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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
水鏡天見を探せ
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襲い掛かる天見

 ピエルナは疲れていた。


 体力の消耗からじゃない。目の前にある作業場という、立派な二階建ての一軒家を見て疲れたのだ。


 こんな潮風にさらされる砂浜近くに建てるようなものじゃない。だが、居心地は良さそうだ。風通りは良さそうだし、広そうだし、夜勤だとしても寝る場所には困らないだろうし。


 ピエルナは思わず小声で「金持ちめ」と分かりきったことを毒づいてしまう。


「で、どうしてここに水鏡がいるのかという結論に達した経緯を、私はまだ聞かされていないのだが?」


「…………え? 別に天見君がここにいれば、そんな細かいことはどうだってよくない?」


「……………………それもそうだな」


 納得したファイナを見て、ピエルナは安堵のため息を隠す。こういう所は脳筋も助かるな~としみじみと思う。


 二人はとりあえず家の中に入る。


 夜勤の者にことわって、中を捜し歩く。


 一階は広いワンフロアで、色々な道具や何かの作業をする場所など、大体で区切られて整然としている。人が出入りする作業場だから、人が隠れられるような場所は無い。


 それで二人は二階に行く。


 二階は部屋数が多く、作業員の寝室や物置など部屋数が多い。


 一つずつ部屋を確認して行こうとしたら、廊下の先に人影があった。


 薄暗い廊下でファイナ達が目を凝らす。


 小柄な男の肩に、小さな妖精が一人。


「水鏡!」


 ファイナが叫んで駆け寄るが、天見は身を翻して廊下の奥に進み、非常口から外に出た。


「水鏡?」


 意図が分からない行動にファイナの足取りが緩んだが、


「追うわよ、お姫様!」


 ピエルナに後ろからせっつかれて、再び駆け出した。


 非常口から外に出ると、天見は浜辺でたたずんでいた。


 二人は非常階段から浜辺に下りて、天見の前に行く。そして、さらに近づこうとするファイナをピエルナが止める。


 ファイナがうるさく言う前に、


「様子がおかしいわ」


 ピエルナが警戒する。


 ファイナが訝しんでいると、天見の肩にいるベリメスが赤い本を開き、


「ナンバーツー、インストール」


 彼女の声に反応して、天見のモノクルのフレームが赤く点滅する。


「コピースタート」


 天見の左手の指輪が、渦巻くように〈粒子〉を集める。


「二頭一対の理に爆砕せよ」


 その場でジャンプした天見の両足が輝き出す。


「双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」


 着地した瞬間爆砕し、細かい砂をまき散らして天見が打ち上がった。


「これは……水鏡が思いついた活用法! だが、体に負担がかかるから、加減が出来ない水鏡には向かないと言っていたのに!」


 目に砂が入らないよう腕でガードし、ピエルナは頭上を見上げる。夜空で姿を見失いかねないが、指輪が〈粒子〉を集める輝きで天見の場所が分かる。


「コピースタート! 暗中で巡り会った輝きを胸に、開闢の決意!」


 その文言が聞こえてきて、すぐさまピエルナとファイナはその場を離れる。


「覚醒の恵風! Ⓒセリア=フラノール!」


 飛んできたブーメランが砂浜で留まり、球形に弾けた。


 吸い込まれないよう踏ん張っていた体が、弾けた暴風に押されて前方に吹き飛んだ。


 ファイナもピエルナも砂浜がクッションになって痛みはなかった。細かい砂を体から落としながら起き上がり、着地した天見に視線をやる。


「所詮はピーコー、ついに本性を現したわね」


「それはどういう意味だ」


 ファイナの強く問い詰めようとする視線にも動揺せず、ピエルナは冷徹に佇んでいる天見を指さす。


「奴は自らのコピー技術を存分に使うため、東方についた! 迎えに来た私達を攻撃するのが何よりの証拠!」


「東方だと?」


「臨時著作権管理執行委員、ピエルナ=カノール。水鏡天見流出阻止のため、生死を問わず強制拘束する!」


 ピエルナの名乗りに、ファイナは心象に驚きを隠す。


「臨時著作権委員だと? つまり、貴様の目的は初めから水鏡であり、私のパートナーになるつもりはなかったということか」


「別に全くなかったわけじゃないわよ。だって、先にあなたの親戚から高額依頼料の打診があって、次に著作権委員から水鏡天見の動向を見守れっていう依頼が来たのよ。掛け持ちできる一石二鳥の仕事だから両方受けたのよ」


 ピエルナは簡単に説明して、籠手型のガジェットにチップを入れようとしたが……その手をファイナが掴んで止めた。


「なにか?」


 いつもとは違い、ピエルナは真剣な目だ。ファイナは無表情ながら戸惑い、


「……どうも水鏡の様子がおかしい。ここは私に任せてもらおうか」


「おかしいのは分かっているわよ。だから倒そうとしているんじゃない」


「そういうことではないのだ。どこがどうと言うわけではないのだが……」


 胸のあたりに何かが溜まっているような気持ち悪さを感じて、すんなり受け入れられない。


 ピエルナはビシッと天見を指さし、


「好き勝手にコピー魔法を使うピーコー。あれが彼の本性よ」


「う~ん……そう言われてしまうと…………いや待て、テンションが低い! 水鏡ならばああいう場合、狂喜しながら魔法を使うぞ」


「今までお世話になった人を裏切っているんだから、良心の呵責から喜べなくっても仕方ないんじゃない?」


「水鏡ならたとえ血を分けた肉親相手でも、魔法勝負なら喜ぶに決まっている」


 二人はその場から飛び退いた。すぐ後に、二人がいた場所を水の騎士の剣が薙いでいった。


「お姫様が引き受けてくれるなら私は楽が出来るからいいけど、勝てるの? 一度彼に負けているっていう報告を受けているんだけど」


「だからこそ、負けっぱなしは性に合わない!」


 ファイナはガジェットにチップを入れ、


「一切を通さぬ炎の断絶」


 彼女が腕を振るうと、迫りくる水の騎士の進路上に火の円が描かれる。


朱雀宝門流(すざくほうもんりゅう)寂静火壁(じゃくじょうかへき)・焔!」


 水の騎士をせり上がった火の壁に閉じ込め、その間にチップを入れ替えたファイナは文言を唱え、


「朱雀宝門流、紅雨!」


 数十発の火球を唯一開いている頭上から叩きこんだ。火の壁が下がると、水の騎士の姿は蒸発してなかった。


「さてと、水鏡。真剣勝負だ」


 ファイナはあらためて天見に視線をやって語りかけるが、彼も彼の肩にいるベリメスも反応しない。


 そのことに心象のファイナは少し寂しさを覚えるが、当のファイナは構わず、


「先に言っておく。私は水鏡の弱点を知っている。それも致命的なやつだ。それでもやると――」


「ナンバーツー、インストール」


 ベリメスの棒読みに合わせて、天見のモノクルが赤く点滅する。それを見て、思わずファイナは嬉しそうに口元を緩ませる。


「私には火の耐性があるのだから別の魔法を使えばいいものを。前と違い、私は遠慮しないぞ。私の全てで水鏡を倒す!」


 天見は無言で、人差し指を動かして「かかってこい」と挑発する。


 ファイナは飛び出すが、砂浜に足を取られて幾分か機動力が落ちる。


「コピースタート。二頭一対の理に爆砕せよ」


 天見はシュート体勢を取り、輝く右足で思いっきり砂浜を蹴り込む。


「双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」


 巻き上がった砂が爆炎の勢いを伴ってファイナに襲い掛かる。彼女はすぐに避けようと進路を変えたが、放射状に広がる範囲から抜け出すことは出来ず、腕で顔をガードしたものの、散弾と化した灼熱の砂にダメージを受けた。


「くっ! 状況に応じてすぐにこんな使い方をするとは!」


 膝をついていたファイナに近づいた天見は振り上げた左の拳を輝かせ、今にも振り下ろそうとしていた。


「ピエルナが魔法を使おうとしている!」


 グリンっと、天見の首がファイナの指さした方向を向いた。その隙を見逃さず、ファイナは立ち上がりざまに彼のみぞおちに拳を叩きこんだ。


 天見が砂浜の上に倒れると、ベリメスも彼の肩から落ちて砂浜に倒れる。


 動かない天見を見下ろし、ファイナは「ふん」っと腕組みをする。


「ね、ねぇ。今、何だかすっご~く古典的で卑怯な手を見た様な気がするんだけど~」


 近づいてきたピエルナは、戸惑いを隠せない様子だ。


「手っ取り早くすませる一番の方法だ。大体にして、こんな状態の水鏡に勝ったところで達成感などあるものか」


「え?」


 ピエルナが倒れている天見をひっくり返すと、彼は熱に浮かされたような苦悶の表情をしていた。


「これは……」


「とりあえず、起こしてみよう」


 ファイナがぺちぺちと天見の頬を叩くと、彼は呻きながらゆっくりと目を開けた。


「……ぅぅ~、ファイナ?」


 天見は起き上がって額に手をやり、かぶりを振る。


「水鏡、一体何がどうしたのだ?」


 だが、まだボンヤリしている天見はキョロキョロしたり、髪をかいたりして、何だか不安定だ。そして、傍らに倒れているベリメスを見つけて、慌てて手ですくい上げる。


「ベリメス!」


 天見に呼ばれて、ベリメスも苦しげに目を覚ました。


「天見……」


「ベリメス、何があったか覚えているか?」


「え……う~ん……若い男の人と食事をしていたところまでは記憶があるんだけど……」


「確かその食事中、いきなり男が顔の前に手をかざしてきて……何か、意識が……」


 要領をえない二人の発言で、ファイナとピエルナは顔を見合わせ、


「もしかして」


「催眠術か」


 本人達には告げないよう、小声で話した。


 まだ首を捻っている二人は、先程のことも覚えていないようだ。


「で、天見君。その男の特徴は?」


「いや、何か思い出せない」


 天見はそう答えて立ち上がり、周囲を見回す。


「ところで、ここはどこなんだ?」


「ここはグリューテイルが所有している塩田だ。水鏡はあの作業場に閉じ込められていたようだ」


「塩田に……」


「なるほど。どうりで」


 天見とベリメスは感心したように呟いた。


「まあいい、水鏡。それより言っていたあの作戦。肝心な部分は思いついたのか?」


「いや、イマイチだな。どうも決め手に欠けるんだよ」


「ふぅ~ん、天見君。お姫様と何か悪巧み?」


 ピエルナが天見の腕を取って割り込んできて、彼は誤魔化すように体を背ける。


「別にあなたに関係はない」


「あっそ」


 意外にピエルナはアッサリと追及をやめた。


「それじゃ、関係のあるお仕事をしようっかな~。さっきの著作権法違反について」


「あれは忌まわしい催眠術のせいで、俺の意志じゃ」


「水鏡、さっきのことは記憶にないんじゃなかったのか?」


 ファイナの指摘で、会話が途絶えた。冷たい木枯らしが吹いて、沈黙が続く。


 そして、真っ先に立ち直ったのは天見とベリメスだった。


「さて! 夜も遅いことだし、早く帰るか!」


「そうね! まだまだやることはあるんだし! 休息は大事よね!」


 天見とベリメスはそそくさと帰り道らしき方向へ歩いていく。


「分かったか? 水鏡はああいう男だ」


「……よく分からないのが分かったかしら」


 先行く二人の背中を見て、そう呟いた。

 はい、久しぶりに天見がコピー魔法を使いましたね。で、結局前回の後何があったかと言うと、ちょっとまとめてみました。


 天見に伸ばされた青年の手は、肩に置かれた。

「それじゃ残念だけど、僕はお暇させてもらうよ。君のお迎えに顔を見られるわけにはいかないんだ。騒ぎを大きくするわけにもいかないしね。ただ、君さえよければ、一緒に来てほしいんだけど」

 首を振る天見に青年は微笑んで、

「気が変わったならいつでも東方に来てほしい。歓迎するよ」

 手を振って、退室した。

 天見とベリメスは残った食事を食べ終わってから、

「ベリメス。これはチャンスだぞ」

「何が?」

「ここで俺に何をしたのか知る人が誰もいなくなった。というわけで、一芝居うとう」

「すごい悪いこと考えてそうね」


 とまあ、こんな感じです。たまには著作権法を気にせず思いっきり使いたい天見でした。

 それでは次回予告。ついに天見が動き出す。ファイナとの『連理の枝』を継続するためには、親戚連中を黙らせるしかない。強敵となるのはブルドマン。彼を攻略しない限り、先には進めない。

 次回更新は金曜日です。会話が長い話になりそうです。

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