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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
剣戟コピー乱舞
80/100

燕の家族

 なんか、切る所に迷ったらちょっと長めになっちゃいました。それと前回の次回予告で赤い髪にした所を黒髪になおしておきます(ちょっと間違えてしまいました)。

 コウヤへ行く船に乗ったメンバーは天見、ファイナ、セリア、崑崙の人間四人。ベリメス、モドリスの妖精二人、猫のミヤ一人だ。


 天見の監視は一応著作権委員の崑崙が引き受けることになり、しっかりと見張ることを言い含められていたが、天見に引っ付いていることもなく明らかにやる気がない。


 船上で天見はベリメスと甲板に出て、海の方へ体を向けて座る。


「ベリメス、武器を使ったコピー魔法について確認しておきたいんだけどさ」


「ええ」


「コピーするためには相手と同じ武器を持ってないと出来ないのはいいけど、向こうが刀でこっちが剣の場合は出来るの?」


「…………細かいこと気にするわね」


 頭に大きな汗を流したベリメスに、天見は真剣な目を向ける。


「大事なことだ。同じ武器は同種の武器って認識でいいのか? それなら剣と刀は別種の武器だから再現できないと思うんだけど」


「そうね、その認識でいいわ。刀剣は種類が多いから面倒かもね」


「和弓と洋弓の場合は? 斧なら形状が違ったら? 鞭なら長さとか……盾だって色々と種類が多いけど」


「待った待った。そんな細かく考えなくていいのよ。大まかなくくりでオッケーなの。大丈夫よ、天見にコピーできない魔法なんてないから」


 ベリメスは呆れつつも、天見の魔法に関して止まらない思考に心強さを感じて笑う。


「ホントに魔法が好きなんだから」


 しかし、天見は難しそうな顔で笑みを見せない。その態度が気になったベリメスは、彼の肩から飛び立って顔の前に浮遊する。


「どうかしたの?」


「俺が扱ったことのない武器でも、コピー魔法を使う時は完全に再現できるから問題ないのはウィガンの魔法で分かっている。でも、例えば燕の『水月』を俺がコピーした時、刀を水で覆った後、振り回すのは俺の力量でってなってくるんだろ?」


「…………そうなるわね」


「ハッキリ言って、竹刀ですら持ったのは高校の体育授業だけで、他の武器なんて手にしたこともないのがほとんどだ。振り回すのが俺の筋力なら、斧なんて持てるかどうかも分からないぞ」


 天見は立てた膝に肘を置き、頬杖をついて、


「まったく、魔法使いが普通に杖以外の武器を使う最近の風潮にノーと言いたい派なのに、この世界がそれもオッケーなんて」


「文句ならガジェットに言いなさいよ。あれのせいで魔法を覚えつつも他のことを習う余裕が出てきたんだから」


 ファイナも隙あれば天見を鍛えさせようとするので、力が弱く頭が良いオールドタイプの魔法使いが好きな天見は、ちょっと勘弁してもらいたいのに……風潮がそれを許さない。でもそのかいあってか、最近は両手両足にはめている重りも気にならなくなってきた。


 これも時代の流れかと天見はため息をついた。


「でも、どうしていきなりそんな確認するの?」


「……今回の使命が武器の回収だからね。もしもを考えてだよ」


 天見は頬杖をやめてあぐらをかき、


「とにかく、武器のコピー魔法の場合、ものによって俺は全く役に立たないってことだ。そしてそれはどうしようもない。俺自身が弱いからだ」


「そんなに卑下しなくても」


「冷静な自己分析だ。もし力ずくってなった場合は、崑崙に任せた方がいいよ」


「…………あの子がそこまで体をはるかしらね。同行したことすら意外だったわ」


 天見と違って、崑崙はモドリスに無理やりこの世界に引っ張りこまれたタイプだ。この世界に思い入れはないし、当初は地球に帰りたがっていた。それこそ天見を殺してでもだ。それを考えると、神様の頼みなんてボイコットしても不思議じゃない。


 ベリメスは崑崙の態度にちょっと首を傾げながら、それはひとまずおいといて、


「別に武器に固執することないわよ。普通に武器を使わない魔法でいけば」


「一対一の場合なら、オリジナルと同じ魔法を使うのがコピー魔法使いの美学だ」


「負けるとしても?」


「負けるとしても。過程も大事にするのが俺だもん」


 言うだけ無駄だったと、ベリメスは頭に大きな汗をかいた。


「なら、出来ることなら穏便にすませたいわね」


「うん。出来ることなら崑崙と魔断大帝の所有者が戦う所を間近で見て、魔法を堪能した上で最終的に回収したい」


 武器を使う魔法だって、天見は嫌いではない。ただ、自分が扱いにくいってだけだ。


「欲張り過ぎ!」


 ツッコミつつも、ベリメスは前回の〈柱〉以上に難しい仕事になるかもと思った。



 酔い止めのおかげもあり、気持ち悪くなることなくコウヤの港に天見は下り立った。


「揺れない地面はいいな~」


 伸びをしつつの感想は、天見に船旅が合わないことを語っていた。


「水鏡はほとんど寝ていただけだろ」


「う~ん、まさか酔い止めの効果がほぼほぼ睡眠薬だったとは……」


「まあ、寝ていれば酔わないわよね」


「いい天気でしたから、それほど揺れませんでしたけどね」


 天見の隣に立つファイナは、いつも通り動きやすいパンツスタイルに上は質素な半袖。お嬢様らしさはないが、生地は肌触りからして違う上等のものだ。


 反対の隣に立つセリアは白いシャツの上に淡い水色の薄手の上着をはおっている。下はベージュのロングスカート。胸元にはフェザーのブローチ型ガジェットがある。


 二人が私服の中、天見は着こなせていない聖クレストエルク魔法学園の制服を着ている。今回がバカンスではないからそのチョイスだった。


「ここがコウヤか……」


 天見は港から出て、町並みを見回す。平屋が多いが四角柱のアパルトマンもあり、和風という感じはしない。


「やっぱり違うか」


 天見の呟きを聞いたベリメスは、聞こえなかったことにした。


「気のせいか……なんか随分と物々しい恰好をした人が多い気がするけど……」


 建物でもそうだが、天見がこの町に和風を感じられない要因は人にあった。道行く人の三割ぐらいがガジェット付きの武器を所持している。


「それは当然ね。週明けからこの町で武具大会があるね」


 後ろから来た崑崙の言葉に天見は振り返る。


「武具大会?」


「この町にある道場が主催する大会ね。無形の魔法を禁止し、武具を伴ったものか武具を形作った魔法だけで戦われる大会ね。その名も〈大天魔武装大会〉ね」


「どうしてそんなこと知っている?」


 ファイナの質問に崑崙は呆れたように肩をすくめ、


「情報は大事ね。目的地の下調べぐらい当然のこと……ネットワークがなくて多少面倒だったけどね」


「面倒だったのは、崑崙さんの命令で走り回った私だと思うんですけど」


 船から下り、少女の姿になったミヤが両手に三つの荷物を持って崑崙の背中をねめつける。崑崙が手ぶらな所から、どうやらミヤが彼の分の荷物も持っているようだ。


「モドリスの椅子だけじゃヒマだろっと思って申し付けてやったね」


 ミヤの頭にいるモドリスは、我関せずと寝ている。


「あ、あの……崑崙さんの妹さんは、今までどこに……」


 船賃を浮かすため、船でミヤはずっと猫でいた。セリアの疑問は当然だが、


「あ? ……こいつは透明人間で好きに姿を消せれるのね」


 崑崙はマジメに答える気がなかった。ファイナはイラッとした気持ちを心象に隠し、「まあ、どうでもいい」と思い直し、


「それで水鏡にベリメス、欲しいものがあると言ったがそれはなん――」


 誰もいない空間に話しかけた。


「目を放す方が悪いのよ」


 ミヤの頭上で、パチリと目を開けたモドリスが意地悪そうにファイナを見る。


「あの二人が楽しそうな話を聞いて、ジッとしているわけがないでしょ」


「それじゃ俺も色々と調べたいことがあるから行くね。気になることは調べないと気が済まない性質だからね。おまえ達も勝手にするといいね」


 軽く手をふって崑崙がモドリスとミヤをつれてあっさり離脱する。


 残されたのはファイナとセリア。


「…………」


「…………」


 二人とも無言。セリアは気まずそうに顔を俯かせるが、ファイナは無表情。だが、その心象ではどうすればいいのかと左右に動き回っている。


「……水鏡を探すか」


「そ、そうですね」


 若干の距離を開けながら、二人は並んで歩き出した。



「あっれ~」


 天見は耳元近くで吐かれるため息に苦笑いを返す。目の前には壁――行き止まりだ。早い話、


「会場はどこだ?」


 迷子になっていた。


「だから誰かに聞きなさいって言ったのよ。初めての町を勘で歩いたって仕方ないでしょ」


「いや、町見物も出来ていいかな~っと思ったんだけど……それに、歩いている人に道を聞くのって、ハードル高くない?」


「なにを気後れしているのか全く分からないわ」


 天見は大きな汗を流し、クルリと反転する。


「まあ、都警の人でも見つけて道を聞くか」


 と、狭い路地を戻ろうとすると、前から男の人が近寄ってきた。


 天見より身長が高い年上の青年で、短い黒髪で涼しげな目元の爽やかな印象を受ける人だ。


「もしかして道に迷っているのかな?」


 聞かれて、戸惑いつつも天見は頷く。


「やっぱりそうか。キョロキョロしながら行き止まりの道に入っていったのでそうじゃないかと思ったんだ」


 おのぼりさんのような所を見られて、気恥ずかしそうに天見の頬が薄赤くなる。


「見ているつもりはなかったんだけど、妖精をつれているのが珍しかったから……それでどこに行きたいのかな?」


「武具大会の会場まで」


「それはちょうどいい。私もその近くに用があるんだ、ついでに案内するよ」


 親しみを込めてなのかウインクをされる。少し軽そうな性格に脱力しつつ、天見は青年の腰に刀があるのを見つける。もしかしたら、彼も出場者なのかもしれない。


「それじゃお願いします」


「オッケー」


 お言葉に甘えて、先導してくれる青年についていった。



 道の両端にお店が並び、賑わっている道を青年と並んで歩く。


「その制服は聖クレストエルク魔法学園だよね? そこの学生?」


「はい。一年です」


「飛び級?」


「今年で十六です!」


 言外に背の小ささを言われた。青年は笑いながら「ゴメンゴメン」と手を振るが、誠意は感じられない。


「あそこの学園は魔法実技授業に力を入れているから大変でしょ」


「色々な魔法と出会えるので楽しいですよ」


「あなたけっこう学園に詳しいのね。卒業生とか?」


「いや。知り合いが通っているから多少知っているだけで……おっと」


 曲がり道で青年が足を止め、


「このまま真っ直ぐ行って、二つ目の十字路を左に曲がればつくよ」


「ご親切にどうも」


 天見が頭を下げると、青年は「いやいや」と手を軽く振る。


「ところで時間ある?」


 天見は胡乱げな視線を返し、


「言うまでもなく俺は男ですけど」


「分かっているよ! ナンパとかじゃないよ!」


 さすがに分かっていた。そこに安心して、


「まあ、急ぐ用事はないですけど」


「ちょっと天見」


 神具の回収を後回しにするような発言に、ベリメスがムスッとする。


「親切にしてもらって無下にするのも悪いだろ」


 と、こっそり耳打ちされて渋々ベリメスは口を閉じる。


「できたらでいいんだけど……道場破りの立会人になってくれない?」


 あまりに平然と言われて、天見とベリメスは肩すかしをくらったように体が泳いだ。


「道行く人にすごいこと頼みますね」


「道場破りに行く途中で道案内なんてしてるんじゃないわよ」


 二人に突っ込まれて、青年は「いや~」と照れつつ後頭部に手をやる。


「頼もうとしていた父さんが恩人の墓参りに行っちゃって、しょうがないので延期しよっかな~と思ってフラフラしていたんだけど」


「もしかして、衝動的に道場破りするつもりだったの?」


「ダメかな? 延期するつもりだったから、ダメでも構わないんだけど」


 こいつはやばい。というかダメだと思ったベリメスだが、


「まあ、いいですよ。見るだけでしたら」


 迷わずすんなり受け入れた天見に、ベリメスは驚愕の顔を向ける。


「ちょっと天見!? 本気!? そんなややこしそうなこと引き受けるの!?」


「いや、だって武具の魔法が見られるチャンスっぽいし」


 ベリメスは胸元で両の拳を握って力一杯頭を横に振る。


「絶対に! やめた方がいいわよ。変に巻き込ま、ううん! 変な奴に巻き込まれるのよ。ただでさえ天見は襲われ体質なんだからこういうことに近づかない方がいいわよ!」


「そんな体質になった覚えはないけど」


「自覚がないってやばいわよ」


 心配するベリメスに天見は「それに」と朗らかに笑って、


「襲われたら相手の魔法を使って返り討ちにすればいいだけだから大丈夫! 正当防衛ってことで向こうも強くは親告できないだろうし!」


「…………誘い襲われ体質だったわ」


 頭痛がしてきそうな頭を押さえ、ベリメスは力無く天見の肩に腰を下ろして諦めた。


 話がまとまったのを見計らって青年が、


「それじゃ」


「はい。オッケーオッケーです。でも、基本的に俺は見ているだけですからね」


 イエ~イとばかりにハイタッチをかわす二人を見て、ベリメスは手で目を覆った。


「もっちろん。なにかあったら私が責任を持って守るって」


 というわけで、天見は青年と一緒に角を曲がって、弾むような足取りで道場破りに向かった。



 天見の前にある木製の門扉。時代劇の奉行所のような門は道場を囲っている壁と繋がっていて、その壁にそって歩いてきたのでこの道場が大きいことは分かっている。


 だが、そんな大きい道場なのに今は活気が無く、声の一つも聞こえてこない。


「休みなんじゃない?」


「やってるよ。門下生がほとんどいないからいつもこんなもんだよ」


「それってもう破る必要がない気がするんですけど」


「歴史だけはある道場なの。たのも~!」


 なんとなく釈然としないながらも、まあ魔法が見られればいいやとのん気に待っている天見は、ふと門の横にある看板を見た。


『明暗月夜流刀剣術道場』


 天見とベリメスの頭上に「…………」が浮かぶ。


 二人が正気に戻るより前に門の横にある出入りしやすそうなドアが開き、


「すいませ~ん。うちは他流試合を禁止しているので~……ん?」


 間延びする声に天見とベリメスは背中を向ける。


 近づいて来る気配を感じて、顔を確認されないようにサッと体の向きを変える。だが、近づいてきた人はめげずに前に回ろうとする。その攻防を何回かすると、天見は腕を掴まれて勢いよく壁に追いやられ、バンッと顔の横に手をつけられ、


「な~にをやっているんですか~、水鏡さ~ん」


 笑っている燕のこめかみに怒りマークが張りついている。


 聖籠燕。天見のクラスメイトでクラスの著作権委員。著作権法違反を許さず、天見のコピー魔法に関して厳しく目を光らせている。


 短い赤髪に腰の刀はいつも通りだが、服装は白の道着に黒の袴。


「いや、ちょっと散歩を」


「ほっほ~、面白いこと言いますね~。道場破りにくっ付いてする散歩はさぞかし魔法を見る機会が多くて楽しいでしょうね~」


 思いっきり天見の魂胆を見透かしたような言葉に彼は大きな汗を流す。


 窮地に陥った状況で、ベリメスがアドバイスを耳打ちする。


「真摯に本当の経緯を話せば分かってくれるわよ」


「そうか。聞いてくれ、燕! 実は神様が――」


 初めから話そうとしたらそこで燕に頭を叩かれた。なぜだ。


「やっぱり知り合いだったか」


 クスクスという笑い声に燕が振り返り、青年にキッと鋭い視線を飛ばす。


「なにを企んでいるのかは知りませんが~、水鏡さんをダシに使っても無駄ですからね~。私はたとえ水鏡さんが人質にとられたとしても、流派を守るためなら指一本動かしませんから~!」


「あなたも相変わらずすごいわね」


「そう邪険にするなよ。昔は妹同然に面倒を見てあげただろ」


 青年は耳元の髪をいじりながら笑い、


「せっかく今年も招待状を送ったのに、そっちが意固地になって大会に出場しそうにないから引っ張り出しに来たんだ。優勝賞品として出した神剣に食いついてこなかったのは意外だけど、さすがに道場にのり込まれて師範代クラスがやられたとなれば、君のお父さんも黙っていないだろ。そこまであからさまにケンカを売られて引っ込んだら、もうこの町でやっていけない」


「うるさいですね~。ガキじゃないんでいちいち付き合ってられますか~。とっとと帰ってくださ~い」


 しっしっと手を振る燕が、いきなり頭を下げた。今まで燕の頭があった場所を刃が素通りし、返す刀を飛び退いて再びかわした。


 燕と青年が対峙するが、刀を構える青年に対して彼女は刀を抜こうとしない。


「起動」


 青年が柄にチップを入れた瞬間、燕は正面から距離をつめ、青年から上段からの一刀を引き出した。それを小さなバックステップでギリギリ避け、懐に飛び込んで青年の左手首を押さえて、左の掌底で顎をかち上げる。


 が、のけ反った青年は掌底をかわして、


「可憐な華に満ちる棘――月光花家元流、華針(かしん)硬流(こうる)!」


 刀身から水の棘が花のように突き出て咲いた。


 その時には燕は青年から距離を取っていたが、逃げ遅れた右腕の小袖が裂けていた。


「よくもまあ恥ずかしげもなく魔法を使えますね~。図々しい」


「どうして私が魔法を使うことを気兼ねしなくっちゃいけないんだ?」


「まったく、モラルのない輩はこれだから~」


 チラッと天見の方にも目をやれば、素知らぬ顔でソッポを向いていた。


 そして、ついに燕が刀に手をかけると、


「道場前で暴れないんですの!」


 天見のすぐ隣にあったドアを開けて、女性の高い声が怒鳴り込んできた。


 現れた女性は燕と同じ道着に袴姿で長い赤髪が腰まである。身長は燕とそう変わらない。


「やあ、飛燕。相変わらず元気そうだね」


刀祢(とうや)。数年前にうちの敷居は跨がないでって言ったはずですの」


「君との約束は覚えているよ。まだ跨いではいないだろ」


 と、ウインク。青年――刀祢はすんなり燕から視線を外して刀を納め、飛燕に笑いかける。だが、彼女の方は苛立った様子で腰に手をあて、


「近くを徘徊されるだけでも目障りですの! それに他人様の家の前で抜身を振り回すなんてどういうつもりですの。見た人が都警に連絡したら面倒ですの」


「君と会うためのチャイム代わりと思えば、前科の一つや二つ」


 飛燕は脱力して肩が下がり、ぐしゃぐしゃの線が頭上に浮かべ、


「話になりませんの」


 燕と天見の手を取って道場の中に引っ張り入れ、ドアを閉める前に顔だけ出し、


「しつこい男は嫌いですの!」


 手荒にドアを閉めた。飛燕は一仕事終えたように、両手を叩きながら振り返る。


「姉さん、余計なものが入っています~」


「余計なものって」


 燕に首根っこを掴まれている天見は大きな汗を流す。


「あら? でも、その人は燕のお友達の……水鏡天見君じゃありませんの?」


「はい、そうです」


「ほらやっぱりですの。燕の手紙に妖精を連れているガジェットを持たない男の子って書いてありましたから、すぐに分かったですの」


 顔の横で手を重ねてニッコリ笑う。和やかで温かな雰囲気を持つ飛燕に、天見とベリメスはホッコリとした印象を持つ。


「それでも道場に入れるのは反対です~。水鏡さんの視線は歩く著作権法違反。関係性を別にしてキッパリと線を引くべきです~」


「水鏡天見!?」


 新たな驚愕の声に、天見は燕につままれたまま振り返る。


 そこにいたのは、短い赤髪の少年。大体中学生ぐらいだろうか。こちらは刀ではなく木刀を持っている。


「もしかして、弟かしら?」


鍔蔵(つばくら)で~す」


 ベリメスと燕の話を耳で聞きながら、天見は向けられる視線の強さに戸惑って疑問符を浮かべる。


「知っているぞ、ピーコー! 僕は貴様のような悪辣な行為を繰り返す者を野放しになどしない!」


 ビシッと木刀の先で宣言され、天見は燕に「手紙で何を書いたんだ、こいつ」とばかりのジトッとした視線を送る。


 今度は燕が天見から手を放して素知らぬ顔をしている。


 天見はまたピーコーとしていちゃもんをつけられるのかと重たいため息をつく。


 だが…………鍔蔵は左手を強く握ってわななかせ、


「燕姉さんと同室だと……しかも、他にも女性がもう一人……」


「私もいるんだけど」


 ん? と首をひねる天見の肩で律儀にベリメスがツッコミを入れる。


「どうせ二人が寝静まったら夜な夜な不埒なことをしているのだろう! いや、絶対にしている! 当たり前のことだから僕にも分かる! 燕姉さんや他一名と生活を共にして、青い性衝動を我慢出来るはずがない! 下着を盗んだり、体に触れたり、あまつさえ胸を揉んだりしているだろう! 絶対だ! この痴れ者が! 同じ男としてうら恥ずかしいわ! 僕が天に変わって貴様の性根を叩き直してくれる!」


 途中で本音っぽいものがカットインしかけたような気がしたが、まさか今さらそっちのことでやっかみをしてくる人がいようとは!


 天見が「誤解だと」口を開く前に鍔蔵が木刀を振りかぶって飛び掛かってくる。


「チェスト~!」


 中々に心がこもったいい気迫だった。

 キャラの顔見せのため、少し長くなっちゃいました。ここで切らないとまだ長くなるので。

 はじめ弟の鍔蔵は燕っぽくしようと思いましたが、似たような奴を増やしてどうすると思い直して変えました。マジメ君からあの惨状……私の想像の被害者です。

 あと、天見の制服は身かわしの服のように回避率が高くなるので、今回は着てもらっています。まあ、無くても中々の回避率ですけど。

 それでは次回予告。燕の家族と顔合わせを終え、どうにか大会会場までやってくることが出来た天見。しかし、そこで驚きの事実が待ち受けている。

 次回の更新は来週の金曜日予定です。

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