オリジナルVSコピー決着!!
ついにこの日がきた。オリジナルVSコピーの真剣勝負!
屋敷の庭で天見とベリメスはファイナと対峙する。その間に立って見届けるのが燕だ。
「ルールは一つです。水鏡さんが著作権法違反した瞬間、斬り捨てます」
「ルール!? それってルールか!?」
ツッコミを入れるが、燕は涼しい顔で聞き流している。まあ、ここ数日で燕の監視に慣れてきてしまった天見は、それ以上うるさく言わない。
右手首にある腕輪型のガジェットにチップを入れているファイナに、
「ファイナの方から決闘を言い出したんだ。俺がファイナの魔法を使っても構わないだろ?」
「この決闘に限り、朱雀宝門流は使うな。それなら構わない。私も『双爆輪唱』しか使わないつもりだ」
天見の方を見ずに淡々と答えた。
「なら、お互いに四発ずつ、それで片をつける」
「キミが四発も使えるとは考えない方がいいぞ」
「そっちこそコピー魔法使いにやられるショックの用意をしておいた方がいいぞ」
右拳を握りこんだファイナは、両腕を下ろして天見と視線をぶつける。
ファイナの背後から風が吹き、彼女の濃紺の髪を天見の方へと流す。
「コピー魔法使いは絶対にオリジナルに勝てない理由がある」
「俺がそれを知らないとでも」
二人の視線に力が込められ、バチッと火花が散った。
燕は片手を振り上げ、
「はじめっ!」
開始と同時に下ろした。
ベリメスは虚空から取り出した赤い本を開き、
「ナンバーツーインストール!」
天見のモノクルが赤く点滅した。
「コピースタート! 二頭一対の理に爆砕せよ! 双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」
距離がある状態でいきなり使った天見を、ファイナは嘲るように笑う。
「やはり『双爆輪唱』を分かっていないな。確かに効果時間が二十三秒あり、その間に相手に当てれば発動するが、時間が経つほど拳の〈粒子〉は空気中に消え、威力が弱くなっていく。その間近づかなければ一発無駄撃ちだ」
左手が輝いている天見が一歩近づくと、ファイナが一歩引く。最初からあるこの間合いを効果終了まで保つつもりらしい。
「コピー魔法使いの弱点はそこだ。たとえ威力まで完コピできようとも、コピーしたばかりの魔法のためそれを正しく使いこなすことができない。オリジナルには魔法と共に蓄積された経験と応用力が存在する。勝てる道理はない」
ファイナが話している間に天見は駆け出したが、彼女に向かってではなかった。庭の隅にある練習で割った木の板をまとめているものの一つを右手で拾い、放り投げた。
「そこら辺の魔法愛が足りない奴と一緒にするな! 俺は一度見た魔法を読み違えたりはしない!」
目の前に落ちてきたそれを左手で殴った瞬間、魔法が発動して爆炎と燃える木の塊がファイナへと迫る。
驚愕を無表情の奥に隠しファイナは燃える木の塊を避け、多少爆炎の熱気を感じてもギリギリを走って天見へと肉迫する。
「殴った場所で爆散する魔法じゃできないことだよな。相変わらず衝撃の方向が定まった綺麗な魔法だ!」
「起動!」
ファイナの周囲にモザイク処理された文言が現れる。
「二頭一対の理に爆砕せよ!」
ファイナはギリギリまで発言を唱えず、最大威力を発揮させるために輝きだした拳を振り上げて天見へと跳びかかる。
「双爆輪唱!」
天見は身を投げ出すように横に飛び、ファイナの拳を避けた。だが、ファイナはそのまま拳を止めずに地面へと叩きつける。
「烈!」
爆発の衝撃で散弾のように飛び散った土の塊が、天見の体を叩いた。
「オリジナルは自己負担する部分で魔法をアレンジすることもできるんだったな」
ギリギリ腕で顔を防いだ天見は、すり鉢状の爆心地にいるファイナを見た。
おそらく自分も多少は喰らったはずなのに、何一つ様子に変わりはない。
「発動してから敵に逃げられた経験ぐらいはある。今のが爆砕させるパターンだ。威力は分散されるが広範にわたる」
「そうこなくっちゃオリジナルと戦う意味がねえ! コピースタート!」
「起動」
天見の左手の指輪が渦を巻くように光を集める。
ファイナのガジェットの液晶から文言が現れる。
『二頭一対の理に爆砕せよ!』
お互いに近づき、間合いに入った瞬間、
「双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」
天見が先に発言を唱える。ファイナは顔面を狙ってくる天見の左拳を、手首の所で掴んで止めた。
天見の驚愕の顔を見ながら、
「双爆輪唱!」
光り輝く左膝を天見の腹に叩きこんだ。
「手だけだと思うな」
「カウンター」
爆発の衝撃がファイナへと返って、炎にまかれたファイナは吹っ飛ばされて地面を転がった。
「オリジナルの経験と応用力を凌駕する発想力。コピー魔法使いがオリジナルに勝つ手段だ! 言ったはずだ、知力を尽くしてオリジナルに勝つと!」
無傷でその場に立つ天見の腹の制服は、焼け焦げて肌が露出していた。
「想定内だ。右手でしか使えない魔法だったら、コピーした俺が左手で使えているのはおかしいだろ。それに接触したら発動するんだから、別に術者から触りにいかなくても発動するだろ!」
火を体から振り払ったファイナは立ち上がった。
確かに『双爆輪唱』は火属性に染まった〈粒子〉を体の一か所に集中させて、何かに接触した瞬間爆発する魔法だ。相手の攻撃を読み切ってその場所に集中させておけば、天見がやったようなカウンターも原理的には可能だ。攻撃に特化した魔法を創っていたつもりだったから、ファイナはそんなことができるとは想像もしていなかった。
焼け焦げたファイナは、一層強く天見を睨んで構える。
戦いの様子を屋敷の隅で隠れて見ている人は、ファイナのダメージを見てクスリと笑う。
「無防備なお腹に入ると思って無意識に威力を弱めたから、相殺できなかったのね」
天見は睨み合うことをせず、ファイナにダメージがあるのを見て果敢に攻めに行く。
「コピースタート!」
ファイナは動こうとしたが、左膝に痛みが走った。これでは思うように動けず、下手をすれば無様に逃げている所に攻撃を受けるかもしれない。ならば――。
「起動!」
ファイナはスタンスを広く取り、迎え撃つ姿勢を取る。
天見の魔法はコピー魔法。常に一〇〇の威力しか発揮しない。ならば、限界以上の力を発揮できれば攻め勝つはずだ。と、ファイナは考える。
赤く燃え上がる瞳で、天見から視線をそらさない。天見も視線からファイナの意図を感じ取り、真っ向から挑む。
そう簡単に限界なんて越えられるものではない。と、天見は考える。
『二頭一対の理に爆砕せよ!』
天見の左手が、ファイナの右手が輝く。
『双爆輪唱!(Ⓒファイナ=グリューテイル)』
二人の拳がぶつかり合う瞬間、間に木の板が入り込んだ。
二人の拳の光が板に収束するように吸い込まれ、一気に膨れ上がった。
地面を激しく揺らすほどの怒号と、夜の闇を蹴散らすほどの光と炎が天へと上がった。まるで小さいながらも太陽が地上で生まれたかのようだった。
今、意図せずに発動されたのが、
「これが、私の魔法での……『連理の枝』の秘技」
拳を突き出したままのファイナは、呆けた顔をして体を震わせていた。『連理の枝』にこだわっていたファイナ。初めて目にした自分の秘技。その興奮と感動は推し量れるものではないのだろう。
しかし、今は勝負の最中。
「双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」
「しまっ――」
ファイナが気づいた時には天見の接近を許しており、腹に拳が深く入り、発動した。
「勝負ありぃ!」
高々と燕の声が響いた。
結果を見終わったリコリスは、そばに木の板がある隅から屋敷に戻っていった。
仰向けに倒れているファイナは、信じられないという顔で星空を見ていた。
「私が……オリジナルがコピーに、負けた」
そのまま感傷に浸りそうだったが、
「あっつ! いった! くぅ!」
やけにうるさくのたうち回る声と音で台無しにされた。
制服が破けて露出しているお腹を押さえ、痛みに顔をしかめつつファイナが起き上がると、天見は地面に正座をして額を地面にこすり付け、両手を掲げてわななかせていた。
「ほら天見動かない! 治せないでしょ!」
と、ベリメスが小さな手で天見の腕に触る。すると、天見の腕から徐々に光が体を包んでいき、苦悶の声が小さくなっていった。
ファイナは左足を引きずって天見に近づき、傍らに座る。
「…………不可解だ。なぜ直撃を受けた私よりも、余波程度しか喰らっていない水鏡の方が痛がっているのだ」
回復魔法を覗きこんでいる燕も、不思議そうに頷いている。
ベリメスは難しそうな顔をして一言。
「天見がコピー魔法使いだからよ」
「だから、だ。水鏡は全ての魔法をコピーできると聞いた。ならば、水鏡は全ての魔法の属性と〈粒子〉を持ち、耐性を持っているはずだろう」
ベリメスはどう誤魔化そうと考えたが、それを遮るように天見が手を振って体を起こす。
「…………これが俺の弱点だ。魔法使いには魔法耐性がある。だけど、コピー魔法使いの俺には魔法耐性がない」
「は?」
ファイナと燕は意味が分からないと怪訝な表情をする。
ベリメスはもう仕方ないと、額に手をやって投げやり気味に、
「だから、最初から言っているでしょ。天見はコピー魔法使いなの!」
「だから、知っていると言っているだろ」
天見とベリメスは長いため息をついた。全然分かっていない。
「おまえら全員勘違いしている。正確に言うと俺は『コピー魔法』使い、じゃない」
「…………何だって?」
変な所で区切られたセリフのニュアンスに、ファイナは眉根を寄せた。
「俺は『コピー』魔法使い、なんだ」
「はいぃ?」
燕もよく分からず、顎に指を当てて小首を傾げる。
「つまり、俺は本来魔法使いでも何でもないんだ! 無理やり魔法使いになっている、魔法使いのコピーなの! 魔法使いを模倣した者! 『コピー』魔法使いなんだ!」
『はあぁ!?』
素っ頓狂な二人の声が、夜空の下に響いた。
転生させてその世界の住人にしたくなかった一番の理由。それは、天見を真の『コピー』魔法使いにしたかったから! 天見自身が魔法使いで、『コピー魔法』使いではダメなんです。それではいつか、彼自身の能力が開花してしまうかもしれませんから。まあ、私のこだわりです。
う~ん、次回はどうしようかな~。一応幕間として、天見が学園に来る前の話を用意してあります。ただ、天見の情熱を書こうとするとやたらに長くなる。コンパクトにしたら、ちょっと感情移入が弱くなる。う~ん。
本編の続きをやるか、あっさりとした幕間をやるか……とりあえず、次回更新は金曜日予定です。




