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幕間 日本人、水鏡天見

 この話では天見が真剣に魔法と向き合い、コピー魔法使いに対して並々ならない思いと努力を重ねてきたのを伝えられたらと思います。

 物足りないかもしれませんが、必要だと思うことは書いたと思いますので、ご容赦を。

 日本人、水鏡天見。


 彼は子どもの時から外で遊ぶより、家の中で本を読んでいるのが好きな子だった。体力がなくて外で遊んでもすぐ疲れてしまって、友達についていけなかったのだ。


 一人の時間が多かった彼の娯楽の全ては、本だった。


 好きな本は冒険譚で、特に魔法が出るものが大好きだった。体力がない彼にとって、同じように体力がない魔法使いが活躍する話は、見ていて強い爽快感を覚えた。


 そういう子どもだったからか、両親は天見が喜ぶと思って『夢の国』の遊園地に連れて行った。四歳だった天見はアトラクションより、その空間を大いに喜んだ。そして夜に打ち上がる花火を見た時、幼い心ながら「魔法だ!」と勘違いして興奮した。


 それから天見はもっと魔法が好きになり、使ってみたいと思うようになった。それは小学生に上り、歳が二桁になってこの世界に魔法はなく、あの日の魔法は花火だと分かってもだ。


 色んな本を読み続け、思いは強くなりこそすれ、弱くなることはなかった。自分にはどんな魔法が似合うか、どんな魔法を使えたら楽しいか、自分をキャラに置き換えてたくさん考えた。でも、とてもではないが一つになんて決められない。


 光や火は主人公っぽくて憧れるし、氷や闇はクールでカッコいい。風で空を飛べたら気持ちいいだろうし、体を強化して思いっきり走り回りたい。回復・補助魔法を使って仲間をサポートするのもいいし、大鍋を使って魔法薬を作るのも楽しそうだ。武具に魔法を付加して戦うのもやってみたい。


 天見は自己主張するような子どもではなかったが、好きなことにはトコトン貪欲だった。選べないなら全部使えるようになればいい。つまりは――大魔法使いだ!


 あらゆる魔法が使えて、ホウキで空も飛べて、薬の知識も豊富。接近戦もなんのその、剣に魔法を付加させて群がる敵をバッタバッタと斬り倒す。


 そこまで考えて天見は……



 自分を嫌悪した! 魔法を――バカにし過ぎている! っと。



 一つの魔法ですらそう簡単に極められるものではない。それは色んな話を見てきて常に思っていたことだった。一つを例に出すと、魔法使いのメ○ゾーマが大魔王のメ○に遠く及ばなかったのを出すと分かりやすいだろうか。弱い魔法でも極めればそこまでのレベルに到達できるのだ。


 努力や創意工夫を放棄した魔法使いが、その程度で止まっていて勝てない敵が出てきたらもっと強い魔法? 信じられない! その魔法にはもっともっと可能性があるのに! もし自分だったらもっとその魔法の良さを引き出せるのに!


 そう思っていたのに、大魔法使いになろうとする自分はまさにその努力と創意工夫を放棄した魔法使いそのものだった。少し困った状況になったら現状の魔法で何とかしようとせず、新しい魔法に頼る……魔法を軽視してしまった。


 全ての魔法を使いたい。でも、魔法に対して不誠実でいたくない。


 子どもの時からできることが少なかった天見は知っている。


『何でもできればそりゃ人生は楽しいだろうけど、熱中・没頭できるものが一つでもあれば、人生は大いに楽しい』


 天見は決めた。もし自分が魔法を使えるようになったら、たった一つだけでいい、と。その一つと真剣に向き合おうと。


 だが、あらゆる魔法を使えるたった一つの魔法。そんな矛盾した答えがあることに、ある日いきなり気づいた。


 友達とゲームで大乱闘していた日、ピンクの丸い方がコピー能力で大活躍していた。


 突然、天見は友達の部屋を飛び出した。茫然とする友達を放って、天見はがむしゃらに走った。


「ある! あった! たった一つだ! 一つだけでいい! その魔法さえあれば、あらゆる魔法が使える!」


 興奮と走ったことで激しく鼓動する心臓。


「コピー魔法使いだ!」



 その日から、天見はコピー能力に関して調べた。魔法に対して誠実であるコピー魔法使いを考えるためだ。


 だが、あまりお手本にできるコピー能力者がいなかった。


 多くの物語でコピー能力者は、最初は強いのに中盤からは善戦キャラで、後半になると最早空気だ。活躍する者はいても、途中からコピーよりもそのキャラ自身の力がすごくなってしまいコピー能力なんて使わなくなる。「そんなのも初期はあったよね~」だ。


 それでもコピーを主体とする強いコピー能力者はいる。コピーとコピーを掛け合わせる人。最強の魔法を切り札として持っている人。


 だが、天見はそれらのやり方はいまいち好みじゃなかった。掛け合わせたらもうそれはオリジナルだし、最強の魔法を切り札にするって、それはもう……何か力押し過ぎて頭が悪い気がする。それならまだ、コピーしたものの中から相手の苦手とする能力を使って戦う人の方がマシだ。一応頭を使っている点で、魔法使いっぽい。


 まあ、味方側のコピー能力者はまだマシだ。敵方のコピー能力者なんて「へっへ~ん、おまえの必殺技簡単に使ってやったぜ、ざまあみろ~」と、他人の努力を嘲るような奴もいる。こんな奴にはなりたくない。


 なりたいと思うようなコピー能力者はいなかった。だから、天見は自分が納得できるコピー魔法使いになるための決まりを模索し始めた。


 それが、コピー魔法使いの美学だ。


 魔法が出るあらゆる本を読み続け、一つ作っては採用したり、考え直したり試行錯誤を繰り返した。基準となるのは、魔法とオリジナルに対する敬意。完成させるのに、三年の歳月をかけた。


 これを破らない限り、彼の中ではオリジナルと魔法に対して誠実であり続けられる。



 だが、天見の思考は止まらない。コピー魔法使いの問題はまだある。


 それは『コピーはオリジナルに及ばない』という、ほとんどの物語で言われている問題についてだ。


 その大きな理由は二つあると、天見は考えた。


 一つは威力。もう一つは経験による対処能力。


「威力に関しては劣化コピーなどコピー性能に問題があるものを抜かしたとしても、コピーは威力の増減が基本できない。オリジナルが感情の起伏や味方の助力で限界を超えた場合、対抗できない」


 だが、その短所がコピーの長所だと思う。威力の増減ができないということは、いつでも安定したパフォーマンスを発揮できるということだ。戦闘ものだとそれは大きなメリットになる。言ってしまえば、半死の状態でも一〇〇の威力を発揮できる。


 威力に関しては長所もあるならいっかと、簡単に諦めた。諦めることと諦めないことの判断がハッキリしているのも、天見の特徴だ。


「経験による対処能力……当然と言えば当然だけど、初見に近いコピー能力者がそれと共に戦ってきたオリジナルに経験で勝てるわけがない。天候や地形によるアクシデント、使い所・勝負所の判断……それに何より、オリジナルは自身の能力に命をかけられるほどの信頼がある。だが、コピー能力者はコピーした能力に命をかけられるだろうか?」


 それはたぶん、かなり難しいことなんじゃないだろうか。


 命をかける一瞬、少しでも能力に対しての疑念があれば、致命的な失敗をするだろう。


「初見となる能力でも、それの使い方をオリジナルより知っていたらどうだ? それの活用法・引き出しをオリジナルより知っていたらどうだ?」


 ハッと顔を上げて、自分を囲んでいる本棚を見回した。十年以上だ。常に天見の傍らにあり、常に頭の大半を魔法が占めていた。そして、数万冊に及ぶ本を読み続けてきた。


「世界中のクリエイターに育てられたこの知識があれば、オリジナルの上にあぐらをかいた魔法使いに……発想力で勝てる!」


 あらゆる魔法を使いたいと色んな知識を得たことは、天見には無駄ではなかった。


「かしこさで勝つなんてとっても魔法使いっぽい! これが、俺の考える魔法と真剣に向き合う、コピー魔法使いだ!」


 その瞬間、天見は光の中に姿を消した。



 いきなり視界が激変した。本棚に囲まれていた部屋から、穏やかな空気が流れる広い草原のただ中に立っていた。


「まさか、最もコピー魔法使いに相応しい人間が異世界にいるとはね」


 背後からの声に振り返ると、ライムカラーの髪を一つにまとめた女性が微笑んで立っていた。綺麗な女性で、真正面に立っているだけで天見は少し気後れしてしまう。


「はじめまして。私は旅と放浪の神、キベリアメスティ。キミを魔法世界に召喚させてもらったわ。キミがある魔法を所持するコピー魔法使いに本当に相応しいかどうか、少し試させてもらうわね」


 これが、天見とベリメスの出会いだった。




「ねえキミ。最後に聞くけど、もし私が召喚()ばなかったらどうしてたの?」


「どうって?」


 質問の意味が分からず、天見は首を傾げる。


「だってあなたの元いた世界には魔法がなかったんでしょ? 魔法が大大大好きなのは分かったけど、魔法世界に来ることがなかったらあなたの考えたことは全くの無駄、無意味なことになったじゃない」


 キョトンとした天見は、思わず大笑いした。いきなり大爆笑され、何かトンチンカンな質問でもしたかと思ってベリメスの頬が赤くなる。


「なによ笑って! ちゃんと答えなさい!」


 天見がお腹を押さえつつ、ベリメスに掌を向けて待ったをする。ひとしきり落ち着いてから、


「だって好きなことやもの、人・競技について努力したり考えたりする時間は、本人にとってはすっごい、この上なく幸せな時間なんだよ。それが無意味になったりするわけないじゃん」


 当たり前だと、天見は涙がにじむ目をぬぐって答えた。言われて、今度はベリメスがキョトンとする。


「結果がついてくればそりゃ嬉しいさ。でも、結果がついてこなくても思い出になる。人によっては一生残る輝くほどの記憶になる。まあ、俺の場合は黒歴史になった可能性もあったけどね」


 コピー魔法について真剣に考え、美学まで考えてノートに記す。三十歳になった時の自分がそのノートを発見して、悶死しないか心配ではあった。


 天見は照れた顔で頬を指でかき、


「俺は楽しかったさ。魔法について真剣に考えて、空想の翼を羽ばたかせていた時が。たとえ魔法世界に来て実践できなかったとしても、別に構わなかった。それに、魔法の無い世界に生まれたことが、魔法について努力しなくていい理由には、ならないだろ?」


 ベリメスは天見の言っていることを全て理解できなかった。長い時間を生きている自分は、天見のように一つのことに熱中・没頭したことはない。いや、ないことはないが、濃さや深さ……単純にかけることができる情熱のエネルギーが違った。


 自分は天見のように、あれほどの顔で何かを語ることができるのだろうか?


(それは分からないけど……)


 ベリメスは小さくなった手を差し出す。


「天見、これからよろしくね」


 水鏡天見のことは、とても気に入った。


「よろしく、ベリメス」


 妖精となったベリメスと、天見は軽く握手を交わした。

 え~っと、天見の審査に関してはバッサリいきました。書いていて長い・いるか?・蛇足っぽいと思ったので。

 ちなみに審査の内容は問答です。天見には友達も両親もいたのにそれを捨てても構わないのか、とか。本当の魔法使いとして転生させることも可能だがどうする、とか。そんな感じの質問です。

 最後のベリメスとの会話を残したのは、天見が世界に魔法が無いと知っても、なお魔法を好きでいられる理由をハッキリさせておきたかったからです。「魔法のない世界に生まれたことが、魔法について努力しなくていい理由にはならない」。

 それでは、次回は火曜日更新ですね。天見が弱点を発表したのはなぜか? そして、ストーリーを進めるために黒装束を捕まえる作戦は? 次回は「共闘」します。はてさて、誰と誰が「共闘」するのか。

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