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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
水鏡天見を探せ
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天見の居場所

 さて、いつまでも主人公を放置するわけにはいかないので、お助けに参りますか。

「ねえ、お姫様。著作権委員が著作者のあなたに話を聞きたいって迎えに来たじゃない? 行かなくてよかったの?」


 街路を先行するファイナの背中に、ピエルナが話しかけるが振り返りもせず、


「捕まえたなら急ぐことはないだろ、暇な時にでも行くから檻にでも入れておけばいい。どうして私が向こうの都合に合わせなくてはいけないのだ」


「いや、都合とかじゃなくって、コピーしたチップの照らし合わせとか、故意によるものかどうかの事情とか、著作者として知りたいことが聞けると――」


「そんな奴らの動機や入手経路より私が今知りたいのは、水鏡の居場所だ」


 予想外の答えに、ピエルナは驚いた。彼女もオリジナルの魔法を持つ魔法使いだから、それが自分の生命線になるものだと知っている。魔法を生業とするプロの魔法使いにとっての最優先は魔法だ。


 もし自分の魔法がコピー騒動の標的になったら、粗悪なコピーが出回るのを防ぐため何を置いても解決と再犯防止に走り、関わった奴らは名誉回復の名目で魔法の的にしても気が治まらないぐらいだ。


 それなのに……ピエルナは興味本位でファイナの横に並び、顔を覗き込んだが……、


(無表情で何を考えているのか全く分からない!)


 可愛げがないな~っとピエルナはちょっと残念だった。


 二人が今日一日何をやっていたかと言うと、ホントにただ当てもなく町中を歩き、聞き込みと捜索をしていただけだ。成果はゼロ。あまりにも聞き込みの成果がないので、昼ぐらいにはやめて捜索だけになった。これをブルドマンが知ったら、冷笑とか嘲笑とかすらされず、視界にすら入れられずスルーされるような気がした。


(ホントに無目的にほっつき歩いていただけね)


 それなのに、ファイナは向かう先も分からないのにズンズカと進む。いい加減付き合うのに疲れてきた。


「ねえ、お姫様。一旦あそこで休憩しつつ、作戦会議でもしない? それかもう屋敷に帰らない? そろそろ夕食の時間よね」


 ピエルナが手近の定食屋を指さして提案するが、


「何を話し合うと言うのだ? 心当たりがなく、水鏡の目撃情報すらない現状では、私の勘以外に頼るものなどないだろ」


(勘かい!)


 思わず叫びそうになったツッコミを、ピエルナはグッと我慢した。昼からずっと勘に振り回されていたかと思うと、疲労がズッシリと体にのしかかってきた。トドメにグゥ~っとお腹が空腹を訴える。


 天見がファイナのことをたまに「脳筋」と言っているらしいが、それも納得な力技――いや、強力(ごうりき)技だ。


 ピエルナは力無くポンッと、ファイナの肩に手を置く。


「一回都警か著作権委員に行って、見つけてないか聞きに行きましょう。もしかしたら発見されているかもしれないし」


 ファイナはふと考え、ピエルナの意見に乗った。


 二人は都警に行った後に著作権委員に行き、両方で天見が発見されていないことを知った。


「やはり、勘で行くしかないな」


「マジで~」


 疲れ知らずのファイナの言葉に、ピエルナの顔に斜線がかかった。


「グリューテイルさん」


 呼ばれて振り返ると、綾乃が駆け寄ってきた。夏休みで本部に出向しているクレストエルク魔法学園の保険医で、ファイナはこの町で初対面だが特に気にした様子もなく、


「どうかしたのですか?」


「あなたの魔法を無断使用した人を燕さん達が捕まえたんだけど……」


 綾乃は周囲を見回して、ファイナに声を抑えて伝える。


「その人達があなたの親戚の人なのよ。それで今回のことが家庭内のごく限られた範囲内での騒動か判断が難しいの。だからあなたの意見を聞きたいの。あなたの意見が重要になってくるわ」


 著作権法第八条で定められているが、故意に魔法を模倣したとしても、それが個人的又は家庭内など限られた範囲内の使用ならば罪にはならない。ただ、物を壊したり、人を傷つけたりした罪には問われるが。


 ファイナは無表情で額に手をやり、頭上に疑問符を浮かべる。


「燕達が捕まえたのですか? それに私の親戚とは誰ですか?」


 それで綾乃から簡単に捕まえた経緯と犯人達の名前を聞いた。聞いたらピエルナからため息が出た。


「何をやってるんだか」


 ピエルナの感想に、心象でファイナも同意した。むしろ、それに「情けない」も付け足した。


「頭を冷やさせたいので、一晩ぐらい檻に入れておいてください。それで燕達は?」


「怪我がひどい子もいたから病院よ。魔法で回復できる怪我で、一晩入院して様子を見るらしいわ」


 ファイナは病院の場所を聞き、ピエルナを伴って著作権委員本部を出て行った。



 病室に入ったファイナとピエルナを、三人の視線が迎える。


「ファイナさん?」


「うちの親戚が迷惑をかけたようですまない」


 病室のベッドで入院着を着ているのは、燕とセリア。二人の間で丸椅子に座っているシャロンは、右腕を首から吊っているが私服だ。


 病室に入ってきたファイナに燕は笑いかけ、


「著作権法違反する人を許せなかっただけですよ~。それよりすみませ~ん。ファイナさんのパートナー候補をボコボコにしちゃって~」


「構わない。あの三人はすでに断っている。その程度のことでこんな騒ぎを起こすなど不可解だがな」


「ほ~。とすると~、やっぱり水鏡さんがファイナさんの『連理の枝』ですか~?」


「当たり前だ」


「ま、そうなるような気はしてましたけど~」


 と、燕はニヤニヤしていたが、セリアはちょっぴり残念そうだった。


 ファイナはシャロンに丸椅子を進められたが、それを遠慮して立ったまま。


「三人の治療費はこちらで持つ。バカ達の謝罪が必要なら、然るべき謝罪をさせよう」


「え~っと……コピーされて一番怒るべきなのは、グリューテイルさんなのでは?」


「呆れて怒る気力もない」


 腕組みをしたファイナは無表情だが、心象ではイライラと怒りマークを巻き散らかせていた。


「あ、あの……天見さん、は」


 たどたどしくも自分からセリアは聞いた。ファイナに視線を向けられ、すぐに下を向いたが。


「…………未だ情報はない」


 それで病室は静まり返る。


 ピエルナは少し離れて壁に寄りかかって、思案する。昨日・今日と多くの人を導入して天見を探した。しかし、見つからない。スペリオル全てとは言わないが、ほぼ探しつくしたし心当たりも消した。こうなってくると、もう天見はこの町にいないと判断した方がいいのかもしれない。


 その時、病室のドアがノックされ、燕とセリアに夕食が運ばれてきた。


「あ~、豪華な料理から一転、薄味の病院食ですか~」


 病人らしからぬ不平に、笑いが零れる。


「明日には退院出来るのだろ。屋敷に戻ったら美味しいものを用意する。二人も来てほしい。迷惑料ではないが少しでも礼がしたい」


「そうですか……教会の手伝いがありますので遅くなるかもしれませんが」


「構わない」


 と、ファイナはセリアに視線をやると、彼女は肩をすぼめて俯き、


「わ、私は……大丈夫です。ありがとうございます」


「君には一つたりとも貸しを作りたくないのだがな」


「あ……す、みません」


 なぜ謝ると、心象でファイナは苛立って、当の本人は腕組みしている腕を指でトントンと叩く。


「フラノールさん、こういったお礼は素直に受け取った方がいいですよ」


 先輩のシャロンに促されても、セリアはマゴマゴとハッキリしなかった。


「まさかスペリオルの食事でお塩が欲しくなるなんて~」


 ボソボソと食事をしながら、燕は残念そうに呟いた。


 急に、ピエルナがファイナの腕を掴んだ。


 ファイナは何事かと思ったが、ピエルナは無言で彼女を引っ張って、呆然とする三人を残して病室を後にした。そのまま病院の外に出て、走りながらファイナに言う。


「お姫様! 塩田の方にグリューテイル所有の小屋とか作業場はある!?」


「あるが、それがどうしたのだ?」


「そこに天見君がいるかもしれないのよ!」


 あのファイナの驚きの声が、夜空に響いた。



 山を挟んで裏手にあるスペリオルの塩田は立ち入りがひどく制限されている。上質な塩を取るため海や浜が汚れないよう町の者でも簡単に入ることが出来ず、普段入れるのは職人ぐらいだ。


 町の者ほど塩田へ簡単に入れないことを知っている。


 だからファイナも、ピエルナに並走しながらまだ訝しんでいる。


「本当に水鏡が塩田の方へいるのか? 不用意な者が入れば、ならず者顔負けの職人達が叩き出すはずだぞ」


「そう。地獄から脱獄してきても逃げ込まない場所と言われる、グリューテイル家と塩田に好んで行く奴なんていない」


「人の家を何と心得る」


「だからこその盲点! 町にいないならここしかないのよ!」


 山にある塩田の入口はファイナの名前で問題なかったが、もう夜なので止められた。でも、無理やり通り抜け、舗装された山道を二人は下りていく。


「だが、塩田にある作業場も数があるぞ。それでなぜ、私の家の作業場に水鏡がいると思うのだ?」


「それは何と言うか……乙女の勘?」


 適当に笑って誤魔化したピエルナは、ファイナと同時にブレーキをかけた。


「お姫様」


「分かっている」


 二人は周囲を警戒したが、すでにかなり近くにまで相手の接近を許していた。鬱蒼とする木や夜で見通しが悪かったからではない。ただ単純に、相手が実力者なのだ。


 ファイナは腕輪型ガジェットに、ピエルナは指から手首にかけての籠手型のガジェットにチップを入れ、臨戦態勢を取る。


「ファイナお嬢様ですか?」


 木の裏から出てきたスキンヘッドの男が声をかけてきた。


 上半身裸で筋骨隆々。身長なんて二メートルに届きそうだ。どうやって木の裏に隠れていたんだと疑問符が浮かんでしまうような体躯だ。


「そ、そうだが」


 まだ警戒しつつファイナが答えると、


「おい、ファイナお嬢様だったぞ」


「え? 入口からそんな連絡来てませんけど」


「今来ましたよ」


「あ~、手続き前に来てしまったのか」


「はい、撤収撤収」


「帰るべ帰るべ」


 ぞろぞろと周囲から人が出てきたことに、ファイナとピエルナは驚愕した。二人が感じた気配が一つだったからだ。その察知しやすい一つを囮にして他の気配を隠していたなんて……。


(半端ない)


 噂以上の場所に、ピエルナは大きな冷たい汗を流した。


「すまないが、君達はグリューテイルの職人か?」


 立ち去る一人を捕まえて、ファイナが尋ねる。その人は、最初のスキンヘッドの男だ。


「はい。そうですが」


「最近作業場に、妖精をつれた男が来なかったか?」


「いいえ。最近でしたら、昨日ブルドマン様が貿易相手の東方の方をお連れになったぐらいですね。輸出品の品質を実際に見ていただくとかで。あの方は仕事に厳しい方ですから、あの日は全員緊張しましたよ」


 笑いながらもたらされた情報に、ピエルナは隠れてガッツポーズをする。


「お姫様、急ぎましょう」


「? ああ、分かった」


 と、駆け出した二人の背中に向けて、スキンヘッドの男が、


「あ、もう就業時間を過ぎましたので、夜勤担当の者しかいないのであまりお構いできませんよ~!」


「構わない! 少し確かめたいことがあるだけだ!」


 ファイナとピエルナは再び走り出す。浜まであと少しだ。



 魔法の照明の下で夕食を食べていた天見とベリメス、そして東方の青年。その時、ドアがノックされた。


 天見とベリメスはドアに視線をやっただけだが、東方の青年は残念そうにため息をついた。食べていた海鮮料理の箸を置き、


「残念です。あなたとはもっと話をしたかったのですが」


 青年はノックに応じることなく、


「この手はあまり使いたくありませんでした」


 天見に手を伸ばした。

 というわけで、もうはるか昔の話になりますが、このお話の初っ端にファイナが塩田の説明をして、あんまり人が近づかないよと言ってました。だから、そこに天見を閉じ込めておきましたとさ。

 それでは次回予告~。作業場にたどり着いたファイナとピエルナ。そこでついに天見と再会する。しかし! 彼の様子がおかしい。魔法を使って攻撃してくる天見。ついにピーコーの本性を現したのか? それとも……。

 次回更新は来週の金曜日です。天見っぽいお話になるかと思います。

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