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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
コピー魔法と著作権法
4/100

ファイナの事情

 水鏡天見(コピー魔法使い)。現時点での魔法のストック……1、??? 2、双爆輪唱 3、緑色蔦縛 4、エアスタッパー 5、天翔流、羽衣 6、朱雀宝門流、緋槍

 著作権紛争解決斡旋委員の綾乃は、まず天見に魔法をコピーされた生徒達から話を聞こうとした。問題が起きた時、訴えがある方と訴えられている方、別々に話を聞くのが彼女のやり方なのだ。


 学園という閉鎖的な場所。学生という多感な思春期。そんな場所だから実は著作権問題は日常茶飯事だ。


 やれ、あいつの魔法の効果が俺と似ている。やれ、あの子の文言は私のパクリだ。やれ、その魔法は俺が考えたやつだ、い~や僕が考えたやつだ。などなど。


 他にも最近のコピー疑惑が出た生徒はこぞって、「コピーではなく、リスペクトもしくはオマージュ」という言葉を使うのが悩みのタネだ。


 今回のように文言から動作、魔法の形状や効果など、完コピされたのでは? というのは珍しいが、部分コピー疑惑の生徒間の言い合いなど綾乃は星の数ほど見てきた。


 綾乃は両者の間に立ち、冷静になるよう言葉を尽くす。生徒間の言い争いなんて、カッとなって売り言葉に買い言葉のことが多い。『問題』が『違反』に発展することなんてそうはない。そして、『違反』になったとしてもほとんどは著作権法第八条を適用して穏便に解決する。


 そう……穏便に、だ。


 だから、今、目の前でなぜ男子生徒二人が物言わぬしかばねのように机に崩れ落ちているのか、よく分からなかった。


 おかしい。先程まで男子二人とファイナは普通に話していただけだったのに。


 ファイナが着席した時、指で机をトントンと叩いているのを見て、不穏なものを感じて何かあったら止めようと綾乃は隣に座った。


 だが、拍子抜けするほどファイナは淡々としていた。天見の側に立ち、著作権法第八条を主軸に〈核魔獣〉を迅速に対処し被害を出さないようにするためだったと、正当性も主張した。〈核魔獣〉は災害であり、天見の行動は厳密に言えば戦闘行為に当たらず、人命救助に近いものだと言った所で、男子二人は押し黙った。


 そしてファイナが二人の魔法を容赦なく批評して、彼女が言う『妥当な使用料』を提示した時には、男子二人は机に突っ伏し、腕で顔を隠していた。


「では、次に天翔流の魔法を使った件についてだが……」


 その言葉で、目の前で起きた惨状に青ざめていた女子生徒はビクンっと肩を跳ねらせた。


 すかさず綾乃はマズイッと判断した。もしこの話し合いで何かあり、天翔流との全面抗争にまで発展させられたら大事だ。


「ま、待ってくれる、ファイナさん」


 止められ、ファイナは細めた目(やさぐれた目かもしれない)で、綾乃を見る。


「何でしょうか? 何か私の進行に問題がありましたか?」


 問題がないのが問題というか、恐ろしいほど容赦ない正攻法で問題にできないのが問題というか……綾乃はいつものニコリとした顔で、


「まあ、ちょっと落ち着きましょう。流派の魔法がコピーされて問題になったら、彼女に意見や使用料を決めてもらうわけにはいかないわ。向こうに事情を説明して師範や責任者に窺わないと」


「……そうですね。ですが彼女を説得し、あの場面でコピー魔法を使うことに納得してもらえれば、天翔流の師範や責任者に話がいった時にはスムーズに、穏便に進むのではないでしょうか」


『説得』に『納得』? 説得とは相手を崖っぷちに追い詰めることで、納得とは飛び降りすら許さないことをいうのだったろうか。


 その時、校舎内に放送が響いた。


『一年C組、ファイナ=グリューテイル。一年C組、ファイナ=グリューテイル。至急理事長室まで来なさい。理事長がお待ちです』


 聞いた瞬間、ファイナは一度大きく震えて前髪で目元を隠した。


 綾乃はこれ幸いに笑顔に力を取り戻し、


「後は私に任せなさい。早く行かないと理事長が待ちくたびれちゃうわよ」


 顔に影を作っていたファイナはしばし動きを見せなかったが、いきなり立ち上がって無言で退室していった。それでようやく、部屋の中に弛緩した空気が流れるようになった。



 立派な両開きの木製ドアの前にファイナが立っている。ドアの上にある札に書かれた『理事長室』というのを見上げながら、重たいため息を一つつく。


 そして一度ドアノブに手を伸ばしたが、触れずに戻した――躊躇しているのだ。


 遅かれ早かれ、先程のことで呼び出されるのは分かっていた。だが、実際にその時となったらやはり入るのに勇気がいる。ファイナはドアノブに手を置き、深呼吸を繰り返し、意を決してノックをしてから開ける。


「失礼しま――」


「ファイナちゃ~ん!」


 入室の声をかき消す高い声が中から響き、入室したファイナを体当たりが出迎えた。一歩足を引いて受け止め、飛びかかってきた小さな子を見る。白とピンクのフリルドレスを着た、ファイナと同じ長い濃紺の髪の少女だった。


「心配したんだよ? 元気? 泣いてない? 胸のサイズが物足りないとか言われてフラれたって聞いたけど、ホント?」


 心象のファイナは『物足りない』とか『胸のサイズ』とか『フラれた』とかの単語に殴打され、地味にダメージを受けた。


「お、おばあ様。別に彼は胸だと明言したわけでは……というか、私はまだフラれていません。交渉中です。私は交渉術の基本としてまずふっかけただけですから、断られるのは計算の内です。これから相互理解を高めて双方の落とし所を探っていくのです」


 と、当のファイナは頑なに認めない。


「もう~、おばあ様じゃなくって、リコリスのことはリコリンって呼んで」


 頬を膨らませて訴えるリコリス=グリューテイル。ファイナはフッと力無く口元だけで笑い、灰になりそうなほど生気を失う。


 身長一四〇ほどで見た目は初等部の女の子にしか見えないリコリスは、正真正銘ファイナの祖母だ。彼女はファイナに会えて機嫌が良いのか、ルンルンとした足取りで自分の席に戻る。その席は座れば体が沈み込みそうな椅子と精巧な広い机だ。調度品の一つ一つまで立派な広々とした部屋にはあっているが、リコリスには微妙にあっていない。


「まあ、孫娘との楽しいコミュニケーションはこれぐらいにして」


 机に肘をつき、手を組んで鋭い視線を向ける。その視線を受け、ファイナは背筋を伸ばした。


「ファイナちゃん。あなた本気でコピー魔法使いを『連理の枝』にするつもり?」


「……はい」


 予想していた質問だったが、少し声が詰まった。それでも、喉を鳴らした後にハッキリと答えられた。


「理由は?」


「私は『連理の枝』に望む唯一の条件として、私のレベルに釣り合う者と公言し、水鏡にしたのと同様に名乗り出た者に全力の魔法を放ってきました。ですが、誰一人として釣り合うどころか、可能性を感じる者すらいませんでした。しかし彼はコピーとは言え……いいえ、コピーなのに私の全力に拮抗する魔法を使いました。条件をクリアしたのですから誘うのは当然です」


「ファイナちゃん。だからあなたに『仲間殺し』なんて可愛くない名がついたのよ」


「私はパートナーに合わせ、気遣ってレベルを落としたくはありません。それでは強くなれない」


 リコリスはため息をついて、前のめりになっていた体を背もたれに預ける。


「……ファイナちゃん、焦ることはないわ。私の伝手を使って有望そうな子を探しているし、ファイナちゃんなら個人戦で十分活躍できる。グリューテイルだからって『連理の枝』に固執することはな――」


「私はグリューテイルです。『連理の枝』の秘技を伝える本家本元として、『連理の枝』が見つからないなんてみっともないことにはなりたくありません」


 リコリスの言葉を遮って、ファイナが強く断じる。


 それほどの意気込みをリコリスは嬉しく思わないわけではないが、申し訳ないという苦い思いも同時に感じる。あるいはファイナ自身が望んでいることなのかもしれないが、家名が彼女から選択の自由を奪っているのではないか、と。


「率直に言うわ。コピー魔法使いがパートナーなんて、世間体が悪いわよ」


 ズバリ言われた。だがファイナは退くことをせず、目線をそらさず、胸を張って、


「分かっています。ですが、私は『連理の枝』になれないことの方がイヤです。それに、私と同等の魔法を使える水鏡とならそんな雑音を払拭できるほどの活躍が望めるのではと、私は思っています」


 リコリスは後頭部を背もたれにつけ、椅子をグルグルと回転させる。考えをまとめたい時に出る彼女の癖だ。


 ピタリと回転を止めた時には、先程までの冷たい雰囲気が消えていた。


「でも、断られたんでしょ?」


 言葉の矢が、グサッと心象のファイナに深く突き刺さった。


「ホント、何で断られたのかしら? 今までファイナちゃんに申し込む子はいても、誘いを断る子なんて皆無だったのに……相手の子はファイナちゃんのこと知らなかったのかしら?」


「そんなことはないと思いますよ。ちゃんと『連理の枝』と私がグリューテイルだということは説明しました」


 むしろ、グリューテイルだということが最大のアピールポイントだったのだが……無残にも通用しなかったことを思い出し、ファイナは顔に影を作る。


「へ~、それでも断ったんだ」


「まったくもって不可解です。せっかく私が誘ってやったというのに……」


「…………と、すると~やっぱり……」


 リコリスの視線の点線が、ピッピッピッピッピッとファイナの胸元にいく。


 瞬間、ファイナの全身から炎が燃え上がり、胸元を両腕で隠した。


「未来に望みはあります!」


 周囲に人がいないためか、相手がリコリスだからか、ファイナは顔を真っ赤にして声を荒げた。


「…………ファイナちゃん。残念ながら血筋による結果が目の前にあるわよ」


 乾いた自嘲気味の笑い。リコリスの胸もたい……スレンダーだ。


「……母は、胸があるじゃないですか」


「女の子は父親に似るものなの。でも大丈夫。機能に問題がないのは保障してあげるわ」


 フォローになっているのか微妙。


「…………なんと狭い料簡(りょうけん)か。私なんてコピー魔法使いでも関係なく誘ってあげたというのに……大体にして胸なんてあっても邪魔なだけではないか。動きにくいし、肩はこるし」


 正確に言えば「動きにくいらしい、肩はこるらしい」だ。体験したことのないことを、不機嫌そうに口にする。


 しかし、色々問題点を言っても、ファイナが天見を諦める素振りが全くない。こんなに他人にこだわるファイナは珍しく、リコリスは首を傾げる。


「何か……相手の子がファイナちゃんと同等の魔法を使うって以外にも、理由があるの?」


 ファイナは視線を外してしまってから気づいた。しまった。これではあると肯定しているようなものではないか。予想していなかった質問で、つい体が動いてしまった。


 くしゃみをしたように見せかけて口元に手をやり、平静な顔を戻したら、目の前にキラキラとした瞳のリコリスがいた。


「あるの!? え、なに!? なんなの!? リコリスだけにこっそり教えて!」


「イヤです! とにかく、もう少し水鏡にはチャンスをやってみますので放っておいてください!」


 教えてくれなかったのには不満そうだったが、リコリスは破顔させて両の拳を胸元で握りしめる。


「分かったわ! リコリス! 目一杯応援しちゃうから!」


「いえ、草葉の陰から見守っていてください」


 一転して無感情な顔に戻ったファイナは、掌を向けて丁重に断った。


「死ねって言うの!? あんなに可愛くリコリスの後ろをついてきて、「リコリン、リコリン」って懐いていたファイナちゃんはどこに行っちゃったの? 口調もそんなに堅苦しくなっちゃって」


 さめざめと泣くリコリスだが、しばらくしてファイナが手もかけてくれないのでピタリと泣き止んだ。


「ところで、ファイナちゃんはコーピストレスって知っている?」


 疑問符を頭上に浮かべるファイナを見て、リコリスは複雑な顔で目を細める。


「相手の子はコピー魔法使い。パートナーとして色々と不都合な点が見つかると思うわ。それを理由にパートナーを解消しようと思うのは当然のことよ。自分から誘ったことなんて気にせず、無理だと思ったら素直に言いなさい。相手のためにもね。そして、覚悟しなさい。彼がコピー魔法使いである限り、パートナーになるあなたにも色々な面倒と誤解が付きまとうことになるわ」


 教育者の顔で伝えてくる内容に、ファイナはしっかりと頷いた。


 と、ドアがノックされて返事をすると、綾乃が入室してきた。


「あの、こちらに水鏡天見君は……いませんね」


 半ばダメ元だったけどやっぱり、というように綾乃はため息をついた。


 天見の名前が出て、ファイナは気になった。


「どうかしたのですか?」


「いえ、今度は水鏡天見君から話を聞こうとしたんですけど、燕と一緒に姿が見えなくって……」


「私も探します」


 即断。


 自分に物足りないと暴言を吐いた天見が、胸はある燕と姿を消した。理由のいかんによっては『連理の枝』の話にカタがつくかもしれない。デッドオアアライブで。


 きびすを返して部屋を出て行くファイナを、リコリスは手を振って見送る。


 一人になったリコリスは「水鏡天見君か」と呟いて、窓の外を見る。


「ファイナちゃんのことを知っても断った、か。う~ん……もしかしたら、その子は『連理の枝』に向いているかもしれないわね」


GW突入。予定がないので、書けるだけ書いていこうと思います。できたら次回は日曜日に更新。本命は火曜日更新予定で。

次回は複数人を相手にするコピー魔法使いの話になる予定です。

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