スパルタ教育その3
あけましておめでとう~!
このプロローグ的短編は全四回になります。そういえば、前回の話が50話目になるんですね。ちょっと嬉しいです。
次の日、補習が終わった天見とセリアは教会の後ろにある林で会っていた。人に見えない場所のため、セリアも気兼ねしなくていいからだ。
「できた。できた!?」
顔を合わせるなり天見が期待を込めてセリアに迫ったので、「落ち着きなさい」とベリメスが彼の後頭部にチョップをして突っ込んだ。その様子を見て、「本当に保護者なんだ」とセリアは思った。
「まだ文言とかは決めてませんけど、とりあえず魔法が発動出来るだけのデータは打ち込んでみました」
と、セリアはチップを見せる。
百聞は一見にしかず。話すよりも見た方が早いということで、セリアが魔法を使う。
ガジェットにチップを入れ、
「起動」
小規模な文言が出現し、セリアは掌中に作り出した風の塊を真っ直ぐ投げた。すると、その塊は激しく回転して周囲の風を巻き込んだ。
それを見届けて、天見とベリメスは腑に落ちない様子で腕を組む。
「…………何か……」
「そうね。何か、ね」
悩んでいるリアクションを見て、セリアは間違えていたのだろうかと不安に襲われる。
「今の魔法って、どれぐらいの強さで設定したの?」
「初級ですけど……」
「あ~、だからかな? 何か……そうだな~……窮屈そうだった? 的な?」
表現の仕方に苦しんでいた天見に乗って、ベリメスも頷く。
「そうそう、そんな感じ。まだあなた、風の〈粒子〉量に随分と余力があるし、もう少し出力を上げた方がいいわよ」
確かにセリアの〈粒子〉はまだまだある。でも彼女としては、いきなり高いレベルのものに挑むのは気が引けたから、初級に設定していたのだ。
二人に言われて、セリアは少し考え込む。
「……はい。それじゃ~…………思い切って、中級ぐらいに設定してみます」
「いや、上級でいいんじゃないかな」
天見の提案に、セリアは「とんでもない!」とばかりに首を横に振った。
「そんな、私みたいなのが、いきなり上級の魔法を作るなんて……おこがまし過ぎます」
恐縮するセリアは二人の物珍しそうに見てくる視線に気づき、顔を赤くして俯く。
「……あの、なにか?」
「セリアみたいな魔法使いって新鮮だな」
「そうね。今まで出会った魔法使いって、みんな我が強かったわよね」
「特に女の魔法使いにいたっては、ほぼ襲われているからね、俺」
「……………………ホントだ!? 襲ってきてないのって理事長ぐらいじゃない?」
今さらながら気づいたベリメスが、かなり驚いて口に手を当てる。
「普通はみなさん、自分の魔法に自信を持っていて……見てもらいたいって思うから前に前にって……」
セリアはあえて「大事にしているから、簡単にコピーされたら怒るんだと思います」は言わなかった。そして彼女は気弱な自分を笑って、
「……もし、私にオリジナルの魔法が出来たとしても、みなさんのようにはなれないと思います」
『別にならなくっていいって』
我の強い魔法使いに良い思い出がない二人の声がはもった。
そして、話はオリジナルの魔法に戻る。
天見はペンを手の中で回しながら、書類を前にする。
「さてと……じゃ、改善点は…………まず、設定を上級に直す」
「中級です」
そこはしっかりとセリアが突っ込む。天見はちゃんと書類に「中級」と書きこむ。
「形状だけど、球じゃない方がいいと思うんだ。別の魔法とかぶりやすいし」
「鳥とか龍とか?」
「……でも、あまり形状に凝ると時間がかかりますよ。初めての造形ですし、今週中では完成しません」
「ブーメランは?」
「え~……いえ、風は武器の形成には向いていませんから」
天見の的外れな意見を、セリアはやんわりと否定する。しかし、天見は書類に三日月の図を描く。
「でも、形状はやたらに練習していた風刃とほぼ一緒でしょ? あれを意図的に分厚くすればいいんだから、慣れているんじゃない? 球よりも投げるのに向いているだろうし」
言われて、セリアは黙って考え込む。頭の中では可能かもしれないと思うが、難しいことには変わりない。二の足を踏んでいる様子の彼女に、ベリメスが気軽に声をかける。
「今までの練習が無駄にならないかもしれないんだし、試してみれば? ダメだったら球に戻せばいいだけじゃない。あなたは少し、ダメ元っていうのを経験した方がいいわね」
「そうそう、失敗ぐらい気にするなよ。良いものを作るために試行錯誤するのは当たり前なんだから。何度だって付き合うって」
二人に背中を押され、セリアは頷いた。
「大きく変えるのはそんな所か」
天見から書類を手渡され、セリアは大事にしまう。
「あ、それと……あなた、前髪を切ったら? 風の魔法を使うたびに前髪が暴れて、目に入るかもしれないわよ」
ベリメスに言われた通りなのだが、セリアは困ったように俯く。
他人の視線を避けるように伸ばした前髪――それはセリアを守る盾なのだ。それが無くなれば、セリアは自分が人前に出ることもできなくなるような気がする。
「使う時に邪魔ならヘアピンで押さえればいいんだし、別にいいんじゃない。セリアが切りたくなったら切ればいいさ」
セリアの心情を察してか、天見が何気なく言う。彼女が顔を上げると、もう天見は立ち上がっていて、ベリメスを肩に乗せている。
「それじゃ、今日は遅刻するわけにはいかないんだ。また明日、ここでね」
約束をして、天見は校舎の方へ走って行った。
セリアだってのんびりしていられない。大きく変えるということは、それだけデータの打ちこみに時間がかかるのだ。明日の約束に間に合うよう、寮へと走った。
急いでいたセリアは、林から出てきたのを目撃されていたことに気づかなかった。
次の日、昨日挙げた改善点はセリアによって全てクリアされていた。ブーメランの形状も問題なく、高速回転するそれが風を巻き込む威力は、見ていた天見を巻き込みかねない程だった。
「おし、それじゃ次は……」
必死に地面にしがみついて耐えた天見は、制服が草まみれになっていた。笑ってはいけないと思って、セリアは顔を俯かせる。こういう時、どこを向いているかばれない前髪は便利だ。
「威力を安定させるために入れる名前ね」
「それと、動作と『文言』と『発言』です」
「風の神様の名前を入れるのか?」
「いえ、中級ですので神獣の名前を入れようかと思います。天翔流でもよく使われる、お世話になっている方のがありますから」
どうやらセリアの中ではもう、チップの完成は見えているようだ。
「それなら後はあなたの好みの問題になってくるから、手伝えることはないわね」
「待ってくれ、ベリメス。風に関する単語について俺はこれだけ調べて来たわけで」
スパーンっと気持ちのいいツッコミが入って、天見の手から紙の束が落ちた。セリアがその中の一枚を手に取って見ると、箇条書きでズラズラと文字が並んでいる。まさか一日でこの量を書きとめたのかと思うと、その熱意にセリアは若干引いた。
「まあ、よかったら参考にして。もちろん、参考にしなくても構わないから。それじゃ、また明日」
「ちょっと待った! 今日はまだ時間があるだろ。風に関しては多種な名前どころか色までつける民族だぞ。これほど情緒的な俺のアドバイスを無視していいのか!?」
「天見の魔法じゃないでしょ」
なんとベリメスに後ろ襟を引かれて、天見は連れ去られて行ってしまった。
セリアはその様子を見送って、散らばっている紙を整える。先程の光景を思い出すと、自然と笑ってしまう。
明後日の午前中に最後の補習授業があるから、作業が出来るのは明日までだ。
(出来上がったら、最初にあの二人に見てもらいたいな)
とすると、今日あたりは修羅場になりそうだとセリアは「うん」と一つ頷いて立ち上がった。
しかし、やる気に満ちていた顔は恐怖に凍りつく。
目の前に、同門の男四人が立っていたからだ。
木の曜日。
天見とベリメスは林の中で待ちぼうけしていた。ずっと待っているが、セリアが来る気配は全くない。もう実技の補習も終わっているはずなのだが。
「どうしたんだろ? 随分と遅いな」
「根を詰め過ぎて体調でも崩したのかしら…………天見が猛プッシュするから~」
そう言われては天見も唸ってしまう。冷静になると確かに強引過ぎたかな~っと思うが……。
(魔法のことで淡々としている俺って…………いないだろ)
と、冷静な自己分析をするのであった。
こうしていても仕方がないし、様子を見に女子寮に向かう。
聖クレストエルク魔法学園の寮は、男子寮と女子寮が一階部分で繋がっていて、中間に『連理の枝』用の『双葉』がある。そして、当然だが女子寮は男子禁制だ。
中間にある職員の部屋には絶えず人がいて、各寮の入退出をしっかり監督している。夏休みでほとんどの生徒が家に帰っているが、まだ補習や講習で残っている人もいるのでしっかりと職員もいる。
天見は人よりミニサイズのベリメスを女子寮に先行させ、窓ガラスを開けてもらって侵入した。夏休みで人がいないため目撃されることもなかった。
しかし、セリアの部屋がどこにあるのかは分からない。部屋の前には入っている人の名前が書かれているので、一室一室見て行けば分かる。ただ、四階もあるのにそんなことをしていたらさすがに見つかりそうだ。そこで、またベリメスに頼んだ。
ベリメスは〈粒子〉の集まりを感知できるから、部屋の中に人がいるかどうかぐらいすぐ分かる。そのため、時間をかけることなくセリアの部屋を見つけられた。
天見はセリアと書かれた表札を見てから、少し緊張しながら女性の部屋をノックした。
中から返答はない。ベリメスに目をやると、「中に人はいる」と答えたので、今度はノックに「セリア?」と声もかけた。
「…………放っておいてください」
弱々しいセリアの声が中から聞こえた。どうやら、声で外にいるのが天見だと分かったようだ。しかし、声の感じに元気がない。
「気分でも悪いの?」
ベリメスが心配げに声をかけるが、沈黙ばかりで返答がない。
ようやく声が聞こえたと思ったら、
「いいんです。勝手だとは思いますけど、もう結構です。ありがとうございました」
また、拒絶の「ありがとう」だ。
一方的に突き放されただけでなく、セリアが魔法を投げ出した。これは天見が黙っていないとベリメスは思ったが、意外にも彼は落ち着いていた。
天見は面白くなさそうに髪をかき、しばし考え込んでいる。
「セリア、何があった? 一応の完成を目前にしてやめなくてもいいだろ。せめてオリジナルの魔法を作り終えたらどうだ? これからどうするにしても、完成させた経験は絶対プラスの経験になるぞ」
「怒らないのね」
「ほら、ズケズケとやり過ぎたかな~って、ちょっと反省したんだよ」
どうやら先程の話題をけっこう気にしていたようだ。
「オリジナルの魔法も……もういいです。もう天翔流も…………やめたいと、思います」
「だから、何があった?」
冷静であろうと頑張っているが、先程より少し天見の声に力が乗る。でも、セリアは彼の質問には一切答えない。
天見はドアに手を当てて、全身から力を抜くように大きくため息を吐いた。
「……分かった。数日付き合っただけの他人に簡単に話せるような理由じゃないんだな。それほどの理由なら…………」
天見は一度言葉を切って、ドアに当てていた手を握って、歯を食いしばって苦しそうな声を搾り出す。
「仕方ない、な」
断腸の思い。これほど分かりやすいソレもないだろう。
静かになった。
ドアに背中を向けて体育座りをしているセリアは、膝に顔をうずめる。今、彼女は思考を停止させている。感情を殺し、何も思わないようにしている。
申し訳なさも後悔も悲しさも感じないよう、ただ、嫌な時間が過ぎるのを待つ。
しかし、黙っていると自分のことが心底嫌になった昨日を思い出してしまう。
同門の男四人はセリアと天見が一緒にいたことを知り、風の魔法が使えないからコピー魔法を習い出したのか、才能がない上にプライドもないなどと罵倒し、あろうことか以前天見が天翔流の魔法をコピー出来たのは、セリアが横流しをしたからではないかとも言い出した。
セリアは言い返すことも否定もできず、逃げた。天見の擁護すら出来なかった。自分の力を信じてくれ、一緒に頑張ってくれる人を悪く言われたのに、何も出来なかった。そこまで自分は弱い人間だったのか……才能がない落ちこぼれに薄情……消えてしまいたい。
その時、カーテンを引いていたにも関わらず強烈な光が部屋に差し、窓ガラスが激しく割れた。
何が起こったのか分からず呆気に取られていたセリア。窓から入ってきた天見はガラスを踏み鳴らして彼女の前に立つ。
「風の創世の魔法は見せてやれないけど、光の創世の魔法なら今のだ」
「……………………はい?」
あらゆることが理解不能とセリアの顔に書いてある。ちなみに、セリアの部屋は二階なのだが……。
天見の肩に座っているベリメスは、彼がすんなり引くわけないなっとは思っていたが、創世の魔法を使ったのは全くの予想外だった。信じられないと呆れながらも、どこか笑うしかないと苦笑している。
「セリアがそう結論を出したなら……本気で心底、絶対に認めたくないけど仕方がない。尊重する。セリアの問題だし、やる気がないのに無理強いするわけにはいかない」
全然納得していないムスッとした顔つきだが、言葉だけは殊勝だ。ここまで強引なのだから、力ずくで引っ張り出すのかとベリメスは思っていた。
天見はセリアに近づき、床に膝をついて視線を合わせる。前髪からのぞく、呆けている彼女の瞳を真っ直ぐ見る。
「でも、本気でここで見限るつもりなら、これまで付き合ったやつにはハッキリと伝えろ」
そう言って彼女の手を取って立たせ、部屋にあった鏡の前に連れて行く。
「風以外に持っている属性は?」
「え? ……あ、はい。体と闇を持ってます……けど」
「どっちでもいい。使え。そして、『属性の剪定』をしろ」
衝撃がセリアの胸を突いた。
何を言われたか分からない様子でセリアは天見を見るが、彼は黙ったままだ。逃げようにも、手を握られたままなので逃げられない。
「数日しか付き合っていない俺達に謝る必要は全くない。だけど、本来の性能を引き出されなかったのに、ずっと……長い間付き合い続けた、セリアの風の〈粒子〉にはしっかりケジメをつけろ。ここで見限るなら半端はするな。セリアの手で剪定しろ。風の〈粒子〉を切り落とせ」
セリアは声も出せず首を小さく横に振るが、天見は許さず、彼女の小さな手をより強く握る。
「これ以上下手に期待させるな。セリアの奥深くに眠っていた風の〈粒子〉は、俺のせいで変に期待したんだ。もしかしたら、存分に活躍できるんじゃないかって……でも、そうはならなかった。風の〈粒子〉の落胆ぶりを考えると、俺はどう謝っていいか分からない」
沈痛な天見の表情を見て、セリアは彼の申し訳なさを感じた――本気のやつを。彼がそう感じているのは、セリアにではない。セリアの中に眠る(天見が勝手に眠っていると考えている)風の〈粒子〉にだ。
魔法……しかも、他人の魔法にどうしてそこまで感じられるのか、セリアは分からなかった。でも、そんな天見を見て、自分は彼ぐらい本気で自分の魔法と向き合っただろうかと、セリアは思った。
(もし、私が……彼ぐらいの熱意と真剣さで魔法と向き合っていたら……人に言われるままでなく、自分でどうすれば考えていたら――)
今とは違ったかもしれない。
「また俺はセリアに押し付けているけど……もう、決めたんだろ? なら、どうせ、他の属性を使うようになっていくんだ。それなら……切り落とす最初の一つを俺に見せてくれ…………素晴らしい才能があったことを、忘れないように」
最後の最後まで、天見はセリアの才能を疑わない。
しばし、沈黙が落ちる。誰一人動きを見せない。だから、二人の手はずっと繋がれたままだ。
「……あの、私なんかが……上手く風の魔法を扱えるようになると……思いますか?」
「そんなのは分からない」
オズオズとしたセリアの質問に、天見は容赦なくハッキリ答える。
「いくら才能があるからって、努力を怠ればそれなりにしかならないだろ。才能があることと、成功することはイコールじゃないんだ。だから、逆も言えるんだ。そうでも思っていなければ、短所だらけの俺が頑張れるか」
「じゃ、私も努力します。今からします」
スルッと、セリアは天見の手から自分の手を抜いた。
「明日までに、オリジナルの魔法を完成させてみせます」
外では寮の窓がいきなり大量に割れたことで、人が集まって来てうるさかった。その中でも、セリアが宣言した声はハッキリと天見とベリメスの耳に届いた。
早朝近く、寮の近くにあるひらけた場所でとんでもないことが起きていた。
地面がクレーター状に陥没し、その表面に螺旋がひかれ、さらにふちは激しく削られている。それは大きく深い穴だ。その近くにいた天見とベリメスとセリアは、命からがらと肩で息をついていた。
「あ、危なかった」
「一歩間違えたら、天見なら死んでたわね……って、なにその子に抱きついているのよ!」
ベリメスにポカンっと叩かれて、天見は慌てて抱きついて押し倒していたセリアの上から体を上げる。
「待って! 理由があるんだ! 吹っ飛ばされないように少しでも重くと思って!」
真っ赤な顔になっているセリアは「分かってます、分かってますから」と、これ以上話題にしてほしくなさそうで、彼女から話題を元に戻した。
「そんなことより……ごめんなさい。まさか……上級に設定し直したら、こんなことになるなんて……どうしよう。時間ももうありませんし、作り直す余裕は……」
「大丈夫だ!」
満面笑顔ではしゃぐ天見は、勢いよく立ち上がる。今さっき九死に一生を経験したように見えないから驚きだ。
「言っただろ。煮ても焼いても食えないようなものでも、丸のみするって! こんなスゴイ魔法を、失敗作にはしない!」
あの天翔流の四人はやたらにしつこいですね。ああいう人の人格を否定するような輩は嫌いですわ~、何か理由でもあるんですかね?
さて、それでは次回がこの短編のラストです。何やら魔法は完成したみたいですけど、欠陥もあるみたいで、天見がどうするのか?
しかし今回、天見は女子との主人公的接触がけっこうありますね。まあ、短編ぐらいは主人公らしくってことで。
それでは、また明日お付き合いください。




