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説得

 そろそろ終わるはずなんですが、書いては直し、書いては直しをしているせいで、まだ完成していません。自転車操業が続きます。

 金の曜日。


 ファイナは朝から著作権委員本部を訪れ、三人それぞれから動機を聞きに行っている。付き合いで一緒に来た天見は、三人を刺激するわけにもいかないから、崑崙の所に顔を出していた。


「お世話になったみたいで」


 昨夜、自分がいない間の経緯をファイナから聞いた天見が崑崙に言った。


「燕に巻き込まれただけね。礼なら燕に言うね」


 崑崙の素っ気なさに、天見は苦笑してしまう。


「燕の著作権法に関する熱意は、ホントに恐ろしいものがあるな」


「その横でよくコピー魔法を使うなって感心するね」


「コピー魔法の美学一つ、コピー魔法が必要な場面では躊躇なく使う。斬りかかれたぐらいで怯んでらんないって」


 朗らかに笑う天見も負けてないなと、崑崙は頭に大きな汗を流す。


「モドリス~。どうして、あの三人はチップの出所があやふやなのかしら~?」


 ベリメスが頬をヒクヒクさせ、腕組みして問いただしているが、モドリスはミヤの頭に寝転がって「うるさいな~」とばかりに嘆息する。その態度でベリメスの頭に怒りマークが張りつく。ミヤは頭の上で神々の戦いが巻き起こるかもと、目をバッテンにして覚悟する。


「あなたは私達の味方なのよ! どうして天見を貶めるようなことに手を貸したのよ! どうせあなたのことだから、絶妙なタイミングで心の隙間に入り込むようなことをしたんでしょ!」


「まあまあベリメス、落ち着いて」


 止める天見を見て、モドリスは「へ~」と意外そうに呟く。


「あなたは文句を言わないの? あなたの大事な人の魔法を私がもてあそび、ばら撒いたのよ?」


「……言えないな。俺が悩んでいた問題が、これで何とかなりそうなんだから」


 キョトンとするベリメスとミヤ。崑崙はそばで「くくく」と笑う。


「あなたごときが上手く扱えるかしら?」


「黙らせてみせるさ。それしか手がないんだからな」


 天見とモドリスは視線を合わせて、同種の笑みを浮かべた。



 本部の玄関で、天見とベリメスは浮かない顔のファイナを出迎えた。


「どうかしたのか?」


「不可解だった。何やら私が変わってしまったとか何とか……責任の所在を私に押し付けるにしても、もう少しまともな言い訳が出来ないものか」


「変わったかしら?」


「変わらず横柄だと思うけど」


 無言で天見に軽いパンチをしてから、


「とにかく言われた通り許可は取ったし、同意も得られた。やるぞ」


 歩き出したファイナだが、天見は踏み出さなかった。彼が来ていないことに気づき、ファイナは立ち止まって振り返った。すると、彼女が声をかける前に、


「本当にいいのか?」


 無表情のファイナの目が、少し細められる。


「見くびるな。すでに納得ずくだ」


「グリューテイルを敵にしてもか?」


「してもだ。それに、ただ敵になるわけではないのだろ?」


 それでも天見は、手を頭の後ろにやってジッと考えて動かない。


 ファイナは天見に近づかず、そのままの場所で腕組みし、


「……水鏡」


「ん?」


「水鏡が私の『連理の枝』でよかった」


 ここは人が行き交う往来。そして、グリューテイルのお膝元であるスペリオルの住人は、『連理の枝』の意味を知っている。


 気恥ずかしさで頬を染めた天見は、足早にファイナに近づき、周囲の視線から逃げるように彼女を引っ張って道を進んでいく。


「そういうこと、ズバリ言うよな」


 日本人感覚の天見は、ちょっと苦手だった。


「本当のことだ」


 ファイナも自らの足で進み出し、天見の隣に並ぶ。


「水鏡を取ってグリューテイルを捨てるか、水鏡を捨ててグリューテイルを取るか。それ以外の選択肢を考えてくれる。正直な話、私だけではどうにもならず、おそらく後者を選択していただろう」


「俺だけでもどうにもならなかった。思いついた所で、実現できる力がなければしょうがないだろ。だから、まあ……お互い様だ」


「天見、照れてる?」


 肩に座るベリメスに頬を指さされ、天見は余計なことを言うな的視線を向ける。


「たまには素直な気持ちを口に出さないと、相手も不安になるわよ」


 何も言い返さない天見はムスッと唇を尖らせる。そして、「簡単に言えたら苦労しない民族性なんだよ」とボソッと呟いた。


「だが、明日で本当に大丈夫か? 会場は翁に頼んで手配済みだが、肝心の人が集まるのか?」


「頼んでもいないのに下地を作ってくれた人がいるからたぶん集まってくれるよ。でも、それなりの規模の宣伝は必要だけど……」


「ならば、それは任せてもらおう。スペリオルこそ、グリューテイルのホームだ」


 と、ファイナが進路を変えた。


「あれ? そっちなの?」


「こっちに新聞社がある」


 ファイナの思いきりの良さに、天見とベリメスは頬を強張らせて笑った。



 号外を握り潰してファイナの屋敷へブルドマンがやって来たのは、夕方前だった。口を真一文字にし、足早に進む。冷めた表情はいつもより冷め、ただならない雰囲気から誰も近づけない。


 礼儀(ノック)も無く手荒に開けられた部屋には長椅子に並ぶ親族の姿があった。そして、中央に座るのがファイナと天見。


 ブルドマンは他を無視して、天見と視線を合わせる。


「殊勝にも自ら身を引いたのかと思ったが、臆面もなく戻って来たのか」


「まあ、必要とされているようですので」


 余計な話はせず、ブルドマンはツカツカと前に行き、長椅子の前にある一人掛けの椅子に腰かける。ザッと向かいにいる親戚連中に目を走らせるが、誰も視線を合わせようとはしなかった。


「私も暇ではない。手早くすませよう。結論から言う。バカか貴様。中止しろ」


 バサッとブルドマンが投げ捨てた号外の紙面には、ファイナ=グリューテイルが明日魔法戦の興行をすることが書かれていた。しかも『連理の枝』として複人戦だ。


 天見は取りつく島もない物言いにも怯まず、


「残念ですけど、もう企画は動き出しています。チケットも驚くほどのスピードではけていますので、突然中止してしまえば色々な信用を失ってしまいますよ」


「明日などという急な話ではロクな場所も確保できないだろうし、会場の設営も貧相なものにしかならない。グリューテイル家長女の顔見せ興行には相応しくない」


「そんな堅苦しく考えないでください。この前クレストエルクでやったようなファイナの実力を見てもらうだけです。何やら『双爆輪唱』の劣化コピーが町中で騒ぎを起こしたらしいじゃないですか? 悪いイメージがつく前に本物を見てもらいたいんです。それに会場の心配なら無用です。数日前からファイナの要望で翁さんに準備してもらっています。完璧で華やかというほどではないらしいですけど、問題ないレベルのものには仕上がるらしいです。翁さんの判断を疑いますか?」


 ブルドマン、巡らす思考の中で舌打ちをする。無知である天見の拙さを攻めるつもりだったが、重鎮である翁へ責任がシフトされてしまった。あの人に限って不手際があるはずもなく、あの人がゴーサインを出されているなら反対するのもはばかられる。


「姫の魔法を見てもらうのはいい。試合形式にすればその良さも一段と伝わりやすいだろう。だが、なぜ貴様との『連理の枝』で試合が行われる。貴様と姫の『連理の枝』は解消されたはずだ」


「勝手に決めつけないでもらいたい。私の『連理の枝』は水鏡だ」


 聞き分けのない子の話を聞くように、ブルドマンはため息交じりに顔を横に振る。


「姫、あなたにはグリューテイル家としての自覚が無いのですか」


「ある」


「ならば」


「あった上で、私の『連理の枝』は水鏡だ」


 あまりのことに、ブルドマンは言葉を続けられなかった。意固地とかではなく、もうファイナには話が通じないと思った。自分の考えを絶対視して、他者の考えを受け入れることができない。こういう相手には正論が通じない。


 しかめっ面で口を閉じたブルドマンを見て、


「でも、他の皆さんは俺がファイナの『連理の枝』として出ることに文句はないみたいですけど」


 確かに、ファイナの宣言に文句を言ったのはブルドマンだけだった。前なら一斉にがなり立てたはずなのに。


「文句を言おうものなら、自分達が推薦した者や子どもがピーコーにさせられかねないからだろ」


 この場にいるのに、終始押し黙っている親戚連中が合わせる顔がないとばかりに下を向いている。


 フリューゲルら三人が『双爆輪唱』のコピーを使って捕まったことはもう知られている。大事になのはその先だ。著作権法違反は基本的に親告罪だから、著作権法第八条の観点から違反者になるかならないかは、全て著作者のファイナのさじ加減にかかっている。もし違反者とされれば、ピーコーのくくりに入れられる。


 親の顔に泥を塗る軽率な三人の行動だが、グリューテイルに連なる者としてピーコーになどさせるわけにはいかない。


 そんなことを考えているのだろうと、ブルドマンは並ぶ連中に侮蔑の視線を向ける。彼の考えでは、三人を庇い立てする意味がない。本当にグリューテイル家のことを思えば三人は斬り捨て、天見につけ入る隙を与えないことが大事だ。今確実に求められることは、天見の排除なのだから。


「そんな脅迫じみたことしていないですよ」


 天見はニッコリと笑う。


「皆さん物わかりがいいので、来てからずっとだんまりです」


「私も不甲斐なさに呆れていい加減だんまりを決め込みたい所だがな。黙っていてはピーコーをのさばらせるだけだから、どうしようもない」


「今回の企画に反対しているのはブルドマンさんだけなんですけど」


「それがどうした? だから迎合しろとでも言うつもりか?」


 ツララで突き殺すような視線を、ブルドマンは天見に向ける。ファイナよりも格段に年季が入った視線に、天見は笑顔で固まったまま冷たい汗を流す。


「自分が正しいと思ったことを貫くのに、他者など関係ない」


「……大抵の日本人なら、ここであわせてくれるんですけどね」


 天見はテーブルに肘をつき、体を前のめりにしてブルドマンの視線にわずか近づく。それだけで笑っている歯の隙間から、白い息が出る気分だった。


 歯の根が合わなくなるようなことだけは意地でもせず、一回しっかり噛み合わせてから、


「ブルドマンさん、それでは本題に入りましょう」


「本題だと?」


「ズバリ、商売の話です。今回俺がファイナの『連理の枝』で試合をするメリットを教えます」


「…………」


 臆することなく食い下がる天見の気概に、本音を言えばブルドマンは悪い気がしなかった。だが、それと天見の愚行を見逃すのは別問題だ。容赦もしなければ、手心を加える気もない。


「いいだろう。公の場でグリューテイルの長女とピーコーが『連理の枝』だとさらすデメリットを超えるメリットを提供できるなら、今回の件を考えてやろう。だがいいか? 一度公言してしまえばそれは記録にも記憶にも残り、長期的な損失を生む。今回の試合で多少利益を上げることをのたまった所で、天秤はピクリとも動かないぞ」


「分かっています」


 対面する二人のそばにいる人達は、場の息苦しさを感じていた。当事者であるはずのファイナですら入り込めず、ブルドマンは彼女の意見を窺う気配りを忘れるほど、天見に集中している。


「今回の試合の目的は『双爆輪唱』の本物を見せることと、グリューテイル家長女の『連理の枝』のお披露目だと思われるかもしれませんが、それはついでです」


 天見はブルドマンが捨てた新聞ではなく、事前に自分で用意していた新聞を取り出して広告の場所を広げる。


「今回、急で短期の販売にも関わらずチケットは売れています。翁さんはこの調子なら満席になると言っています。それはグリューテイル家であるファイナの雄姿を観たいというお客さんだけじゃないからです。広告に大きく載せたように、今回のテーマは『ジャッジメント』。つまりファイナは主役ですらない」


 天見は横に並ぶ親戚に顔を向け、


「皆さんのご協力がなければこれほどお客さんを集めることはできなかったでしょう。ありがとうございます」


「ワシらは何もしていないぞ」


 慌てて関係を否定する親戚に、天見は砕けた笑顔を見せる。


「俺の噂を広めて、けしかけてくれたじゃないですか」


「……反ピーコー感情を利用した集客か」


「この町には、俺がやられる姿を観たがっている人が多いと思っていました。ちょっと予想以上でしたけど……暴れ過ぎたかな?」


「『天罰』とは上手いテーマを決めたものだな。だが、反ピーコー感情を煽るだけの集客だけでは割に合わないぞ」


 天見は「分かっています」と新聞をしまい、


「俺は言いましたよね? ファイナは主役じゃないと。では、この試合の主役は誰だと思いますか?」


「誰も何も……」


 親戚連中は天見だろっと考えるが、ブルドマンだけは口元に手を当てて考え、


「…………姫の対戦相手は誰だ?」


 そう聞いてくれるのを待っていたかのように、天見は破顔する。


「俺達の対戦相手は『連理の枝』フリューゲルに頼みました。ファイナが強引に引っ張り出してくれました」


「なぜ、フリューゲル?」


「プロではないのか」


「学生同士の個人的な試合で本当に集客が見込めるのか?」


 ざわつき出す周囲の中、ブルドマンは深く考え込む。そして、天見の魂胆を推測した冷徹な視線が射出される。それにさらされている天見は威圧と緊張で芯から震えそうになる。


 天見は震える唇から息を吐き、体が震え出さないように地にしっかり足をつけて踏ん張る。


「これは、俺とファイナだからこそ実現できることだと思っています」


「正気か?」


「正気です。こうすれば『連理の枝』全体が活性化し、善悪を明確化することで人の興味も引きやすくなるはずです。それに、ファイナのクライマックスもとてもシンプルにすることができる」


 ブルドマンの目が細められ、その視線が久しぶりに天見の横に動く。


「姫。姫はちゃんと理解しているのですか?」


「――ッハ」


 声を出そうと口を開いたファイナは、喉が掠れていたのに気づいていなかったようだ。


 テーブルにあるコップの水を飲んで喉を潤してから、


「当然だ。それに私は水鏡を『連理の枝』にした時から覚悟を決めている」


「そうですか」


 アッサリとしたもので、ブルドマンは椅子から立ち上がる。そして、前に座る天見を見下ろす。


「物足りないと思われて捨てられないよう、精々ガンバルことだな」


 久々の「物足りない」は、心象のファイナの古傷を刺激した。


 ブルドマンは背後を振り返って、ドアの横の定位置にいる翁へ、


「翁、資料を見せてください。細部を詰めます。公の場でグリューテイル家の長女が魔法戦をやるのです。落ち度があってはならない」


 そうしてスタコラと去ってしまった。翁は「やれやれ」と笑いながら、杖をついて出て行く。


 ドアの外で待っていたベリメスが天見の所にまで飛んできて、


「終わったの?」


 その言葉でみんな「ああ、終わったのか」と今さらながら思った。

 天見が知恵を絞って頑張った回でした。

 ジャッジメントが「天罰」訳になるのは間違いよりの訳ですが、「ディバインリトリビュション」?だといまいちピンとこないので、まあいいかと思って使いました。勉強が苦手の天見が間違えたわけではありません。

 さて、次からラストバトルになるわけです。お相手はフリューゲルとネイロの『連理の枝』になります。

 では次回予告。なんやかんやで勝負の場にまで持ってくることができた天見とファイナ。残るは「っぽく」戦って勝利するのみ!

 次回更新は来週の金曜日です。

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