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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
決戦! 全力のコピー
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神への挑戦

 金曜日の夜に更新するのが難しそうなので、早めに更新します。

 説明していませんでしたが、天見が流派の魔法をコピーして使う場合、出典先は流派になるのでコピーした術者の名前を言う必要は厳密にはありません。でも、天見はコピーさせてもらっているので、術者の名前もしっかり言っているのです。

 結果を見届けたファイナは、自分でも意識せず右手をギュッと握った。


「勝ちました! 水鏡さんが勝ちましたよ~ベリメスさん!」


「指を差さなくても見ていた。分かっている。何を驚くことがあるか。私の『連理の枝』ならば当然だ」


 ファイナの腕を持って光球を指さす燕はかなり興奮している。その笑顔のまま、


「まあ~それとは別の話になりますけど~、著作権法第一条に違反していたので、帰って来たら即行で捕まえますけどね~!」


「……いや、ちょっと待て。第一条違反とはどういうことだ? 水鏡が誰の何の魔法を使っていた確証と証拠がある? 文言も発言も聞こえなかったのだぞ? 私には水鏡が違反していたとは全く思わなかったが」


「ふふふふ、白を切ろうとしても無駄ですよ~。こっちには著作権委員の委員長さんもいるんですからね~。果たして水鏡さんの言い逃れを許すでしょうか~!」


「くっ!」


 しまったと思ってファイナが背後を振り返ると(最前列でかぶりついて、手に汗を握って見ていた)、そこにいた紀信とユナの姿がなかった。


 どこに行ったのだろうかと燕と一緒にキョロキョロしていると、荒れ果てた保健室で奇跡的に無事だったクリスタルとキーボードをユナが操作し、それを紀信が覗きこんでいた。


 気になった二人はそちらへと行く。


 残った二人の内の一人、リュートハルトは隣にいるリコリスに尋ねる。


「リコリス姉さん。あの若者の名前は?」


「水鏡天見君。誰に憚ることなくコピー魔法使いって胸張っている変わり者よ」


「……対応力と根性は認めよう。だが、それだけだ」


 面白くなさそうな顔をして保健室から出て行った。その後ろ姿を嘆息して見送って、どうしてうちの家系って素直じゃない子が多いんだろうと、リコリスはひとりごちた。


「まだ終わってない!」


 ユナの叫び声が響いた。クリスタルには赤いデジタル数字がカウントを刻んでいる。


「しかし、ここには期日までにハッカーを倒せば解除されると挑戦的に書いているが」


「つまりは殺せってこと!?」


 ユナは悔しげにグレイの髪を荒々しくかく。そんなもったいないことはしたくない。しかし、背に腹は代えられない。


「仕方ない。ピーコー、ハッカーを殺せ!」


 聞こえるはずがないが、ユナは光球に向かって叫ぶ。それを聞いて、事態を知らないファイナと燕が慌てる。


「ちょ、ちょっと待て。不可解なことを言うな」


「そうですよ~。崑崙さんを殺す意味が分かりませ~ん!」


 何をするつもりかは知らないが、光球に近づこうとするユナをファイナと燕が必死に止める。


「こっちだってね、そんなことしてもらいたくねえわよ! でも仕方がないの!」


「水鏡に殺人なんてさせられない。水鏡は楽しく生活したいんだ。変なものを背負いこんだらそれができなくなる」


「そうですよ~。水鏡さんは異常に魔法を喜ぶから水鏡さんなんです~。暗くなる水鏡さんなんて水鏡さんじゃありませ~ん!」


「なら、こちらで対応しますよ。戦いも終わったようですし、セオリーならここに帰ってくるでしょうし、ね」


 紀信の冷静な声を聞いて、三人はピタリと動きを止める。


「帰って来るなら殺す必要なくない? 本人に解除させればいいんだから」


「それを嫌がった場合と意識がなかった場合の話ですよ」


 著作権委員長同士の会話は要領を得なかったが、水鏡が無事に帰ってくると思うとファイナと燕はホッと一息ついた。


「ねえ、みんな? 映像が消えちゃったわよ」


 リコリスの言葉に視線をやると、映像を映し出していた球が消えていた。役目を終えたからだと思い、二人の帰還を待つ。


 ……………………だが、数分経っても何も変わらない。


「ちょっと待て! 本格的にやべぇわよ!」


「帰還先がここじゃないんですかね~?」


「あなたはセオリーならと言っていたな」


「ええ。物語とかフィクションのセオリーなら同じ場所に帰ってくるものでしょ。現実でこんな現象は見たことも聞いたこともありませんよ」


 ファイナは不覚にも心象で驚愕した。まさかこんな堅物メガネキャラが、フィクションのストーリーを語るとは。


 四人が騒ぐ中、リコリスは保健室にあった背もたれのない回転椅子に座ってグルグルと回り、考えがまとまってピタリと止まる。その顔は青かった。


「ねえ。もし水鏡君がこっちに帰ってきていないんだとしたら、まだあの何もない空間にいるってことよね……………………いつまで?」


 サーッと、ファイナと燕の顔も蒼くなった。


「あんな何もない空間では気が狂うのも早いでしょうね」


「シャレにならないこと言うんじゃねえわよ」


 ユナに後頭部をツッコまれた紀信だったが、本当に誰も笑えなかった。



 キベリアメスティに戻ったベリメスは、モーシィルドリスの胸ぐらを掴んで凄んでいた。が、モーシィルドリスはどこ吹く風か表情一つ変えない。ただ一人、離れた柱の陰でミヤが震えている。


 この場からも映像を写す球は消えていた。


「さっさとあの空間から二人を出しなさい」


「言ったでしょ。あの空間は誰にも邪魔されない――干渉されない空間だって。私が解けるわけないでしょ」


 モーシィルドリスにとって、最初から勝敗なんて関係なかったのだ。自分のところの代理人が勝てばオッケー。負けても天見をベリメスと引き離して閉じ込めてしまえばオッケー。どっちに転んでも損はしない。


 キベリアメスティは歯を食いしばって怒声をかみ殺した。相手は謀略と嫉妬の神という側面を持つ。集中して聞かなければ、うっかり重要なことを聞き逃すと分かっていた。天見の対決を前にして、集中を切らした自分がバカだった。


 モーシィルドリスを突き飛ばして、キベリアメスティは天見の存在を探す。だが、感じ取れないことに愕然とする。


「いくら神に戻っても、何の手掛かりもなく〈粒子〉を持たない人間を探せるわけがないでしょ」


 癇に障る声と内容に、振り返ったキベリアメスティの目は感情の高ぶりで涙ぐんでいた。


 それを見てモーシィルドリスは「ちょっと止めてよね。まるで私が虐めているみたいじゃない」と肩をすくめるが、間違いなくそうだろう。


「『赤の書』を送ったさっきとは違う。こっちとあっちの全ての繋がりは断たれた。いくらあなたでも、探し当てるのに最短でも五日はかかる。運が良ければ生きてるんじゃない」


「あなたの代理人もいるのよ」


 震えながら聞いていたミヤの耳がピクッと立った。


「人間なんて一杯いるじゃない」


 斬り捨てた……私天使であるミヤに文句はない。あるはずがない。モーシィルドリスの目的を達成させるためだ。意味のある死だ。むしろ人間には誉れ高いはずだ。


 なのに………………。ミヤにとって崑崙は素っ気ない人だった。一月以上一緒にいたのにさっぱりした関係で、天使なのに敬われず、優しくなんてされなかった。


 会話と言えば、引っ切り無しに来る崑崙の質問に答えるぐらいだった。


 ご飯の間も、寝る前も……たくさんの会話をした。天使にとって、一月なんてまばたきにも満たない感覚だ。それなのに、思い出せることはたくさんあった。


「キベリアメスティ様! 勝った方は負けた方に一つだけ言うことを聞かせられます! それを使えば」


 いつの間にか飛び出して、いつの間にかそんなことを言っていた。気づけばミヤはキベリアメスティの胸に抱かれていた。


「自分の私天使を殺すつもり」


 さっきまでミヤがいたところに、クレーターが出来ていた。


「主の意に沿わないような言動に最下層の天使ごときが口を挟む暴挙。極刑は当然でしょ」


 力がこもったキベリアメスティは、ミヤを強く抱いた。


「決まったわ。あなたに命令する内容」


 モーシィルドリスは忌々しげに唇をかむ。命令されれば、協力せざるを得ない。そして神様二柱でやれば、二日ほどであの二人を救出できるだろう。体力を消耗しているとはいえ、死ぬ可能性は低い。


 また計画の練り直しだと思って命令を待っていると、


「天見達が帰って来たら、言わせてもらうわ」


 訳の分からない言葉をキベリアメスティが発した。


 呆然とするモーシィルドリスを放って、キベリアメスティは映像を映していた光球があった場所で、入念に意識を集中させる。


 ここが一番あの空間と繋がっていた場所だからだ。


「あなたの協力はいらない。だから、見せつけてあげる」


「……何を?」


「色んなものをよ!」


 落ち着かずに叫ぶキベリアメスティは、自分だけの力では難しいと分かっている。それでも、絶対何とかなると信じている。



 激しい物音で崑崙は目を覚ました。


 胸を見下ろすと、彼の着ていたシャツを畳んで傷にあて、ベルトで押さえる手当てがされていた。


 それから周囲を見回す。意識を失う前と変わりばえしない真っ白い空間だ。


「目が覚めたか」


 天見が崑崙のそばに腰を落として座る。


「……そうか。閉じ込められたね」


「話が早くて助かる」


「誰にも邪魔されない勝負のためだけの空間で、勝負が終わったのにまだここにいる。容易に想像がつくね」


「崑崙の神様は本当にとんだ神様だな」


 天見は呆れたため息をつきつつ、頭をポリポリとかく。


「そっちの神様も一枚かんでいるかもしれないね」


「それはない」


 キッパリと断言する天見に、崑崙は疑問の視線を向ける。


「どうしてそんなことが言えるね? 相手は神ね。人間のことなんて目的達成の道具程度にしか考えていないね。神様だから人間を救ってくれるとは限らないね」


「神様だからじゃない。ベリメスだからないって言えるんだ。俺を疎ましく思って消したいと考えたとしても、こんな方法は取らないと思う」


「……………………俺を殺せば、もしかしたら出られるかもしれないね」


「当然それは考えた。でもやらない」


「なぜ?」


「それで出られなかった時の絶望感が半端ない。後悔と自責の念に苦しんで、干からびて死ぬことになる。そんなのはご免だ」


「確かにね。なら、俺もおまえは殺せなくなったね」


 ビクッと肩を跳ね上がらせた天見は、ちょっとだけ崑崙から距離を取った。そう言えば、手当てはしたけどガジェットは崑崙のそばに置いたままだった。


「やる気満々だったことに、冷や汗をかいたんだけど」


「変な所で抜けている奴ね」


 崑崙は笑おうとして、傷が痛んで呻いた。


「……で、何か出られる案はあるね?」


 天見は難しそうな顔で沈黙してから、「見てろ」と言って立ち上がった。


 右手で『赤の書』を開いて、


「ナンバーワン、インストール!」


 天見の声に反応し、モノクルが眩しいほど輝きだした。


「コピースタート!」


 天見の指輪が鳴動し、渦巻くように光を集める。そして、彼自身が静謐な雰囲気をまとい、歌う様に言葉を紡いでいく。


「深遠なる暗闇、停滞する暗黒、そこに始まりと(しるべ)を与えよう。

 目を開けよ、ここから新たに始めるがいい。

 今日という一日目を、我は祝福する」


 天見の目が見開かれ、掌を空に突き出す。


「光あれ! 原初の光輪!」


 放った瞬間に溢れた光の奔流は、空の何かに当たってそこを波立たせただけで終わった。


 激震に体を震わせ、凄まじいエネルギー量に崑崙は言葉もなかった。


「今のが俺の持つ神の魔法、原初の光輪だ。最高・最古の魔法で、まさかこれで破れないとは思わなかった」


「……今のが…………何でさっきの戦いで使わなかったね?」


「あんな威力が強すぎる魔法を対人戦で使ったら無粋でしかないだろ。ワビサビも深みもコクもない」


 それで負けたらどうするんだ? と崑崙は思ったが、すぐに気づく。


(おそらく、この天見とかという男はそれでも構わないのだろうね。現にギリギリの状況に追い込まれても使わなかったね。こいつは結果も過程も重視しているね…………日本人気質というやつか、恵まれた奴ね)


 他人を蹴落とし、追い落としても結果を出し、稼がなければいけなかった崑崙は天見を羨ましいとは思わなかった。人生には全てを捨てて結果のみを求め、汚く足掻かなければいけない時だってある。それが彼の考えだからだ。


 思考が今に関係ないことを考え出していたのに気づいて、崑崙は頭を振って切り替える。


「腑に落ちないね。天見が使う神の魔法は最上ランクのアロゴスの魔法だと聞いたね。でも、この空間を用意したのはそれより下のランクの神ね。あの神はアロゴス以上か?」


 立っていた天見は「いや」と言って座り直す。


「おそらく、あの女神はこの魔法一点に照準を合わせにきている。原初の光輪の力・スピード・大きさ・属性・特性……全てを熟知し、当たった瞬間に拡散・分散させているんだ。波打った波紋が球面に合わせて広がっているから間違いない」


「よく、そんなことが分かるね」


「魔法使いってかしこさが高いものだろ。ま、俺の場合は魔法限定だけど」


 苦笑した後、天見は悔しそうに額に手をやって前髪を上げる。


「コピー魔法であることを逆手に取られた。コピー魔法は常に一〇〇%の威力しか引き出せない。威力が固定されていれば対処も楽だろうよ」


「その魔法のみに合わせているのなら他の魔法で破れるかもしれないね」


「人間の魔法なんて問題にすらしてないんだろ。俺の方は全部ダメだった。崑崙も試してみるか?」


「…………いや、ここまでお膳立てした神がそんな失策をしているわけがないね」


 考えてはいるが、考えれば考えるほどできることが少なくなってくる。天見の魔法でダメなら、本来の威力が出せない崑崙の魔法は軒並みダメだろう。


 それでも、太陰対極図法で全ての組み合わせを試してみるべきだろうか。


 その時、崑崙はあることに気づいた。


「待つね。この空間が原初の光輪の一〇〇%に対応しているなら、拡大か縮小を使って魔法の大きさを変えれば破れるんじゃないのね?」


「それが、無理なんだ」


「どうしてね!?」


 天見は面目無さそうに頬をかいて、説明を開始する。


「著作権フリー以外の魔法には各種適切な〈粒子〉量があることを知っているか?」


 それについて、この前図書館で読んで勉強した崑崙は頷く。


「俺のリクレスポロが集める〈粒子〉量は、魔法ごとの適切な量で拡大でも縮小でも変わらないんだ。つまり、拡大コピーだと魔法に対して量が少なくて密度がスカスカ。縮小コピーだと密度が濃くなるけど、魔法が小さい分入りきれない〈粒子〉が外に流出してしまう」


「……ということは」


「二つとも通常コピーより、威力が弱くなる」


「つまり、拡大・縮小コピーはハッタリの技法ね」


「そういう身も蓋もない言い方するなよ。これでも開発には苦労したんだぞ。下手に〈粒子〉量を変えようとしたら暴発したし」


「苦労話はいいね。早い話、もう試したのね」


 カクンっと、天見の首が元気なく落ちる。


「大きさが変わっても威力が弱くて、この空間は破壊できなかった」


 崑崙は深いため息をついた。


「万策尽きたね」


 覇気を失い、諦めかけそうになる崑崙を慌てて天見が引き留める。


「待て待て。俺の今までの検証は教えた。だから、これからの検証を一緒に考えてくれ」


「これから?」


「原初の光輪のデータをチップに写して、他の魔法と組み合わせて使えないか?」


「なるほどね」


 やることを理解した崑崙は上体を起こした。動くと胸の痛みがきつかったが、無理してでも動く。崑崙だって、神の思惑通りここで朽ちたくはない。


 ガジェットからクリアなキーボードを出し、裏側からジャックを引っ張る。


「その『赤の書』にデータが入っているのか?」


「色々入っているから、モノクルの方がいいんじゃないか? こっちには原初の光輪しか入ってないから」


 崑崙が天見のモノクルのフレームにジャックを取りつける。取りつける場所なんてなかったが、そこは崑崙の神器。便利に対応された。


 そして、崑崙がキーボードに指を走らせ――快調だった指が止まった。


「無理ね」


「どうして!?」


 先程とは逆の立場で、崑崙が難しそうな顔でボタンを一つ押した。すると、ガジェットから巨大な画面が空中に映し出された。


 あまりにも巨大な画面は、一目では視界に納まりきらない。首を上下左右に振ってようやく画面の大きさが分かる。


「これが……原初の光輪のデータね。俺が今まで見たどのデータより膨大ね。ハッキリ言って、チップに入りきるような容量じゃないね」


「マジで?」


「人間の魔法とは桁違いね。しかも、三桁ね」


 これもダメか……と、天見は天を仰ぐ。


 他に何かないか? 自分と崑崙。二人がいてもう何もできなくなるとは思えなかった。無力さを痛感して神に祈り始めるにはまだ早いし、あの女神に兜を脱ぐのはすっごいイヤだった。


 崑崙も何をすればいいのか思いつかず、手持無沙汰なのかポチポチと適当にキーボードを叩いている。


「……しかし、神の魔法がこれほどとはね。最古の魔法が最強なんてこの世界のクリエイターの向上心の無さには呆れていたけど、これはちょっと超えるのは難しそうね」


「そう言えばそうだな。地球だとパソコンとかコンピューターがどんどん新しくなってできることが増えるもんな。最新のが最強だ」


「なんで古い魔法を越えることができないのね?」


「そりゃ……」


 その瞬間、天見の脳みそに雷が落ちた。


「名前だ!」


 天見は勢いよく立ち上がって、目の前にある画面を睨みつけた。


「何ね?」


「ベリメスが言っていた。魔法の威力を決めるのに重要なのは名前だって! 名前を組み込むことで威力が安定するって!」


 天見は興奮しているが、崑崙はまだ彼が何を言いたいのか分からず、疑問符を浮かべている。


「つまり、人間が最古の魔法を越えられないのは、名前を知らないからだ! 最高ランクの神、アロゴスの名前を!」


「! 秘匿されている四柱の名か!」


「もしかしたら、原初の光輪の中にはその秘匿されている名前があるかもしれない!」


「なるほどね。その名を見つけ、他の魔法に組み込めば威力が限りなく神の魔法に近づくかもしれないね」


 崑崙は言いながら興奮してきた。隠されているものを知るチャンス。そういうのは最も彼の知識欲が刺激される要因なのだ。


「任せていいか」


「当たり前ね」


 言わずとも、機械関係ならば崑崙の領域だった。彼の瞳が爛々と輝く。その強さは魔法を語る天見の瞳に負けていなかった。


「魔法使いごっこは終わりね!」


 キーボードに指を走らせた時には、ハッカーに戻っていた。



 膨大なデータを敵にしての戦い。それは長時間に渡った。


 データのあちこちが圧縮され、プロテクトがかけられ、一通りさらうことすら難しかった。だが、崑崙はそれだから見当がつけられた。最も強固に守られている場所。そこに一番秘密にしたいものがあるはずだ。


 解凍ソフトもない中、崑崙は知識と経験を武器に頭の中で計算し、解いていった。


 そして、ついに厳重な金庫が開かれた。


「――――!」


 叫んだはずなのに、喉が枯れて声が出なかった。そのまま後ろに倒れそうになるのを、天見が肩を持って支えた。


「分かったのか?」


 目がしょぼしょぼと虚ろになった崑崙は、コクリと頷いた。


 怪我をした中で根気がいる作業。大量の汗を流し、体力はもうとっくにゼロになっていた。だが、集中力と知りたい欲求が崑崙をここまで動かした。


「太陽の神、ユトゥ」


 その名前を聞いた瞬間、天見の頭に激しい痛みが走った。固くつぶったまぶたの裏に、何かを見た。


 自分の隣に女神姿のベリメスがいる。そのベリメスは跪いているが、自分は立って、目の前にあるモヤを見ている。そのモヤが言う。


『よく見ていて』


「――ぃ、お……、おい!」


 崑崙の声で、天見は意識を取り戻した。


 息をするのも忘れていたのか激しい呼吸を肩でつき、目元に当てていた手を引きはがすと、すごい手汗だった。


「大丈夫ね? 何か、顔色が悪いね」


「……崑崙ほどじゃない。それより、さっさと試してみよう」


「…………そうね」


 崑崙はガジェットにチップを挿入し、チップの魔法データを画面に出す。先程の画面に比べるとかなり小さい。


「持っているチップはもう全部のプロテクトを解除したから、展開するのが早くて助かるね」


「だから、前回より魔法の回転率が速かったのか」


 崑崙は手際よくキーボードを叩き、データに元々あった名前を書きかえる。そして、ガジェットを左腕に装着する。


「よし、起動!」


 しかし、文言が展開されることはなかった。


「どういうことね?」


 と言われても、天見だって分からない。


 崑崙は何度か試し、他のいくつかの魔法でも試したが、どれも魔法が発動することはなかった。


「……考えられるとしたら」


 天見は口元に手を当て、予測を口にする。


「ベリメスが言っていた。過去にガジェットを使わなかった魔法は、手順を間違えると魔法が発動しなかったり、別の魔法が出たりしたと。崑崙がコピーした魔法は全部上級の魔法だろ? 複雑で繊細な作りをしているから、名前を変えたら魔法が発動しないんじゃないか?」


 やってしまったという様子で、崑崙は掌で顔を叩いた。


「それはあり得るかもしれないね。機械でも別のパーツが上手くハマったと思っても、実際に動かしてみると不具合が発生することもあるからね」


「なら、話は簡単だ」


 そう言って、今度は天見が弓を持って立ち上がる。


「既存の完成された魔法でダメなら、作りが単純であらゆる魔法の大本になっている著作権フリーの魔法で試せばいい」


「この場で新しい魔法を作るつもりね?」


「そんな本格的じゃない。間に合わせだ。ナンバーシックス、インストール!」


 天見の声に反応して、モノクルが黒く点滅する。


 再びモノクルとガジェットを繋げ、


「太陽神ユトゥ、これを入れるね」


「ああ」


 崑崙が操作して、入れるだけは入れた。


 しかし、闇に光だ。どうなるか全く分からない。


「いきなり爆発したりして」


「爆発オチになるような面白い人生を送ってきたつもりはないから大丈夫ね」


 軽口を立てて笑い合って、天見は覚悟を決めた。


「コピースタート!」


 厳密に言えばコピー魔法ではないが仕方ない。天見は『コピー』魔法使いなのだから。


 リクレスポロの指輪が甲高い異音を上げて、渦巻くように〈粒子〉を集める。あまりの振動に、弓を持つ左手が定まらない。


 だが、矢はできた。しかし、その矢は闇でも光でもなかった。


 黒と白のマーブルで混沌。


 急がなければと直感した天見は狙いをつけず放った。つける必要はない。どこに向けて放っても、標的のこの空間に当たるのだから。


 天に向けて放たれた矢が、何かにぶつかった。何重もの波紋ができ、徐々にそれは波へと変わり、激しさを増していった。


「貫け!」



 !!!!!!!!



 ガラスが割れるような音を立てて矢は空間を貫いていった。


「やった!」


「やったね!」


 その一点から瓦解していく空間。強固であっただけ、その速度は速い。そして、空間の向こうは闇だった。


「おい、これって」


「どこまで最悪なんだあの女神! この空間を壊しても生かして帰す気はないってか!」


 天見と崑崙の周囲の地面もひび割れ、崩れていく。


 今度は考えている時間すらない。


 こんな僅かな時間でできることは限られている。天見は思わず祈った。一番信頼している神に。


「天見~!」


「崑崙さん!」


 天見を抱きしめたキベリアメスティと、崑崙に飛びついたミヤが彼らと共に姿を消した。そして、その異空間は完全に消滅した。

 というわけで、なんとかなりました。この第二部は、最初からラストは『コピー&ハッカーVS神』にするつもりでした。ただ、直接対決させると「勝てるか?」「勝つにしてもご都合展開にならないか?」と思って、こういう感じに落ち着きました。

 初っ端に天見に居残りさせたのも、説明させるためでした。

 一部のエピローグで書いたセリフは、細々変えることになりましたね。

 それでは、次回予告です。崑崙の処分はどうなるのか? そして、ベリメスがする命令とは? あ、あと天見が『連理の枝』を勉強していなかった訳とは?

 エピローグなので風呂敷をたたまなければ。それでは、次回更新は金曜日です。

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