スパルタ教育その4
は~い。今回がこの短編ラストになります。四日間お付き合いくださり、ありがとうございました。連日の更新って、大変ですね。ホント、毎日更新している人を尊敬します。
補習の最終日。
天見はセリアと自信満々に約束していた。補習をとっとと終わらせて絶対にお披露目に駆けつけるから、と。
『魔法理論・情報入力』の最終課題は、中級魔法の打ちこみである。教科書に載っているそれは、平均なら一時間あれば終わる。早い人なら三十分以内だろう。
果たして天見は、
「終わりました」
開始十五分で終わった。
監督していた先生がちゃんと確認すると、本当に終わっていた。天見曰く、「おそらくここが出ると思って、今週ずっと練習していたんです」とのこと。
――同時刻、クレッセント某所。
「最初の協力が、何でこれ以上ないってくらいどうでもいいことなのよ!」
気炎を吐くモドリスに、クリスタルからジャックを抜いた『ハッカー』李 崑崙は面白そうに笑いながら、
「使われている感がこの上ないね。しかし、この程度の課題を出す学園か……退屈じゃなければいいけどね」
「こんなことに使われるぐらいなら、さっさと首都とやらに行っとけばよかったわ!」
「モドリスがのんびりしたいって言ったね」
モドリスに軽口を叩く崑崙にヒヤヒヤしながら、頭上に汗を飛ばすミヤは彼女をなだめた。
ダッシュでグラウンドに向かった天見は、まだ基本的な練習をしているのを見て、間に合ったと安堵した。すぐにセリアを見つけたが、彼女はこの後の披露を考えているのか、若干緊張気味に見える。
「大丈夫かしら?」
「二発中の一発を朝に撃ったから、やり直しできないとかって思ってたりするのかな」
心配ではあるが、見守るしかない。邪魔にならず、ゆっくり見学できる場所を探して、天見は辺りを見回す。
すると、グラウンドの隅に見覚えのある男達を見つけた。それは天翔流の四人組だ。
先日彼らとセリアの間にいざこざがあったことを知らない天見だが、不穏な気配は感じた。
(変なことにならなきゃいいけど)
何もやっていない相手を、怪しいというだけでどうこうするわけにもいかない。一応天見は、彼らがいると覚えておく。
ついに実技の補習は最後の単元に入った。
生徒達が一人一人前に出て魔法を披露していく。魔法のランクなどは気にせず、丁寧にしっかり使えれば合格という簡単なもので、順々に合格していく。
補習を受けている人数も少ないので、すぐにセリアの順が回ってきた。
セリアは一度グラウンドを見回し、天見とベリメスを見つけて……緊張を高めたようだ。どうやら、見られていると緊張するタイプのようだ。
気休めでも「頑張れ」と声をかけようかと天見とベリメスが思った時、
「風の魔法を満足に使えない奴は引っ込め!」
「無様を晒すだけだ! 天翔流の恥になるんだからやめろ!」
「どうせ自信なんて無いんだろ!」
うるさい野次が飛んできた。案の定だが、やはり天翔流の四人組だ。
ベリメスが見ると、セリアは俯いて止まってしまっている。天見にあの四人を止めさせようと思った時、
「自信が無いのは当たり前だ!」
一際大きな声で天見が叫んだ。思わず、ベリメスは耳を塞いだ。
「今まで自分の才能を信じてこなかったセリアに、いきなり自信なんか生まれるか! 生まれる根拠がないだろ!」
声援というより、野次に近い内容に天翔流の四人もどうしたことかと声が止まっている。
しかし、セリアは顔を上げて天見の声をちゃんと聴いている。
「だけど、根拠のない自信はたまに周りの迷惑になるから無くてもいいと思うぞ! そんでもって、魔法を使ってさっさと根拠を手に入れろ!」
グラウンドにいる全員が唖然となっている中、セリアはチップをフェザーのブローチに入れ、
「起動!」
モザイク処理された大きな『文言』を周囲に展開させる。
両腕を開き、空気をかき集めるように腕を動かして胸の前で手と手を重ねる。
「暗中で巡り会った輝きを胸に、開闢の決意!」
閉じた目を開き、体勢を低くして体を後方にねじる。跳ね上がった右手に、風で形作られたブーメランが握られる。
「覚醒の恵風!」
セリアはブーメランを斜め上方に向かって力強く投げた。
投げられたブーメランは空中に留まると高速で回転を始め、周囲の風を巻き込んでいく。地上にいる人は引き込まれないよう、必死に大地にしがみついている。その中には、術者のセリアも含まれている。
臨界点に達したブーメランは球形に大きく弾け飛んだ。その際の衝撃波と音で、心構えが出来ていなかった人達はひっくり返った。
起き上がったセリアは、天見のアドバイスを思い出した。
『水平方向には、使った本人も巻き込まれて使えないけど、斜め四十五度で上に放てば大丈夫だと思う。ただ、その時でも注意はしないといけないだろうけどね。熟練すれば射程距離も増えて、威力も調節できるようになるから水平方向へ撃てるよ』
『でも、追撃の魔法が必要ないぐらいの威力になったわね』
『うん。今の段階でここまでの威力になるのは、さすがに予想外』
振り返って、天見とベリメスを見る。二人は嬉しそうに握った拳に親指を立てていた。
試験は文句なく合格だった。
補習を終えて、天見達三人はすっかり集まる場に定着した林の中にいた。
そこへ、天翔流の四人が現れた。何やら、余裕が無さそうな雰囲気が伝わってくる。
「何か用か?」
何となく予想をしていたので、天見はさして驚きもしない。
「――やっちまえ!」
いきなり四人は頭上に跳び上がり、襲い掛かってきた。風の魔法使いは上空を制しようとするらしいが、こうもセオリー通りに動いてくれると……ありがたい。
「その身で受けてみるか? 対空最強魔法を!」
天見の自信タップリなセリフを受け、ベリメスは手にしている『赤の書』を開く。
「ナンバーフォー、インストール!」
「コピースタート!」
天見の左手の指輪が光る〈粒子〉を渦巻くように集め、彼は両腕を開き、空気をかき集めるように腕を動かして胸の前で手と手を重ねる。
「暗中で巡り会った輝きを胸に、開闢の決意!」
閉じた目を開き、体勢を低くして体を後方にねじる。跳ね上がった右手に、風で形作られたブーメランが握られる。
「覚醒の恵風! Ⓒセリア=フラノール」
天見はブーメランを斜め上方に向かって力強く投げた。
それは誰にも当たらなかったが、空中に留まって高速回転を始めると、踏ん張りが効かない空中にいた四人はすぐに巻き込まれた。そして、大きく弾けてそれぞれ空の彼方に飛ばされた。
彼らが着弾して穿った場所には、クレーターの表面に螺旋がかかれていた。
天見が魔法の威力に感心していると、
「……あ、あの~、何ですか? 対空最強魔法って……」
遠慮がちにセリアが聞いてきた。
「空にいてアレを防げる方法はそうないぞ。自信持って語っていいと思う」
「そんな自信はいいです」
丁重に辞退した。
その時、背後から背中を叩かれて天見は振り向き……そこにシャロンがいたので、ゆっくりと顔を戻した。だが、シャロンは天見の頭を掴んで、力ずく後ろを向かせる。そのため、天見は上半身をねじった変な体勢で彼女と向き合うことになった。
「あれ? シャロン先輩、荷物を持っていますけどどこかにお出かけですか?」
天見が目ざとく見つけた通り、シャロンは夏だというのに肌を隠した長袖長ズボンで、帽子を横に引っかけたリュックを背負っていた。彼女はニッコリ笑って、
「ええ。ちょっと思う所があって、夏休みを利用して聖地を巡礼してこようと思っていたのです。今日は教会に挨拶と、旅の無事を祈ろうと思って来ました」
「そうですか。大変な旅になりそうですね。俺も安全を祈っています。では」
「『では』じゃありません。見ていましたよ。水鏡さん、あなたまた著作権法違反しましたね? 著作権委員として見過ごせません」
「ちょっと待ってよ。『覚醒の恵風』はまだ著作権法に登録されていないでしょ」
ベリメスの言葉に、天見が「イヤ」と答え、
「著作権法第六条で、著作権の存続期間は創作の申請を出した時から始まる。とされている。先生達のサイン入り日付からと考えれば、確かに違反したことになる」
「そうですよ……というか、分かっていて何で違反するんですか?」
「事後承諾でも、著作権があるセリアから許可をもらえれば――」
と、天見の言葉が途切れた。シャロンの腕に置かれた手に気づいたからだ――その手の主は……セリア。彼女は口元にもう一方の手をやってまごまごしている。が、唇を少しかんでから勢いよく、
「天見さんは、著作権法違反していません」
ハッキリとした声を出した。
その場にいる全員が「え?」と怪訝な顔をしている中、セリアは一枚の書類をシャロンに突き出した。それは先程天見が言った、先生のサインが入った書類だ。
シャロンは天見から手を放して、その書類を受け取って確認した。
「……何ですか、この子どもが描いた絵は?」
「そのサインを見てください」
言われて、シャロンは不満そうに書かれたサインを見る――「水鏡 天見」。
「この魔法は……私と天見さんの共作です。著作権法第四条『共同で魔法を創作した場合は、創作に関わった全ての者に著作権を与えることができる』。ですから、天見さんにも著作権があるんです」
全員から驚きの声が上がった。
「つまり、自由に使っていいのか!?」
興奮してセリアの両肩を持つ。勢い込んで聞かれ、セリアは頬を赤くして俯き、
「はい」
かすかな声で答えた。
シャロンは一応書類の日付を確認し、パッと見問題無さそうなので、書類をセリアに返す。
「分かりました。ですが水鏡さん」
シャロンの射抜くような冷たく鋭い視線に、天見は若干引いた。
「共作者に迷惑をかけないよう、節度を持って使用するように」
間近で睨まれ、天見の頭に大きな汗が流れ、彼は「はい」と固い返事をした。
シャロンがいなくなって、天見はようやく安堵の息をついた。
「よかったの? 天見にも著作権を与えちゃって」
わざわざ確認を取るベリメスに天見は慌てた。前言を撤回されたらたまったものじゃないからだ。
「よかったも何も、天見さんがいたからこの魔法は出来たんですから」
セリアは「それに」と付け足す。
「天見さんなら、大切に使ってくれると思いますから」
純粋な信頼を向けられ、天見は気恥ずかしそうに頬を指でかいた。
照れているのを指摘するようにベリメスに頬を突かれて、天見はうるさそうに手で払いのける。
「ところで、やけに天翔流の奴らが突っかかってきたな」
「そうね。ムカつくほど失礼な子達だったわ。きっと他人を虐めて憂さ晴らしをしようとかそんな所でしょ。ああいうタイプは絶対にそこそこの強さで、強い人には尻尾を振っているのよ」
珍しく不機嫌に腕を組んでいるベリメスのコメントに、セリアは言い難そうに俯いて、頭から汗を飛ばした。
「……あ、あの~……実は私……」
セリアは一つ間を開けてから、胸の前で手を握って思い切って声を出す。
「天翔流の正統後継者候補なんです」
(彼女なりに)力強く宣言したのだが、天見とベリメスはポカーンとしている。反応が無いのにセリアは慌てて、
「あ、でも、私は先代後継者からの血筋だけで候補にしてもらっている人間ですので、正統後継者とか無理なんです。けど……やっぱり競争相手は少ない方がいいからって……減らそうとする人もいるので……あの四人はその人の仲間か、仲間になりたいと思って手柄が欲しかったのか……と、思います」
「うわ~、小悪党。さすがの俺もそういう魔法使いには敬意を持てないわ」
天見の言葉に同意してベリメスは数回頷いて…………、
『正統後継者ぁ~!?』
二人は同時に驚愕の声を上げた。
恥ずかしそうに肩をすぼめるセリアは頭上から汗を飛ばす。
「候補です、候補。それに、私以外に今の所二十人ほどいますし」
「…………エリートさんだったんだ」
「そう言えば、推薦で学園に入ったって言ったわね……強力な推薦だったんでしょうね」
天翔流が風の流派として大手なのは知っているが、どれだけの規模かは二人とも詳しく知らないので、驚けるのもその程度だった。
思っていたより淡泊な反応に、セリアは目をパチクリさせる。
「まあ、後継者問題とか知らない。セリアが目指したいなら目指してみればいいんじゃないか? 頑張れば何とかなるかもしれないし」
変わらない。天見はセリアが天翔流の正統後継者候補と知っても、期待も妬みもすり寄ることも敬遠することも、しない。
自然と、セリアの体が動いた――天見に抱きつき、ハッとした一瞬で離れた。
それを目撃したベリメスは開いた口が塞がってないし、抱きつかれた天見は起こったことが理解できていないのか、目を白黒させて固まっている。
セリアの顔はやっぱり真っ赤だが、前髪の間から見える瞳はしっかり天見に向けられ、
「天見さん、ベリメスさん、本当にありがとうございました。今年は少し楽な気持ちで、本部の集まりに顔を出せそうです」
「ありがとう」に本来の「ありがとう」を込めて、朗らかに笑った。
あまりに衝撃的な最後に、天見とベリメスは会話も無く、ボンヤリとした様子で『双葉』の自室に戻ってきた。そのままベッドに腰掛け、しばらく時間が経つ。
「ほら~、やっぱり寮にいましたよ~」
「水鏡。なぜ先に帰っている」
講習から帰ってきたファイナと燕に声をかけられ、ようやく天見とベリメスは気を取り戻した。
「あ、おかえり」
「そう言えば、一緒に帰る約束をしていたかしら」
「補習が終わって気でも抜けたのか? 不可解な。まあいい、それより水鏡。来週からどうするのだ?」
質問の意味が分からず、天見とベリメスの頭上に疑問符が浮かぶ。
「来週から寮が閉鎖されて、業者の点検と大掃除が入るんですよ~」
「え!?」
「夏休み前から掲示板に告知されていただろ」
天見はベリメスと顔を見合わせ――二人そろって確認していなかったことを知る。
「それに~、女子寮の方で窓ガラスが割れる原因不明の事故がありましたし~……私、過去に似たようなことが校舎の方で起こったのを知っているんですけど~」
と、燕がジト~っとした目で見てきたので、天見とベリメスは明後日の方を向いた。実はその件、天見のしわざとばれてもいなければ、自首もしていない。
何も決まってなさそうな天見の様子を見て、ファイナは腕を組んで逡巡しているが、燕に軽く小突かれて「分かっている」と何気なさを装って、
「な、なら……ば、わっ私の実家に行かないか!?」
声は上ずっているのに、無表情で言い放つそれはもうさすがとしか言えない。
「え?」
「私達は『連理の枝』なのだし、夏休み中に練習できないというのは痛手だ。それに水鏡にフラフラされて、著作権法違反されると困る」
燕はファイナの誘い文句を聞いて、「まあまあですかね~」と一人ごちてから、
「ちなみに、私も少しお邪魔させてもらいますよ~。実家の道場の方には来月帰りますって手紙を送っておきましたから~」
軽く手を上げて伝える。
「……あ~それなら、迷惑じゃなければ、ご厄介になろうかな」
別に行く当てもなければ、やるべきこともないので、あっさりと天見は決めた。
それを聞いて、ファイナは安堵の表情を心象に隠した。
「それでは準備をしておけ。私の実家は、首都のスペリオルにある」
今回書きたかったことは、著作権法第四条『共同で魔法を創作した場合は、創作に関わった全ての者に著作権を与えることができる』です。これで、著作権法十条は大体話題になりました。八条と九条は常に言われています。
そして、次回のお話は舞台を首都のスペリオルに移しま~す。首都にはファイナの実家の他、ラデルク教の大きな教会いわゆる聖地、著作権委員の本部、天翔流スペリオル本部があります。登場人物はお察しください。
しかし、実は次回のストーリーは『倍速コピー修得!』のお話にするつもりだったんですけど、そろそろ『連理の枝』としての絆を深めようかと思って、また今度にしました。
それでは、次回の大まか予告~。
「ふぅ~ん、キミがファイナの『連理の枝』ね~」
「あなた、極上の嫉妬心ね。私が力を貸してあげましょうか?」
「どうやって、完璧な『双爆輪唱』のチップを手に入れた!」
「ホント、悪い神様ね」
「天見さん! こんな所でお会いできるなんて!」
「グリューテイルの『連理の枝』になるのは、僕だ!」
「おまえなんかに、ファイナの『連理の枝』は渡さない!」
とまあ、こんな感じです。変更することもありますのであしからず。
次回の主要人物として、いけ好かないキャラを書こうと思うのですが、そんなキャラを書いたことがないので今は色々調べています。けっこう難しいですがこれも勉強ですね。
こっちの話とは関係ないんですけど、賞のために書いている方もあるので、書き始めるのが遅くなりそうです。申し訳ありません。
今回の話を何週かに分ければ時間が稼げたんですけど、まあ年末年始ですし、何かないとつまらないだろうと思って(けっこう特急で頑張りました)。
それでは、次回『コピー魔法使い首都へ行く(仮)』(このタイトルはないな。何かもっと良いのを考えます)でお会いしましょう。




