コピー魔法使いの倒し方Ⅱ
第一部で燕が言っていましたが、他人のオリジナル魔法を使う場合は発言に出典先が組み込まれていないのがほとんどなので、魔法を使った後にⒸをつけてその人の名前を言わなくてはいけません。
天見の目の前で、三人の執事は一律に懐から懐中時計型ガジェットを取り出し、チップを入れ、
『起動!』
声を重ねて、モザイク処理された文言を展開させる。
『主人に捧げる清流のごとく清らかな忠義!』
三人は右腕を天に掲げた後、握った拳で胸の真ん中を叩く。
『流麗なる騎士! Ⓒカルシターノ=フリッピ!』
発言が唱えられると、三人の背後に甲冑姿で剣を持つ水の騎士が現れた。
「天見!?」
ベリメスは盲点を突かれたように焦りを声に出すが、天見は変わらず笑顔だ。
「コピー魔法使いの美学一つ! 乱戦こそがコピー魔法の華! 戦う全員が全員同じ魔法なんて、面白すぎるだろ! 誰が一番使いこなすか――知恵を尽くしていこうかぁ!」
怯むことない天見の笑みにベリメスは苦笑し、『赤の書』を開く。
「ナンバーナイン、インストール!」
ベリメスの声に反応して、天見のモノクルが水色に光る。
「コピースタート!」
天見の左手の指輪が渦巻くように光る〈粒子〉を集め、
「主人に捧げる清流のごとく清らかな忠義!」
天見は右腕を天に掲げた後、握った拳で胸の真ん中を叩く。
「流麗なる騎士! Ⓒカルシターノ=フリッピ!」
天見の背後に甲冑姿で剣を持つ水の騎士が現れた。
観客の方で少しどよめくが、相対する執事達は動揺一つない。
執事達の騎士が一斉に飛び掛かってきた。それを天見の騎士が迎え撃ちに出る。
中間で剣を交えるが、そこは三対一。一体が上手くかわして天見を狙う。
振り下ろされる初撃を、天見は身をよじって避けた。だが、さらに騎士は距離を詰め、剣を上段に振り上げる。
呼び戻した天見の騎士が、相手の剣ごと腕を半ばから斬り飛ばした。
しかし次の瞬間、天見の騎士の胸から二本の剣が突き出た。がら空きの背中に、攻撃を受けたのだ。
すかさず天見の騎士は剣の持ち手を変え、切っ先を自分に向けて躊躇なく突きこんだ。
自分ごと後ろにいた騎士の一体を串刺しにする。
無傷の騎士は剣を引き抜き、天見へと迫る。彼はバックステップで距離を取ったが、横手から腕と剣を切り飛ばしたはずの騎士が、その腕と剣を元通りにして斬りかかってきた。
その一撃は避けきれずに、天見の左腕を浅く斬りつけた。が、傷の深さに関わらず、彼は激痛に顔をしかめた。
天見の足が鈍り、二体の騎士が追撃をかける。
そこに割って入って来たのが、下半身しかない天見の騎士だった。どうやら繋ぎ止められていた相手の剣から脱するために、自身の剣で分割したようだ。
天見の目の前で、下半身の切断面から水がわき上がり、上半身が現れて剣と新たに水で作った盾で、相手の攻撃を二つとも受け止める。
しかし、水量を失い過ぎたせいか、無傷の騎士の剣は天見の剣を易々と切断した。
突破される寸前、天見は騎士の体全てを剣へと変えた。その残った剣は彼の意思で振り回され、二体の騎士を真っ二つに胴斬りした後、大気中に消えた。
「コピースタート!」
天見はすかさず魔法を使い、再び騎士を出現させた。
全快した騎士が現れたので、三体の騎士は一旦距離を取った。
「天見、やっぱり多勢に無勢よ」
「そういった状況を知恵で何とかするのが、かしこさが高い魔法使いってもんだよ」
天見は左腕の傷を右手で押さえながら、今の所得た魔法について整理する。
(まず、術者からかなり離れてもコントロールできる。魔法と視覚は繋がってないから、見える範囲内なら動かせるって所か。そして、有形でありながら無形。基本は騎士の形だけど変形出来るし、ダメージを受けても構成する〈粒子〉量が一定以下にならない限り再生できる。一回目の感じからして、全損したら無理だな。相手みたく騎士に構わず、術者を狙った方がいいか……)
思考の間に向こうに動きがあった。騎士の一体が下半身を馬に変えて人馬よろしく、一体は剣を長大に変え、もう一体は剣を二刀構える。様子見を終えて、本気で攻めるようだ。
「他の魔法も使うことを考えた方が……」
「困った状況で安易に他の魔法に頼るのは主義じゃない。魔法に対してそんな薄情なマネをするぐらいなら、死んだ方が――」
ポンッと天見は拳で掌を叩き――おもむろにその場に座り込んだ。
ベリメスは仰天して、
「ちょ、ちょっと天見!? 何をやっているの!?」
「下手に動くと騎士の動きに集中できない。相手の狙いはどうせ俺なんだ。動かない方が騎士も守りやすいだろ」
「そうは言っても、その騎士を動かしているのは天見でしょ!」
三体の騎士は散開して、天見の前方に人馬の一体、大きく回って左右斜め後方から一体ずつ迫ってくる。
「そうくると思ってた!」
手薄になった前方へ、天見の騎士は剣を全力で投げた。
しかし人馬になっただけはあり、前方の騎士のスピードは速かった。天見はちゃんと騎士を外して執事を狙ったが、人馬の騎士はすぐさま剣に反応し、横っ飛びで剣を下から弾いた。
天見の剣は上へ弾かれ回転しながら、執事達の後方の地面に刺さった。
その時には、天見の背後からすでに騎士達が間合いに入っていた。
執事達は数で劣る天見が取る行動は、騎士達の乱戦に自分達も巻きこむほど接近するか、防御しつつ隙を狙って剣でも投げてくるだろうと読んでいた。
だから、距離さえ取っておけばさして問題は無い。
彼らの予想が的中した天見の行動は、ただ失笑を買っただけだった。
そして、浅はかな行動の結果、決着がつこうとしていた。
背後から迫る騎士達の攻撃を、天見の騎士がその身で受け止めた。が、双剣による連撃と長大な剣による一刀両断――それしかもたず消えた。
「天見ッ!」
ベリメスが叫び、防ぐ手段が無くなったのに天見は座したまま動かない。
再び魔法を使わせる暇は与えない。前方からも人馬の騎士が突進してきて、三体の騎士の剣が振り上げられ――下ろされることなく〈粒子〉に戻り、大気中に消えていった。
「え?」
ベリメスの呆けた声が漏れ出た。それは観戦していた人達も同様で、訳が分からないとばかりに目を丸くしていた。
全てを知っているただ一人――天見だけが左腕を押さえて立ち上がり、
「惜しかったな」
執事達に笑いかけた。彼らはゆっくりと倒れ伏し…………その背後には、天見の水の騎士がいた。
「ん? え? ど、どういうこと?」
「簡単だよ。騎士の方に崩れないギリギリの量だけ残して、投げた剣の方に残った全部を込めておいたんだ。あんな単純な投擲は避けられるから、あの人達の背後であらためて騎士を復活させて、トントントンと三回斬ったわけ」
簡単な説明を聞いてベリメスは唖然とした。そしてすぐに、頭から怒りのキノコ雲を噴き出させた。
「って、それ天見が無防備になるじゃない! 相手に気づかれたり、少し遅れたりしたらやられていたじゃない!」
「何言っているんだよ、ベリメス。この作戦の胆は、相手に勝ったと思って勝利の場面に釘付けになってもらわないといけないんだよ。じゃないと、あれほどの使い手だ。剣の仕掛けに気づく恐れがあった。何のために俺は、あえて動かないよってアピールして座ったと思ってる? ここで、俺がやられるよって、みんなに思わせるためだ。誰にでもいいから聞いてみるといい。あの時、俺以外を見ていた人が一人でもいるのかって」
おそらく……いない。戦いを見守っていた人で、誰が決着の瞬間から目を外せようか。
分かったが、納得しきれていないベリメスは、閉じた口を波立たせる。
天見の左腕に回復魔法をかけながら、誰にも聞こえないようにコソッと言う。
「天見、あなたかすり傷でもかなりのダメージでしょ。もろに喰らっていたら命が危なかったのかもしれないのよ」
「分かっているよ。でも、信じて託した。流麗なる騎士の再生の速さと攻撃力に……だから、俺が恐怖でミスしたら申し訳ないよ」
天見の傍らにやってきた水の騎士。信じてもらった主人に勝利を捧げられて誇らしそうに見えるのは、錯覚だろうか。
「水鏡、大丈夫か?」
駆け寄ってきたファイナが、心配を心象に隠して尋ねる。
天見はベリメスが治してくれた左腕を軽く振って、大丈夫アピールをしてから、
「あの翁って呼ばれているおじいさんは何者なんだ?」
「翁はリコリンの弟で、海運会社『ポントス』の会長だ。若い時から会社に携わり、分家との縁も深い。本家と分家のパイプ役で、分家を統括する方だ。この家の管理もリコリンから頼まれている」
「理事長の弟さんなんですか~」
遅れて歩いてきた燕が、ちょっと驚いている。見た目が美少女のリコリスの弟が年相応のおじいさんだから、驚くのも無理ないかもしれない。
天見も「へ~」と少し驚きの返事をしてから、腕を上げて思いっきり伸びをする。
「とにかく」
「疲れたのか?」
「いや、楽しかった」
命をかけたとは思えない感想に、ベリメスは苦笑した。
観戦していた人達――呆然自失の決着。
それはそうだろう。ファイナと燕以外の人達にしてみれば、コピー魔法使いが魔法使いに勝つなんて、ありえないことだったのだ。
昨今のコピー魔法使いという者は、チップのデータ分だけコピーして使うので、威力なんて最高で七割、基本は四割三割というところ。さらに、魔法を習得した人に比べて、その魔法に対する認識は当然劣っている。これで勝てるわけがない。
それでも魔法をコピーするのは、習得を面倒だと感じて形だけでも手軽に済まそうとしたり、単に情報を盗み取って売ろうとしたりするためだ。
だから、ピーコーはモラルを失った人間のクズ。とまで言われることがあるのだ。
観戦していたほとんどの人は、「たまたまだ」とか「油断していたせいだ」とか、天見の実力を認めずに、ピーコーと同じ家に寝泊まりするのを嫌がって帰っていく。
残ったのは、ファイナのパートナーに推されている四人と翁。
翁は四人の顔を観察する。どうやらそれぞれ何かを感じ取ったようだ。今のを見てフロックだと思うような輩は、ファイナの『連理の枝』など務まらないだろう。
「ファイナのことじゃから、妥協はせぬじゃろう。お主達は最低でも、あのピーコーと同じレベルかそれ以上だと示さねばいけないの」
テオキルあたりが叫びそうなのに先んじて、翁の杖が彼の鼻先に向けられた。
「勝てんぞ、強いだけではな」
翁の老練な睨みに気圧され、テオキルは声が出せなかった。
「翁……それはどういう意味ですか」
翁は杖を引いて、フリューゲルをチラリと見る。
「そんなもん。言うまでもないわ」
どこか楽しそうに、翁は屋敷に戻って行き「あやつの部屋を用意してやれ」と残していった。
四人は翁を見送った後、ファイナと天見の方へと視線をやった。
そして、夕食の時にも一悶着あった。テオキルがピーコーと食卓を囲めるかと言い出したのだ。屋敷側は最初からその配慮をしてあったらしく、天見だけは使用人達の方で食事をしてもらう予定だった。
だが、それに怒ったのがファイナだった。「水鏡は私が招待したゲストだ。翁も客人として迎えると言った。私は私のゲストをもてなす義務がある。水鏡と一緒にいたくないというならさっさと出て行け。ここは、私の家だ」。
睨み合うファイナとテオキルの間にフリューゲルが仲裁に入り、「食事はみんなで楽しく食べようよ」と彼女を擁護することを言われ、テオキルは不承不承引いた。
しかし、夕食は沈黙が重たい場になった。
食事が終わったら、長距離移動して疲れている天見達はさっさと自室に引っ込んだ。ファイナはフリューゲルから談話室に誘われていたが、それも断っていた。
天見とベリメスは割り当てられた部屋に入って、ベッドに仰向けで倒れ込んだ。
「あ~今日は疲れた~」
天見は目を閉じて、シミジミと呟いた。
「ホントね~。食事の時も圧がすごくて何だか肩がこったわ」
「もう今日はな~んもしたくない」
精神的にも肉体的にも疲れている状況で、ふかふかなベッドにお腹一杯のコンディション。寝るのに五秒もいらないだろう。
まどろみ、そのまま心地よく寝ようとした時、邪魔するようにドアがノックされた。
「フリューゲルだ。話がある」
ファイナの親戚で候補者の一人。そう思った天見はドアに近づき――キチンと施錠されているのを確認して、念のためドアが開かないようベリメスと協力して、ちょっと重たいテーブルをドアの前に移動させる。
「早く開けてくれないか」
一向にドアが開けられることがないので、フリューゲルがまた声を出してきたが、天見は取り合わない。
それもまあ、当然である。向こうには話があっても、天見には話が無い。どうせファイナに関しての面倒な話に決まっている……そんな訳で天見の考えは、
(出てたまるか)
色々あって疲れて眠いのに、そんなもの付き合っていられない。確認するまでもなく、ベリメスも同意見だ。
それに、当然のようにドアが開けられると思っているのにも、何か気分が良くない。自分の考えは何でも通るとでも思っているのだろうか?
さらに何度かノックされ、「いるんだろ」「起きているだろ」とか「どうしてドアを開けない?」とか……無視して、天見とベリメスはベッドに入って――寝た。
今回の戦闘、初めの案は水の騎士の再生能力と状態維持を活かして、メチャメチャ分割させてからの再生で分身させて、天見の方が数を増やして多勢に無勢をやろうと思っていました。
そっちの方が圧倒的ですし、天見は『平和の象徴』で数の多い魔法のコントロールも慣れているし、オリジナル以上に見えそうだなっと。
ですが、あえて今回のようにしました。天見には命をかけてもらいました。後々これが意味を持つようにしたいです。
それでは、次回予告。天見との『連理の枝』解消を求められたファイナ。でも、燕の滞在期間もあるのでまず海に行くことになりました。しかしそこは、ファイナにとっては負け戦の場で…。
というわけで、次回は海です。新キャラ四人のキャラ紹介になるような回にしたいと思います。




