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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
VS『神の使徒』
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暴走する水鏡天見

 天見が魔法を使っている原理の復習。

 必要なもの……モノクル。リクレスポロの指輪。ベリメスが持つ『赤の書』。

 天見が見た魔法は一旦モノクルに保存されてから、ベリメスが『赤の書』にアップロードする。そして、指輪のリクレスポロが自然界の〈粒子〉を集め、モノクルが各属性に染色してくれる。

 落ちた先は坂になっていて、体から地面に落ちた天見は上手いこと転がって衝撃を緩和させた。それでも、回転が止まった天見は鈍い痛みに顔をしかめ、


「ってぇ~、背中打ったぁ~」


 痛みを訴える場所を手でさする。


「悪魔め。やはりしぶといな」


 近くから聞こえる敵意が込められた言葉に、天見は身構える。


 暗闇の中影が動き、ロウソクに火が灯される。そのロウソクを持つ黒装束の姿がぼんやりと浮かび、壁面に近づいてロウソクを傾けると、壁に火が走った。


 周囲が明るくなり、黒装束と天見は対峙する。


「おまえ、初日に襲い掛かってきた黒装束だな」


「ふん」


 答える代りに黒装束は顔の覆いを外す。現れた顔は細く端正な顔で、短い黒髪の青年だった。


「三年B組のヌベリオ=デュソニスだったのか!」


 名前を当てられ、ヌベリオは怪訝な顔をする。


「なぜ我の名を」


「え? だってもう全学年の魔法使いの顔と名前覚えたし」


「気色悪い!」


「失礼な!」


 ヌベリオはベルトのバックルになっているガジェットにチップを入れる。


「やはり貴様は危険だ。聖女の手を煩わせるまでもない。ここで我が始末する!」


「ベリメス!」


 と、声をかけたが返事がない。


「あれ? ベリメス? ベリメスさ~ん?」


 周囲を見渡すが、ベリメスだけじゃなくファイナも燕もいない。その天見の様子が面白かったのか、ヌベリオは笑いを押し殺せず、


「ふふふ、はーはっはっははは! この場には貴様しかいない!」


「なに」


「コピーしか能がない貴様は人がいなければ無力に等しい。ここが貴様の墓場だ! 悪魔に相応しく誰にも知られることなく、一人で死んでいくがいい!」


 強気に言い放たれたが、天見は別に困った様子もなくポリポリと頬をかく。


「確かに俺自身の力なんて高々知れてるけど……」


 左目のモノクルを触りながら、ヌベリオに笑みを向ける。


「おまえがいてくれるおかげで、負ける気はしない」


 天見の言葉の意図を理解して、ヌベリオは歯ぎしりする。


「この期に及んでもまだコピーか! この『コーピストレス』の化身がぁ!」


「俺にはコピー魔法しかないもんでね!」


 ヌベリオのバックルにはめ込まれているデミリクレスポロが、〈粒子〉を集め出した。



 戦いといえるようなものにはならなかった。


 倒れ伏す天見は頭から血を流し、肌が見える場所は打ち身の痕が痛々しい。それでも天見は、震える手で地面を押して体を起こす。


「ふん。大口を叩いた割には他愛が無かったな」


 傷一つないヌベリオは、足元にある石を拾う。


「この前は正体を隠すために実力をセーブしていた。我の真の力は『属性の剪定』をして〈粒子〉比率が少なくなった風や体などではない――地属性だ!」


 天見に向かって投げられた石は形を変え、鋭い錐となった。


「くっ! コピースタート!」


 天見のモノクルが一度だけ茶色く光った。


 手近な石を掴んで投げ、鋭い錐に形を変えた。だが、錐がぶつかり合ったら一方的に天見のだけ破壊され、形を残した錐が天見の脇を掠めた。


 天見は指輪のリクレスポロによって〈粒子〉を集め、モノクルで染色して魔法を使えている。だが、ヌベリオは本来の体内〈粒子〉にデミリクレスポロが集める〈粒子〉を上乗せしている。単純な著作権フリーのため、その差がハッキリと出てしまっている。


「無駄だ無駄! この『神の雫』であるデミリクレスポロによって力を得た我に、コピー風情が勝てるものか!」


 天見は石を掴み勝ち誇るヌベリオに向けて、


「コピースタート」


 投げたが形は変わらず、途中で地面に落ちた。それを見てヌベリオは口を歪めて笑う。


「頼みの綱のコピーすら使えなくなったか。ならば、トドメだ!」


 起動したヌベリオのガジェットから、モザイク処理された文言が現れる。天見は抜け目なくその様子を左目で見続ける。


「荒ぶる神が踏み出す歩みが、大地を鳴動させる! ――隆起鳴動(りゅうきめいどう)!」


 ヌベリオが足元の地面に手をつくとそこから岩が隆起し続け、天見に迫る。逃げようとしたが蓄積されたダメージが体を重くしていたため、仕方なく天見は体の前で腕を交差させる。最後に地面から隆起した岩が天見を吹っ飛ばして壁に叩きつけ、そのまま彼は床に崩れ落ちた。


 ヌベリオは背中を向けてその場を立ち去ろうとしたが、背後から聞こえた物音に振り返ると天見がまだ立ち上がろうと動いていた。そのしぶとさに、苛立ち気に顔をしかめる。


「……確認作業、終わり。モノクルには一つ分の魔法が保存され、それを放出することで一回だけその魔法が使える」


 何やらブツブツと呟いているのは分かったが、ヌベリオの耳にまではハッキリと届かない。もう意識がないのではと訝しみ、


「……一つ聞く。この前公園で不良が子どもに絡んでいたが、それを助けたコピー魔法使いとは、貴様のことか?」


「助けた覚えはないけど、それは俺だな」


 その天見の答えに、ヌベリオの頬がピクリと反応する。


「貴様のせいで我は活躍の場を奪われ、赤っ恥を…………今度は最上級の魔法で片を付けてやる!」


 ヌベリオはベルトのチップを入れ替え、


「起動!」


 モザイク処理された文言がベルトのバックルから現れる。


「大地に生きる者よ、母なる腕に抱かれて永久の眠りに沈め! ――極限大地賛歌(きょくげんアースクエイク)!」


 地面が揺れ動いた後、床・壁・天井から四角柱の塊が突き出て、お互いにぶつかり合って隙間なく相手を押し潰した。


 豪快な魔法だった。だが、誰よりも使った当人が一番驚いているような顔をしている。


「つ、使えた……はは、使えたぞ! 我にも使えたぁ! これほど強く優秀で圧倒的な魔法が使えた! ふふふ、もう敵はいない! 我こそが最強だぁ!」


「その魔法、おまえのじゃないだろ」


 声がしたことに驚いて、ヌベリオはそっちに顔を向ける。先程まで天見がいた荒れ果てた場所から、左に随分と移動していた。満身創痍のあの体で、なぜあの魔法が避けられたのか。ヌベリオは分からないでいた。


 天見は腕を押さえ、壁に寄りかかって何とか立っている状態だった。だが、しっかりと声は出た。


「オリジナルなら、あの場面であの魔法は使わない。壁の間近にいた俺は、まず壁から突き出た岩に押されて吹っ飛んだ。上下の岩が迫ってくる前にな。そんなことも分からず、おまえはトドメと称してあの魔法を使った……その魔法もどうせ違法チップの劣化コピーだろ。著作権法違反のグループから戦利品としていただいたものか? おまえらの活躍が新聞に載ってたぞ」


 避けられた理由を知ったヌベリオは、そんなの歯牙にもかけない得意げな顔で、


「劣化コピーとは無粋な! この魔法はもう、我のものだ!」


 天見の肩がピクリと反応した。


「我らは『神の雫』という力を手に入れた! だが、その力によってパワーアップするのは単純な著作権フリーの魔法のみ! 我らが元々使えた脆弱の魔法はさしたる変化をしなかった!」


 天見は何かを抑え込もうと左手で顔を掴み、指でこめかみあたりを強く圧迫する。


「だから、正義を行使するためには強い者の魔法が必要だったのだ! 優秀なる我らには優秀な魔法こそ相応しい!」


 天見は歯をむいて食いしばり、全身をわななかせる。


「今の我らならばどれほど〈粒子〉を使う魔法でも使うことができる! これこそが我らが新たに手に入れた力だ!」


 天見は頭に感じる痛みで自分を抑え込もうとしていた。でも、魔法を侮る者は自分自身ですら嫌悪の対象である天見には――


 無理だ!!


 ブレーキになってくれるベリメスも、口うるさい燕もいない。


 顔から手を放した天見は目を吊り上げ、凄絶な視線でヌベリオを睨みつける。その鬼気迫る様子に、ヌベリオはすくみ上った。


「信じられねえ! 人ごときが魔法をバカにしていいと思ってんのか! 魔法がなければ魔法使いと名乗れないんだから、人と魔法のどっちが上ぐらいバカでも分かるだろ!」


「な、なにを言っ――」


 気圧されるヌベリオは驚愕に声が止まった。なんと、満身創痍に見えた天見が全力疾走から前蹴りをかましてきたのだ。


「死ね!」


 勢いがついた蹴りだったため、ヌベリオに避けられても止まれずジャンプするような大股で数メートル離れる。


「ば、バカな。その怪我でどうしてまだ動ける!」


「ああん!? 魔法でぶちのめされるなんてご褒美だろうが!」


 振り向きざまに言った天見の言葉に、気圧されているヌベリオは目を白黒させる。


 体の痛みすら忘れた天見の額からは興奮から血がドクドク流れているが、それもお構いなしだ。


「〈粒子〉量の多寡だか生まれついてのセンスだかに愚痴っている暇があるんなら、身近にある魔法にもっと時間をかけろ! 贅沢なんだよ、この――魔法使いがぁ!」


 いきり立つ天見の発狂したかのように叫ばれる声。ヌベリオは胴から震えがくるのを自覚した。


「自分の魔法を自分で侮辱した罪は万死に値する! おまえには聞こえないのか! 力が発揮されずに嘆くおまえの魔法の慟哭がぁ! 刮目して見やがれ! コピースタート!」


 モノクルが一度だけ茶色く点滅し、天見の指輪が光る〈粒子〉を集める。


「荒ぶる神が踏み出す歩みが、大地を鳴動させる!」


 天見が発した文言に反応し、ヌベリオは硬い表情で頬をピクピクさせる(どうやら本人は笑っているつもりらしい)。


「ま、まだコピーできたか。だが、そんな弱い魔法を選んだのは失敗だったな! そんな脆弱な魔法でよければいくらでも使うがいい! その魔法が大したことがないことは、我が一番知っている!」


 あまりの怒りから天見はブワッと全身の毛が逆立つ感覚を覚え、勢いよく地面に手をつける。


「隆起鳴動! Ⓒヌベリオ=デュソニス!」


 ヌベリオは隆起してくる岩を避けようと待ち構えた。が、天見の周囲の地面にはなんら変化がなく、いきなり目の前の地面が隆起して襲い掛かってきた。


 ヌベリオはギリギリで岩を避けたが、その岩の中ほどがまた隆起し、避けたヌベリオを追いかけた。


「おまえを殺してでもおまえの魔法の権威を回復させる! この魔法は計十二回隆起させることができる。そのほとんどを威嚇に使うなんて、おまえはバカだ!」


 天見の意思で、岩は隆起を繰り返してヌベリオを追い詰めていく。ただ、その隆起する岩は徐々に体積を減らしている。十二回もつかどうかは微妙な所だが、


「こんな、追尾してくるなど!」


 苦しげに避け続けるヌベリオを捉えるのに、それほどの回数はいらないだろう。


「グッ!」


 ついに六回目の隆起で、体積を減らして若干鋭くなった岩がヌベリオの腹に突き刺さった。


「地属性の魔法使いに地属性の魔法が効きにくいのは知っている。だから、まだだ!」


 天見は顔の前で左手を握りこんだ。


「弾けて飛び出せぇ!」


 ヌベリオの体が感電でも引き起こしたかのように痙攣し、震え、口から一欠けらの岩が出てきた。


「ば、バカな。体内でも隆起が続くなど……この魔法は、そんなに恐ろしい魔法、だったのか」


 口の端から血を流し、ヌベリオが倒れ伏した。


「俺が使えるのはコピー魔法だけ。だから、俺にできることはおまえにもできるんだ。おまえがこの魔法を貶めるのは百年早い!」


 言い切った。すると天見は精根果てたのか、いきなり膝から力が抜け、地面に倒れた。



 道の奥から漏れる火の灯りを見て、ベリメス達三人は急いで向かった。


「天見!」


「水鏡!」


「水鏡さ~ん!」


 荒れ果てた現場に踏み入った時、倒れている二人の内一人が天見だと気づいて駆け寄る。


 怪我をしているのを見て、すぐさまベリメスが天見に回復魔法をかける。


「大丈夫なのか?」


 ファイナに答えず、ベリメスは黙って回復に努める。その雰囲気を感じ取って、二人も天見が回復するのを黙って見守る。


 すると、打ち身の痕が消えかけ始めた時、天見の目がうっすらと開いた。


「あれ? …………よ」


 軽く手を上げて、挨拶をする。ベリメスが安堵の息をはいて魔法を止め、ファイナは無表情の奥に心配した顔を隠し、燕はジト~っとした目で、


「魔法使ってませんよね!? 著作権法違反してたら斬りますよ~!」


 この状況でも容赦しない。


「…………違反はしてない」


「何で使ってないって言わないんですか~!」


「使っていません」


「ウソですよ~! この状況でその証言を信じるバカがどこにいますか~!」


 荒れ果てた周りを指さす燕から、天見は露骨に視線を背ける。


「証拠もないのに疑うのは感心しないわね。気になるならあそこで倒れている子が目を覚ますのを待って話を聞けば? 私達は先に行くけど」


「あと、あいつも違法チップを使ったぞ。著作権委員として見張っていた方がいいんじゃないのか? じゃ」


 ベリメスが話を切って天見を立たせ、元来た道を戻っていく。ファイナも黙って並び、ぶすくれた燕はとりあえず天見の証言を信じて、まだ持っている捕獲用のロープでヌベリオを縛って転がしてから、悩まず後を追った。



 直線の向こうに、溢れるほどの光が見えた。「あそこよ」と言うベリメスの言葉を信じて、目を腕で守りながら光の中に入っていった。


「眩しいですぅ~」


 それでも、部屋の中に入ったら眩しさが軽減し、


「これが……〈柱〉か」


〈柱〉の近くは目を開けることができた。


 部屋の奥の真ん中に、中空に浮かぶ光の玉があった。〈柱〉と言うから地から天まで届くものを想像していたが違った。その玉に近づけるように古い階段が用意されているのを見ると、昔はここで何か宗教的な行事をやっていたのかもしれない。


 そして、もう一つ。〈柱〉のすぐ下に何か受け皿のような銀の器があった。その器は古い階段から伸びた器具で支えられている。その器の影の中に、天見達はいる。


 ベリメスも目を手で守りながら〈柱〉を見上げ、


「やっぱり、かなり消耗しているわ」


「これでか?」


 離れていても十分すぎるエネルギーを感じられるので、三人はベリメスの言葉に驚く。


「本来の状態なら光は秘めていて温かいのよ。こんな無暗に眩しいなんて……光を押し留めておけなくなっている」


「やはり悪魔と悪魔に加担する者にとって、この聖なる光は苦しいもののようですね」


 声の主が階段の影から出て来た。胸元でガジェットのロザリオが揺れる、シスター服姿のシャロンだ。

 天見の暴走をどうしようか、けっこう悩みました。コピー魔法使いらしく色んな魔法をバカバカ使わせる。これが最初の案でした。でも、ストーリーが進行して天見というキャラができてきて、魔法至上主義の『コピー』魔法使い。想いを爆発させることに決めました。結果、なんか…………M属性が意図せずついてしまいました。これは主人公としていいのか?

 次回更新は……申し訳ありません。週末立て込んでしまうので、金曜日更新は難しいです。なんとか土日には更新したいところですが……下手したら来週の火曜日になりそうです。

 次回はラスボスのシャロンとの対決ですね。コピー魔法を使って彼女を倒そうとする天見の前に立ちはだかるのは、燕! あれ? 天見にとってのラスボスってどっちだ?

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