事件簿3
書き終ってから気づいたけど、この話男が多いな。ま、いっか。女子が多くても、サービスシーンが多いわけじゃないし。
天見は『双葉』への帰り道を歩きながら、闇色の棍をつくづくと眺める。
「『鬼面夜行』か」
「自由に使える魔法が増えてよかったじゃない」
「う~ん……素直には喜べないかな」
「!!?」
ベリメスは声にならないほど仰天した。自分の生まれ育った世界を捨ててまでコピー魔法使いになった、魔法至上主義の水鏡天見が!?
今、耳にした言葉が本当に天見から発せられたとは思えず、別の誰かの声だったのではなかろうかと周囲を見回すが、誰もいない。
とりあえず、天見の眼前に浮遊して彼の額に手を当て、熱を測る。
「いや、正気だから」
なおさらビックリだ。
「どうして!? 魔法が使えるのよ!?」
「いや、喜べないのは俺じゃなくって」
ハッとしたベリメスは天見の背後に視線をやり、
「誰!?」
鋭い声を発した。
天見も振り返る。誰もいないが、ベリメスの〈粒子〉感知能力を疑いはしない。気を抜かずにしばらく待っていると、横道から人が出てきた。
「鬼面」
顔に鬼の面をつけ、体格を隠すように布に包まった人の手には、天見と同じ闇色の棍が握られていた。
「天見、気を付けて」
ベリメスに言われるまでもなく、天見は油断なく相手と睨み合う。距離は二十メートルほど離れている。右方向にちらつく夕日を眩しいと感じるが、少し体を動かせば建物の遮蔽物に入るので問題は無い。
鬼面が飛びかかってきた一撃を、天見は棍で受けず横に飛び退いた。避けた一撃は止まることなく、激しく地面を叩いた。
「っぎ!?」
天見の左足に鈍い衝撃が起こり、着地をミスって転がって建物の壁にぶつかった。
「天見!?」
ベリメスがすぐさま天見のズボンの左裾を上げて確認すると、凹んだ肌に赤いアザが出来ている。歯を食いしばる天見の様子から見て、骨にヒビが入っているかもしれない。
「避けたはずなのに」
「――わ、分かった。き、鬼面、夜行は――」
何かを話そうとした天見の顔に向けて、迫った鬼面は棍を突き出した。
横からのタックルを喰らって、鬼面は道の向こうまで吹っ飛んだ。
「ガハハハ、災難だったなピー小僧!」
現れたハビエは、ニカッと歯を見せて天見に笑いかける。
突然の出現に天見は驚いているが、リアクションをしている余裕もなく、見上げるだけだ。その様子を見てハビエは、
「しかし、魔法の一撃でそのありさまとは虚弱な」
『コピー』魔法使いである天見は魔法耐性がほとんどない上に、彼自身生来魔法使いの短所を有して、体力・力・防御力が平均より劣っている。
ベリメスに回復魔法をかけてもらい、徐々に痛みが引いてきて、
「何でこんなタイミングよく」
「お? それは当然、お主を囮に使って犯人が出て来るのを待っていたからだ」
「……何でみんなして俺を囮に使いたがるんだよ……」
「ピーコーほどオリジナルに反感買いやすい奴もいないからな! 相手の神経を逆なでして囮に使うにはうってつけだろ!」
もう、満面笑顔で誇らしげに語ってくれたせいで、天見に重たそうな闇がズーンっと落ちた。
「でも、どうして天見が犯人に狙われると思ったの?」
「流派の魔法をコピーする部外者をのさばらせておけば評判が悪い。今日に限らず、いつかは狙いに来ると思っていた」
「…………ちなみに、リュカさんは?」
「ガハハハ、面倒な仕事を押し付けてきたわ」
その時、吹っ飛ばされた鬼面がゆらりと起き上がる。
「さて、ワシの拳は少々痛いぞ、キメル」
ハビエの発言に驚くベリメスの目の前で、先程の衝撃でヒビが入った鬼面が地面に落ちて割れる。
鬼面に隠れていた顔は、ハビエの言う通りキメルだった。
「そんな……それじゃ、あの子は自分の父親を病院送りにしたってわけ!? 何で分かったの!?」
「今日、ワシがピー小僧のコピーについて話したのは奴だけだ。だから、今日襲うとしたら、キメルしかいないわ!」
ハビエは懐から銀色のデカい輪っかを取り出すとそれを頭に装着し、耳の上あたりについている挿入口にチップを入れ、
「起動!」
額にある液晶から、モザイク処理された文言が周囲に展開される。
「大きなガジェットね~」
「っていうか、さっきの体当たりが魔法じゃなかったことに俺は驚きなんだけど」
「勇猛なる行進を遮る者無し!」
天見達の話なんて耳に入らず、ハビエは腰の所で両の拳を握りこみ、
「一直線に猛る牛拳!」
発言を唱えた瞬間、石畳の地面に踏み込みの足跡を残して、ハビエがキメルに一瞬で肉迫する。
巨体を生かした拳の振り下ろしを、キメルは棍を頭上で横に構えて受け止めた。が、その衝撃で彼女の両足が石畳にめり込んだ。
すぐさまハビエは拳を解いて闇色の棍を掴み、気合いの咆哮を上げてキメルごと振り回して、側面の壁に投げつけた。
叩きつけられた壁が破壊され、キメルはできた穴の向こうに消えた。のに、粉塵を破ってすぐさま彼女が棍を突き出して突っ込んできた。
ハビエは棍の先を左手だけで掴んで、少し後退したがキメルの勢いを殺した。圧倒的な力を見せつけ、歯を見せて笑うが、
「長伸!」
キメルが左手の指を棍の後ろに向けて走らせると、棍の後端がすかさず伸びて後方の壁につき、それでも伸びる勢いが止まらず前にいたハビエをさらに押した。
ハビエは壁に叩きつけられ、掴んでいた棍が徐々に肉体にめり込んでいく。彼は右拳で棍の側面を叩き横にズラし、同時に体を捻って先端を体から外した。
棍の長さを戻したキメルと、拳を構えて笑うハビエが間合いを開けて睨み合う。
その一連の攻防を見ていた天見は、
「最近の魔法使いは動けるし、万能だな」
感心したように呟く。後方支援担当だった魔法使いは『今は昔』というやつだ。
しかし、回復が終わって立ったはいいが、蚊帳の外感が半端ない。何かをしようにも、現在は『鬼面夜行』をコピー中のため、他の魔法は使えない。あんな動きの中に飛び込んでいって何かをする自信は、天見に全くない。
「助けでも呼びに行く?」
ベリメスが出来そうなことを提案してくれるが、
「いや、せっかくの魔法対決を見逃すつもりはない」
テコでも動きそうにない。
キメルはダメージから小さく咳き込み、
「これは『鬼面夜行』の使い手の問題です。都警は引っ込んでいてください」
「脆弱な一般市民をボコろうって奴を放ってはおけんな」
「こっちだってあんなに弱いとは思いませんでしたよ! あんなのに『鬼面夜行』を使われたかと思うと、怒りでうっかりトドメ差しそうになりました!」
なぜ殴られた上に逆ギレされて罵倒されるのだろうかと、天見は不思議でたまらない。
「本当はただちょっとおどかして、『鬼面夜行』を使わせないようにするつもりだったんですけど」
天見を見るキメルの視線は鋭く責めるようなものだったが、天見は臆さずに、
「人に使うなって言われて魔法を使わなくなるなんて、コピー魔法使いの美学に反する」
胸を張って言い切る。
「我が流派復興のため、幼い命に手をかけなきゃいけない私はなんて可哀想」
「清々しいほど自分本位ね」
「その前にそんなに歳変わらないだろ!」
「私は今年で十九よ」
「俺は今年で十六だよ!」
その発言に、キメルは愕然とした。
「…………え? ギャグ?」
「マジだよ!」
「制服着ているのに」
一番向こうで、ハビエが遠慮なく笑っているのが腹立たしい。
「とにかく! あなたのせいで計画はめちゃくちゃよ! どうしてくれるのよ!」
「どうしてこう、魔法使いっていうのは我が強い人が多いんだ」
「まったく、申し訳ない」
苦虫を噛み潰したように唸っていた天見の後ろから、すまない気持ちたっぷりの声が聞こえた。
振り返ってみると、肩を狭め恐縮した様子のモリスが立っていた。
「よそ様に迷惑をかけるとは、話が違うではないか」
ため息交じりのモリスの言葉から察して、
「つまりは、モリスさんも一枚噛んでいるんですね」
「…………左様。全てはキメルの一家が仕組み、拙僧も止めなかった狂言」
「狂言?」
ベリメスの疑問の声に、モリスはコクリと頷く。
いきなり現れて話し出したモリスにキメルはむくれているが、止める気配はない。ハビエも彼女を逃がさないように警戒しながら、聞き入っている。
「キメルの目的は、売名行為」
「はぁ…………は?」
呟いた後に、意味が分からなくて天見は首を傾げる。
「一度表舞台から消えた魔法を再び有名にするためには、かなりの時間と努力、そして実績と運が必要となる。しかし、それを短縮する方法はある。それは――」
「新聞よ」
モリスの話を横から口を出し、キメルが自身の計画を明かし始める。
「新聞の広告効果はかなりのものだけど、簡単に載るものじゃないわ。でも、事件に使われた魔法なら、自然と載る」
「でも、それってマイナスイメージが強くなるんじゃないの?」
ベリメスの指摘に、モリスは指を立てて横に振り、
「事件になれば、ね」
だから都警の介入を断ろうとしたのかと、天見は合点がいって頷く。
「本来ならまず、父さんに協力してもらって事件を起こして、新聞に『辻斬り現る!?』とかって載って、その後に都警が魔法を調べ上げて、そこで同門同士の著作権問題だったと発覚する。そこで都警には手を引いてもらい、父親をやられた可憐な美少女と東方かぶれの修行バカが決闘をし、正統後継者を決する。そして、正統後継者となった私が大々的に大会に打って出る…………っていう筋書きだったのに!」
天見はうろんげな目を後ろのモリスに向け、
「乗ったんですか? あんな計画に?」
モリスは天見に顔を向けることができず、俯き加減になる。
「……………………拙僧も末席とはいえ『鬼面夜行』の流派に身を置く者。流派を復興しようとやる気のある者には、力を貸してもいいと思ったのだ」
「あなたごときにコピーできるような魔法だと思われたら、イメージダウンもいいところだし、勝手に誰にでも教えられたら最悪! だから、とてもじゃないけどあなたには扱いきれる魔法じゃないことを、その体に教えてあげるわ!」
「大迷惑だ!」
「やめろ、キメル! このようないたいけな少年に『鬼面夜行』を振るうなど、とても看過できることではない!」
ベリメスは「あ、この人も天見の年齢を勘違いしているわ」と、頭に大きな汗をかく。
退く様子がなく構えるキメルを見て、モリスは仕方なく左の袖口から印籠型のガジェットを取り出し、右の袖口から出したチップを挿入し、
「起動!」
印籠の前面にある液晶から、モザイク処理された文言がモリスの周囲に展開する。
「掴むは無、握るは闇、源は必要ない。ただひたすらに深く沈み、暗黒を討て」
前に数歩進んだモリスは右手首をクルリと回し、
「鬼面夜行!」
作り出した闇色の棍を、モリスは片手で回してから両手に構える。
「申し訳ないが刑事さん、この者の始末は拙僧に任せてもらいたい」
ハビエはニヤリと笑い、キメルから距離を取る。
魔法の効果時間が終了し、空手になった天見もベリメスを引きつれて移動し、ハビエの隣、キメルの後ろに立つ。
夕刻も終わりかけ、東側の空はもう濃い藍色だ。このまま夜になれば、二人が持つ棍は闇の中に姿を消すことになるだろう。
お互いに棍を構えつつ、ゆっくりと間合いを詰めていく。そして、緊迫の空気の中、
「コピースタート!」
天見が頭上に掲げた手から、著作権フリーの光の球が現れた。
「なっ!」
天見の光によって出来たキメルの影が、モリスに向かって伸びる。
「言いがかりをつけられた上に殴られて、俺が怒ってないとでも思ってんのか!」
それを聞いたモリスは、躊躇なく棍をキメルの影に勢いよく突き立てた。
キメルは棍を取り落とし、左腹部を押さえて膝から崩れ落ちた。
モリスは気を失ったキメルを背負いながら、天見とハビエに深く頭を下げる。
ハビエは笑いながら「適当に報告しておいてやる」と答えたが、どうせ報告するのはリュカさんなんだろうな~っと、天見とベリメスは確信している。
頭を上げたモリスは天見を見て、
「『鬼面夜行』が影にも攻撃できるということを知っていたのか?」
「ま、足に一発喰らいましたからね。でも、その前からどうやって人通りの多い場所で誰にも見られず人を突けるのかって考えていたんです。で、もしかしたら、棍で突いたのは実際の体じゃなくって、影だったんじゃないかって。それなら、黒い杖を地面に突きながら歩いている体で攻撃できる」
天見の話を聞いて、モリスは目を丸くする。
「…………少年はスゴイな」
そして、頬を緩ませてニッコリと笑い、
「少年は『鬼面夜行』をコピーして使うことが出来るのだろ? キメルはああ言っていたが、手にしたその日にそこまで考察するほどの熱意を見せられたら、他の者は文句を言わないだろう。著作権が切れているから好きに使ってくれて構わない。もし本格的に習いたいのならば、父や祖父を紹介してもいいが」
これ以上ないほどの申し出にベリメスは喜びかけるが、天見は苦笑して指で頬をかく。
「『鬼面夜行』は武器を形成して振り回す魔法だから、残念ながら運動オンチの俺じゃ力を十分に発揮させることができないんです。俺の趣味に合わないっていうわけじゃないんですけど……俺に使われても『鬼面夜行』が喜ばないだろうから」
ハッキリとは言わないが、申し訳なさそうに遠慮した。
そんな天見をベリメスとハビエ、モリスはポカ~ンっと眺める。そして、天見の性格を一番知るベリメスが初めに意識を取り戻し、
「天見。喜ばないって話は、あなたじゃなくって『鬼面夜行』のことだったのね?」
「当然だろ?」
しばし静寂が流れた後、ハビエが豪快に笑って天見の背中を叩き、モリスは堪えるように俯いて肩を震わせた。
短編で長々と戦わせるのも何なので、天見に片をつけてもらいました。今回の話でクローズアップしたかったのは著作権法第七条だったので、目的は一話目で達していたんです。
さて、それでは来週の金曜日に長編の更新をします。ぶっちゃけますと、プロットはほぼ出来て書き出しているのですが、まだまだ不安定です。でも、プロローグはこれでいこう! というのが出来ていますので、問題なく載せます。
その続きを毎週金曜日に更新していけるかどうかは、まあ……毎日の自分に頑張ってもらうとしか……とりあえず、次回の予告! 主人公は出ません!




