表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

試合直前

 申し訳ない。一気に書こうと思ったのですが、思ったよりも時間が取れませんでした。ちょっと短めです。

 土の曜日。


 本日開催される魔法戦を見るため、多くの人が会場に詰め掛けていた。町から離れた平地にある円形の会場で、屋根はない。雨天決行予定だったが、幸い天気に恵まれた。


 開催を知らせる花火が上がり、会場の外では出店が立ち並び、大道芸が待ち時間を盛り上げる。


 観客席の前列に燕やシャロン、セリアの姿もある。あと、あるゾーンでは「ピーコー滅」「ピーコーに天罰」など、心燃え上がるメッセージが並んでいる。そして、どこから聞き知ったかは知らないが、「必勝! ファイナ様」の旗の下には、見知ったどこその親衛隊がいる。


 招待席にいるお客様に対しては、ファイナの親戚連中がめかしこんでホストをしていた。



 控室の外にいる著作権委員に連れられてきたフリューゲルは、気まずさから黙って座っていた。それと言うのも、彼が怪我を負わせたネイロが控室にいるからだ。


 手当てが早く適切だったためか、ネイロの調子は悪くなさそうだ。血色は良く、動きにもぎこちなさはない。静かにお茶をコップに注ぎ、フリューゲルに差し出す。


 コップを受け取ったフリューゲルは、気まずさから喉が渇いていたのですぐに飲み干した。それで幾分か落ち着いて、


「無理に付き合わなくてもいいよ」


「……どうしてそのようなことを言うのですか?」


 その返しは予想外だったのか、フリューゲルは言い辛そうに口元に手を当てる。


「僕は……まあ、ピーコーに負けたくないと思い、是が非でもファイナを手に入れようと君をないがしろにした。それは今思えば、君の方から『連理の枝』解消を申し出られても仕方がない行いだった思う。パートナーから見放されるなんてグリューテイルに連なる者として恥でしかないが、甘んじて受けるべきだと思う」


 ネイロはフリューゲルの前に立つ。彼は躊躇いがちに見上げて彼女の表情を窺うが、よく分からなかった。女性に対して分け隔てなく優しいフリューゲルは、当然パートナーのネイロに対しても優しく接していた。だが、『連理の枝』に関することは全て彼が決めていて、後ろをついてくる彼女を気にしたことなんてあまりなかった。


 ネイロの表情を読み取れない今になって、フリューゲルは自分勝手だったことを自覚した。


「よろしいでしょうか、フリューゲルさん?」


「ああ、構わない」


 観念して、フリューゲルの頭と肩が下がる。ネイロの目に映る彼はしょんぼりという表現がピタリと当てはまっていた。随分とレアなものが見られたと彼女はクスリと笑みをこぼさず、


「潔く自分の非を認めているつもりなのでしょうけど、全然なっていません」


「え」


「フリューゲルさんが何をなさっているのか、わたくしにはよく分かりません」


 フリューゲルはフリューゲルで、ネイロってこんなに頭が悪かったか? と思った。


「自分の行いを反省し、君に対して謝罪をしている」


「そうでしたか。わたくしにはいつもの場所から指示を出されているようにしか見えませんでした」


 そこでネイロは誰にも分かるような怒ってますよ。という表情を浮かべた。


「謝罪に必要なのは誠意と態度です。そんな風にこれだけ下手に出てやっているんだ。君に選ばせてやろうとふんぞり返られては、謝られている気は全くしません。この期に及んで……最後になるかもしれないのに、わたくしと視線を合わせてもくれないのですか」


 語気を強く言われ、フリューゲルは混乱していた。ネイロが何を不満に思って怒っているのか分からないのだ。彼女は誠意と態度と言うが、自ら非を認め、判断を彼女に任せる誠意を見せ、彼女の決断を受け入れる態度を示した。


 キチンと謝っている……のだが、フリューゲルの胸にモヤつく、何か。


「こ、こちらとしては、ネイロのことをおもんばかって……」


「ですから」


 いい加減、ネイロの眉尻が上がる。


「百の言葉を並べ立てるよりも大事な一言があると思うのですが」


 そこまで言われて、ようやくフリューゲルは分かった。


 膝に手を置き、上体を傾け、口を開く。


「ごめんなさい」


 ぎこちなさ満点だった。ついぞ言ったことがないのだろう。それでも、ネイロの眉から力が抜けた。


「はい、分かりました」


(? 分かりました?)


 顔を上げたフリューゲルは面白い程キョトンとしていたが、ネイロはすでに彼の前から離れて、炎を模したブローチ型ガジェットの確認をしていた。


「この試合は『連理の枝』同士の試合ですから、パートナーのどちらかがやられたら負けです。ですから、こちらの狙いとしてはグリューテイル様よりも水鏡という方を狙った方がよろしいかと思います」


「ちょ! ちょちょっと待って!」


 すんなり今日を始められて、フリューゲルはうろたえた。彼にしてみれば、そんなことで終わっていいの? だ。


 ネイロはわたわたと腕を動かすフリューゲルを見て、何を踊っているのだろうと思いつつ、


「フリューゲルさんが勝手になされたあの秘技ですが……」


 ピタリと、フリューゲルは止まった。


「あの秘技は簡単に出来るものじゃないと教えて下さいました。パートナー同士がお互いに認め合い、常に相手を近くに感じているという下地が必要だと。つまり、フリューゲルさんはグリューテイル様を求めていますが、『連理の枝』としてはわたくしの一方通行ではないと分かりました」


「それは当然だよ。新たなパートナーが決まるまでは、僕のパートナーはネイロだ。君しかいない」


 フリューゲルはよくよくグリューテイルに連なる者だった。プライドが高く、『連理の枝』に対する思い入れはそのプライドより強い。でも、その中に彼自身が入っているから、変にこんがらがることもある。


 ネイロの口元に微笑が零れる。


「ですから、謝ってもらいましたし、いいんです」


「いいのかい?」


「いいんです」


 それが言えるぐらい、ネイロはフリューゲルの近くで付き合い、彼なりの優しさに接してきていた。この試合が最後かもしれないと思えば、くだらないわだかまりを持ったままではもったいない。


「さあ、切り替えてください。わたくし達を応援してくれる方は多いのですから」


「……正義の味方の期待に応えないとな」


 二人とも、今日の役割を察している。だから、本気でファイナと天見を倒しにいかなくてはいけない。



 先に会場へ入ったのは、フリューゲルとネイロだった。割れんばかりの歓声に、二人は笑顔で手を振った。それが一通り治まると、次にファイナが入場してきた。


 さすがは地元で有名なグリューテイル家の長女。一部の熱狂的なファンが鳴り物まで用意していたので、仕込んでいたサクラの必要もないほど盛り上がった。


 そして、


『全ての魔法使いを敵に回すコピー魔法使い! その悪道は留まることを知らず、ついには誉れあるグリューテイルの『連理の枝』をその毒牙にかけた! まさに悪魔コーピストレスの再来、水鏡天見!』


 アナウンサーのめたくその呼び込みで最後に登場したのが天見だ。用意された衣装は黒の布地に金糸で大輪の花と虎の刺繍が入ったものだ。


「笑えるほど似合っていないわね」


 肩に座るベリメスに言われなくても分かっている。着替え終わった天見を見たあのファイナが、堪えきれず口元を抑えて視線を外したほどだ。


 入場して歩くと、随分な歓迎だった。ブーイングだけでなく物まで投げ込まれた。アナウンサーが物を投げ込まないでくださいと注意をしたが、止まるものでもない。


 ブーイングや届かないものを投げられることぐらい構わなかったが、この中に燕やセリアがいると思うと、気恥ずかしかった。あとで絶対に服装のことをからかわれる……と、天見の足が止まった。


 視界の端に映ったものを中心に入れると、そこに見慣れた親衛隊がいた。まさか奴らにそれほどの情報収集能力があるとは思わなかった。侮ったツケは、夏休み明けの広報誌でこの姿を学園中にさらされることだろう。


 頬がひくついた天見の頭に、ポーンっと軽いボールが当たった。


 天見は「〝拡大〟コピースタート」と呟いて、巨大な火球を作って特にうるさい観客席にぶち込んだ。当然それは著作権フリーのコピーで、中身がスッカスカだから全く威力は無い。が、インパクトはあった。


 ブーイングはさらに激しくなり、魔法まで撃ちこまれた。さすがにその魔法を撃ちこんだ人は警備員によって退場させられていた。


 天見はもう当たらないように花道を走り、一段高くなった円形のリングに軽やかにジャンプをして下り立った。まあ、やけくそ気味の行動ではあった。


 そして、ファイナの隣でフリューゲルとネイロに対峙した。


「どうかしたのか?」


 隣に来た天見の頬が赤いのでファイナが聞くと、


「聞くな」


 素っ気なく答える天見の肩で、ベリメスが面白そうに足を遊ばせていた。


 気を取り直した天見は正面を改めて見て、


「どうも、はじめまして」


 頭を下げず、笑顔も見せず、初対面のネイロに挨拶をした。その挨拶もブーイングで観客には聞き取れなかっただろう。そうでないと挨拶もしなかったはずだ。


 それを見て、ネイロは言った。


「極悪人ですね」


「まったくだ」


 同意したのはファイナだった。でも、すぐに「だが」と付け足した。


「私には必要な『連理の枝』だ」


 さすがにそこまでハッキリと言われると、フリューゲルも凹む。


 この騒音による防音も長くは続かないと分かっているネイロは、ストレートに尋ねる。


「こういう場を設けたということは……その席は、奪い取れるものだと解釈してよろしいのでしょうか、グリューテイル様?」


「コピー魔法使いの毒牙にかかった私を魔の手から救出してくれるのだから、そうなるだろうな」


 ファイナは微笑んで「分かりやすいだろ」と言いのけた。そのスマイルは、フリューゲルが見たこと無い程楽しそうだった。


 そして、ブーイングが治まり始めたのを見計らって、勝負の幕が開いた。

 天見に向かって魔法を放った観客もサクラです。見せしめではありませんが、試合に水を差されるわけにもいかないので先にやっといた訳です。

 次の更新で一気に試合を書ききるつもりです。

 次回更新は来週の金曜日です。今回はここも簡単で失礼します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ