午後もガンバル
ゴールドでもシルバーでも構わない。大型連休大歓迎~! シルバーウィーク突入~! ここでできるだけ更新しておきたいです。頑張って満喫してやる。
昼休みになり、天見は机に突っ伏した。
「……もう、今日は…………重力に勝てない」
「星に生きる生物として終わりね」
『赤の書』から目を離さず、机の縁に座っているベリメスがツッコむ。
そんな天見の背後の席で、ファイナと燕が作戦会議に入っている。
「怒りはおさまりましたか~?」
「私をそこらの精神修養が出来ていない輩と一緒にするな。平静を保つなど造作もない。最初から私の心は微塵も動かされてはいない」
「さすがですね~。水鏡さんが他の人と秘技を使ったのは、釣った魚にエサをやらない精神で放任していたグリューテイルさんにも責任があるんじゃないかな~って私は思っちゃいましたけど~」
無表情で腕組みをしていたファイナの手がピクリと反応する。
「なら、この昼食の時間なんですけど~」
「……待て。今のはどういう意味だ。なぜ私に責任が発生する」
「いえ、魔法だけ与えられる関係にむなしさを感じた水鏡さんが、心を求めて他の人に走ったのかも~な~んてとてもとても私の口からは~」
椅子に座っていた天見は、いきなり足首を掴まれて脚をあらぬ方向に持ち上げられた。
「いってっ――って、えぇ~!?」
驚いて顔を上げた天見の目の前で、ファイナが手際よく足の重りを軽くしていた。
「どうした、ファイナ?」
作業を終えたファイナが、ジッと天見を見下ろす。
「……水鏡、正直に答えろ」
「はい?」
いつもと様子が違い、無表情ながら神妙な感じで聞いてくるファイナに、天見は若干戸惑いつつ返事をした。
「私と魔法、どっちが大事だ」
「…………正直に?」
「正直にだ」
「魔法」
「よし聖籠、私に責任は一切なかった」
「途方もないほど本末転倒な気がするんですけど~」
燕は天見とファイナを一度に見ながら、間違いなく他の『連理の枝』とは一線を画すのだろうと確信した。
心象のファイナは満足げに、当のファイナも不満が払拭された様子で言う。
「あの答えからして、魔法だけ与えられていた水鏡に不満はなかっただろう。まあ『連理の枝』を知らなかった水鏡のことだ。他の人と秘技を使う意味も知らなかったのだろう」
燕は目をパチパチとさせる。
(気づいているんですかね~。今のセリフは水鏡さんを知らないと出てこないものだって~)
とはいえ、この程度は天見のことを少しでも知っている人なら簡単に思い至れることなので、取り立てることでもない。
「それでは次の作戦ですけど~、いい加減「水鏡」って呼ぶのをやめませんか~?」
どうやら意味が分かってないようで、ファイナは頭上に疑問符を浮かべている。
「名前や愛称で呼ぶと、相手との距離がぐっと縮まるものです~。ほら、あれを見てくださ~い」
燕が指差す方を見ると、天見と『赤の書』を見ているベリメスが話している。
「いっそ外してくれればいいのに」
「天見はテンションで誤魔化すけど、魔法の連戦とかホントは体力的に無理でしょ。すぐ疲れて倒れるんだから。少しぐらい鍛えた方がいいと思うわよ」
「う~、まあ確かに魔法の授業を休むのは困るな~」
ベリメスに言われると、天見は渋々納得している。それを見て、心象のファイナはむくれた。
(私が言うとぶつくさ言うくせに)
「ベリメスさんの上に行こうと思ったら、やっぱり愛称の方がいいですかね~。的確な愛称ってその人を知らないとつけられないですから~」
「愛称ならすでにあるではないか」
心象ではムスッとしているファイナが告げる。
「ピーコー」
「それはスラングですし~、もっとひねりましょうよ~」
「お、いたいた。お~い、ピー小僧!」
「ほら、ああいう風にって――え?」
ドアから聞こえてきた野太い声に二人が振り向くと、
「……クマ?」
ファイナがそう誤解している時に、天見とベリメスは額に手をやって俯いた。
のしのしと大股でやってきた巨体の男性は、振り上げた手で天見の背中を叩いた。
「元気か、ピー小僧!」
天見はヒリヒリする背中を押さえ、咳き込みながら巨体を見上げる。
ジャケットの下に白いシャツ、そしてベージュのズボンをはいた全身余すところなくゴツゴツとした男はハビエ=イシュットだ。
「水鏡」
「誰ですか、その人は?」
「可愛らしい女の子が友達とは、キミも中々隅に置けないね」
ハビエの後ろからやってきたのは、彼の部下であるリュカだ。少し長い金髪を後ろで結わえた、黒ローブ姿である。
「こうなる予感はしていたのよ」
「学園の警備の手伝いに来てくれたんですよね?」
「そうだよ。調査と捜査も兼ねているけどね」
「ガハハハ、ホントにお主は反感を買いやすいの~」
天見はファイナと燕に二人を紹介する。
「この二人は都警の刑事さんで、ハビエさんとリュカさん。ちょっと前お世話になったんだ」
「え、水鏡さん捕まっていたんですか?」
「で、今度の賠償金はいくらだ?」
「だ・か・ら、どうしてどいつもこいつも俺が何かをしでかした前提で質問するんだよ!」
ツッコミをする天見の背後で、ハビエは腹を抱えて笑っていた。
「放課後に相手の人相を聞くよ。バラバラに聞きたいから……え~っと、キミと妖精さんは後で、先にもう一人の方からになるね」
「何でバラバラに聞くのよ。いっぺんにすませばいいじゃない」
「人間の記憶っていうのは曖昧なものだからね。一緒に聞くと他人の意見で記憶が混在するんだよ。たとえばメガネをかけていなかったのに、メガネをかけていたっていう話を聞くと、本当にかけていたことに記憶が変わったり」
「へ~」
「ま、しばらくはクレッセント都警から毎日それなりの人数が来る。ワシらがいれば下手に手出しはできんだろう」
「こんなに早く動くなんて……理事長もスゴイな」
「リコリンは色んなところに太いパイプを持っているからな」
ハビエとリュカは挨拶に来ただけなのか、あっさりと教室から出て行った。
「そう言えば聞いていませんでしたけど~、どういう人に襲われたんですか~?」
「あ~、同い年ぐらいの男で、切れ長の細目」
「それは……大変でしたね~」
特に感想も無く燕は流した。そして、視線でファイナに合図する。
ファイナはその視線の意図をしっかり把握し、一つ頷いてから天見に自然と、
「それより昼食を食べよう。あ――あ~、あたいはお腹が減った」
「あたい!?」
「いきなりどうしたの、あなた?」
「いや、何でもない。失言だ。忘れてくれ」
ファイナは口元を押さえて視線を下げた。
(慣れた呼び方を急に変えるのは、こんなに気恥ずかしいことなのか!? なんだ、これは!)
心象のファイナは、汗をかいた真っ赤な顔を必死に手で扇いでいた。
すかさず燕はファイナに小声で話しかける。
「なに一度の失敗で怖気づいているんですか~」
「お、怖気づいてなど、いない! わ、私の、本気を見ていろ」
天見は背中を向けてコソコソしている二人を見て疑問符を浮かべつつ、カバンからクルミパンを取り出す。すると、ファイナがクルリと振り返り、腕組みをして無表情で仁王立つ。
「え~っとだな、水鏡あ……あ~」
「あ?」
「タァ!」
腕組みをした状態から放たれた鋭すぎるジョブが天見の顎を跳ね上げた。
ゆっくりと後ろに倒れそうになる天見の後頭部を、ベリメスが必死で支えた。
「いきなり天見をノックアウトさせないでよ!」
「いや、違うのだ。聞いてくれれば分かってもらえると思うが、しゃべろうとしたら手が滑ったのだ。よくあることだ」
「あるわけないでしょ! 口じゃなくって手が滑るって、肉体言語にそんなことがあるって初めて聞いたわよ!」
パチリと天見の目が開き、
「俺を殴るなら魔法を使え!」
「復活からの第一声がそれで、脳の異常性を疑えないのは私も大概水鏡さんのことを分かってきたな~って残念に思えますね~」
「肉体言語っていうか拳で語り合おうとするなんて魔法使いとしてホントどうかと思う! つくづくファイナは脳筋だな!」
「水鏡が魔法使いに対してどのようなテンプレを持っているかは知らないが、プロの魔法使いともなれば筋肉鍛えて大剣を振り回したり、拳の衝撃波で海を割ったりなど造作もないのだぞ」
「今時の魔法使いはホントに! ホントに……もう~!」
何か不思議なショックを受けている天見と、作戦の失敗を自覚して無表情ながら顔に暗い影を落としているファイナ。
「ダメだこりゃ~」
そんな二人を見て、チョコパンを頬張りながら燕は一人ごちた。
五限目の『歴史』の授業では、中年の女教師による抜き打ち小テストが行われた。そして、六限目の『体動』の授業が行われるグラウンドのトラックへ向かいながら、
「グリューテイルさん、チャンスですよ~。水鏡さんにテストの出来を聞いて~、良さそうだったら褒めて、悪そうだったら励ますんです~」
「わかった」
「この時注意することは点数が良いか悪いかではなく、水鏡さんが出来たかどうかですからね~。まずは問題の答え合わせをして、そこを探るんです~」
「答え合わせならばテストが返却されてからの方がいいだろう。記憶も曖昧だろうし、復習も兼ねてできる」
「何を言っているんですか~。多数決で安心を得る答え合わせはテスト後の定番ですよ~」
「無意味だ」
「当たり前です~! いいから行ってくださ~い!」
と、燕に背中を押されてファイナは先を行く天見の両肩に手を置いた。
天見は後ろから押された衝撃で少し前につんのめってから、背後を振り返る。
「どうしたファイナ? めまいか?」
「……健康体だ。それより水鏡、先程の小テストだが……」
天見は口ごもっているファイナの様子から察して、
「問三の答えって2か?」
「3だ」
「あ~間違えた。じゃ次だけど、魔法戦争の終戦場所はハルビで、その後にできた国際機構は世界著作権機関であってる?」
「あっているが、水鏡は人一倍『著作権法』に詳しくないといけないだろう。その程度の問題で不安になるな」
「それに~百年前にあった魔法戦争なんて、近代歴史だと頻出問題ですよ~」
勉強不足を突っ込まれて、天見は気まずそうに後ろ髪をかく。
「期末テストまでには何とかするよ」
「……で、総合的に小テストの結果はどうだったのだ?」
上手く作戦を進めているファイナを見て、燕はうんうんと頷いている。
「まあまあかな」
「『まあまあ』だとぉ~!」
天見の目の前で、ファイナが雷に打たれたような衝撃で驚いていた。
「え、まあまあとか、ダメなのか? ……ファイナの『連理の枝』としてマズイって言うんなら――」
「タイムだ!」
危うく天見が「パートナーを解消する?」などと言うところだったと察知したファイナは、みなまで言わせず彼の口を勢いよく手で塞いだ。その勢いがあまりにつきすぎて、彼は背後の壁に後頭部をしたたかに打ってしまった。
「聖籠、この場合はどうする?」
「そうですね~。とりあえず目撃者がいないようですからダイイングメッセージを偽装して、発見された場合に涙ながらにすがり付くのはどうでしょうか~」
「は?」
無表情のファイナは燕が指差す方を目線で追っていく。すると、廊下に足を投げ出して倒れている天見の後頭部から血が流れていた。当然意識もなさそうだ。
「――っ……お、終わりだ!」
「何がですか~!?」
「勝手に天見の人生を終わらせないでくれる。それに目撃者はしっかりといるわよ」
「都警がいる状況で大胆な犯行だな」
ベリメスが回復魔法をかけ、どこからかやってきたハビエは天見の顔を覗き込み「見事な打撃だな~」とのん気な感想を述べている。
ファイナは平然と立っていたが、心象ではどうすればいいのか分からずオロオロしっぱなしだった。
燕は人差し指をこめかみに当てつつ唸った。
「全然うまくいきませんね~」
いや~空回っていますね、ファイナ。燕の作戦が良策なのか?という問題もありますけどね。このまま彼女の作戦をファイナが実行していって、良い結果は生まれるのだろうか。
あと、都警の二人組登場しました。短編でも書きましたが、著作権委員とは上層部が違います。ですから、張り合わせるためにも出てきてくれないと……ただ、上手いこと話に組み込めるかは分かりません。
それでは次回予告! 何の結果も出ないまま放課後になってしまったファイナ。そこで燕は考えた。二人で下校させてみよう。
次回更新は日曜日にしておきましょう! 少し厳しめにしておかないと連休でなまける恐れがあるので。それでは~。




