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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
水鏡天見を探せ
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貴様らみんな失格だ

 案の定、先週休んでしまって申し訳ない。ちょっと忙しいゴールデンウィークだったんですよ。さて、気を取り直して、今週からまたがんばろう~っと。

 勝負は本当に一瞬で決まった。見ているだけでは何が起こったのか分からないほど。


 あの激突の瞬間、テオキルは一直線にファイナへと猛進した。そしてショルダータックルの体勢で彼女の拳にぶち当たった。肩が異音を上げて外れ、足は止まらず先に進んで跳ね、腰は上半身と下半身のズレから筋繊維を引き千切るほど捻じれ、発動された双爆輪唱に顔面を焼かれて吹っ飛んだ。


 芝生を削った先にいるテオキルは、地面に倒れ伏してピクリともしない。


 体を起こしたファイナは右手をブラブラと振る。


「私の『双爆輪唱』は火の〈粒子〉を体の一か所に集中させて発動させる魔法だ。つまり範囲が広ければ分散され威力が下がり、狭ければ集中され威力が上がる。極論を言えば、指先一点に集中させるのが最も強力になる。とは言え、そこまで〈粒子〉の密度を圧縮させる技術はないし、衝撃に私の指が耐えられるわけもないが」


 カウンターで放った時は、範囲を胴体前面に広げていた。それを今回は拳表面に狭めて威力を上げたと言うのだ。


 だが、それだけであの掠っただけで人を打ち上げる攻撃を正面から打倒したとは思えない。普通なら腕の方が耐え切れずに吹っ飛ばされるはずだ。おそらく、テオキルもそう思って拳に当たりに行ったのだろう。


 あの時ファイナは、左足から右手にかけて一直線になる体勢を取っていた。つまり、自分の体を地面から斜めに突き出している棒と化したのだ。テオキルは大地に刺さっている棒に自ら当たりにいった。威力がなまじ高すぎたため、その反動も恐ろしいものだった。


 天見と違ってそういう説明は全くせず、ファイナはテオキルに背中を向ける。


「早く医者に診せてやれ」


 後ろに控えていた人達に言って、その中からフリューゲルのパートナー、ネイロが人を呼びに行った。


 近くにまで来たファイナに、フリューゲルはゴクリと喉をならす。次は自分かリラ、もしくはピエルナかと……だが、ファイナは三人を素通りした。


「ファ、ファイナ!?」


 慌てたフリューゲルが振り返ると、ファイナは背中を向けたまま足を止めた。


「終わった。私に相応しい『連理の枝』は一人もいなかった。テオキルだけが、ギリギリのギリだったが、私に負けるようでは頼りにならない」


「ちょ、ちょっと待ってほしい。一人もいなかったって僕は――」


「まず」


 フリューゲルの言葉を遮って、ファイナは振り返ってピエルナに視線をやる。


「本気で無い者に資格はない」


 ズバリ言われたのに、ピエルナは苦笑して肩を竦めただけだった。


 次に、フリューゲルとリラを一緒くたに見る。


「残りの二人は実力を問う以前の問題だ。『連理の枝』に相応しくない」


 それで終わりだと、ファイナは背中を向ける。だが、フリューゲルは彼女の前に回り込んで、


「待ってくれファイナ! リラと違って僕には『連理の枝』としての経験がある! 必ずキミを支え、助けることができる!」


「経験がある分厄介な悪癖もある。それはおそらくリラにもあるが、体に染みついている分、フリューゲルの方が面倒だ」


「ボ、ボクにも?」


「悪癖って……僕にはそんなのない。いや、あったとしても直してみせる!」


 ファイナは心象で深いため息をつき、当の彼女は憮然と腕を組む。


「ハッキリ言おう。二人は私の『連理の枝』に向いていない。フリューゲルは今のパートナーと頑張ればいいのではないか? お似合いだと思うぞ。では」


 適当なフォローを入れつつ、さっさかと行こうとしたファイナの手を、フリューゲルが掴んでまだ引きとめる。


「これ以上何かあるのか?」


 冷淡な声で問われ、フリューゲルは少々躊躇いながら、


「……それで、ファイナはどうするつもりだ……パートナーを作らず、『連理の枝』を諦めるつもりかい」


 ファイナはフリューゲルの手を振り払い、


「何を言っている。私の『連理の枝』は最初からいるではないか」


 フリューゲルの背後で、愕然としたリラは膝から崩れ落ちて芝に手をついた。彼も驚愕に目を見開き、開けっ放しの口が震える。


「ま、まさか……まさか……僕が、僕より……あんなピーコーの方が……」


「フリューゲルより? 勘違いするな。貴様など足元にも及ばないばかりか、相手にすらなっていない」


「バカな!」


 フリューゲルはわななきながら、ファイナから一歩、二歩後ずさりする。


「あ、あんな! ファイナを思いやることもない、身勝手な犯罪者に……僕が」


「押し付けがましい優しさなど、たくさんだ!」


 吐き捨てるように、ファイナは叫んだ。彼女の目は吊り上がり、深紅の瞳は怒りに燃えてフリューゲルを睨む。


「女の前に立って守ってやる。砂を吐きそうになるほど甘く、生易しい優しさだ!」


 濃紺の髪が熱によってわき上がる。


「後ろから尊敬されたくなどない。前にいて守ってほしいわけではない。隣にいて一緒に歩んでほしいわけでもない! お互いの姿が見える位置――正面から向き合ってくれる場所……私には立ちはだかるぐらいの相手がちょうどいい!」


 ファイナが体をひるがえすと、流れる髪が熱気を起こした。そのあまりの熱さに、もうフリューゲルは近づけなかった。


 ただ一人、ピエルナだけが少し距離を取って飄々とファイナを追いかけた。


 ムセイオン学園を出た所で、ファイナはピエルナに振り返った。


「なぜついてくる?」


 暗に「もう私に用はないはずだろ?」とも聞いている問いかけに、


「ん~? だってこれから天見君に会いに行くんじゃないの? あんな情熱的な告白、聞いているこっちの顔から火が出そうだったわよ。再会してそのまま彼の胸に飛び込むんでしょ? 分かってるって~」


「訳の分からないことを……大体何が告白だ。あれは啖呵を切っただけだ」


 ピエルナは面白そうに「あらあら」と笑った。そんな彼女にファイナは不審な視線をやるが、どうにも彼女は掴み所がない。


「それに、私は水鏡がどこにいるのか知らない」


「え、そうなの? てっきり私は、あなたが親戚から天見君を守るため、人知れずどこかに避難させたのかと思ったんだけど」


 そこで、ファイナはピエルナから視線を外した。


「…………まあ、水鏡と燕の安全と時間稼ぎのため、水鏡と大ゲンカをして、距離を取ったわけだが」


「はぁ……時間稼ぎね。でも、まだ一日とちょっとしか経ってないわよ」


「おかしい。昔はもっと簡単に受け流せていたのに」


 本気で分からない様子で、ファイナは口元に手を当てていた。


「『孤高の銀雪』の雪解けかしらね」


「何のことだ」


「別に気にしなくていいわよ。それで、何のための時間稼ぎなの?」


「……キミの目的を話せば、こちらも話してやらなくもない」


「目的? 当然あなたのパートナーになることよ」


 ニッコリと告げてくるピエルナに、ファイナは背中を向ける。


「とりあえず、燕と合流するか」


「あ、ちょっと待ってよ。目的を話したんだから教えてよ」


 ファイナは構わず町へと走って行った。



 天見は座り心地のいい椅子に座って、出されたクルミパンを食べている。ベリメスの方には甘いイチゴ。


「随分なおもてなしね」


「それは当然だよ。君達は大切なゲストだからね」


「その割には、夜分に強引な招待だったけどな」


 と、天見は目の前で苦笑する青年に皮肉を言う。彼とは一度、サタナ大聖堂で会ったことがある。


 天見とベリメスは前夜、もう寝ようかと思った時刻に部屋をノックされた。尋ねると執事で、夕食で使ったスプーンが一つ見当たらず探しているというので、開けた。すると、いきなり薬をかがされて天見は眠らされた。


 ベリメスは天見の身の安全のため、目隠しをされてついてきた。


「少しの間、こちらでジッとしていてもらいたい。不便がないよう、欲しいものがあれば遠慮なく言ってほしい」


「外の空気が吸いたい」


「明後日の昼には船上にいる。そしたら自由にしてもらって構わない」


 どうやらそれまでは軟禁状態らしい。窓も外から板で塞がれ、この場所どころか昼か夜かも分からない。それ以外は確かに言うことはない。部屋の広さは十分だし、柔らかいベッドはあるし、好物の食事は出るし。


「こちらは君のコピー技術に大変興味がある。ぜひ、その技術を教えてもらいたい」


「教えられることなんてない。俺のコピーは俺にしか出来ない」


「まあ、その可能性はあるだろうね。ホントかウソかは置いといて。でも、それを差し引いても君は貴重な人材だよ――オリジナルに勝てるコピー魔法使い。ある種、君はコピー魔法使いの完成形だ。知りたいこと・教えてもらいたいことは山ほどある」


 ベリメスがチラッと天見の表情を窺うと、彼は大層不満そうでムスッとしていた。彼にしてみれば、まだまだ自分のコピー魔法は発展段階だ。そう簡単に完成形なんて言われたくない。


「なるべく君には率先して協力してもらいたい。一緒に来てくれれば、魔法は使いたい放題で望むものは……大抵のものは用意できるよ」


 魔法は使いたい放題という言葉にグラッと大きく揺れるが、天見は頭をブンブンと振って欲求を吹き飛ばす。


「悪いけどこっちのことを放り出すことはできない。方向性が決まっただけで、まだ白紙の状態なんだ。早く帰らせてほしい」


「あのレベルの女の子がお望みなら、二・三人は用意できるよ」


 天見とベリメスは怪訝な顔で「ハァ?」とハモった。


「あんな子が二・三人もいたら、面倒くさいことこの上ないでしょ」


 ベリメスに同意して、天見もコクコクと頷く。その様子に、青年の頭に大きな汗が流れる。


「えっと~……あれ? 君とグリューテイル家の娘の関係は、何なんだい?」


 聞かれて、天見は「う~ん」と腕を組んでしばし考えてから、


「共通の目的のために組んでいる異性のバンド仲間? が、一番ピッタリ合っているような気がする」


 青年は頭上にいくつもの疑問符を浮かべていた。


 とりあえず、青年は気を取り直すように咳払いを一つしてから、


「残念だけど、もう君の帰る場所はないよ」


 と、青年はテーブルに一枚の紙を差し出してきた。天見がそれを手に取って見ると、自分の手配書だった。


「著作者の彼女も怒っているそうだよ。ただ、勘違いしないでもらいたい。それはこちらが仕向けたことじゃない。タイミングが良いから信じられないかもしれないけど」


「そっくりな似顔絵ね」


「『双爆輪唱』を使って器物損壊か。発言だけマネした偽物じゃないのか?」


「現場の状況から本物だと判断できるそうだよ」


 青年は足を組み、膝に両手を置いて提案する。


「このまま姿を消した方がいいよ。著作者から訴えられれば莫大な使用料を払うはめになるし、信用回復の名目で何をさせられるか分かったものじゃない」


 ジッと手配書を見ていた天見は、無言でそれをテーブルの上に戻した。それから青年は「さて」と言って、ポケットからトランプを取り出した。


「友好目的に少し遊ぼうか。君が暇にならないよう、可能な限り僕が相手をするよ」


 ベリメスにも配られ、仕方がないので天見は札を手に取る。


「ちなみに、助けは期待しない方がいいよ。ここは絶対に見つからないから」


「見つからないって……どうせここは、ブルドマンさんの家とかじゃないのか?」


 青年と一緒にいたファイナの親戚の名を出したが、彼は笑うだけだった。


 天見は眉をひそめながら、手の中にあるジョーカーを見る。最初はババ抜きらしい。




 フリューゲルはファイナの屋敷ではなく、自分の家に戻っていた。使用人の挨拶にも取り合わず、帰るなり自室に閉じこもってもう数時間。


「くっそ! くっそ! 一体僕の何がピーコーに劣っているんだ! 劣っているって言うんだ!」


 苛立ちをぶつけられた部屋の中はもうメチャクチャで、絨毯は裂け、椅子の足や背もたれは折れ、本が散らばり、壁には穴が開いている。


「あんな礼儀も品性の欠片もない異常者! 『双爆輪唱』を褒めるだけの太鼓持ち! チビでバカで十人並! 妖精が保護者な浮浪児! ファイナにすり寄る寄生虫!」


 拳を叩きつけていた枕から羽毛が舞う。


「フリューゲルさん、あの」


「入って来るなと言っただろ!」


 ドアから心配そうに顔を出したネイロに、フリューゲルは枕を投げつけた。枕は壁の方に当たったが、慌てて彼女はドアを閉めた。彼女は当然『連理の枝』として一緒に住んでいるのだが……こんなに荒んでいる彼を見るのは初めてだろう。どう対応すればいいのか分からないでいる。


「ファイナもファイナだ! 何が不満だと言うんだ! あんな奴より僕の方がどれだけ優しくしてやってきたと思っている! 中等部では孤立しているファイナを気にかけてやった! 朱雀宝門流では兄弟子だ! 強さではあのテオキルにだって負けたことはない!」


「あなた極上な嫉妬心ね」


「入って来るなと言ったはずだ!」


 当り散らすようにわめいてから、部屋に一匹の猫がいるのに気づいた。どこから入り込んだのか、そして先程の声の主を探して見回すが、誰もいない。


 不気味に思いつつ猫に目を落とすと、その猫の目が金色に光った。


 変に静まり返った部屋に、気だるげな声が落ちる。


「私が力を貸してあげましょうか?」


 背後に気配を感じて振り返るが、誰もいない。


「あなたは今、正しく実力を見極めてもらえず、不当に過小評価されている」


「そ、そうだ! ファイナの目は曇っている! 正当な判断さえされれば、僕がピーコーに負けているわけがない!」


「それじゃ、どうして相手があなたを軽視していると思う?」


「そ、それは……」


 言い難そうにしているフリューゲルの気持ちを見抜いて、


「別に、恋愛感情云々っていう話じゃないと思うわよ」


「え?」


 てっきりファイナがあのピーコーのことを好きだからだと思っていたフリューゲルは、意外そうな声を上げた。


「単純にあなたは証明していないだけよ。自分が相応しいことを」


 肩口から白い手が伸びてきて、フリューゲルは肩を跳ねらせるほど驚いたが、なぜか振り返れなかった。というより、身動きがほとんど出来なかった。


「あなたに足りないものを教えてあげる」


 と、白い手がフリューゲルの手にあるものを落とした。


「これは」


「『双爆輪唱』のチップよ」


 フリューゲルは息を呑むように驚いた。


「盗んだわけじゃないわよ。本物と遜色がないデータ」


「そんな……ありえない。ファイナのチップには厳重なコピーガードがかかっている。たとえチップから直接コピーしようにも、全てをコピーすることは不可能だ」


「経緯なんてどうでもいいじゃない。大切なのは……」


 一度言葉が切られ、


「あなたの手に、自分が相応しいことを証明する手段があるってこと」


 耳元で囁かれた言葉に、フリューゲルは喉を鳴らす。


「あの男は、その魔法を使えたから認められた。なら、あなただって……いいえ。あなたが本当にあの男より優れているなら、きっと彼女は分かってくれる。目を覚ましてくれるはずよ」


 しかし、フリューゲルは手の中にあるチップを見下ろしたまま、黙っている。


「身に染みたでしょ? 優しいだけの男じゃ望みの女を手に入れることもできない。時には強引にすることも必要よ。あなた、今回あの子に見てもらったことがある? 素通りされていたんじゃない? それに比べて、戦ってもらった子や姿を消しても気にかけてもらえる子は……」


「黙れ! 僕は――僕は!」


「まあ、ピーコーに負けたまま引き下がるのなら、好きにしなさい」


 フリューゲルの手が力強く握られた。チップを持っていた方の手だ。


「頑張りなさい。後の二人はもう受け取っているわよ。一人にいたっては、昨日の時点で手にしているんだから」


 その言葉にハッとしたフリューゲルは後ろを振り返ったが、誰もいない。先程の猫を探して部屋を見回しても、猫もいない。


 夢か何かだったのだろうかと思ったが、握られた手にはしっかりとチップが握られていた。確認したその目は、不気味に光って吊り上がっていた。

 決断した人はいるし、暗躍している人(人?)はいるし、捕まっている人はいる(←主人公です)し、そんな感じの今回の話です。

 さて、天見が捕まっている場所ですが、察しのいい方は気づけると思うので、分かっていても黙っていてください。お願いです。もったいつけるわけではありませんけど。

 今回の話は燕がいる一週間で終わらせないといけないんですよ~。それで、今さらながら何日経ったかと数えてみると……まだ三日ですよ!?

 光の曜日に首都について、海に行ったのが闇、著作権本部に行ったのが火、そして天見が姿を消して〈核魔獣〉を倒したのが水の曜日。

 で、次回は木の曜日からで、天見が船上にいるのが風の曜日の午後らしいです。ついた日と初日が長かったことを反省しました。

 それでは、次回予告。天見が見つからない。そして『双爆輪唱』事件は続く。そこでファイナ達は事件と天見が関係しているのではないかと動く。

 次回は来週金曜日更新です。

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