著作権フリー
聖籠燕……1年C組著作権委員。水属性の使い手で明暗月夜流刀剣術免許皆伝。著作権法に並々ならぬこだわりがあり、インセンティブ論の考え方。のほほんとしているように見えて、仕事はマジメだ。天見を監視している。
四人は夕食後に寮の裏手にある練習場に来た。練習場は大きな体育館ほどの広さがあり、今は自己鍛錬や夕食後の軽い運動のため、けっこうな人がいる。
天見は練習場に来るまで眠そうな顔をしていたが、そこで魔法を見た瞬間に覚醒して目を輝かせた。
ファイナは練習場の隅で天見への説明を開始した。
「『連理の枝』の秘技の説明は驚くほど簡単だ。前後もしくは左右から標的に向けて同じ魔法をぶつける」
「……え? それだけ?」
「それだけだ」
本当に簡単な説明に、ベリメスはキョトンとして目をパチクリとさせる。
「同種同威力の魔法って、拮抗する点で相殺するんじゃなかったっけ?」
「相殺させないようにする答えは簡単だ。ぶつかり合う一点にモノを入れればいい。モノを挟むことでお互いの魔法は打ち消し合わず、その一点で――拮抗点と言うが――威力を何倍にも高めることができる」
「それだけでホントに~?」
ベリメスは疑いを持っているようだが、説明を咀嚼するように頷いていた天見は、
「いや、でも理にかなっていると思うぞ。挟まれるっていうことは衝撃が逃げる方向がないってことだろ。それだけでも単純に威力が上がると思うし」
「思うし?」
「理屈抜きで合体魔法って強いものだろ」
断言され、ベリメスの頭に大きな汗が流れた。
ファイナはコホンと咳払いを一つし、
「この秘技の難しい所は拮抗点を標的に合わせなくてはいけない所だ。ずれてしまえばただの魔法による攻撃でしかない。敵に同じタイミングで同威力の魔法を放つ必要がある」
単純な分難しそうだ。直感的にそう思った天見は、真剣な顔で口元に手をやる。
「あと、これは私の魔法だからこその問題なのだが……」
ファイナは右手で拳を作って、左の掌を打つ。
「『双爆輪唱』は火属性に染まった〈粒子〉を体の一か所に集中させて、標的に接触した瞬間爆発させる魔法だ。だから、もし私か水鏡のどちらかが早く標的に拳を当ててしまったら……敵と一緒にパートナーまで爆発に巻き込む」
「シビアだな」
「もう一つ問題があるわ。知っての通り天見の魔法はコピー魔法。習得した魔法と違って威力の増減が全くできずに常に一〇〇の威力を発揮するわ。それほど大きな誤差じゃなければ問題ないでしょうけど、そういうデメリットがあるし、パートナーは天見じゃない方がいいんじゃない?」
コピー魔法ゆえの問題。微調整ができないのは確かにネックだが……。
「いや、ならば私も常に一〇〇の威力を出せばいいだけの話だ。手を抜くのは元より、熱くなり力を入れ過ぎるようなこともしない。任せておけ。私にとって感情を御するなど難しいことではない」
その発言を聞き、天見とベリメスは「は?」と半目になった。
「いや、すげぇ不安」
顔の前で手を振る天見に、ファイナは火球を放った。火球が当たったダメージは小突かれた程度だったが、髪の毛が燃えないよう慌てて叩き消した。
「少し練習したぐらいでできるようにならないだろうが、どれぐらい難しいか実際に体験してもらいたい」
ちなみに燕は説明の段階から壁に寄りかかって座り、騒がしい練習場なのに寝ている。
ファイナが用意している器具は床から棒が伸びていて、胸の高さぐらいに薄い板がセットされている。
「この板はとても割れやすく、どちらかの拳が先に当たったら簡単に割れる。割らないために、両側から同じタイミングで板を叩くのだ」
この器具の意図を理解し、天見は器具を挟んでファイナと向かい合う。ベリメスは離れて二人を見守る。
『せぇ~の』
掛け声をかけて、二人は拳を突き出した。
ファイナの方が先にヒットしたようで、折れた板が天見の方へ飛ぶ。
「……実際は文言と発言を発するため、掛け声をかけられないことの方が多い」
「それでどうやってタイミングを合わせるのよ?」
「アイコンタクトで、だ」
「なるほど。寝食を共にするぐらいじゃないとその域までにはいかないってことか」
ファイナは淡々と新しい板を器具にセットしつつ、心象は不安で顔を曇らせていた。『連理の枝』の修行を始めた時、多くの者は輝かしい功績を残す秘技に夢を持ち、意欲に燃える。しかし、その修行は地味な反復練習が主で、派手さはなく、本当に上達しているのかもハッキリと分からないのだ。それで多くの者が挫折する。
ある年は、夏休み前に『連理の枝』を目指す者が0になったらしい。
練習場の消灯時間は十時。後二時間ほどある。天見が途中で投げ出すようなら……。
(その時は、私から言わなくては、な)
こればかりは、どれだけ最適な相手だとは言え、関係ないのだ。
「消灯! 各自自分の部屋に戻れ!」
監督官の声が練習場に響く。
「もう終わりかよ。まだ時たましか成功してないのに」
汗を流す天見は、不満そうな声を上げる。
監督官の声で目が覚めた燕は大きく伸びをしながら近づき、
「随分とやりましたね~」
床が見えないほど割られた板の量に、軽く驚いた。
「そっか? 割れた板が多いってことは、感心されることでもないだろ」
「そうですね~。でも、やる気は伝わりますよ。さて、水鏡さんが魔法を使わなかったことですし、私は先に戻っていますね~」
監視のためにずっとついていたのかと思った天見は、彼女のしつこさに辟易したため息をついて見送った。そして、汗に濡れる髪をかき上げて、
「その場で拳を突き出し合っているだけだから、偶然成功することはあるが、腕のリーチが違うから合わせていたら逆に合わないな。距離を変えるかタイミングを変えるか――」
ぶつぶつと呟きながら、彼はファイナの横を通り過ぎて掃除用具を取りに行く。
ファイナは体力的には余裕があるが、一枚一枚相手に合わせなくてはいけない気疲れが出ていた。
(普段使っていない脳みその奥が……ツラい)
額に手をあて、脱力して天井を仰ぎ見る。
(コピー魔法使いだから心配していたが、水鏡は努力を続けられる人だった……良いことなのだが、なんだあのやる気は? まだ足りないのか? 『連理の枝』にかける情熱はもしかして私いじょ――いや、ありえない! 私だってまだ続けても……明日ならいい!)
などと思いながら目を閉じて休んでいると、後頭部を軽く叩かれた。
「ほら、持ってきたぞ。ファイナも手伝えよ」
と、天見はファイナの頭を叩いたホウキを差し出していた。
天見は折れた板を重ねて紐でまとめ、ファイナはホウキで床を掃除する。やはり大した会話もなく、黙々と作業をしている。練習場にはもう掃除をしている二人とベリメスしかいない。
心象のファイナは頭から湯気を出して怒っていた。なぜ話しかけてこないのか、と。他人はこちらに用が無くても話しかけてくるものだ。そういう輩の多くを無視するが、天見ならば答えてやってもいいという心構えをしているのに。
(恐れ多いとでも思っているのか? ならばこちらから歩み寄ってやるか……)
そこで、ハタと気づく。用もないのに話しかけるとは、どうやるものなのだ?
(話題? ……確か『連理の枝』の教本にコミュニケーションの基本は会話からとあったな。相手との距離を測るための質問の項目にあったのは……)
記憶の教科書の項目から、一つを選んで口に出す。
「水鏡、女子のどの部位に性的興奮を覚える?」
天見の頭突きが、重ねていた板を十枚まで割った。
「い、いきなり、何を口走ってんだよ!」
動揺しきりの天見が真っ赤な顔で振り返ってきた。
ファイナが選んだのは『男子同士の連理の枝が距離を測るための質問』だった。自分に関係のない場所まで隅々読んでいるのはスゴイ。そして、それを平然とチョイスしたのもスゴイ。
「胸だと答えたいのならば答えるがいい。その瞬間、水鏡の命運が決まる」
「意味が分からない」
「あ~、うん、まあ無視していいんじゃないかしら」
元より天見も答えるつもりはなく「それより」と力尽くで話題を変える。
「ちょっと秘技っていうのを試してみないか?」
「私の『連理の枝』になってくれる気になったのか」
「いや。でもせっかく練習したんだから一回ぐらい試してみたいじゃんか。うるさい燕もいないことだし」
「天見は魔法を使いたいだけでしょ」
ファイナのモヤモヤとする心の内など気づいていない天見とベリメスは、普通に会話をしている。心象のファイナは重たいため息をはいて、当のファイナは変わらず無表情で、
「だが、先程言ったように下手をすれば怪我をしてしまうぞ」
「波風立てないよう人に合わせる民族性だから、合わせる自信はあるぞ」
天見の言葉には首をひねったが、これは『双爆輪唱』を見直させるチャンスになるかもしれないと、ファイナはガジェットにチップを入れ、液晶を見てため息をついた。
「残念だが今日はもう使えない」
そう言って、ファイナは手を返してガジェットの液晶を天見に見せる。画面には『〈粒子〉不足』と表示されていた。
「私の体内〈粒子〉量だと、『双爆輪唱』は一日に最大四回しか放てない。五回目には体内の火の〈粒子〉が底をついて、このようにガジェットが反応しなくなり魔法が使えない」
天見が新たに知ったこの世界の常識。RPGのMPのように、体内〈粒子〉量は魔法を使うごとに減っていき、なくなると魔法が使えなくなる。
「…………」
天見は目元を指で圧迫した後、呆れた表情でファイナを見る。
「…………ファイナは四回の『双爆輪唱』だけで戦いに勝っているのか?」
「何を言うかと思えば……私は私の魔法に自信を持っている。だが、今の『双爆輪唱』が完全無欠でなく、短所・弱点があるのは百も承知だ。場面によっては当然他の魔法を使っている」
「それでよくもまあ俺には他人の魔法を使うなって言えるな!」
怒鳴ってくる天見にファイナは冷ややかな目を送り、
「私が使うのと、パートナーであるキミが使うのでは意味合いが違ってくるのだ。私の魔法が使えるのにキミが他人の魔法を使ってしまえば、そっちの魔法の方が強く、優れているとパートナーのキミが認めてしまっているように取られるかもしれないではないか」
「おい、話してばかりいないで早く掃除を終わらせろ。こっちも早く休みたいんだ」
と、天見はせっつきにきた監督官を捕まえ、
「魔法の評価の基準は強さだけなのか!? 強い魔法が使える奴が偉いのか? すごいのか? 正しいのか!? 強さこそが正義なのか!?」
まくし立てて聞かれ、監督官は目を白黒させ、
「そ、そんなことはないぞ。評価のポイントの一つであってそれが全てじゃ決してない。確かに分かりやすい指標の一つだから、学生間では強い魔法、上級魔法が使えるのはすごいという考えもあるが……」
監督官の答えを聞いた天見は、ファイナに呆れた目を向けてきた。その目に見られ、
(『連理の枝』はお互いを信頼し、お互いの魔法を信じて戦うのだ。下手をすれば自分の魔法でパートナーを怪我させてしまうかもしれない恐れの中、それでも刹那の時を共有して秘技を完成させる。それなのに水鏡に嬉々として他人の魔法を使われたら……私の魔法じゃ不満なのかと不安になるじゃないか)
心象のファイナは指を突き付け合わせて表情を曇らせているが、当のファイナは無表情にプイッとソッポを向いた。
「この脳筋魔法使い」
その天見の一言が大岩となって心象のファイナの頭に降ってきた。だが、彼女はその大岩を叩き割って、
「試してみたいというのなら分かった。それなら著作権フリーの魔法でやらないか」
「著作権フリー!?」
目を輝かせて色めき立つ天見。
「何を驚いている? 魔法には著作権フリー、下級魔法、中級魔法、上級魔法があることぐらい知っているだろ。著作権フリーならばそれほど〈粒子〉量を使わないから、今の私でも使える」
ファイナの目の前で、天見はベリメスに肘で突かれて「やってしまった~」という顔で苦笑し、
「い……いや~……念のための確認をするんだけどさ。著作権フリーの魔法は使っても当然著作権法違反とかにはならないんだよな?」
「不可解なことを言うな。著作権フリーの魔法は成長によって自然と使えるようになる魔法で、ガジェットとチップを必要としないし文言も発言もいらない。早い子どもは三歳ぐらいにもう使えるから、著作権のかけようがないのだ」
なぜまたこんな常識的なことを説明しているのだろうと、ファイナは首をひねる。
著作権フリーの魔法は、先程ファイナが天見に投げた火球のような球状のものや、放射状、波動など形状は様々だが一貫して威力がない。せいぜい殴られた程度で、当然体内にある属性の魔法しか使えない。
「よし! じゃ、早速著作権フリーの魔法で試してみ――」
意気揚々とする天見を止めたのは、仕事をせっつきに来ていた監督官だった。
部屋に戻ってすぐさま天見は教科書を開いて、魔法の分類の基準を確認する。
下級~上級のランクを決めている基準は魔法の効果時間・〈粒子〉量・威力などで、単純に上級に行くほど長い時間魔法が維持され、体内の属性に染色された〈粒子〉を必要とし、威力が大きい。
調べ終えた天見は、部屋の備え付けのシャワーが空くのを待っている間に、気になっていた本棚を眺める。我慢できず、持ち主の許可を取らずに本を取り、パラパラとめくっては次々と本を変えていく。
「読まないの?」
「内容をザッと確認して、一番興味を惹かれたものから読もうと思って」
「そんなパラパラで内容なんて分かるの!?」
「大体な。本なら何万冊って読んできたから……でも、斜め読みって味気ないから好きじゃないんだよな~」
本当に内容を把握しているようで、上段一列を終えて、候補の二冊を両手に持って悩んでいる。
「水鏡さんって、本が好きなんですかぁ~?」
すでに寝る用意万端――クリーム色のパジャマ姿――の燕が、床に敷いた愛用の布団に寝転びながら聞いてくる。
「好きだな。特に魔法が出る本に関しては童話、マンガ、ラノベ、小説、資料本、伝記、何でも読んだ」
一冊を選んだ天見は、その場で立ったまま読み始めた。
ベリメスはファイナがいないのを見計らって、
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。〈核魔獣〉が頻出し始めたのって半月ほど前からでしょ?」
燕に世間話をするように話しかけた。
「よく知ってますね~。そうなんですよ~。今月に入って学園だけでもう七回も出てきているんですよ~。去年なんて三回しか出てきてないのに~……学校に出る〈核魔獣〉を倒すのは魔法学校に通う者の務めとはいっても、正直いくらなんでもやってられませ~ん」
ぶすっと口を尖らせた燕が、疲れたため息とともに不平を漏らす。
「その前後で何か変わったことってない? 些細なことでもいいんだけど」
「え~? う~ん…………あ、購買のパンが」
「些細過ぎるわよ」
脱力してツッコミを入れる。
「私も聞きたいことがあるんですけど~、どうして水鏡さんってガジェットもチップも使わずに他の人の魔法が同じように使えるんですかぁ~?」
「あ、それ? うん、秘密。内緒。トップシークレット」
ベリメスはあっさりと話を切って離れる。燕は不満そうに頬を膨らませて天見の方に聞こうかと見たが、本に集中している彼が話を聞いていたとも思えないので諦めた。
と、シャワーから上がってきたファイナが天見に空いたことを告げ、本を一旦置いた天見は入れ替わりで出て行った。
ファイナが机に向かって教科書を読みだしたので、燕は興味をそそられて近づく。
「何を読んでいるんですか~?」
「『連理の枝』の教本だ」
「へ~、どれどれ…………」
邪魔にならないように覗きこむ。『着替えを見られた時はブラのホックを外した、邪魔をするものが何もない背中を見せるのが一番良い。ホクロがあっても気にしない。むしろワンポイントで相手の印象に強烈に残るかも。安易な胸や下着姿より効果的なことがあります。着替えをバッタリ見られるのは、同室初日や慣れてきた時に起こりやすいです』
「…………」
次のページがめくられる。
『寝ぼけて相手のベッドに潜りこんだ時、朝のリアクションは自分と相手千差万別です。大事なのはその後です。相手が見ていない時に軽く香水をベッドにかけておきましょう(かけ過ぎないように注意。一・二滴を水で薄めて霧吹きでかける程度)。香水がなければシャンプーか石鹸で代用してください。とにかく、自分の匂いを残してください。匂いは本人と密接な関係があります。残り香がある限り、相手は寝る度にあなたのことを想って――』
「何ですか、この本は~」
じっくりと真剣に読んでいたファイナは、燕に表紙を見せる。『連理の枝――異性・応用上級者編。気難しい相手のハートの前にある壁をぶち破り、狙い撃て!』。
「き、基礎編は読んだんですか~?」
「いや、少し常識外れの水鏡だからな。対・一般男子用はちょっと違うかと思ってまずはこっちだと」
マジメに言っているファイナ。指摘した方がいいのかな~と思ったが、彼女との距離感で何となく気後れしてしまう。目の前でああいうことをやられたらイヤだな~と考えながら、燕は無言で離れる。
シャワーを浴びてきた天見はすぐさままた本を読み続け……一向に寝る気配がなかったからファイナに「寝ろ」と子どものように怒られた。
目を覚ました天見は、一面に広がる雲海に目をしばたかせる。
地面を見れば足首まで雲があり、蹴り上げてみると白いモヤが足に続いた。
「どう? 魔法世界の初日の感想は?」
背後を振り返ると、そこにベリメスが浮遊していた。
「ここって、もしかして俺の夢の世界か?」
「そうよ」
ベリメスの答えに天見は会心の笑顔をし、
「大満足」
「ホント? 私に遠慮しなくて正直に言っていいのよ? 法律のせいで大変だし、想像と違ってたんじゃない?」
「まあね。でも、法整備が整った世界なら十分考えられることだった。まだまだ俺の想像力も甘い。だけど、魔法が使えた感激に比べればそんなの些細なことだよ」
心底からの想いを聞いて、ベリメスは気分よく微笑みを返せた。
「本当に天見って魔法が大好きよね~。もし天見が好き勝手にコピー魔法を使えたらきっと大変なことになるわよ」
「確かにそれは危ない。バカにハサミを持たせるようなものだ。コピーした魔法をベリメスが管理してなかったら、一回や二回暴走してたかも」
真面目な顔でウンウンと頷くのを見て、ベリメスは頬に汗をかく。
「納得するんだ。冗談半分だったんだけど」
天見は「ところで」と前置きして、
「魔法を見ただけで完コピできるこのモノクルって、すごいんだな」
「当然よ。真実を見抜く神の目だもの」
天見は左目に装着されているモノクルに触りながら、
「魔法を見たら一旦モノクルに保存される。それをちゃんと『赤の書』にアップロードせず次の魔法を見ると、前の魔法は消える。モノクルは魔法一つ分しか容量がないためだ。だから『赤の書』から新たに魔法をインストールしない限り、使えるコピー魔法は最後に使った魔法か、最後に見た魔法……だったな」
天見の確認にベリメスは頷き返し、
「そして、その指輪――リクレスポロが自然界にある〈粒子〉を集めてくれて、モノクルが各属性に染色してくれる。だから天見は魔法が使えるのよ」
天見は左手の人差し指にはめられた青い指輪を見る。モノクルもこの指輪も、天見ですら外すことが出来ないようになっている。
ベリメスは赤い表紙の本を胸に抱き、
「念を押すけど、私からあまり離れちゃダメよ。天見はコピー魔法使いなんだから」
「了解」
「それじゃ、そろそろ明日のことを――! 天見、起きて!」
夢の中で起こされて、天見はベッドから飛び起きた。次の瞬間――窓を突き破って黒い塊が天見のベッドに鈍く光る短剣を突き刺した。
間一髪ベッドから飛び降りていた天見は、のっそりと動く黒い塊を注視する。
「……悪魔の化身に、神の鉄槌を!」
全身黒装束の何者かが天見に迫った。
ちょっと待ってください。今、今次話投稿しますから。どう考えてもここで切らないと気分が悪いんです。こっちの都合で申し訳ない。