表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/100

あきれてものが言えない

 いや~、二部が始まってまだ二日しか経っていなかったとは……もうちょっと巻いていこう。どうもあっちもこっちも書きすぎる。主人公サイドを中心に大事なところだけ書くように心がけよう。

 と、心がけて書けるようになったら苦労はしないわな。

「どうも~、ただいまで~す」


 気をきかせて少しのんびり帰ってきた燕は、元気よくドアを開けた。そこではファイナが勉強机に座って頭を抱えていた。


「…………」


 影どころか闇を背負っているファイナ。そして、部屋を見回して姿が見えない天見とベリメス。


 重苦しい部屋の雰囲気から良くて何もなかった。悪くてケンカ別れという可能性が燕の頭に浮かんだ。


 当然だが燕は気になった。意図的に帰り道をファイナと天見の二人にしたのだ(実際は三人だったが)。良かれと思ってやっただけに、何かあったんだとしたら責任を感じてしまう。


「グリューテイルさ~ん」


 おずおずとファイナの背中に話しかけると、その時初めて燕の存在に気づいたのか、ファイナは曲がっていた背筋を伸ばしてクルリと振り返った。


「何だ?」


 無表情で問い返した。


 そんな風に取り繕われても、落ち込んでいた様子を見ている燕は騙されない。


「水鏡さんと何かあったんですか~?」


「別に……取り立てて何かがあったわけではない」


 露骨に視線をそらした。


「いや、何もなかったわけがないじゃ」


「それより聖籠、これをどう思う?」


 いきなり、ファイナは燕の目の前に古い本を突き出した。


「はい?」


「なぜ昔の悪魔事典には『コーピストレス』の記載がないのか」


 燕はうろんげな眼差しをファイナに向けるが、彼女はサッと本を盾にして隠れる。仕方なく燕は古書を受け取り、目次と後半にある索引を調べる。


「ん~? あ、本当です~」


 ファイナの言う通り、この古い悪魔事典に天見そっくりの悪魔『コーピストレス』が載っていない。


「つまり~、コーピストレスはけっこう新しい悪魔。ということでしょう~ね」


「私もそう思う。問題は、いつから載るようになったのかだが……これを見てくれ」


 次に、ファイナは以前から所持していた悪魔事典を取り出した。


「悪魔事典の初版は百五十年前、大戦の前だ。比べて私の悪魔事典の第四版は七十年前、大戦の後だ。つまり、もしかしたら『コーピストレス』という悪魔は、世界著作権機関がコピー魔法のイメージダウンのために作りだしたマスコットキャラ的なものかもしれない」


「なるほど~」


 ありえそうな話ではあった。


 普通の人なら悪党のマネはしたくない。しかも、コーピストレスはカッコ悪いのだ。他人の魔法で得意気になり、神様に突っかかったら簡単にやられる。小悪党臭が半端ない。


 現在コピー自体は禁止されていないが、人前で使うのは忌避するものと認識されている。そう認識する理由の一つに、コーピストレスの存在があるのは言うまでもない。


「で、そんな風に『コーピストレス』のことをあれこれ考えていたってことは、水鏡さんと何かあったんですね~。聞きますから話してみてくださ~い」


 話を逸らそうとファイナなりに頑張ってみたが、無駄だった。所詮は低レベルのコミュニケーション能力だ。


 仕方なく、ポツポツとファイナは下校時にあったことを話した。


「で、嫌いだと言ってしまった」


「…………それはそれは~」


 話を聞いてもよく分からなかったが、とりあえず燕は相槌を打っておいた。


「だって、水鏡は卑怯なのだ」


「そうですか~?」


「私の気持ちを汲むし、様子を察して気を遣うし……しかもそれがそれほど的を外していないのだ」


「いいことじゃないですか~」


 キッと、ファイナは不満げな顔を上げる。


「なぜそんなに私のことを悟れる。水鏡だって私と同じ様にパートナーにそれほど構わず、関心を払わなかったのだぞ」


 燕は頭の中でファイナの話をまとめる。つまり、天見とファイナはお互いに同程度のコミュニケーションしか取ってこなかった。だが、ファイナは天見のことが全然分からないのに対して、天見はファイナのことをけっこう分かっている。


 この大きな差がファイナは気にくわないのだ――紛う方もない八つ当たりである。


「う~ん、まあ~、水鏡さんは気遣い屋さんですからね~。相手のことを思って、相手が嫌がることをしないんでしょう。水鏡さんがグリューテイルさんを構わなかったのは、グリューテイルさんが他人に干渉されることを嫌うと思ったからじゃないんですか~」


「…………あっている…………」


 ファイナは心象ですっごい不満そうに口を尖らせた。


「……そうだ。悪魔の中に人の心を読むのがいたな」


「もう水鏡さんを悪魔扱いするのをやめましょうよ~」


 燕にたしなめられ、ファイナは悔しそうに腕組みをしてソッポを向く。


「水鏡は一体何者なのだ。普通そこまで他人なんて気にしないぞ」


 燕は苦笑して少し間を取ってから、


「う~ん。でも、マズイですね~」


「何がだ? 私が水鏡を嫌いと言ったことがか」


 無表情ながらどこか落ち着きがないファイナが、前のめりになって燕に迫る。


 燕はパタパタと顔の前で手を振って、


「いえ、そこじゃありませんよ~。え~っと……水鏡さんは『連理の枝』の勉強をしていなかったんですね?」


 ファイナの話を聞いた中で、一番気になっていたことを話題に出す。


「ああ」


「そして、水鏡さんは興味のない教科を勉強しようとしませんよね~」


 そう。現に天見は『魔法理論・情報入力』には手を付けようとすらしない。


 言われて、ファイナは燕が何を言いたいのか理解した。


「つまり水鏡は『連理の枝』に興味を持っていない?」


「もしくは、勉強する意味を見いだせない。なぜなら、いつまでもグリューテイルさんの『連理の枝』でいるわけじゃないから」


「…………」


 天見は以前ファイナに言った。コピー魔法使いがグリューテイルの『連理の枝』として相応しくないことをファイナが思い知るまでは、パートナーでいると。


 ファイナはそんな時は来ないと思っているが、天見はそうではないのかもしれない。


 天見が自分のことを信用してくれているかどうか。……………………答えは、半ば出てしまったのかもしれない。


「気にしているなら~」


 燕の言葉でハッとしたファイナは、


「気になどしていない。なぜ私が水鏡のことを気になどしなければならないのだ。逆ならともかく」


「いえ、ですけど~」


「断じて、一切、微塵も気になどしていない! していないったらしていない!」


 ファイナは逃げるようにベッドにダイブし、枕を頭に乗せて何も聞こえない風を装った。


 そのまま身じろぎもしなかったので、燕は黙って部屋の外に出た。



「まったく~、水鏡さんはどこに行ったんですか~、も~」


 燕は寮の中を探し回っていた。双葉はもちろん、男子寮・食堂・練習場などくまなく探すが見つからない。


「とにかく、二人には一度しっかり面と向かって話し合ってもらわないと~」


 燕はこうなって初めて、自分の考えが甘かったことに気づいた。


 コミュ力の低いお嬢様のファイナは、言外に込められた意図をほとんど理解できない。そして天見は、言葉が足りないことがよくある。


 つまり、二人が正しい意思疎通を図るには解説者もしくは審判が必須なのだ。


 だから二人の仲を深めようとするなら二人きりにするのではなく、むしろ率先して燕が間を取り持たねばいけなかったのだ。


「すっごい面倒な『連理の枝』ですぅ~」


 寮の外まで探しに出た燕は、一息ついて膝に手を当てる。


「どこにもいませんね~。水鏡さんなら練習場にいると思ったんですけど……」


 その時、燕は頭上に眩しさを感じて見上げた。夏とはいえもう太陽はほとんど沈み夜に近い。なら、今のは太陽によるものではない。


 燕は寮に引き返して一気に階段を駆け上がり、屋上へと来た。


 屋上のど真ん中に、天見とベリメスが寝そべっていた。


「ほら見ろ、無理じゃなかった」


「そうね。でも、改善することが多すぎるわよ」


 何があったのか燕は知らないが、二人とも随分と消耗していた。せわしなく胸が上下に動いているのが、離れている彼女にも分かった。


「グレードアップしたな」


「……ええ。『赤の書』バージョンツーよ」


「それはちょっと……長いしカッコ悪い」


 燕が「大丈夫ですか~」と声をかけて近づくと、二人して眠っていた。


 揺り動かしても全然起きないので、仕方なく燕は二人を背負って部屋まで運んだ。




「委員長。狙撃は失敗し、担当の身柄が都警に拘束されました」


「上に連絡して出してもらえ」


 部下からの報告を聞いて、紀信は眉間のシワを揉みほぐした。


 彼の予想以上に、水鏡天見の警備は厳重だった。なぜそうなっているのかを調べたら、水鏡天見が昨日、謎の男に襲われたからだった。


(どこの誰かは知らないが余計なことを……せめてしっかり潰しておいてくれれば、面倒の半分は片付いたのだが)


 拠点にしている公民館の一室で、紀信は上がってきた書類に目を通す。『ハッカー』の方はユナ主導の下、かなり大規模に展開して動いている。


 あまり騒ぐと『ハッカー』に気取られるかもしれない。が、彼女はどうやら短期決戦で決着をつけるつもりらしい。


(悪くはない。何せ相手の危険度は水鏡天見とは違い前例がない。捕まえるのが遅くなればなるほど被害が広がる。気取られて逃げられても、クレッセントの町と繋がる周辺の町や村の出入り口には人員を配している。網にかかる可能性は高い)


 紀信は『ハッカー』に関する書類を机の脇にやる。


 そして、本腰を入れるように水鏡天見に関する書類を真ん中に置く。


 だが、その書類の少ないこと。ほんの数枚である。


(奴は今年で十六。なのにこの少なさは何だ? クレッセントの町以前に関しては皆無だぞ。ありえん)


 何もかもがおかしく、怪しげだった。放っておくことはできないと、紀信は直感で確信する。


(目下の問題は、奴がグリューテイル家の『連理の枝』ということか……あの家を敵に回すと、かなり面倒なことになる)


 下手を打てば、こちらがやられる。


(とは言え、あのグリューテイル家がコピー魔法使いを『連理の枝』にするとは少し考えにくいな…………もしこれが、ファイナ=グリューテイル個人のワガママなら、何とかなるか?)


 紀信は部下を呼び寄せて伝える。


「聖クレストエルク魔法学園の理事長、リコリス=グリューテイルと話がしたい。至急アポを取れ。緊急だと言って、明日には面会できるようにしろ」

 試合を控えているのに、ファイナは何をモヤモヤしているのか。周りはちゃくちゃくと動いているのに。

 燕も燕でけっこう面倒見がいいですよね~。まあ、次回はその面倒見の良さでとんでもない事態を引き起こしてしまうんですけど。

 では、次回予告。ついにユナが『ハッカー』の足取りを掴んだ。しかし、そこはすでに焼け落ちていた。手がかりが途切れた彼女の前に現れたのは、ある人に相談をするため図書館に向かっている燕だった。

 え~っと、次回何が起きるんでしょうね? ややこしいことになるのは間違いない。では、また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ