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対戦相手は?

 今回あたりから、視点を天見とファイナに集中していきます。

 木の曜日の放課後。


 天見とベリメス、そしてファイナの三人は理事長室に呼び出された。が、顔を出した三人を見て、リコリスはギョッとした。


「ファイナちゃん。大丈夫?」


「何がですか? 私は至って健康体ですが」


 本人はそう言うが、やさぐれた目(寝不足込み)で落ち着きなく隣の天見を気にし、意識的に視線を彼に向けないようにしている。昨夜天見にほっぽかれて不機嫌なのだろう。敵意だか不満だか微妙な雰囲気を全身から放出している。


(少し前は無関心ゆえの壁で近寄りがたかったけど、今回のはそれとは正反対のものね。まったく……)


 リコリスは心の中で呟いて、今度は天見を見る。見た目のインパクトでは彼の方が上だ。


 会話の取っ掛かりに何を聞けばいいのかも悩んでしまう。


 とりあえず、立ったまま寝ている彼を起こそう。


「え~っと、水鏡君」


「…………」


 彼の頭の上で寝そべっているベリメスに頭を小突かれて、天見は目を開ける。


「あ、生きてます」


 本当だろうか疑いたくなる。


 顔色は黒ずんで、それに負けず目の下の隈は濃い。元々体は小さく線が細かったが……墓場の下から今朝出てきましたと言われれば、うっかり信じてしまいそうになる。


 しかも、歩く姿を数歩見たがかなり変だった。


「どうして同じ側の手足を動かして歩いていたの?」


「昨日よりはいくらかマシになったんですけど、まだ筋肉痛がひどいのでできるだけ体を捻りたくないんです。この歩法は古くからあり、忍者や飛脚が長距離を移動する際に使われていたとかいないとか」


「意味が分からないこと言っているけど、ホントに大丈夫? どうしてそんなことになっているの?」


「ちょっと調節にミスって暴発とかしちゃう時もあって……」


 ため息を吐きつつ、ベリメスも疲れた様子で答えた。


「暴発?」


「とにかく大丈夫ですよ。それより、四時間目の宗教の時間中に寝ていた罰で教会の掃除の手伝いをしにいかないといけないので、早めにお願いできますか」


 不安しか感じない二人の様子だが、伝えないわけにはいかない。リコリスは改めて視界に二人をおさめる。


「対決の日取りが決まったわよ。二日後、土の曜日の正午。場所は学園のグラウンド。二対二の複人戦でルールはなし。あなた達が相手のどちらかを倒すか、相手があなた達二人を倒すかで勝負をつける。とのことよ」


『連理の枝』の存続をかけた試合の話を聞き、ファイナは気配を正して右手を口元にやり、左手を右肘にそえる。


「ルールはなし?」


「つまり、コピーしたいのならしていいってことよ」


 瞬間――天見の目が見開き、顔に血色が戻り、拳を高々と上げるアクションを見せた。


「おっしゃぁ~!!」


「すごい。一瞬で蘇ったわ」


 あまりの変わりように、ベリメスは頭に大きな汗をかいた。


「著作権法による窮屈な不自由さ……それから解放された時のエネルギーが俺の心に体に脳みそに! 刺激を与えて活性化させてくれる! だから、この超回復は当たり前のこと!」


「……………………」


 しごく一般的なことを声高に語っただけなのに、変な視線を向けてくる面々。謎。


 それはともかく、天見は衰えることない晴れやかな笑顔で語る。


「今の俺はホントに絶好調だ! アドレナリンと共に脳汁が溢れて止まらない! 新しい魔法との出会い……これがときめかずにいられるか、いや! いられない! 一気に気力回復ストレスゼロ! 世界はこんなに輝いている!」


 リコリスはそんな天見に(当然と言えば当然だが)不思議そうな視線を送る。


「先生からも著作権委員からも報告がずっと上がってこないから、水鏡君って律儀に著作権法を守っているのよね。簡単に色んな魔法をコピーできるのに……どうして?」


 それはファイナも不思議に思っていたことだった。『双爆輪唱』だって、天見は彼女の許可がなければ勝手に使わない。


 見ての通り魔法にご執心の天見ならば、次々に魔法をコピーし、隠れて使っていてもおかしくなさそうなのに。


 天見はその質問にすんなり答えた。


「魔法を使えることが嬉しいことだって、いつまでも思っていたいからですよ」


「魔法を使えることが嬉しいこと」? と言われてファイナとリコリスは首をひねる。新しい魔法や難しい魔法を使えるようになったら嬉しいというのなら分かるが……そんな万人が当然できることができて何が嬉しいのか全く分からない。


「俺は魔法を使うということに慣れたくない。いつまでも新鮮な気持ち……特別なことなんだって忘れたくない。それに誰かの魔法をコピーすることに慣れて、感謝と敬意を忘れるなんてコピー魔法使いにあるまじきこと!」


 答えてもらってもいまいち分からなかったが、天見の中に譲れない思いがあり、著作権法を破らないのはその思いに根差しているからだというのは、何となく分かった。


 一人訳知り顔のベリメスが満足そうに笑った。が、ファイナは意地でも天見の方を向かないように努めて、


「リュートハルトおじ上は随分余裕ですね。相手のどちらか一人を倒せばこちらの勝ちでいいなどとは」


 話を本筋に戻した。


「そりゃ余裕も見せるものよ」


 リコリスは机の上に二つの資料を置いた。二つとも数枚の書類と一枚の写真をクリップでとめている。


 ファイナはそれを二つとも取り上げてザッと確認する。


「こ、この相手は」


 思わず、言葉を失った。


 リコリスは小さくうめき、困ったように声を出す。


「そ。バリバリ現役のプロよ。『(けん)樹林(じゅりん)』のイワナ=ストック。『()(きゅう)』のウィガン。タッグ戦もこなす二人の実力は中堅上位ってところかしら。いきなり用意できる人材としては最高レベルのものを用意してきたわね。ハッキリ言ってファイナちゃん達に勝ち目は万に一つもないわね」


 天見も相手が気になりファイナの手の中にある資料を覗きこもうと背伸びをしたら、そっぽを向いた彼女に資料を押し付けられ、一歩距離を置かれた。


 …………リコリスは思わず半目になってしまったが、気を取り直して話を続ける。


「おそらくリュートハルトはあなた達に言い訳をさせないよう、全力を出させた上で勝つつもりよ」


 部屋に重たい空気が落ち、天見の資料をめくる乾いた音だけがある。


 あまりに格上の相手。万全な状態でも勝てる見込みが薄いのに、リコリスが見た感じファイナと天見の仲は極めて不安定に見える。これではやる前から勝負は見えている。


 それはファイナも分かってしまっているのか、いつもは自信家で自分より強い相手にも退かない彼女が、先程から一言もしゃべらない。


 だが、資料を一通り見終わった天見は気軽に声を出した。


「ラッキーだな」


 ありえない一言に、天見を見ないように心掛けていたファイナも思わず彼を見た。


「不可解過ぎるぞ。何がラッキーなのだ。相手は場数を踏んだプロだぞ。学生で『連理の枝』になったばかりの私達に、どれだけ勝ち目があると思っているのだ。明後日には私達は…………」


 そこから先は言いたくなく、一つ間を置いてファイナは感情を怒りにシフトさせた。


「どうせそのラッキーとは、そういった相手の魔法をタダでコピーできてラッキーというものだろう」


「まあね、それもある」


 悪びれもせず、天見は肯定する。そして、怒ろうとするファイナの顔の前に、彼は掌をやって彼女を押し止める。


「相手のことが分かっているんだ。対策が取れるし効果的な作戦も立てられるだろ」


 キョトンと、ファイナとリコリスは目をパチクリとさせる。


「どこぞから知りもしない実力者を引っ張って来られるよりよっぽどマシだ。どうせ俺達をビビらせようとしたんだろうけど……脳筋は単純だから助かる。俺のコピー魔法は武具を扱う魔法をコピーする場合、同種の武具を用意しないといけないんだ。相手の一人が弓を使うと分かったんだ。まずは弓を用意するっていう対策が取れるだろ」


 それから天見は手にある書類をチラリと見て、難しそうに唸る。


「う~ん、こんなこっちを威嚇する戦歴やプロフィールだけじゃなく、もっと詳しい資料が欲しいな。能力のパラメーター、長所と短所、得意と不得意……もっと言えば弱点とかをキチンとまとめているやつ」


 頼むようにリコリスを見たが、彼女は小さく首を横に振った。


「手伝ってあげたいんだけど……私も忙しいから時間がかかっちゃうわよ」


「それは困ったわね。二日後だし時間はないわよ、天見」


「…………あ、心当たりが一つだけあるな。ファイナのためなら不可能を可能にする、なぜか情報に長けた奴ら」


 天見は展開に乗り遅れているファイナを見て、書類でパタパタと扇いでやる。


「時間は足りないけど考えるぞ。知を尽くして戦うのが魔法使いってもんだ。それに二人の内どっちかを倒せばいいんだろ? 可能性はあり過ぎるほどある」


 ファイナは呆れた。楽天的にも程がある。


 そんな面持ちのファイナを残して、天見は扉に向かう。


「時間も無いことだし、早速俺は資料集めを頼んで来るわ」


「私も同行しようか?」


「絶対について来るな! 会えるものも会えなくなる!」


「なっ――!」


 強い拒否と同時に扉を閉められ、残されたファイナは苛立ちから周囲の温度を上げて、長い濃紺の髪を沸き上がらせた。


「随分やる気と自信が満々ね~」


「まったくもって不可解です。一体あの自信はどこから来るのだか」


 バカにして吐き捨てるように言ってやった。


 当然だ。


 対策や作戦を立てようが、相手の実力もこちらの実力も変わらない。天地の開きがあるのだ。それが彼女の考えだった。


「でも、今のファイナちゃんと水鏡君なら、水鏡君の方が『連理の枝』らしいわね」


 リコリスの言葉に、ファイナの肩がピクリと反応する。


「らしいとは、一体どういうことですか、リコリン」


「二人で問題に対処しようとしている。「考えるぞ」って言ってくれたじゃない。それに引き替えファイナちゃんは、自分の頭の中で勝手に結論付けちゃって」


 見抜かれている。ムスッと口を尖らせたファイナはボソッと。


「……そう言って一人で出て行きましたが」


「情報集めとかの下準備なら、手分けしてやった方が効率いいじゃない。なにせ、時間は本当に無いんだし。ファイナちゃんもそんな所に突っ立っている暇はないんじゃない?」


 時間は確かに無い。自分も何かをしなければ……しかし、今まで向かってくる敵は問題なく撃退してきたので、情報集めや対策と言っても一体何をやればいいのだろうかと、心象のファイナは頭を抱えて悩む。


「何をすればいいのか分からないなら、今回は特別に私が教えてあげましょうか?」


 ズバリ悩みの種を当てられ、ファイナはふて腐れたような視線をリコリスに向ける。


「リコリンも水鏡も、どうしてそんなに私の考えていることが分かるのですか」


 聞かれて、リコリスは目をパチクリとさせる。


「そりゃファイナちゃんは分かりやすいもの。よく見ていれば何を考えているかぐらい分かるわよ。水鏡君もそうなら、ファイナちゃんのことをよく観察しているんじゃないかしら? そうでもなければ、短期間であの秘技の成功率は出せないわよ」


「…………私が分かりやすい?」


 無表情が基本の自分がそんなはずはないとファイナは思うが、リコリスは笑顔で言い放っている。


「ファイナちゃんももう水鏡君と一ヶ月一緒なんだから、彼のクセの一つでも見つけている?」


 ……………………何一つ、思い当たらない。ただ、天見が雨の日をそんなに嫌いではないことは、日々の会話から知っているが。


「さあ、それじゃファイナちゃん。あなたのやるべきことを教えてあげるわ」


 話が急に本筋に戻って、ファイナはハッとした。そして、リコリスはニコリと彼女に告げる。


「水鏡君、罰掃除のことすっかり忘れているみたいだから、パートナーのファイナちゃんが代わりにやってきたら?」


「わ――、この私が、罰! 掃除を!?」


 未だかつてやったことはない。だが、渋い顔をしたファイナはリコリスに背中を向けて理事長室を出て行った。


「いや~、ホントに水鏡君は『連理の枝』に向いているわね~」


 リコリスは二人に勝ち目が無いと本気で思っていた。だがそれは、二人が一人一人で戦ったらの話…………あの二人は『連理の枝』なのだ。




 人気のない夜、草原に崑崙と猫のミヤの姿があった。そして、彼の左腕にはコバルトブルーで流線型のガジェットがあった。


「こんな所に練習台があるのね?」


「今、用意します」


 そう言って、ミヤの目が金色に光った。


 少し離れた上空に、風が渦巻くように集まっていく。


「何をしているね?」


「大気中にある染色された〈粒子〉を集めているのです。もうすぐ〈核〉が出来ます」


 ミヤの言う通り、風が集まる中心に灰色の球体が現れた。


「〈核魔(かくま)(じゅう)〉が出ますよ」


「ああ。本で見た災害ね」


 灰色の球体が光を放ち、クリアなダークのボディを構成した。形は十二面体のサイコロと同じだが、大きさは比較にならないほどデカい。


「ちょっとしたビルぐらいあるね」


「あの〈核魔獣〉のボディは黒なので、闇属性に耐性がありますね。〈核〉を壊せばあいつは消滅します。あまり時間をかけると郊外でも人が集まって来ますよ」


「無問題ね」


 崑崙はジャケットの前を開け、チップを二つ取り出してガジェットに挿した。


「太陰対極図法、起動!」


 崑崙の声に反応し、ガジェットは唸りを上げて光る〈粒子〉を集める。


 その時、〈核魔獣〉の〈核〉が光り出した。


「〈核魔獣〉の攻撃は狙ったものではありませんが、威力はありますよ」


「アクセス、プロテクト解除――起動!」


 崑崙の周囲に、モザイク処理された文言が二重に出現し、掌を〈核魔獣〉に向けた。


 ――――!!


 激震が地を揺らし、鼓膜をつんざく破壊音。そして、大気中に消えていく〈核魔獣〉。


 その結果に、ミヤは呆然と立ち尽くした。


「中々ね」


「中々!? とんでもないですよ、これは! 普通〈核魔獣〉を倒すためには、まずボディを破壊して〈核〉を露出させる必要があるのに……一撃って……しかも、あんな魔法のデータは手に入れていないはず!?」


「うるさいね。おまえ達のレベルに合わせて説明するのは面倒だから質問するな、バカ」


「ホント! 崑崙さんの私の扱いってぞんざいですよね! 私は人間よりも上位の存在である――」


「組み合わせを検証する必要があるね。神に言っておけ。当初の計画通り明後日にやるって」


 訴えを無視され、ミヤはブスッと頬を膨らませるが、仕事はきっちりこなす。


「分かりました。それでは崑崙さんが最初から言っていた明後日――土の曜日に予定通り決行すると伝え、準備を整えておきます」

 いや~、久し振りの全快天見でした。まあ、どの作品でも言われていることですが、慣れとは怖いものです。コピー魔法を使うことに慣れてしまう天見。それはもう、天見じゃなさそうですね。

 そして、今回の話のもう一人の主人公も何かパワーアップした様子。練習台には〈核魔獣〉。〈核魔獣〉は年に数回しか出てこないって第一部で書いたので、今回出せそうにないのでここで出しました。

 それでは次回予告! とハリキリたいところですが、まだ書けていない! とりあえず、天見とファイナの作戦会議、そして放課後に弓を買いに行かせようとはしています。その放課後あたりで紀信に…。

 次回更新は金曜日です。

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