燕の身上
週明けに確認して「なんじゃこりゃ!?」と思いました。なんでこんなに閲覧数が増えているの? もしかしてと思ってタイトルで検索かけたら理由が分かりました。取り上げてくれた方、それを見て来てくださった方、いつも見てくれている方、ありがとうございます(一緒に紹介されている作品とのポイント数の差が激しすぎて、並んでいていいのか?とは思いましたが)。
他の方のように短い間隔で更新できればいいのですが、こればっかりは何とも……とにかく、少しでも楽しいストーリーになるよう頑張ります。
荒い呼吸を肩でつきながら、ファイナは痛みを思い出して目を固くつぶって右のお腹を押さえた。そこと体を斜めに走る傷。明らかに深いのは腹の方だった。その差から、ファイナは水で作られた刃の方が攻撃力が低いと思い、最後の激突で思い切った行動に出たのだ。
ファイナは足を引きずりながら歩き、足を投げ出して倒れる燕のそばに膝をつく。
「聖籠」
「……あ……グリューテイルさん~……」
まぶたに力が無く、半分閉じられた目でファイナを見て、燕は震える声を出す。
「水鏡の指輪を奪ったところで、再びリクレスポロを与えれば済む話だ。なぜ、指を斬りおとしてでも奪わなければならなかった」
「だって~、何をやっても外れないんですもん~。それに、ベリメスさんを殺す訳にはいかないじゃ~……ないですか~」
弱々しい苦笑でトンデモナイことを言うなと、ファイナは心象で呆れる。
「水鏡さんがコピー魔法を使える原理がどういったものか正確には分かりませんけど~、ベリメスさん発信なのと、リクレスポロのおかげなのは……分かりました。なら、どっちを排除するか考えたら~、一つしかないじゃないですか~」
「誰に何を言われた」
利己的な理由がリクレスポロを手に入れることだとはとても思えなかった。何かもっと別の、やむをえない事情があったに決まっている。でなければ、著作権法違反以外の理由で燕が天見を襲うはずがない。とファイナは確信している。
「え~? そこをグリューテイルさんが気にしますか~?」
「当たり前だ」
当然のように「当たり前だ」と言うファイナ。燕はうっすらと口元を緩める。
「随分と……水鏡さんのことを気にするようになったんですね~。パートナーを傷つけようとする、敵は許せませんか~」
「それもある。が、私とキミが本気で退けない勝負をしなくてはいけなくなった。それを仕組んだ輩がいるというのが何よりも許せん」
キョトンとした燕は、思わず笑った。痛みに顔をしかめながらも笑った。
「不可解だ。何を笑っている」
「い~え。何でもありません」
嬉しそうに笑う燕を見て、心象のファイナは頬を膨らませる。
「何でもないわけがあるか」
「私自身で水鏡さんのリクレスポロを奪おうって決めたんです~。誰に強制されたことじゃないんです~」
語り始めたので、仕方なくファイナは黙った。
「本当は、ただ水鏡さんの情報や弱点を流せば済んだ話だったんです。でも、なんだか、それはしたくなかったんですよね~。水鏡さんが不利になることを話すだけ話して、その後は知らんぷりなんて……友達だって……思っているからでしょうかね~。著作権法違反をいつするか分からない憎いあんちくしょうなのに」
燕は自嘲気味に微笑み、視線を動かしてファイナを見る。いつもの無表情ながら、深紅の瞳は真っ直ぐ自分を見てくれていた。これから話す内容は本当に自分勝手で、嫌われてしまうかもと思うとすごく残念で怖かった。だが、自分の身から出たサビだ。
「水鏡さんがコピー魔法を使えなくなれば、うちの道場の著作権問題が解決することになっていました」
そう言えば、実家が道場だと言っていたのをファイナは遠い記憶から思い出した。
「私の父は明暗月夜流刀剣術の正統後継者で、娘の私が言うのもなんですけど、マジメが取り柄の堅物で不器用な人なんですよ~。先代から道場も引き継ぎ、しっかりやっていたんですけど~……後継者になれなかった兄弟子が、ある日同じ町に似たような魔法を使う道場を構えました~。商才がない父と違ってその人はメディアを使って瞬く間に流派の名を売り、生徒を奪っていきました~。当然、著作権法違反でその人を訴え、裁判を起こしました~。ですが、結果は……」
燕の声が詰まった。当時を思い出すと苦しく、泣きそうになる感情の高ぶりを必死に抑えこむ。続けようとしても唇が震え、治まるまで少しの時間がかかったが、その間ファイナは黙って待っていた。
「意図して魔法が酷似したという明確な証拠・根拠がないため、著作権法違反とすることはできない。でした~。今も変わらず、のうのうとその道場はうちと酷似している魔法を教えているのです~。だから私は決めたんです~。私が著作権委員になって、必ずその道場の魔法を悪質なコピーに認定してストップさせてやるって~」
「実家のことと重なるから、聖籠は著作権法違反を決して許さないのだな」
コクリと燕は頷き、話を終えた彼女はしっかりとした目でファイナを見つめる。
ファイナは無表情で、右手をきつく握りこむ。
「…………水鏡からコピー魔法を奪ってでも、実家の道場を救いたかったのか……友達だと思っているのだろ、後ろめたさはなかったのか……」
「ありませんよ~」
困ったような笑顔で、燕はそう答えた。
「水鏡さんを犠牲にして道場が救われるなら……自分の手で……なら…………そういうわけです~。後はもう、好きにしてくださ~い」
言われて、ファイナは力を込めていた拳を解いて、燕の襟首を掴んで天見の隣のベッドに放り投げた。
「寝てろ。手加減はした。しばらくすれば自分で病院に行けるぐらいにはなるだろ」
「…………」
丸い目をしている燕に、ファイナはムスッとした顔を向ける。
「なんだ、人でも呼んで来てほしいのか? 病院に連れて行ってほしいのか? なぜ私がそんなことをしなければならないのだ。聖籠のことなど、知った事ではない」
それから棚に行き、包帯を見つけて服をまくり上げてお腹に巻いていく。そして、作業を終えると天見と燕の間に椅子を置いて、そこに座る。
「聖籠、これだけは聞いておかなければいけない。わざわざ私を挑発したのは、力尽くでも止めてほしかったからか?」
ファイナが言っているのは、初撃を避けた際の燕の一言だ。
「素直な感想ですぅ~」
「そうか」
ドカ! バキッ! ゴン!
「ならば殴る」
「ここからさらに殴るなんて~しかも三発……『仲間殺し』ですね~」
燕の頭にできたタンコブとファイナの拳から白い煙が上がった。
その後でファイナが天見ののほほんとした寝顔を見ると、頭に怒りマークが浮かんだ。どうしようもない。一発ぐらい殴ったところで、どこからも文句は出てこない気がする。
(……ちょっと待て。なぜ水鏡は眠り続けていられる? あの水鏡がこれほど魔法を使って騒いでいるのに起きないなど変だ。それに、保護者を自称するベリメスはどこにいったのだ?)
目を閉じて腕組みし、そのように考え事をしている姿を見ると、声をかけるのははばかられた。だから、燕はポツリと一つだけ言った。
「…………部屋を出て行きますね~」
「不可解なことを言うな。リコリンに言われてあの部屋に来たのだろ。聖籠にも私にも立ち退きする・させる権利はない」
ファイナは自分で謎のことを言っている自覚はあった。燕にいてほしいなどと思ったことはない。今回のようなことがあり、依頼達成期限が分からないなら、天見が襲われる危険を排除するために燕を遠ざけるべきだ。
それをしたくない。と、心象のファイナが譲らない。当のファイナには理解ができないが、どうしてか強く出られない。今まで完璧にコントロールできていたのに、最近は心象の自分を抑えきれない不可解な現象が増えてきていた。
それが実は満更でもない。
など、本当に自分はどうしたのだろうか。
全身が痛くて上手く頭が働かないからだ。うん。そうに決まっている。
「何ね、ここは。随分と滅茶苦茶ね」
穴のすぐ外の瓦礫に立つ男――李崑崙。見覚えのない崑崙にファイナは立ち上がりかけるが、痛みに呻いて傷口を押さえて椅子に落ちる。
「そのままそのまま。別に危害をくわえるつもりはないね」
瓦礫を身軽に避けて、ゆっくり近づいてくる崑崙。
「崑崙さん」
「何だ聖籠。怪我でもしたのね?」
崑崙は天見のベッドの向こうに燕を見つけ、ちょっとだけ驚いていた。
男の名前を呼んだ燕に、ファイナは振り返る。
「知り合いか?」
「はい。先日水鏡さんを狙った人物だって言っていました~」
それを聞いて、ファイナは痛みに構わず天見にかぶさるように飛びつき、崑崙に射るような鋭い視線を向ける。
体内〈粒子〉の残量がほとんどない今、ファイナにできることは少ない。
「邪魔ね」
「邪魔をしないとでも思ったか」
崑崙は面倒そうに嘆息し、
「そいつも了承している約束ね。連れて行く。さっさと離れるね」
手を振って「あっち行け」と示す。
しかし、ファイナは全く動こうとしない。
「ミヤ」
崑崙が呼びかけると、猫がベッドに飛び乗った。そして、天見の体に少し触れると、ファイナの下から彼の姿が消えた。
「なっ」
驚いたファイナが見ると、移動した天見は崑崙の小脇に抱えられていた。
「聖籠、お大事に」
簡単な挨拶をして、崑崙は背中を向けた。
「待て」
ベッドの上からファイナが手を伸ばすが、届かない。連戦により体力・気力も限界の彼女の動きは遅く、ベッドから下りようとして落ちたぐらいだ。
「グリューテイルさん!」
心配に叫ぶ燕だが、彼女もファイナと似たようなもので、ほとんど身動きができないでいる。
見ているしかできない二人の目の前で、崑崙の足が止まる。
「しつこいね~」
嫌そうな呟きは、ファイナ達にではなく崑崙の目の前にいる二人に向けられていた。
「キミを逃がすわけにはいかない、な」
「一刻も早く仕掛けを解いてもらわねえと、みんなが困るのよ」
紀信とユナが、鬼気迫る様子で通せんぼしていた。
崑崙の周囲にモザイク処理された文言が二重に展開され、崑崙が十人に増えた。
ファイナと燕は驚いていたが、紀信は苛立ちを見せていた。
「またそれですか」
紀信は腕や脚に風をまとわせて崑崙達を迎え撃つ。しかし、数で勝る崑崙に囲まれ、中々本体まで攻められない。
研究者タイプのユナは戦闘には加わらず、天見を抱えている本体が逃げないようにジッと見張っている。
その時、一陣の熱い風が吹いた。それが通った後は炎の轍が出来ていて、退かれた崑崙達は消え失せていた。その人は本体の後ろに立っていて、
「そいつを下ろせ」
低く野太い声で命令した。
「リュ、リュートハルトおじ上」
床に倒れていたファイナは、不思議そうな表情でリュートハルトを見上げる。
「随分と暴れてくれたみたいね」
錫杖を持ったリコリスもいつの間にか紀信の近くに現れていた。
「濡れ衣ね」
崑崙はムッとしてこの荒れ果てた様を否定する。
囲まれた状況でその落ち着いた態度。何かあるのかと、誰もが警戒する。そんな息をするのも躊躇われる緊張状態の中、一人だけ動きを見せた。
崑崙に抱えられていた天見が身じろぎし、覚醒しようとしていた。
「時間ね。残念だったね」
全員の目の前で、崑崙と天見の姿が消えた。
誰もが驚きに固まっている時、ベリメスが突如として現れた。
「ごめんなさい。ちょっとあの二人には先約があるの」
絶対に飛んでくる質問が来る前に、ベリメスはみんなが呆気に取られている内にとっとと話を進める。
「悪いと思うから、映像だけは見せてあげるわ。声は聞こえないけど我慢してね」
謝って合掌したベリメスは身を翻そうとして……ファイナと燕に向かって指を鳴らした。光の〈粒子〉が二人を取り囲むと、傷を癒した。
それからあらためて身を翻して姿を消した。気づけば猫の姿もなかった。が、その後には中空に映像を映し出す大きな光球があった。
「これは」
全員がそれに注視する。見えるのは真っ白い空間で対峙する天見と崑崙。
「まさか水鏡はあいつと戦うつもりか?」
「何でベリメスさんが崑崙さんに手を貸したんでしょうか~」
「これ、どこ?」
「こんな何もない空間は異常だ」
そんな中、ユナと紀信だけが青い顔で事態の最悪さを認識していた。
「まさか」
「ええ、本当にまさかですよ」
紀信はメガネをかけなおし、指で押し上げる。
「どうやら、ピーコーに著作権法の命運を任せることになりそうだ」
事情を知らない四人ですら、それを聞いて不安で胸が一杯だった。
真っ白い空間で目を覚ました天見は起き上がり、目の前にいる崑崙を見ても驚きはしなかった。昨日猫を見た時から予想はしていた。
「そっちの代理はやっぱりあんたか」
「そりゃそうね」
崑崙は嘆息して肩をすくめ、気の毒な視線をやる。
「お互い面倒なことに巻き込まれたね。神のケンカの代わりに命をかけて戦えなんてふざけた話ね。でも、おまえを倒さないと元の世界に帰れないんだからしょうがないね……同情するよ」
「元の世界……って地球か?」
「そうね。俺は中国人よ」
「へ~、俺は日本人」
それを聞いて、崑崙は不思議そうに首を傾げる。
「なんで言葉が通じているね?」
「意思の疎通に不便がないように、言葉が勝手に翻訳・変換されるってベリメスが言ってたぞ。すごいよな、魔法って!」
確かにすごいとは思うが、そんな瞳を輝かせるようなことだろうか。訝しげな表情をしている崑崙を放って、天見は腕を組んで数回頷く。
「そっか、なるほど。いくつもの属性が使えるのは俺と同じで体内に属性を持たないからか…………ところで、こんな舞台を整えてもらえるのにどうしてこの前学園に襲いに来たんだ?」
「あの時まで俺は魔法をほとんど使ったことがなかったのね。試し運転とおまえの実力の確認よ。下準備はしっかりする方なのね。ま、あわよくば殺せるものなら殺しておこうとは思ったけどね」
崑崙はジャケットの中からチップを一枚取り出して、流線型のガジェットに入れる。
「さっさとやるね。倒さなければいけない相手と仲良く話す趣味はない」
左手を前に出す半身で構え、挑発するように手招きする。
「ちょっと待った。そっちは準備万端だろうけど、こっちはぐっすり眠って体力は回復したけど、ベリメスがいないと……」
と、慌てた天見の手の中に弓とあるモノが落ちてきた。
それを見て、天見の目は驚愕に見開かれた。
ベリメスとモーシィルドリスは、ファイナ達とは違う場所で映像を映し出す光球を眺めている(こちらは音声付き)。ちなみに猫のミヤは少し離れた柱の影からこっそり覗いている。
「邪魔が入らない――誰にも干渉されることのない場所で一対一。文句はないわね?」
「あるわよ」
ベリメスがムスッとしている意味が分からず、モーシィルドリスは小首を傾げる。
「何でよ? 公正な舞台じゃない」
「…………」
口を尖らせて何も言わないベリメスを見て、モーシィルドリスはピーンっときた。
「わかった。あの人間と一緒に戦えないからへそを曲げているんでしょ。いくら気に入っている人間の最後の戦いだからって、あなたにそばにいられたらね~……手助けしないとも限らないじゃない?」
そんな気持ち、モーシィルドリスは全く分からない。しかし、ベリメスは小馬鹿にするように鼻で笑った。
「最後? 笑わせてくれるわね。私はそんな心配全然していないわ。私がしている心配はね……」
ベリメスの視線が天見の手元から離れない――そこにある天見のサイズに合わせた『赤の書』から。
「『暴走』の心配よ」
都警と綾乃先生が出てこないのは、生徒の避難に回っているからです。前回紀信が「生徒を避難させろ」と発言していたので、その仕事をしているんです。そこも書こうかと思いましたが、また長くなると思ってはぶきました。
さて皆さん、第一部でも天見は暴走していましたが、それは魔法が限定された状態のもので「怒り」によって引き起こされたものでした。しかし、今回は違います。「喜」によって暴走し、全ては天見の手の中にあります。コピー魔法使いとしての輝かしい戦績からのストックで大暴れさせます。
では、次回予告! とは言っても、コピー魔法使いVSハッカーとしか言いようがない。でも、それだと味気ないので、久しぶりに気になるワードを一つ。
〝拡大〟が、あるならあります、〝縮小〟が!
それでは! 次回更新は金曜日です!




