回更新は来週の金曜日予定です。

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