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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
目白押しの一日
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ヒロイン対決 ファイナVS燕

 忘れているかもしれないので解説。この世界の魔法使いは体内に染色された〈粒子〉を持っていて、それを使って魔法を使っています。ですので、魔法を使うと〈粒子〉量は減ります。ファイナですと『双爆輪唱』を四発使ったら五発目は使えません。

 この結果に愕然としている人が一人、リコリスの隣に座っている。驚いているのは彼女も同じだが、満足げな笑顔だ。


「約束通り、ひとまずはファイナちゃん達のことを認めてもらうわよ」


 リュートハルトは悔しがるというより、深刻な顔で保健室に担架で運ばれていく天見を見送って、


「リコリス姉さん。あいつは止めた方がいい」


「あら、あなたが約束を破るつもり? 駄々をこねないの」


 からかうような口ぶりに対して、リュートハルトは渋面を見せるが、真剣な視線は変わらない。


「あのピーコーは本当にマズイ。知られれば国が絶対に黙っているわけがない。リコリス姉さんなら分かるだろ」


「……まあね」


 リコリスは否定しなかった。試合中にあった〝拡大〟コピー魔法。あんなもの、彼女ですら聞いたことがない。もしかしたら、コピーがオリジナルを越えていたかもしれない。


「それでも、彼がファイナちゃんのパートナーよ。そして、聖クレストエルク魔法学園は神がおわす不可侵領域。水鏡君がこの学園の生徒である限り、誰であろうともよそ者に勝手なマネはさせない」


 確固たる意志が込められていた。リュートハルトは何も言わずに立ち上がった。自分が思いつく心配事など、リコリスは全て承知の上なのだ。



 校舎の屋上で試合を眺めていた崑崙は呆れたようなため息をついた。


「あいつはこの後に俺と戦うって本当に分かっているのか? 満身創痍もいい所ね」


「怪我はキベリアメスティ様が回復させるとしても、無茶がすぎると思いますけどね。正気とは思えません」


「ま、楽に勝てそうなら無問題ね」


 ドバンッと、鍵のかかっていたドアが荒々しく開け放たれた。何事かと振り返ると、そこに白衣をたなびかせてユナが立っていた。


「見つけたわよ、李 崑崙」


「随分と凶暴な顔をしているけど、俺に何か用か?」


 どうしてここにユナがいるとか、何を怒っているのか興味がないようで、崑崙は眉一つ動かさず聞く。


「あんた、『ハッカー』?」


 ピクリと、崑崙の眉が動いた。そしてユナの顔を見て、順々に予想を立てていく。


 答え合わせをするため、崑崙は黙って待っているユナに伝える。


「『暇つぶしにしかならんね。ハッカーより委員長へ』」


 ドデカい怒りマークがユナの頭に浮かんだ。崑崙が言ったセリフは、ハッカーが彼女宛に送ったメッセージだ。誰にも見せたことがないものを知っているのは、彼女と『ハッカー』のみ。


「確保ぉ!」


 ユナの号令に、ドヤドヤとドアから大人数の職員や都警が出てきた。その中には、紀信も含まれていた。


「予想が外れたからってふて腐れるんじゃねえわよ」


「無用な心配をしていないで、学生達をさっさと避難させたらどうです。手加減などするつもりもありませんので」


 紀信はメガネを外して、足輪のガジェットにチップを入れた。


「……どうするんですか、崑崙さん」


「疲れなければいいだけだろね。いいウォーミングアップね」


 崑崙はジャケットからチップを取り出し、ガジェットに挿入した。



 担架に乗せられ、天見は保健室まで運ばれた。


 ベッドに寝かされ、綾乃が診ようとしたがベリメスに断られた。仕方なく、綾乃はベリメスに任せ、ファイナの手当てに入る。


 顔の切り傷は問題なく、体の矢傷や穴は少し時間がかかりそうだった。消毒し、綺麗な布を当てて包帯を巻いていく。一通りの手当てを受け、ファイナは服装を直す。


「回復魔法は医療行為だから、しっかりとした病院に行かないといけないわ。水鏡君も運んだ方がいいんだけど……」


 カーテンで仕切られたベッドを見て、綾乃はニコ目ながら心配そうな様子だ。


「……大丈夫です。水鏡は意外と丈夫なので、少し寝れば平気な顔で出てきますよ。私もこの程度のかすり傷なら、病院に行くほどのことでもありません」


 ベリメスが治していることを伏せたので、正反対のドウソをついた。


「すいませぇ~ん」


 と、燕が赤い髪をぐしゃぐしゃにさせ、ぐったりとした様子で入ってきた。


「どうしたの、燕?」


「外にすっご~い人が集まってますよ~。みんなグリューテイルさんに会いたいみたいでしたよ~」


 言われて外に耳を集中してみると、ガヤガヤと騒がしい物音が聞こえる。


「まったく、ここは保健室だっていうのに」


 綾乃が注意をしにドアから出て行った。


「グリューテイルさんも顔出しぐらいした方がいいですよ~。一目でも見ないと治まらないってぐらいの熱気でしたから~」


「不可解な。なぜ私がそのようなことをする必要がある」


「水鏡さんも言っていたじゃないですか~。みんながグリューテイルさんの負けを望んでいるわけじゃないって~。今外にいる人達は、そういう人達かもしれませんよ~」


 しばし腕を組んで考えたファイナは、軽く嘆息して立ち上がってドアから出た。その瞬間、黄色い悲鳴が廊下に響いた。


「あら、あの子は?」


 その時、カーテンの隙間からベリメスが顔を出した。


「ちょっと外でファンのお相手をしています~」


 燕がドアの方を指さしたが、ベリメスはさして気になった素振りも無く、


「そう。じゃ、あなたちょっと天見の様子を見ていてくれる」


「どっかに行くんですか~?」


「ええ、大事な用の準備があるの。天見は眠らせたからそのまま休ませておいて。起きないだろうけど、静かにね」


「は~い」


 ベリメスが光球の中に消え、燕はカーテンの中に入って天見の傍らに立つ。


 見た感じ怪我は治っているが、体力までは回復しきっていないのかぐっすりと眠っている。


 シーツから出ている左手。その人差し指にはめられている青い石が入った指輪。燕はそれをジッと見下ろし、静かな動作で刀を抜く。


 切っ先を人差し指の付け根に軽く当て、ゆっくり真っ直ぐ上げる。柄頭に右手を当て、狙いがそれないよう左手で柄をしっかり握る。


 チラリと、天見の寝顔を見る。思わず、謝りたくなって開きかけた口をきつく閉じた。口の端から血が流れ、ポツリと天見の左手に落ちる。


 そして、燕は刀を下ろした。


 ズブリと、刀は深くベッドに突き立った。が、そこに天見の指はなかった。


 寝ていた天見が滴った血に反応して、お腹の上でかいていた。


 しばし固まっていた燕は静かに、起こさないように天見の右手と左手を離し、左手を元の場所に戻す。そして、改めて狙いをつける。


「何をやっている、聖籠!」


 燕は体勢を変えないまま、首だけを動かして入口の方を見る。


「早いですよグリューテイルさ~ん。本当にチラッと顔を出しただけじゃないですか~」


「そんなことはどうでもいい。そんなものを持って、一体何をやろうとしていた!」


 ファイナがツカツカと近づき、燕の左手首を掴んだ。


 燕を睨みつつ、チラリと刀が何を狙っていたかを確認する。その時、シーツに開いている穴に気づき、心が冷えた。


「聖籠……冗談ではすまされないぞ、二度目は」


「ベリメスさんがいなく、体力がゼロになっている水鏡さん。弱点を容赦なくついているんです。冗談なんかじゃありません」


 ブワッと、濃紺の髪がわき上がる。ファイナの爪が白くなるほど強く手首を握られているのに、燕は表情一つ変えない。


「こうなる気はしたんですよね~」


「謝るなら今の内だぞ」


 意外なセリフに思わずビックリだ。


「許してくれるんですか~!?」


 そう言われてみたら、心象でファイナもビックリした。許してやらないこともないと、本気で思っていたのだ。


「でも、このチャンスを逃すつもりはありませ~ん」


 血の気を失った左手を柄から放し、右手で刀を持ち直してファイナに斬りつける。


 ファイナは燕から手を放し、上体を反らして避け、戻る反動を利用して殴りつけた。


「私の『連理の枝』を傷つける者は許さない」


 空いていた左腕でガードした燕だが、勢いに負けて下がらされた。


 血の巡りの悪さと衝撃で痺れている左腕を垂らし、右手だけで刀の切っ先をファイナに向ける。


「私の目的は水鏡さんのリクレスポロです」


「で」


 目的なぞ興味が無さそうに、ファイナは右手首のガジェットにチップを入れる。


「体内に染色された〈粒子〉を持たない水鏡さんがコピー魔法を使えるのは、十中八九指輪のリクレスポロで〈粒子〉を集めているからです~。それさえなければ、水鏡さんはコピー魔法が使えなくなります~」


「赤き尾の星を掴め! 朱雀宝門流、緋槍(ひそう)武闘(ぶとう)!」


 作り出した炎の槍を手の中で回してから構える。


「痺れが取れるまでのおしゃべりに付き合う気はない。話なら、聖籠を倒してからゆっくりお茶でも飲みながら聞いてやる」


 ばれていたかと苦笑した燕は、最後に一つと右人差し指をピッと立てる。


「さっきの斬撃、胸がぺったんこでよかったですね~」


 上体をそらした避け方。それはおそらく、燕だったら避けきれなかったかもしれない。


 ピシッと、ファイナのこめかみに怒りマークが浮かんだ。



 保健室の壁が爆砕し、ファイナと左腕を垂らした燕が鍔迫り合いをしながら外に飛び出した。


 距離を取ろうとする燕から離れず、ファイナは槍を突き出し続ける。


 片手だけで上手く力が入らない燕は、穂先をいなして直撃を避けるのがやっとで、腕や脚に掠った傷が出来ていく。


 槍の間合いを保つファイナを相手にして、片手でチップを入れることは無理だった。それで燕は間合いの外から刀を振り上げた。


 間合いが分からない相手とは思えず、ファイナは著作権フリーの魔法を予測しつつ槍を突き入れる(その程度の魔法、隙を突かれなければ問題ない)。すると、燕は体を回転させながら槍の内側に入り込んできた。その素早い動き――見ると、彼女の手から刀が消えていた。


 消えた刀は上に放り投げたと考えたファイナは確認したい動きを押さえ、懐に入ってきた燕だけを警戒する。しかし、もはや槍の間合いではない。燕は胸ぐらを掴んで、ファイナの重心の下に腰を当てる。


 転ばされると瞬時に判断し、ファイナは自ら飛んで反転した。足から着地したファイナだったが、さらに燕に胸ぐらを押された。


 さすがに踏ん張れずに尻餅をついたが、後転してすぐさま体勢を直した。だが、ファイナの目の前で燕は落ちてきた刀の柄頭にチップを入れ、返した右手で柄を握って、


「起動~! 闇夜を照らす月、姿を変える月は水面に映る――明暗月夜流刀剣術(めいあんつきよりゅうとうけんじゅつ)水月(すいげつ)!」


 刀身が薄い水に包まれた。


 舌打ちして槍を構えたファイナだったが、燕は攻めてこず、逆に間合いを大きく取った。


 左手をブラブラさせたり、握ったり開いたりしているのを見ると、まだ痺れが残っているようだ。本格的に攻めてくるのは左手が使えるようになってからか。


 ファイナはチップを入れ替え、


「起動! 紅の時雨に空よ染まれ――朱雀宝門流(すざくほうもんりゅう)紅雨(こうう)


 彼女が指を十字に切った後、十数個の火球が放たれた。


 その飛来する火球を、燕は斬り落としていく。その間に、ファイナは再び間合いを詰めてき――燕の左手が動いた。


(おびき寄せられた!)


 ゾクッと背筋に冷たいものが走ったファイナは、炎の槍を身構えた。


 両手で上段に振り上げられた刀が――一閃された。


 半ばから切れた炎の槍が〈粒子〉に戻り、空気に霧散した。


明暗月夜流刀剣術(めいあんつきよりゅうとうけんじゅつ)水月(すいげつ)・満月!」


 切っ先から放たれた水球に吹っ飛ばされ、ファイナはきりもみしながら地面を転がった。


 すかさず燕はチップを入れ替え、


「起動~!」


 モザイク処理された文言を展開させる。


「闇夜をさらに惑わす霧雨、月の姿は見えがたく星の明かりは地に届かない――明暗月夜流刀剣術(めいあんつきよりゅうとうけんじゅつ)、朧月!」


 円を描くように振られた刀から水が飛ばされ、先程水球から散らばった水たまりも魔法に呼応し、ファイナのところまで囲うように濃霧が出てきた。


 目の前が真っ白になったファイナは立ち上がってガジェットのチップを入れ替える。


 静まり返る周囲。


 ファイナは何かに反応してその場を離れるが、特に何も起こりはしなかった。


 背中を警戒しつつ、極力その場を動かない。自分の動く音で相手の音が消えるのを恐れてだ。しばしそのまま時間が経つ。


 あることに気づき、ファイナはガジェットを起動しつつ走り出した。


 霧から飛び出し、ファイナは燕を見つけた。予想通りだったが、すでに絶体絶命だ。穴の向こうにいる燕は刀を振り上げていた。


 地面にあった壁の欠片を拾って、


「二頭一対の理に爆砕せよ――双爆輪唱!」


 殴りつけた欠片が爆炎を伴って一直線に燕に走る。


 燕は忌々しげに天見への攻撃を中断し、爆炎ごと欠片を斬った。


 保健室に戻ったファイナは燕の腕を掴んで天見のベッドから引きずり下ろし、燕は掴まれていない方の手で刀を振るってファイナを飛び退かせた。


「私を無視して天見を狙うなど、随分と狡い(こすい)手を使うではないか」


「ベリメスさんがいない今がチャンスなんです~! 邪魔をしないでくださ~い」


「不可解だ。それで私がすごすご引き下がるとでも思っているのか」


 天見を傍らに置いて睨み合う二人。


 ファイナは油断すれば乱れる呼吸を心象に隠す。連戦で体力と体内〈粒子〉量の減りが激しく、最早限界に近かった。『双爆輪唱』はギリギリあと一発使えるが……。


「……なぜ、水鏡からコピー魔法を奪おうとする。著作権法のためか? それとも『コーピストレス』との酷似点を恐れてか?」


 体力回復の時間稼ぎを兼ねて、ファイナは燕に問いただす。


「違います。そんな大義名分はありません~。ひどく利己的な理由からです。責められるのは覚悟の上で、弁解するつもりはありませ~ん。水鏡さんが謝れと言うなら額を地べたにつけますし、同じように指を落とせと言うなら指を落とします~」


 間延びした口調だが、その言葉には覚悟がこもっていた。それゆえファイナは、


「潔ければ何でも許されると思うなよ」


 自分でもなぜか分からず、ひどく腹を立てていた。表面的には無感情・無表情だが、心象のファイナは煮えたぎるマグマのように真っ赤になって、噴火寸前だった。


 周囲の空気を熱し、濃紺の髪は沸き立ち、背後に酷熱のオーラが擬音と共にかもし出されていた。


 その熱気に当てられ、燕は唾を呑みこみ、ガジェットのチップを入れ替えた。


『起動!』


 二人同時にモザイク処理された文言を周囲に展開させる。


「二頭一対の理に爆砕せよ!」


「水面が揺れ、月は歪に乱れる!」


 ファイナは輝く右手を掲げ、燕は刀を正眼に構える。


「双爆輪唱!」


「明暗月夜流刀剣術、水心(みずごころ)!」


 同時に前へ出た二人。先に攻撃をくり出したのは燕。


 上段からの単純な袈裟斬り。ファイナは最小限の動きで体を開けて避けた――はずだった。ファイナの左肩から上腹部にかけて斜めに熱い線が走った。それに気を取られている間に、突きが飛んできた。腹を狙われたそれも確かに避けた。だが、ファイナの目はもう一つの切っ先が右腹部に突き刺さるのを見た。


 痛みに顔を歪ませつつも、右の拳をくり出す。しかし、その攻撃は燕に届かなかった。後ろに一歩引いた動きに連動して、ファイナの腹から刀が引き抜かれ血が流れる。


 初撃で後手にまわってしまったと、ファイナは自分の心構えに舌打ちした。


「退けとは言いません。グリューテイルさん、覚悟!」


 唐竹割りの斬撃。それが水の刃も含めて三本あった。


 ファイナはあえて前進し、自ら水の刃の一つに斬られにいった。左肩に落ちた衝撃。しかし、振り抜かれることなく止まった水の刃は、鍔元だったのもあって一寸も斬ることなく霧散した。


「私を、のけ者にするなぁ!」


 すぐさま距離を取ろうとする燕。それを逃がさず、ファイナが距離を詰め、左足の踏み込みで地面を揺らし、輝く右拳を燕に叩きこんだ。


 燕の背中に抜けた爆炎。遅れて、彼女の体が吹っ飛んで壁に激突してクレーターを作った。

 やりたかった対戦カードをようやく書けました。なんか……主人公が戦うより熱いな。まあ、主人公は魔法耐性が無いのでそう攻撃を喰らってられないっていう縛りがあるからな~。

 次回は不透明な燕の事情を書きますね~。あ、それと〝拡大〟コピーとかの説明は後程します。オリジナルを越えているのかはその時しますね~。

 というわけで、次回予告。戦いが終わって燕は静かに自分の身上を語る。それを聞いてファイナが取った行動とは? そして、二人の前に崑崙が現れ……。

 次回更新は金曜日です。

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