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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
コピー魔法使いのローファンタジー、正論に切られる連理の枝
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プロローグ

 お久しぶりです。随分と長いことお待たせしました。できることなら、一月中に更新したかったんですけど無理でした。今日の更新も躊躇するほどの筆の進まなさです。

 まあ、進まないってぼやいても仕方ないです。自分を追い詰めるため、始めたら書くだろうという希望です。今回のプロローグも何度書き直したことか……。

 それでは、とにもかくにも第三部の開始です!

「もっての外だ!」


 激昂をこめてテーブルを叩く男の言葉に、周囲も同調して頷く。


 長テーブルに並ぶのは初老から老人までの男で、毛量と腹回りの差こそあれ、どいつもこいつも似たような金のかかっている服装をしている。隣の奴よりも少しでも良いものを……とか考えているのだろうか?


「グリューテイル家本家の長女の『連理の枝』が、どこの馬の骨とも分からん輩であるばかりか…………ピーコーだとぉ~!」


 周りが顔色を変えるほど騒いでいる中、この中では若い方のやせた中年男性が静かに頷く。


「とても看過できる問題ではない」


「当然だ! 『連理の枝』全体の品位にも関わってくる!」


「現在活動中の『連理の枝』の評判も悪くなってしまうぞ!」


「姫にはグリューテイル家息女としての自覚がないのか!?」


「これなら『連理の枝』になってもらわない方が良い!」


「だから、私は最初から姫がクレストエルクに行くのに反対だったのだ!」


「今さら何だ!」


「よさないか! 全ては本家の怠慢と甘やかしのせいだ!」


 止める者、否定する者はおらずほぼ全ての者が「そうだそうだ」と騒ぎ出す。その様を見て、呆れたようにため息をつく者もいるが。


「『連理の枝』の将来を左右しかねない重要なことを、世の道理も満足に分かっていない子どもに決めさせるなど!」


「何やら姫は強さにこだわっているようだが、強さや結果などは後々どうにでも出来る! そんなものより大事なのはパートナーだ! グリューテイルに相応しく、万人が納得でき、隣にいて絵になるかどうか!」


「自然と注目を集め、盛り立てていくべき本家が世間の非難を買うようなマネをしてどうする! 突飛な話題はもろ刃の剣。そういうことは失敗しても斬り捨てればいい者にやらせればいいのだ!」


 バンッと、一際大きくテーブルが叩かれる。そして、年甲斐も無く勢い込んだ者が椅子を倒して立ち上がる。


「姫を甘やかす本家には任せておけん!」


「事は『連理の枝』全体の問題! 我らも意見を言う権利はある!」


「即刻このピーコーを排除しろ! 『連理の枝』の誇りと名誉を汚されてなるものか!」


「姫には我らが選んだ者の中から、真っ当な『連理の枝』を選んでもらう!」


「それが嫌ならば姫には即刻学園をやめ、戻って来てもらう!」


 会議の結論は一つにまとまったが、誰もがこのチャンスをものにしようと目を光らせていた。


 部屋の外で聞き耳を立てる必要も無く話を聞いていた青年は、薄く笑って寄りかかっていた壁から離れる。


「分かっていないな」


 そして、彼は自分と……一応同列の候補者がいる部屋に戻る。


「ファイナに相応しいのは、僕しかいないよ」


 彼はそっと、右手首にある青のメタリックカラーの腕輪型ガジェットに触った。


 部屋の方ではそれぞれ退室したり、談笑したりと勝手にしている。


 会議では発言が少なく、周囲程熱を持っていなかった中年男性は黙って立ち上がる。


「お主は随分と静かじゃったの」


 声をかけてきたのは、杖をつく白いひげを伸ばした老人。


「自分の考えは言いました」


 男性は老人に合わせた歩調で、ゆっくりと連れ立って歩く。


「少し前まで東へいて、情報が遅れたお主は運が悪かったの」


「そうですね。ですが私の子どもはまだ幼いですし、火の属性も持っていませんからね。相応の人を用意しようにも、姫の強さに見合う人なんてそうそう見つけられませんよ」


「何じゃ、そんな風に思っとったのか? ワシはてっきり、お主がヘソを曲げていると思ったんじゃが」


「いえ、あれほどのはしゃぎっぷりについていけなかっただけです」


 玄関に近づいた所で、男性は老人に一礼した。


「では、もう帰ります。我が家には今、東方からお連れした客人が来ていますので」


「相変わらず仕事熱心な奴じゃの~。接待疲れするなよ」


 去って行く男性を、老人は杖を振って見送った。



 騒音と景観を損ねる問題から町より少し離れた場所にある駅で、蒸気機関車から下り立った少年は大きく伸びをした。


「着いた~」


 彼の頭の上では、同じように伸びをしている妖精がいる。


「機関車に初めて乗ったけど中々いいものね。風景が流れていくのが面白かったわ」


「ベリメスはずっと窓から外眺めていたな」


「そういう天見だって、町が見えた時は喜んでいたじゃない」


「魔法世界の新しい町が見えたら、いやがおうにもテンション上がるって」


 気安い会話をしているこの二人、実は妖精ベリメスの方が保護者である。彼女は手の平サイズより少し大きく、背中に四枚の羽を持つ。ライムカラーの髪を一つにまとめ、肩が見える服に短い淡色のフレアスカートという格好だ。


 そして、ベリメスの世話になっている『コピー』魔法使い水鏡天見。栗色の髪と一六〇に届いていない身長から、少年という印象がピタリとはまる。容姿に関して語ることがないほど平凡な彼だが、左目につけられたモノクル(単眼鏡)と、左の人差し指にある青い石が入ったリクレスポロの指輪、あと両手両足にある重りの黒いバンドは目を引く。


 天見の服装はいつもの制服ではなく、半袖のシャツとハーフズボン。それと、手提げバックが一つ。


「荷物が少ない人はいいですね~」


 背後からのうらめしそうな声に振り返ると、ボストンバックを肩掛けしている聖籠燕が機関車の出入り口の狭さに苦労していた。


 短い赤毛の彼女は、天見のクラスの著作権委員だ。著作権法違反する者はその腰に携える刀で容赦なく斬りかかる。だから、コピー魔法使いの天見のことを厳しく監視している。


 燕も楽な恰好をしている。涼しげな淡い寒色系のシャツに短めなスカート。


「気合い入れ過ぎなんだよ」


「荷物は必要最小限にまとめるものよ」


「だって~、ここからそのまま実家に帰る予定ですし~……わっ!」


 天見が手伝いに近づく前に、いきなり後ろからドンッと押された燕はつっかえが取れて前にたたらを踏んだ。


 何とか転ぶのを回避した燕は、押された強さに優しさを感じられなかったので、口を尖らせて後ろを見る。


「あやうく転ぶ所でしたよ~、ファイナさん」


 そこにいたのは、ローラー付きのケースを引く背の高い綺麗な女性――ファイナ=グリューテイルだった。その顔は端正だが無表情がベースで、彼女の表情を読み取るのは難しい。が、付き合っていればそれほど感情を読むのは難しくない。


 彼女は白いブラウスに足の細さが際立つズボンスタイル。


「燕がグズグズしているのが悪い」


 もうそろそろ付き合いが二か月になる三人は、ファイナが不機嫌なのを察した。凛とした雰囲気の中に少々苛立ちが混じっているが、その原因は謎。


 ファイナは乗車中、ずっと上機嫌だった。それは下りる直前までそうだった……この降車する短い間に何があったのか? その答えは、彼女の視線を追えば簡単に分かる。


 中性的な美貌を持つファイナの深紅の瞳は、燕の胸元に向けられていた。


 ボストンバックを斜め掛けしているものだから、肩掛けのベルトが食い込んで、燕の大きな胸が強調されるされる。


 スタイルがバツグンのファイナだが、胸だけはスレンダー(それで天見との間に誤解が生じたこともある)。駅に着いて荷物を棚から下ろした時、目の前でこれ見よがしにコンプレックスを刺激されては、燕に非が無いと分かっていても、やり場のない怒りが生まれてもしょうがないというもの。


 とりあえず、原因が分からないのでさわらぬ神にたたりなし。あえてファイナに理由を聞かずに、四人は改札へ向かう。


「ところで、燕は本当に実家に帰るのを遅らせてよかったのか?」


「スペリオルは死ぬまでに行っておきたいとまで言われる観光地ですからね~。来てみたかったんですよ~、特に夏! この時期に来ようとしたら宿屋を確保するのも大変ですから、ファイナさんに感謝で~す」


 そう、この四人は現在ファイナの実家に向かっている。聖クレストエルク魔法学園が夏休みに入り、寮も業者が入って大掃除するので閉鎖された。その間行く当てのない天見は、ファイナに「私の実家に行かないか?」と誘われたのだ。


 大陸の中心付近にあるクレッセントの町から北西に機関車で半日と数時間。ユリック海に面する広大な都市――スペルズ国の首都スペリオルに彼女の実家がある。海運業を中心に発展したスペリオルだが観光人気も高く、有名なリゾート地になっている。


「俺も色々見て回るのがけっこう楽しみなんだ。ファイナは?」


「……私は地元民だぞ。感慨などあるものか」


 まだ少しご機嫌斜め。


「へ~、その割には機関車の中じゃ語ってたじゃない? 町の景観や聖堂にある神秘の巨石は見る価値があるんでしょ? あと、プライベートビーチは人を気にしなくていいらしいし、活気に溢れる市場では色んなものが売られているとか」


「あ……あれは、水鏡が、無知過ぎるから少し説明したにすぎない」


「その少しのおかげで俺は大分楽しみなんだよね」


 確かに、天見の足は重りをつけているにも関わらず、スキップ一歩手前ぐらいの軽やかさを見せている。


「みんなそうですよ~。だって、長い乗車時間だったのに結局ず~っと話して、ゲームしてたじゃないですか~。だ~れも寝ませんでしたし」


「みんなテンション高いわね」


「旅行にテンション上げていたのはベリメスもだろ」


「しょうがないでしょ。性みたいなものよ」


「水鏡、遊ぶだけではないぞ。ちゃんと『連理の枝』の練習もするからな」


「むしろ、やらないとかって言い出したら怒るぞ。魔法が使えるのは、遊ぶ以上に楽しみだからな」


 話している間にファイナの機嫌も戻ってきた。よかったよかったと改札を出て、ふと上を見上げた燕が、


「あ……」


「どうした、燕?」


 立ち止まった燕に気づいて、全員が立ち止まる。そして、彼女が指差す先を見る。


 そこには大気中の〈粒子〉濃度を測定する機械があり、その針は警戒値に近い警報値を差していた。


「……運が悪い。おそらくだが、近々〈核魔獣〉が出る」


 燕はげんなりと肩を落とした。


「警戒値になったら外出を控えないといけませんし~。休むお店も出て来ちゃいますね~」


「え? でも、この前のクレッセントじゃ、別にそういったことはなかったようだけど」


「控えなければいけないだけで、結局は自己責任だからな。それに、この前は原因不明な特殊な状況で、常に警報値と警戒値を行き来していた。ずっと閉じこもっているわけにもいかないだろ」


「〈災害〉なんだからしょうがないわよ。ま、一回出ちゃえば当分起こらないものだし、我慢しましょ」


「う~……さっさと出て、安全値になってほしいですぅ~」


 実家に帰るので、滞在を一週間と決めている燕は切実に祈った。


 駅の外に出ると、迎えの馬車が待っていた。


 もう夕方なので、ファイナの家に着く頃には夜になっているだろう。スペリオルを満喫するのは明日以降になる。



 しかし、残念ながらこの旅行は楽しいだけではなかった。


 ファイナは窮地に立ち……結論を言えば、彼女と天見の『連理の枝』が分家の人達に認められることはなかった。

 と言う訳で、観光気分が台無しになりそうないや~な予感がヒシヒシしますね。

 あ~まったくうるさい。今の利益を守るために変化を恐れて保守的になるのは悪いことじゃないと思いますけど、若者の挑戦を邪魔するんじゃねえ~よ。です。このおっさん連中には名前を付ける予定がないので、金持ちABCDとでも思ってください。

 さて、今回の話は見た通りファイナの事情に深く入り込んでいくことになります。今までもちょこちょこファイナが主人公っぽいことがありましたが……天見の影が薄くなりませんように(神に祈ってないで、自分が何とかせねば)。

 次回予告。ファイナの実家で出迎えてくれたのは、天見と比べ物にならない美形の優男。すでに親戚が集まっていることに、ファイナはため息をつく。

 それでは、次回更新は来週の金曜日です。けっこうギリギリで書いていますので、ちょこちょこ編集することがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

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