表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
四人、それぞれの問題
31/100

発起

ファイナ=グリューテイル……生粋のお嬢様。コミュニケーション能力が低く、自分本位。感情を悟られることを嫌い、無表情なことが多い。ただし、胸の内では色々と考えている。

「グリューテイルさん、ちょっといいですか~」


 夜の『双葉』寮――三〇四号室で、燕はファイナに話しかけた。部屋の中には二人しかおらず、天見はシャワーを浴びている。


『連理の枝』の練習を終え、シャワーを浴びて鏡面台に座るファイナは鏡越しに燕を見て返事をした。


「何だ?」


「水鏡さんって、学園に来る前はどこにいたんですか~?」


「……珍しいな。聖籠が水鏡の過去を気にするなど」


「そうですか~?」


「だが、私は知らないぞ」


「え…………じゃ、家族構成とかは?」


「知らない」


「ベリメスさんと出会った経緯とかは?」


「全くだ」


「何でコピー魔法が使えて、体内に〈粒子〉を持っていないとかは~!?」


「さてな」


 続けざまの質問に答えて、ファイナは振り返る。そこにはぽか~んとした燕がいる。


「ここ一ヶ月何をやっていたんですか~!? 『連理の枝』として交友を深めるためには会話が一番じゃなかったんですか~!?」


「バカにするな。すでに私はこの一月で何気ない日常会話というものを修得した。水鏡とは最近、この夏に起こりえる異常気象についての話し合いを密に行っている」


「天気の話しかしてないんですか~!」


「……他に何を話せと?」


「休日や放課後に一緒に出かける予定を立てたりとか……」


「私は一人で買い物ぐらいできるぞ」


「いや、そういうことではなくって」


 そう言えばと燕が思い返してみると、天見とファイナは夜に『連理の枝』の練習をした後、シャワーを浴びて本を読んだり勉強をしたりと、会話をしている姿をほとんど見たことがない。


「…………あの~、水鏡さんの誕生日とかは分かっているんですよね~?」


「知ってどうするのだ?」


 ガクッと、燕は床に手をついた。最早当初考えていた『水鏡さんに隠れて情報収集』は頭の中から消えた。


「私はそれほど『連理の枝』には詳しくありませんけど~、そんなことじゃダメですよ~」


「何がダメなのだ? 水鏡との秘技の成功率は着実に上がっている。スタートは遅れたがすでに私達は一年で一番の『連理の枝』だ」


 燕はピッと人差し指を一本立て、


「それはきっと、水鏡さんがグリューテイルさんに合わせているからですよ~。言わせてもらいますけど~、目に見える結果は良くても『連理の枝』として二人の仲が優秀だと言えますか~?」


 言われて、ファイナは無表情で押し黙る。


 今日の放課後にも心配になったことだが、天見がファイナを信用してくれているのか分からない。


 ファイナは心象の不安を誤魔化すように、


「いや、だが、そういったパートナーとしての仲とは過ごしていく時間で育てられていくものではないのか? 『連理の枝』の教本にもそう――」


「乾ききったコミュニケーションでいくら時間をかけても無駄です~。グリューテイルさんは今、やるべき努力もせずただ漫然と日々を浪費しているダメ人間で~す!」


 ズバッと指を突き付けられ、心象のファイナは愕然とした。いまだかつて言われたことのない罵倒の言葉に当も心象もフリーズしてしまった。


 そして体が揺らめき、背後の鏡面台に手をついた。


「……そ、そんな……『連理の枝』になるべき私が……努力を怠っているというのか」


「っていうか『連理の枝』の授業に出ていて、周りの人たちの様子を見ていないんですか~?」


「いや、他の『連理の枝』がよく談笑している姿は目にしていたが、天気の話の何がそんなに面白いのかとは疑問に思っていた」


「日常会話の内容が天気以外の可能性を考えないんですか~」


 ため息をついた燕は、ピッと指を一本立てる。


「私も協力しますから水鏡さんとの交友度を上げましょう~」


「……分かった。それではこの『連理の枝――異性・応用上級編。向こうから話しかけずにはいられないフレグランスの妙』を参考にして――」


「何で自分から話しかけようとしないんですか~!」


「なぜ私からわざわざ水鏡の機嫌を取るために話しかけねばいけないのだ」


「いえ、会話というのは相手の機嫌を取ることじゃ……っていうか、応用編じゃなくって基礎編を読んでくださ~い!」


 燕はツッコミながら、あまりの前途多難さにまず明日が不安でしょうがなかった。



 天見は雲海のど真ん中に立っていた。


 ここは天見の夢の中でベリメスと秘密の会話をする時に彼女が用意する場だが、天見の眠りが浅くなって疲れが取れにくくなるので、あまり頻繁には活用しない。


「天見、話って何?」


 上空からベリメスがやってきたので、天見はさっそく切り出した。


「ああ。ファイナの『連理の枝』として俺はこのままじゃいけない気がするんだ」


「どうして? 天見はよくやっていると思うわよ。あの子に付き合って練習しているから止まっている相手に対する秘技の成功率は上がっているじゃない」


「秘技の問題じゃないんだ……いや、まだ止まっている相手にしか秘技が成功しないっていう問題はあるけど……それより、俺の戦力の問題だ」


 それを聞いて、ベリメスは「ふむ」と腕を組む。


「まだ試合の相手もルールも決まっていないけど、ルールで相手の魔法をコピーすることを禁止されたら、今日襲ってきた相手の時のように俺はあまり通常戦闘で役に立たない」


「それなら簡単よ。もっとストックを充実させればいいのよ。たとえ相手の魔法をコピーできなくてもそれで対処ができるわ。〈核魔獣〉を相手にする時がそうじゃない。明日から学園でコピーさせてくれる人を募れば…………募っても無駄ね」


 魔法使いは一生懸命作りこんだオリジナルの魔法が簡単にコピーでき、扱えるものだと他人に思われることを嫌うので、天見に魔法を提供する人なんていないとベリメスでも分かった。


「なら、使えそうな魔法をこっそりコピーするとか」


「こっそりコピーしたところで、許可無く戦闘に使えば著作権法違反で燕に斬られるって」


 天見は軽く笑った後、


「それに、俺は行き詰った時にすぐさま別の魔法に頼ることをしたくない。これはコピー魔法使いの美学とは違う、俺の信条だ」


 真剣な顔で言った。その顔を見てベリメスは嘆息してから苦笑し、


「世話が焼けるわね。なら、今ある十二のストックでどうするつもり?」


「ベリメス、一つ忘れているだろ」


「え?」


 ベリメスはキョトンとする。魔法のストックを管理しているのは彼女なのだ。ストックの数を間違えるわけがない。だが、天見はそのまま話を続ける。


「ベリメスに頼みたいことはそれに関してなんだ」


 そして、天見はベリメスに考えていたことについて話した。すると彼女は想像すらしていなかったのか、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。


「…………正気、天見?」


「魔法に関してふざけたことなんて一度もない」


 天見は胸を張って言い切った。


 難しそうな顔をしてベリメスは口元を手で押さえ、思案を巡らす。


「俺はずっと気に入らなかった。堕落だの先がないだの成長しないだの好き勝手言いやがって……そんなことは絶対にない!」


 意気込む天見に反して、ベリメスの表情は深刻に沈んでいる。


「私にとっても初めての挑戦よ。実現できるかどうか分からないし、天見にも当然協力してもらわないといけないわ」


「魔法の修行なら血反吐をはこうが構わない」


「それに実現できたとしても、試合までに間に合うかどうか……」


「間に合わせるんだ。少しでも勝てる可能性を上げたい」


 と、まだ難しく考えているベリメスに天見は笑いかけた。


「たまにはできるかどうか分からないことに挑戦してみようよ。できるものだけできたって退屈だろ、神様」


 ベリメスは目をパチクリとさせた。そして、ニヤッと笑うと小さな手で天見の頭を手荒く撫でまわす。


「なまいき。ま、私も気になることがあるし、天見が強くなるのは大歓迎よ」


 二人の意思は一つに固まった。



 安楽椅子にゆったりと座っている女神は、近づく気配を感じて目線だけそっちにやる。


 やってきた少女は女神の前で膝をつき、深く頭を下げた。


「ミーヤママハウエル、参りました」


 女神は少女の根元が茶色で毛先が白い髪の中心あたり、つむじを押してみた。


 ……………………。


「あの、何か?」


「何となく」


 女神は億劫そうに起き上がり、前にかかってきたピンクの髪を後ろに払う。


「で、次はいつ、あの子はキベリアメスティが大事にしている人間を倒しに行くの?」


 聞かれて、ミーヤママハウエルは上げられない顔を汗でビッシリとさせる。


「あの、その~……」


「あなた達が今日突っかかっていったのは見ていたわ。邪魔が入ったけどけっこういい線いってたんじゃないかしら。この調子ならそれほど時間はかからないわね。あの子も元の世界に帰りたくって必死なのね」


 と、上機嫌そうな女神にミーヤママハウエルは平伏したまま持参したものを差し出した。


「なにこれ?」


 女神は小首を傾げる。差し出されたそれは、流線型のコバルトブルーのガジェット。


「崑崙さんからの言葉をそのままお伝えします。『調べものの間は邪魔ね。そっちで預かっていろ。ついでに調整も頼むね』」


「は? 調べもの? 調整?」


「『調整の詳細は紙に書いてミヤに持たせたね。題して『太陰対極図法』ね』」


「タイインタイキョクズホウ?」


 渡されるまま、女神はミーヤママハウエルから紙を受け取り一瞥する。そして、驚きに目を見開く。


「『そっちの希望通りの仕掛けはもう施してあるね。だからこっちの希望も聞くのが筋ね。俺の知的欲求を満たすまでには終わらせておけね』」


「ハ?」


「『できなかったら笑ってやるね』です」


 あまりに恐れ多くて、ミーヤママハウエルは顔を一切上げることができなかった。女神が立ち上がる気配を感じて、彼女はビクッと体を硬直させる。


 少女の手からガジェットを取り上げ、女神は苛立ち気な速足で歩く。


「鍛冶の男神のところよ」


 ミーヤママハウエルの質問を先回りして女神が答える。


「人間だから生意気!」


 吐き捨てるような怒声に、標的だったわけでもないのにミーヤママハウエルは涙目になった。


「うぅ~、崑崙さんのバカァ~!」

 今回の話までで、各組第二部に何をやりたいか大まかに発表しました。と考えると、ここまでが起承転結の起なのか? あれ? 今回は第一部より短くする予定だったのに……やばいかな?

 まあ、そこら辺は流れに任せましょうか。とりあえず、皆さんやる気に満ちています。

 それでは、次回予告! ファイナと燕が色々と画策して天見と接します。学生らしく学園生活を友達と満喫する。青春だな~って感じですね。

 次回更新は金曜日です。おまちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ