ファイナの方、燕の方
なんか、燕がやる気になるとすごいな~って書いていて思いました。
「やはり所詮はピーコーよ。ろくなものじゃない」
「幸いなのは、姫がピーコーに使用権を出していなかったことだ。著作者として責任を問われることはない」
「早い所捕まえてほしいものだな」
そのようなことを話している親戚の横を、ファイナと燕が通り過ぎる。
「こんな時にムセイオンに行くってどういうことですか~!?」
「…………時間がない。逃げたパートナーにかかずらっている場合ではない」
燕はファイナの前に回り込んで、
「本気ですか~」
彼女の目を見て聞く。
ファイナの深紅の瞳は少しも揺るがず、
「私は『連理の枝』になるのだ。他よりもスタートが遅れている分、取り戻さなくてはいけない」
「あんな自分達の都合ですり寄ってくる人達と本当に『連理の枝』になれるんですか~! ファイナさんは気にしないんですか~!?」
「私の気持ちなど関係ない。パートナーになれる実力があればいい」
「そんなんで強い『連理の枝』になれると思っているんですか」
「強い者と強い者が組めば、強い『連理の枝』になれる」
「……私は『連理の枝』について勉強していないので詳しくないですが……簡単でいいですね、『連理の枝』は」
燕はクルリとファイナに背中を向ける。
「もういいです。私は水鏡さんを捜しに行きます」
そのまま振り返りもせず、屋敷から出て行った。
残ったファイナは翁に一つ頼みごとをして、フリューゲル達と一緒に出て行った。
ファイナは窓辺に座り、魔法学園ムセイオンの校庭を眺めていた。茶けた場所がない天然芝が広がっている校庭に、〈核魔獣〉の出る確率が高い。
誰も寄せ付けない雰囲気をかもし出し、身じろぎ一つしない。
その後ろ姿を候補者四人は遠くから見ている。
「ファイナ姉様、素敵です」
リラは夢見がかった表情で頬に手をあて、呟いた。
「素敵なんだ……ハッキリ言って、私はちょっと勘弁ね。気難しいだろうとは思っていたけど、あそこまで気性が荒いなんてね。近づいたら蒸発しちゃいそうだし」
ピエルナが肩を竦める。彼女もファイナもここの学生ではないが、実力的に問題ないしパートナー選びがあるので特別にいるのだ。
「最悪な形でパートナーに裏切られたんだ。ファイナが怒るのも無理はない。僕だってあのピーコーは許せないよ」
いつも穏やかなフリューゲルが、苛立ちで顔をしかめる。それほど天見に怒りを感じているのだ。
そんな中、テオキルだけが薄い笑みを浮かべながらファイナに近づく。
「ファイナ。俺にしておけよ」
窓枠に手をかけながら、いきなり切り出した。
「俺はおまえのことを一応認めてる。足手まといはいらねえが、おまえならそうはならないだろ」
「私を笑わせる気なら、もっと気の利いた冗談を用意するべきだな」
ファイナはテオキルに一瞥もせず答えた。相手にもされなかったのに、彼は怯むどころか楽しそうに「くくく」と喉の奥で笑う。
「そう言うなよ。おまえと組めば、俺は個人戦だけでなく複人戦の大会にも出られるようになる。戦いの機会を増やしてぇんだよ」
「そんな数合わせのパートナーはいらない」
「お? パートナーに逃げられた奴が、そんな贅沢なことを言ってられんのか? このままじゃおまえ、妹に負けるぞ」
そこで初めて、ファイナはテオキルに視線をやって睨みつける。
「よく考えろよ。今からパートナーを手に入れたって、二年ぐらいで実践に使えるほど秘技をものに出来るわけがねえだろ。それなら、強い者同士で組んで、バラバラに戦った方がまだ勝ち目があるぜ」
テオキルはファイナの肩に手を乗せ、顔を近づけて語りかける。
「本家を背負う『連理の枝』は一組で十分だ。おまえか妹のどっちかは、高等部を卒業する年齢になったらポントスを手伝うことになる。『連理の枝』の才能を見込まれた妹に、今から『連理の枝』で張り合ったって追いつけもしねえよ。なんせ向こうは、現役最強の『連理の枝』であるおまえの両親から、手ほどきを受けているんだからよ」
飛来してきた火の槍を、テオキルは体をのけ反らせて避けた。彼は歯をむき出して笑い、魔法を使ったフリューゲルを見る。
「真に心が通じ合った『連理の枝』ならば、短い時間で秘技を実践で使えるようになる。試してみるかい?」
そう言ったフリューゲルの隣には、いつの間にかブラウンのロングストレートの女性が立っていた。大人しそうな雰囲気だが、彼と一緒にテオキルを睨む視線は力強い。
「彼女が僕の現パートナー、ネイロ=アピスカだ。僕とネイロの『連理の枝』はまだ一年足らずだけど、よければ見せてあげようか? 『連理の枝』の凄さを」
「へ~、散々俺との戦いを避けていた奴が、どういう気持ちの変化だ?」
「いい加減、テオキルの物言いには我慢が出来ない。キミにファイナの『連理の枝』になる資格はない」
「くくく、現状ピーコーにその座を奪われている奴に言われたって、説得力ってもんがねえんだよ!」
三人がチップをガジェットに入れた瞬間、甲高い警報が学園に響いた。
ファイナはおもむろに窓から飛び降りた――ここは三階だぞ。
慌ててリラやフリューゲルが窓から身を乗り出して下を見ると、ファイナが着地した地面の芝が焼失して、煙を上げていた。
「こういうのを憂さ晴らしと言うのかな」
校庭の中空に浮かぶ、黒に近い灰色の球を見ながら呟いた。
屋敷を飛び出した燕は、その足で著作権委員本部に向かった。仕事の合間をぬって紀信が会ってくれ、「手短に話せ」とせっつかれた。
顎に手を当てて黙って聞き終わった紀信は、
「で、おまえが最後に水鏡天見を見たのはいつだ?」
「え~っと~、夕食前ですね~。水鏡さんは食事を部屋でとるので会っていませんし~。でも、その時は何事もなかったのでいたと思いますよ~」
紀信は指でメガネを押し上げ、
「セキュリティーが万全のグリューテイルの屋敷から水鏡天見が姿を消した、か。さらわれたとしたら、誰かが手引きした可能性が高いな」
「手引き、ですか~?」
「あそこの執事のレベルは高いからな。泥棒に入るなら命をかける必要がある」
それで燕は、初日にあった天見と執事の戦いを思い出した。負けたとはいえ、身のこなしや魔法の練度など、非常に高いレベルだった。
「そんな命知らずはこの町にはいない。だが、誰かの手引きで安全が保障されているなら別だ。屋敷にいて水鏡天見を亡き者にしたがる人物に心当たりは?」
「いすぎて分かりませ~ん」
パートナー候補者だけでなく、昨日に限って親戚連中まで泊まっている。
「まあ、まださらわれたとも判断しにくい。早朝に『双爆輪唱』が使われた証言があるから、自ら姿を消した可能性もある。あいつについている妖精は瞬間移動が出来るからな」
「水鏡さんが出て行く意味が分かりません~」
「ケンカをして気まずくなった。いつまでも『双爆輪唱』の使用権が出されないことに対する苛立ち。経済格差の僻み。色々考えられるだろう」
紀信は「とにかく」と言って席から立ち上がる。
「こちらでも当然水鏡天見の行方は追っている。万が一にも奴を他国の手に渡すわけにはいかないから、な。燕は好きにしろ。見つけたら教えてやる」
そして忙しそうに去って行った。
残された燕は重たいため息をつく。何か教えてくれたり手伝えることがあったりするかと思ったが、何も無かった。好きにしろ、らしい。
項垂れていた顔を上げて、とりあえず席を立った時、
「! 崑崙さ~ん!」
猫と妖精を引き連れている崑崙を見かけて、手を振って追いかけた。呼びかけられた彼はしかめっ面で振り返って、
「だから、お悩み相談なら親か友達か教師にでもするね」
「協力してくださ~い」
「話を聞けね」
無駄だと知りながらも、言うだけは言った。
「とにかくまず、水鏡さんを見つけることが先決だと思うんですよ~」
著作権委員本部から連れ出された崑崙は、燕に手を引かれて、半ば引きずられて歩いている。
「で、崑崙さんはどこに水鏡さんがいると思いますか~?」
「知らんね」
「水鏡さんが好きなものって言えば~やっぱり魔法ですし、練習場とかですかね~」
構わず燕がツラツラと自分の考えを言うので、崑崙はため息をついてから、
「さらわれていたら、どっかに閉じ込められているね」
「でも、ベリメスさんが一緒ならそんな所すぐに抜け出せますし~。そう考えるとさらわれたともイマイチ思えませんね~」
「二人とも意識があるとは限らないだろね。眠らされているかもしれないし、最悪死んでいるかもしれないね」
「! ど、どうしてそんな不安になるようなこと言うんですか~!」
「最悪の状況を想定しておくのは当然ね」
などとやり取りをしながらついたのは、サタナ大聖堂。
「ここにとっても頼りになる先輩がいますので~、力になってもらいましょう~」
燕がズンズカと入っていくと、〈核魔獣〉警報が出ているせいか、この前来た時より観光客の数が少なかった。
キョロキョロと辺りを見回して、一人のシスターを見つける。
「シャロンせんぱ~い」
教会なので若干声を抑えて声をかける。
燕に声をかけられ、シャロンが振り返る。
燕に引っ張られて、崑崙がシャロンの目の前に立つ。
二人は顔を合わせた瞬間バッと燕に振り返り、
『何で(ね)(ですか)!?』
声がそろった。言われた燕は目を丸くさせ、
「え? え~……お二人はもしかして、お知り合いですか~?」
「はじめましてね!」
「そうですね! はじめましてですね!」
崑崙が天見を襲った時の助っ人がシャロンなのだが、何だかややこしそうなので二人は全力で空っとぼけた。
「それより、これを見てくださ~い!」
そんなやり取りは大して気にせず、燕は早速シャロンに著作権委員でもらってきた一枚の紙を突き付ける。それは水鏡天見を重要参考人とする旨が書かれた――言ってしまえば手配書だ。
「あ、とうとうですか」
「そんな受け入れられても~」
「あの性格です。どうせ魔法が使えないフラストレーションが溜まって爆発してしまったのでしょう」
「う」
そう言われてみると、天見はいなくなる前日フリューゲル相手に『双爆輪唱』を使いたいと熱く語っていた。
「スッキリしてお腹が減ったら帰ってくるのではありませんか?」
「そうかもしれませんけど~」
「そうかもしれないのかね」
呆れたように呟いた崑崙のツッコミを気にせず、燕は指を一本立てる。
「ほら~、私達って一応水鏡さんの友達じゃないですか~」
「先輩なだけです」
「身近な著作権委員だったのに、水鏡さんの暴走を防げなかったことにちょっぴり責任っていうか~、残念だったな~っていう気持ちがあるんですよ~」
「……確かにもっとしっかりと注意して更生させておけばと思わなくはないですけど」
「ですよね~。水鏡さんが自分では何一つ努力せず、他人の魔法の悪い所弱い所を見つけては的確に突き、相手を上回るお返しをして悦に入る、底意地悪いお局キャラだっていうのは分かっていたのに~」
「そこまではひどくないと思うね!」
「どういう目で友達を見ているのですか」
が、二人のツッコミは気にせず、
「せめて友達として、出来ることはしておきたいんです~」
などと胸の前で握り拳を作って二人に訴える。
「見つけて自首でも促すのね?」
「それとも逃がしたりかくまったりするのですか?」
「違います~。そんな薄情なことしません。私は真剣に水鏡さんとファイナさんのことを考えているんです~」
薄情かな? と思いつつ、頬を膨らませている燕の意見を聞く。
「まず、水鏡さんを見つけ次第ちょっとお仕置きして、一回死にそうな目にあってもらいます~」
「ちょと待つね」
しかし止まらない。
「そしてどっかに閉じ込めて~、その場所をファイナさんに教えるんですよ~。危機的状況で助けに来てくれるファイナさん。助け出された水鏡さんは「この人のために真っ当に生きよう」って思い、著作権法違反することなく『連理の枝』にまい進するんです~」
「男女逆じゃないのですか?」
「え~、でも~……水鏡さんとファイナさんだったら~、人質になるのは水鏡さんの方がしっくりきますよ~」
笑いながら手をパタパタさせる。
確かに逆がありえなさすぎて、そのパターンにしかならない。天見がどうというより、ファイナが大人しく捕まったままなんて無理がある。
「とにかくそれは却下ね。そんな茶番に付き合えるかね」
「も~、崑崙さんもワガママですね~。せっかくラスボスにしてあげようと思ったのに~」
「誰がそんな一番ボコボコにされる役をやるかね!」
シャロンはため息をついてから「とりあえず」と、
「燕がここに来たのは、私に水鏡さんを探すのを手伝わせようって魂胆ですね?」
「そうです~。シャロン先輩の魔法があれば、人探しも楽ちんです~」
観光客が少ないので仕事も少なく、断る口実も作りにくい。仕方なく、シャロンは神父に一言断ってから燕に協力することになった。
ロザリオ型のガジェットにチップを入れ、『平和の象徴』を使い、輝く鳥を町へ放った。
「これで人を探すのは、けっこう神経を使うのですよ」
「今度水鏡さんをこき使っていいですから~」
「勝手に」
「これは水鏡さんのためなんですよ~。水鏡さんがお返しするのは当たり前です~」
聞き逃さなかった燕が、指を一本立ててキッパリと言い切った。
「それじゃ崑崙さん、私達も町中を捜索しますか~」
「……拒否権を発動したいね」
そんなささやかな願いもかなわず、崑崙は燕に引っ張られていく。
「燕、何かあったらその子が誘導しますから」
シャロンは燕の肩に一羽の鳥をやった。
「はい、分かりました~」
こうして、天見の捜索は始まった。
困った。燕パーティはそんな書く予定になかったのですが、最後あたり書いていて楽しかった。天見が消えた後はファイナさんだけ書こうと思っていたのに、どうしようかな。
う~ん、まあ、来週までには決めておこう、そうしよう。
というわけで、次回更新はおそらく、金曜日です。




