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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
恨まれるピーコー
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ファイナのイライラと観光

 天見とファイナ、両方を書いていくとすっご~く長くなる。これはもう、あれだ。どっちかを切るしかない。その候補に主人公が入っているのはなぜだろう?

 談話室にはファイナの他、フリューゲルとリラ、テオキルの三人がいる。


「だからファイナ、迷うことはないと思うよ」


 先程からも何か話しかけられていたような気がするが、ファイナはようやくフリューゲルの方へ無表情の顔を向けた。


「すまない。何も聞いていなかった」


 言葉では謝っていても全く悪いと思っていない様子で、ファイナは部屋を横切って開いている椅子に座った。


 フリューゲルは少しもめげずに話を繰り返す。


「キミ達のことはスキャンダルなネタとして動いている新聞社もある。プロに勝ったことが逆に話題性の価値を高めたんだ。今はまだ掲載されていないが、もし新聞に載るようなことになれば、傷つくのはキミだよ。そうなる前に、早く彼との『連理の枝』は解消した方がいい」


 ファイナは心象で「なるほど」と思いつつ、部屋の隅で存在を消している執事に紅茶を一杯要求する。


「傷つくのは私というより私の名前と体の価値だろ。誰もピーコーのお古などいらない」


「ファイナ、女の子がそんなはしたないことを」


「ただでさえ女の価値がねえ体なのにな」


 テオキルのこめかみに、モザイク処理された文言を展開しているリラの人差し指が突き付けられた。


「不愉快。消える?」


「おもしれえ。マジックの種は用意してあるんだろうな、ガキ」


「よさないか、二人とも! せっかくファイナが僕達の方を優先してくれたのに、滅茶苦茶にする気か」


 リラはテオキルに憎々しげな視線を残し、手は下ろした。


 フリューゲルは一息つき、上体を少し前に倒してファイナに気遣う目を向ける。


「キミの気持ちは分かるよ。僕も今の『連理の枝』は二人目だからね。最初のパートナーと別れる時は、ナーバスになったよ」


「そんなことも言っていたな。私と『連理の枝』になるということは、またパートナーと別れることになるが、いいのか?」


 聞かれて、フリューゲルは困ったように笑う。


「いいとか悪いとかじゃないよ。ステップアップのためさらに最適な相手と組むのは、『連理の枝』では珍しいことじゃない」


 身を乗り出すフリューゲルはさらに言葉に力を込める。


「それに今のパートナーには前々から、『キミ以上に相応しい相手が見つかったら、必ず正直に話す』と伝えている。パートナーには隠し事をせず、正直に接して誠意を見せることで信頼が育まれると僕は思っている。パートナーは僕の事情をしっかり知っていて、理解を示してくれる。今回のことも相談済みだよ」


 ファイナは淹れてもらった紅茶に口をつける。


「余計なお世話かもしれないが……ファイナ。約束のことやキミの事情を彼に話しているのかい?」


「…………」


 無言の答えに、フリューゲルは目を閉じて軽く首を横に振る。


「やっぱりね。いや、キミを非難するわけじゃない。簡単に言えるようなことじゃないのは分かっている。でも、そう言ったことも話し合え、相談し、協力していけるのが『連理の枝』だと思う。二か月もあって言えないようなら……心の中では、彼を信頼・信用していないんじゃないのかな」


 ファイナの顔はピクリとも動かない。それどころか、彼女は琥珀の水面に映った自分の顔を見ていて、話を聞いていたのかも分からない。


「そんな『連理の枝』の在り方ばかり言ってもしょうがない。ファイナ姉様の興味はそんな所にない」


 先程のいざこざからずっと不機嫌そうだったリラが話し出した。


「ファイナ姉様。あのピーコーだと相手の魔法を使えない場合、使えるのは姉様の魔法だけになる。それじゃ姉様が二人いるのと変わらないから、戦闘の幅が狭まるよ。その点、ボクなら遠距離の魔法が得意だよ。近距離タイプの姉様と相性がいいと思う」


「おまえらよ~……グダグダ言う前に、ピーコーなんて足手まといを『連理の枝』にした時点で気づけよ」


 テオキルは話に飽きているのか、背もたれに体を預け、ぶっきら棒な声を出した。


 自分とファイナの会話に割って入ってきたテオキルに、リラは睨みを飛ばす。


「黙っていて、不愉快。今はボクがファイナ姉様と話しているんだ」


 しかし、テオキルはお構いなしににやけた顔をファイナに向ける。


「この前プロと戦った時、おまえピーコーを庇ったんだって? 昔のおまえからしたら考えられねえな。そんなにあいつのことが好きなのか?」


 万が一を恐れて、二人が話題に出せなかった話が飛び出た。場に衝撃が走ったが、ファイナは変わらず無表情で、呆れたようなため息をつく。


「くだらない。リュートハルトおじ上にも言われたが、私は好き嫌いの感情で水鏡を選んだわけではない。庇ったのは、水鏡がやられては困るからだ」


「『困る』ね~。ファイナともあろう者が随分と腑抜けたもんだ! そんなにあんなピーコーを頼りにしているのかよ!」


「『連理の枝』を頼りにするのは当たり前だ」


「人形みたいな顔して他人を無視していたおまえが、随分と優しくなったもんだ。いくら取り繕ったってあいつを好きなのは見れば分かるぜ! 心配で男に駆け寄るなんて本当におまえ、ファイナか?」


「パートナーとして気遣っただけだ」


「男を家に招待して金がある所でも見せたかったのか? その貧相な体じゃ誘惑も出来ねえもんな!」


「そんなバカなことを考えるか」


「気にしてないってんなら、どうしてあいつの前で水着になれなかった!? 周りと比べられて、負けているのを見られたくなかったからだろ! 意識しているのがバレバレなんだよ!」


「バカバカしい」


「あいつの周りに女がいたら気にくわないか!? だから一緒に出掛けなかったんだろ。幼稚なのは体だけじゃないようだな。いっそのこと、さっさとピーコーとのことをばらされた方がスッキリするんじゃねえのか!」


「ひどい妄想だな。何を根拠に話しているのだか」


「心配するなよ! 本家の『連理の枝』ならおまえの妹が立派にやってくれるぜ!」


「――――ッ!」


 ピクリともしなかったファイナの表情が、わき上がった髪と共に一瞬にして変化した。だが――、


「引き合いに出していいことと悪いことがある」


「いい加減その耳障りな騒音を垂れ流す口を閉じろ。不愉快」


 フリューゲルとリラがテオキルをファイナの視界から隠すように囲み、臨戦態勢で彼を見下ろす。


 テオキルは喉の奥で笑って、「怖い怖い」と軽く言いながら部屋から退散した。彼がいなくなってから、フリューゲルは無表情に戻っているファイナを心配して声をかける。


「最近歯ごたえのある相手と戦っていないとかぼやいていたから、ファイナを挑発して手を出させようとでもしたんだろう。気にすることないよ」


 だが、ファイナは一言も話さず席を立つ。


「ファイナ姉様。ボクは姉様の味方だから」


「僕もだ。どんなことでも相談に乗るし、キミのためにも戦える。絶対に女の子を傷つけるようなマネはしないから」


 そのようなことを言いつつ追ってくる二人を、ファイナは肩越しに無味乾燥の視線だけをやり、


「鬱陶しい。私に近づくな」


 隣に来る前に声だけで押し止めた。


「有意義な話でもあるのかと思えば……どいつもこいつも予想を超えない話ばかり。こんなことなら、水鏡達と出かけた方が楽しかったな」


 そう言い捨て、ファイナは足早に部屋を出て行った。


 残された二人はしばし動けなかった。頭の中もファイナにピーコーと比較され、負けたショックで停止している。


 二人は信じられないことだが――分かった。ファイナが口では何と言おうとも、彼女の中ではあのピーコーが少なからずウェイトを占めていることが。


 自分達がファイナの『連理の枝』になるためには、まずあのピーコーを何とかしなければいけない。



 天見と燕のジャンケン結果により、サタナ大聖堂から回ることになった。


 数段の石段を上がると、尖塔の上に十字架がある大きな教会があった。入口が大きく広く、外壁には左右対称の幾何学模様が描かれていた。


 中は日が差して明るく、ピエルナに教えてもらって天井を見れば、立派な天井画があった。題材は神話で『神々の誕生』――四柱のアロゴスが三十六柱の神を生み出す場面だ。


 多くの神が描かれて迫力はあるが、魅力があるかと聞かれたら天見は「?」だ。ピエルナにキベリアメスティとモーシィルドリスがどれか聞いたが、そこまで詳しくは知らなかった。ただ、どれであろうとベリメスは不満そうで口をへの字にしていた。


 そして、奥に鎮座する神秘の巨石を見るための列に並ぶ。


 話によるとその巨石は元々この地にあって、その上に教会を建てたのだ。教会が出来る前から信仰の対象だったらしい。


 順調に進んでいき、天見が巨石の前に立つ。見た目には何の変哲もない大石で、天見の身長を超える二メートルはありそうだ。ロープが張られていて手を伸ばしても届かない位置だが、温かい空気が伝わってくる。


 錯覚か夏の熱風かと思ったが、違う。空気でもなさそうだ。雰囲気とでも言おうか、心がホンワカと和む温かさだ。


「これ、〈柱〉だわ」


 肩にいるベリメスが、天見だけにこっそり伝える。


〈柱〉とは魔法の終了後、属性に染色された〈粒子〉を無色の〈粒子〉に戻す働きをするもので、魔法世界の循環の要となるものだ。


 世界中にあるもので、聖クレストエルク魔法学園の地下にもあった。


「え? どうみても岩だけど」


「そういう形を取っているものもあるってことよ」


「こういう風に地上に出ているものだったら、この前も苦労しなかったのに」


「確かにね。大変だったものね~」


 ベリメスが頬に手をあてて、シミジミと呟いた。


 後ろに待っている人達がいるので、天見は合掌して……あ、違うと思って、手を組んでたくさんの魔法に出会えますように、と祈って場所を開けた。


「いや~、何かパワーをもらったような気がしますね~」


「人によっては、病気が治ったっていうのもあるのよ」


 燕とピエルナの話を聞いて、天見はベリメスと視線を合わせる。


「そんな効能が?」


「う~ん……ないと思うんだけど」


 でも、実際に何か温かいものは感じるし、信心深い人は何かを感じ取って勝手に元気になるかもしれない。


「天気もいいし、中庭が見える回廊に行ってみる? 巨石だけ見て帰る人もいるけど、あそこも中々よ。開放的で緑があるし、柱の上部にデザインされている装飾は人気だし」


 さすがは地元民。それならついでにと、天見達は案内されて向かう。


 先程の場所より人がおらず、確かに気持ちのいい場所だった。


「ちょっとすみません」


 話しかけられて天見がそちらを向くと、同年代の青年が快活な笑顔で立っていた。


「光か火の魔法を使えないかな? あそこの装飾が見えにくくて」


 青年が指差すのは、影になって見えづらくなっている柱の上部だ。


 天見がベリメスに視線をやると、彼女は『赤の書』を開いて、


「ナンバーファイブ、インストール」


「コピースタート」


 天見は掌上に作った火球を緩やかに柱の上部近くに投げて照らした。


 青年は効果時間の数秒で満足し、天見に笑顔を向ける。


「ありがとう。やっぱり来たからには、ちゃんと見ておきたかったんだ」


「わざわざ来て見逃すのはもったいないよな」


 共感して天見は頷く。青年も笑っていたが、同行者を見つけると再度お礼を言って駆けて行った。


「ブルドマン、案内ありがとう」


「いえ。楽しんでいただけたのなら……」


「もちろんだ。とても素晴らしいものを見せてもらった」


 最後に青年は天見に振り返り、手を振った。天見も手を振り返し、隣の同行者にも視線を合わせて会釈した。が、その人には無視された。


 そして、二人の姿が見えなくなってから、


「へ~、ブルドマンって名前だったんだ」


「ん? なに? どこかで会った人?」


 ベリメスが天見の呟きに反応して、疑問符を頭上に浮かべる。


「アレだよ。ファイナの親戚。集まった時一番端の席にいたおじさん」


「え!?」


 事も無げに言った天見の言葉に、ベリメスは驚いた。チラッと遠目に見ただけの青年の同行者は帽子をしていたし、服装は半袖のワイシャツにベストというラフなスタイル。会議ではろくに顔も合わせず、着飾っていたし、座ってばかりで背格好も印象にない。


 なのに、天見には分かる。一度関係を持った魔法使いは決して忘れない彼の驚異さだ。



 ひとしきり見るべき場所を回って、四人は教会を後にしようとした。


 その時、石段を上がってきた人が最後の一段で躓いた。


「大丈夫ですか?」


 心配して天見と燕が駆け寄って手を差し伸べると、大きな荷物を背負った短い金髪の人はその手を取って顔を上げる。


「すみません。ありがとうございます。着いたと思ったら少し気が抜けてしまって……」


 顔を見合わせて、ベリメスも含めた四人は「あ」と声をそろえた。


『シャロン先輩!?』


「あなた達!? どうしてここに?」


 金髪の女性は天見達と同じ聖クレストエルクに通うシャロン=ニスレストだった。一学年上の二年生で、燕と同じ著作権委員だ。いつもは身を清めてシスター服で教会に従事する彼女だが、今は顔に疲労と服装に汚れが見られる。


「私達はファイナさんの家に招待されたんです~。それよりシャロン先輩、どうしてそんな疲れているっぽいんですか~?」


 シャロンは二人の手に支えられて立ち上がってから、


「巡礼のため、歩いてきたのです」


 その言葉に天見達は頭に大きな汗をかいた。クレッセントからスペリオルまで半端な距離ではない。それこそ一日二日歩き通して着く距離じゃない。


「そんな女の子の一人旅なんて~、危なくなかったんですか~?」


「全てが試練です」


「すごい根性と行動力と信心さね」


「さすがと言うか何と言うか」


 天見とベリメスは、シャロンが思う所があってこの旅に出たことは知っていたが、まさかそこまでハードなことを自分に課していたとは知らなかった。


「ところでそちらの方は? それにグリューテイルさんの姿も見えないようですけど」


 背後にいるピエルナのことを聞かれて、


「あ、彼女は……え~っと、まあ、ガイドさん?」


「それならお金とれるわね」


「そうだ。シャロン先輩聞いてくださいよ~。水鏡さん、ファイナさんと『連理の枝』を解消させられるかもしれないっていうのに、何もしないんですよ~!」


 それを言わないように苦心した天見の努力をぶち壊す、燕の告げ口だった。


 シャロンの「え?」という怪訝な顔に見られ、天見は額に手をやってから、あらためてピエルナを紹介する。


「ファイナの新しい『連理の枝』候補の一人、ピエルナ=カノールさんです。ファイナは今、他の候補者と何かしています。俺達は観光に出て、その案内を彼女が買って出てくれたんです」


「まあ、私は最初からピーコーとの『連理の枝』には反対でしたので何も言うことはありませんが……」


 シャロンはジロジロと探るように天見を見て、


「あなたはどう考えているのですか?」


「俺としては『連理の枝』は続けたいですよ。楽しいですし」


「なら~、ファイナさんと一緒に候補者の人を蹴散らしてくださいよ~」


「そんなので解決するわけないだろ」


 そらそうだと、ベリメスとシャロンも声に出さず思った。


「あ~『シャロン』。彼と秘技を使った子ね」


 思い出した感じで声を出したピエルナを、シャロンはどうして知っているという顔で見返した。ピエルナは怪しげな笑みを天見に向け、


「お姫様と『連理の枝』なのに、裏では彼女とも練習していたんだ」


「そんなことしていません。あれが最初で最後です」


 頬を赤くしたシャロンが、キッパリと断言した。


「え~? 練習もしないで成功するとは思えないんだけど」


 そういう勘繰りをクラスメイトにもされたシャロンは、フルフルと肩を震わし、キッと天見を睨み、彼はサッと顔を背けた。


「私! 神父様から手紙を預かってきているので失礼します!」


 むくれたシャロンは強引に会話を終了させて教会へと向かう。が、立ち止まってピエルナに、


「あなたにはおそらく、グリューテイルさんの『連理の枝』は無理ですね」


 仕返しのように言い残していった。


 シャロンがいなくなってから、燕は「あ」と声を出した。


「本部に行くからシャロン先輩も誘えばよかったですかね~?」


「休ませてあげましょうよ」


 ベリメスの言葉に天見も頷いた。

 いや~、さすが思い込みで天見の命を狙ったこともある信心深いシャロンさん。自分にも手加減しませんね。

 さて、今回の話でファイナに妹がいることが発覚しました。最初から決めていたことで、今回の話のためいきなり決めたわけではありません。キッパリ!

 その証拠に第一部で天見は、ファイナが『連理の枝』について焦っていると感じていましたが、それに妹が関係しています。まあ、正直第二部でその話を出す予定だったのですが、コミュニケーションがそこまで進まなかった。

 なにせ、彼女は話題作りが下手で家族の話なんかしませんしね。

 後々本編で語らせる予定ですが、ファイナには男の兄弟はいませんが、双子の妹がいます。

 それでは、次回予告。次は委員会本部に行こうとしていたが、途中立ち寄った市場で天見が追われることに。「なぜ?」の答えにピエルナが答える。それは天見がピーコーだから。

 次回更新は金曜日です。ピーコーに関する説明回になります。

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