奥義取得者燕
長くなってきましたが、ピーコーの説明には必要だったのでしょうがないです。その分、他の所をコンパクトにしていきたいですね。
「群れ広がる紅蓮の星々よ、命の終わりを夜空に刻め! ――終焉の流星火!」
リラが腕を円を描くように振るうと、彼女の周囲に現れた多くの光が、火の尾を残して空を走った。高速で飛来する魔法は、天見達が隠れている太い幹を削っていく。
「あなた達さえいなくなれば! ファイナ姉様は元に戻る!」
…………何というか……呆れるほど短絡的な意見だった。三人とも同じ思いらしく、半目になって大きな汗を頭にかいていた。
「無茶苦茶ね」
「まだ親衛隊の方が大人だ」
ここ最近色々あったからか、周囲を魔法が飛び交う状況でも三人には余裕が見える。
「とりあえず、売られたケンカを買うんだから、コピーされてもうるさく言わないよな」
ウキウキとモノクルを触る天見に、燕のジト~っとした視線が向けられる。
「ですから~、非生産的なコピーはやめてくださ~い。非難されるってさっき分かったでしょ~」
「世界中全てを敵に回しても、俺は魔法のために生きる」
「そういうのは、魔法じゃなくってファイナさんにでも言ってあげてください~」
「あと、俺はすごい言葉を知っている」
「何ですか~?」
「分かっちゃいるけどやめられない」
「最低の言葉ですね~」
その時、盾にしていた木が音を立てて折れ始めた。
すぐさま天見と燕はバラバラに木の影から出て、飛来する魔法をかいくぐって別の木に隠れる。
「私がやりますんで~、水鏡さんは見ていてくださ~い」
「え~」
不満そうな声を出す天見と、ちょっと驚いているベリメス。
「意外ね。あなたが積極的にするなんて」
「脅されて友達をやめると思われるなんて心外ですからね~」
燕は刀を抜いて柄にチップを入れ、起動させて発言を唱え、刀身を水で覆う。
「水月・三日月の型!」
燕が刀を振るって飛ばした水の刃は、眼前の木を両断してリラに迫る。
リラはその場から飛び退いて避け、体勢を崩したのを見計らって燕は間を詰めようと飛び出した。
狙いを変え、リラの魔法が燕に飛来する。だが、身のこなしと刀の防御で被弾しない。燕が一振りするごとに、光は叩き落とされて地面に落ちていく。
リラは歯を食いしばり、燕を鋭く睨みつける。天見より同性の燕の方が、気にくわない所があるのだろう。
「ファイナ姉様に友達なんていらない! ファイナ姉様は誰にも頼らず、弱みを見せず、人と関わらず――だから美しい! 余分なものがなく、純真に! 一途に! ただただ強さにのみ邁進する!」
「私の目から見て、今のファイナさんは入学した時より楽しそうでいいと思うんですけどね~。色々と不器用で、可愛いと思いますよ~」
「貴様がファイナ姉様を語るなど、おこがましい! 不愉快!」
「不愉快ってそれ、ファイナさんの口真似ですか~?」
ギリッと歯噛みしたリラは、大きく腕を振り上げ、燕に向かって光を一斉射出する。
燕は足を止めて刀で円を描く。
「水月・新月の型!」
水の円盤ができ、そこにリラの魔法が当たると蒸気を上げて消える。
「なっ!?」
大量の蒸気でリラの視界から燕の姿が隠れた。その一瞬後、リラの目の端に黒い影が見え、すかさず地面を蹴った。
水で濡れ光る刃が走り、リラの右腕が打たれた。
痛みに気を取られている暇はない。追撃しようとする燕が間合いに入るまで、あと一歩の距離。
リラは残り少ない残弾を、あえて散らばせて燕に放った。
燕は進めばいくつか喰らうと瞬時に分かった。無理はせずに、後退を選んだ。
二人はあらためて対峙し、
「どうですか~? 勝手なダダはこれぐらいにしておきませんか~?」
燕が停戦を提案する。
リラは右腕を押さえながら無言で燕を睨みつける。利き腕をやられては、チップの入れ替えに支障が出る。
同じ魔法を使った所で、今のように近づける。勝ち目は低いでしょ? だからこのへんでやめようと、言外に燕は提案しているのだ。
それはリラのプライドをひどく逆なでした。
リラは退くことをせず、再び同じ魔法を発動させた。
燕は嘆息し、魔法を重ねてさらに刀身の水を厚くさせた。
見ていろと言われたので、これ幸いに目を輝かせてしっかり見ている天見は、
「リラの火の魔法は、小さな針の形状だな。だから高速で飛んでいると視認できず、光が走っているように見えるんだ」
「で、天見は当然のように視認しているのね」
「小さくすることで数を増やせて、一発の弱さは針の形状でカバーか。中々考えられている。我慢比べでもするつもりかな」
再びリラは魔法を撃ち出したが、今度は直線的でなく頭上に飛ばして曲げ、弧を描いて上空から燕を狙う。
燕は変わらず頭上に水の円盤を作り、それを防ぐ。
燕の円盤は止むことのない魔法を受け、水蒸気になって形を小さくさせるが、刀の水をさらに供給させて防御を固める。燕が突っ込むのは、もう少しリラの魔法を疲弊させてからか。
燕の周囲の地面に穴がたくさん穿たれ――
「爆砕!」
燕の足下が爆発し、彼女は上空に吹き飛ばされた。
「ここでアレンジか!」
テンションの上がった天見は、思わずグッと拳を握る。
「地面に着弾しても残っていた針を溜めて一気に炸裂させたんだ! 数を集めて威力を上げる! 考えられている!」
「喜んでいる場合? あの子ピンチよ」
リラは上空で身動きが取れない燕に狙いを定め、
「闇夜をさらに惑わす霧雨、月の姿は見えがたく星の明かりは地に届かない――明暗月夜流刀剣術、朧月!」
円を描くように振られた刀から水が飛ばされ、周囲の水蒸気も魔法に呼応し、濃霧が現れた。
構わずリラは燕に火の針を放ったが、燕の姿は霧の中に消えた。手応えも反応もなかった。
そして、濃霧はリラの所まで覆っている。白いモヤは手元がかすむほど濃い。このままでは燕の接近を許してしまうと思った時、頬を風が触った。
手を触れて確認すると、血がついた。つまり、斬られた!?
接近が早すぎるし、何の気配もしなかった。
場所を覚えられていると判断し、すぐにその場を静かに離れた。だが、移動先で右腕を浅く斬られた。
(どうして!?)
声を出さず、リラは驚愕に叫ぶ。とにかくここにいるのは危ない。最早足音を気にする余裕も無く、霧の外に出ようと走る。だが、体がくの字になり後ろにひっくり返った。斬られたのか何かに引っかかったのか分からない。
お腹を押さえてリラは立ち上がり、後ろからの一撃で前にたたらを踏む。すぐに背後を振り返るが、人影すらない。
見えない敵からの攻撃がリラを焦らせる。本来なら弾数に限りがある火の針を、敵の居場所が分からないのに使うべきではない。だが、リラは全方位に向かって放った。どこにいようとも、これなら当たるだろうと。
しかし、魔法は濃霧の中に消えた。手応えどころか燕に物音一つ立てさせることなく。
敵が…………見えない。焦りは恐怖心を呼び、リラの呼吸が速くなる。
左上腕を浅く斬られる。短い悲鳴が上がり、ダメージ以上に喰らったリラは地面に膝をつく。そして、今度は起き上がろうとする動作が遅い。
「眠ってくださ~い」
背後からの声に振り返る前に、強烈な衝撃で脳を揺らされた。リラは膝から崩れ、地に伏した。
「明暗月夜流刀剣術奥義、白霧穏行水陣。この程度で怖がるなんて~、実践経験が足りない中等部ですね~。あ、ちなみに奥義のことは内緒ですよ~」
人差し指を立てて言ったが、当然リラから返事はなかった。
そして、霧は風に吹かれて晴れてきた。
「燕。わざとだろ」
ムスッと不機嫌に近づいてきた天見に、燕は小首を傾げる。
「何がですか~?」
「わざと俺から見えないようにカタを着けただろ。どうやって倒したんだよ!」
決着が見えなかったことが、大層不満らしい。燕は笑いながら手をパタパタさせ、片手に持つ刀で軽くジェスチャー。
「べっつに~。ポ~ンと峰打ちしただけです~」
「ホントか?」
「ホントですよ~」
疑う目に背中を向け、燕は気絶しているリラを背負って屋敷に歩き出した。
屋敷に戻ってきて、燕はメイドさんにリラを託した。
「何かあったのか?」
出迎えにファイナが上階から下りてきた。
「色々ありましたね~。水鏡さんがピーコーってだけで襲われたり~」
それを聞いて、ファイナは腕を組んで天見を見る。
「……少しはピーコーであることを控えた方がいいのではないか?」
「無理。言っておくけど、ファイナのためにコピー魔法使いをやめることはできないし、コピー魔法使いでないと偽ることもできないからな」
「それは私より、ピーコーであることの方が大事ということか」
「そうだ」
そのやり取りにはたで見ている燕は不安そうだったが、ファイナは軽く肩を竦めて嘆息しただけだ。
「水鏡ならばそうだろうな」
投げやりな言葉だった。そのどこか諦めを臭わせる言葉に、燕は不安を感じた。自分や天見がいなかった間に行われた話し合いで、何かあったんじゃなかろうかと。
ここは一つ、いつもの四人で親睦を深めようと燕が動こうとした時、
「水鏡天見、ちょっとよいか?」
翁が天見に声をかけてきた。
天見はそっちを見て――フリューゲルもいたので顔をしかめた。
「それ、断っていいですか?」
「ダメじゃ」
イヤイヤを隠しもせず肩を落として、頭にベリメスを乗っけて、天見は二人について行った。
残された燕は、肝心の天見がいなくなったので、残念そうにため息をついた。
応接間のような場所に案内され、天見はベリメスを頭に乗せたまま、テーブルを挟んで翁とフリューゲルと向かい合う。
「昨夜の内に話をしておこうと思ったんだけど、どうやらキミはすでに寝ていたみたいだね」
「そうだったんですか。全く気づきませんでした」
ヌケヌケと天見は流した。相対するフリューゲルはいつもの微笑みが消え、何だか仏頂面だ。その様子を見て、天見は先程のリラの行動と結び付け、ファイナが何か面倒なことでも言ったかなと察した。
天見は疲れるな~という嘆息を隠して、
「で、何です?」
手短にいきたいのでさっさと本題を促す。
(こんな礼儀のない輩に、ファイナはなぜ!)
憤りを覚えたが、フリューゲルは器の大きな所を見せようと冷静に務める。
「キミはファイナの事情を何も知らないのだろ」
「事情?」
キョトンとする天見に、フリューゲルは「そうだ」と頷いて、
「ファイナがどうして『連理の枝』になりたいのかを知れば、キミでもさすがにわきまえて身を引くはずだ。彼女に本当に必要なのは同じ魔法を使える者ではなく、公私にわたって彼女を助けられるような人間だ」
天見とベリメスは思わず半目になる。言外に、そのような人間は自分だと宣言していると分かったからだ。
「なるほど。なら知りたくないので言わないでください」
と、腰を上げようとする天見に、フリューゲルは驚きの声を上げる。
「キミはパートナーの事情をよく知らないで『連理の枝』で居続けるつもりか?」
「そうですよ」
「ファイナに興味がないのか!」
強い口調で問い詰められ、天見は困り顔で頬を指でかく。
「ないわけじゃないですけど……聞かなくても問題ないでしょ」
「薄情な。ファイナの覚悟も知らないで……上辺だけのコミュニケーションしか出来ない『連理の枝』が、強くなれると思っているのか!」
「『連理の枝』は変な気遣いを持っている方が強くなれないと思います。それに知らないことの方が全力を尽くせるっていうのは、多々あると思いますけど」
「確かにそうじゃの。ワシも過去、対戦相手が家族の治療代を捻出するために大会に出場していると知った時、本気は出しにくかったの」
天見の意見に賛同する翁の言葉に、他の三人は驚いた。てっきり翁は、フリューゲルの味方をするポジションでいると思っていたからだ。
若者の驚いた顔を見られて満足したのか、翁は楽しそうな顔を見せた。
とりあえず天見は話をフリューゲルに戻して、
「大体にして、他人から聞くのも違う気がするし」
「……詭弁だ。いや、言葉では何とでも言える。キミのようなファイナの覚悟を知ろうとしない輩は、大事な場面でファイナを見捨てて逃げるに決まっている」
言葉の勢いを失ったフリューゲルは、苦々しく吐き捨て俯いた。
それっきりフリューゲルが黙ってしまったので、天見は翁に顔を向ける。もう行ってもいいのかと判断を求めていると、
「ちなみに聞いておきたいんじゃが……いくら払えばファイナと別れる?」
とんでもないことを平然と言い出してきた。
だが、驚いているのはフリューゲルとベリメスで、天見は頬を指でかいている。
「金で解決するのが一番手っ取り早いじゃろ。遠慮なく言ってよいぞ」
「ファイナが別れてくれって言ったら、慰謝料も請求せず別れます」
「ほうほう。つまり、お主の方からは何があっても別れない、と?」
「俺から別れるつもりが少しでもあったら、最初からファイナと『連理の枝』になっていません」
「それほどの固い決意…………さてはお主、ファイナに特別な思いがあるな?」
「!?」
フリューゲルに動揺が走る。そんな身の毛もよだつ質問の答え、知りたくもない。
「ええ。あります」
最悪最低な答えにフリューゲルは拳を握って立ち上がったが、天見は彼なんて見ずにキラキラとした目で、
「こっちに来て初めてコピーした魔法――『双爆輪唱』! あのまだまだ可能性に溢れた魔法に関われるのなら、どんな困難も脅しも懐柔にも屈しない! 特定の魔法にのめり込んで他の魔法が疎かになるのは本意ではないけど……あ~! 仕方ないんだ! 俺も人間なんだ! 全ての魔法を愛せないように、自然と好みが出る!」
「貴様――訳の分からないことでごまか」
「…………」
天見の物言わぬ真っ黒の目に気圧され、フリューゲルは声を失った。「黙れ」と声にされるよりも迫力があった。すると、再び天見の目に光が宿り、
「初めての魔法だから思い入れがあるし、何より火炎・爆裂系の魔法はカッコイイんだもん! 男心がくすぐられるって! 久々に使いたい! でも使えない! 四六時中考えているのに……思いついたことを試したいのに……手にしているのに自由にできないなんて……。これがジレンマ? これがジレンマ! 今度許可が下りたら、思いっきり試してやる! 全力で! 『双爆輪唱』の方が音を上げるほど!」
周りが唖然とするほど熱く語る。
天見の頭にいるベリメスは、あんた達のせいだからねとばかりに、責める視線を翁とフリューゲルに向ける。
堰を切ってしまった天見のトークはそこから、『双爆輪唱』と出会った時に感じた感激から始まり、特筆すべき長所とこれからの問題点にまでおよび、その後しばらく一度も止まらず続いた。
え~、燕はマジで強いです。ホントなんですよ! 前のファイナ戦は本人もどっかで後ろめたかったのもあったからで…あ~、どうしても言い訳がましくなる~!
いや、ホントにね。燕はスペックが高いのにさりげなくやるし、言動がゆっくりなので強そうに見えないんですよ。
それでは、次回予告。天見が双爆輪唱を絶賛していのを聞いて、機嫌をよくしたファイナ。このまま仲が強まるかと思いきや、燕と翁がのんびりお茶をしている時に爆発音が! 現場にかけつけると、ファイナが天見につめ寄って……。
次回更新は金曜日です。あれですね、お話って全部を書かなくてもいいんですね。読者の興味を引くために、何があったんだと放り投げるのも大事なんだといまさら知った次第です。




