創生の魔法、原初の光輪
著作権法について……作品の中では燕をインセンティブ論代表、シャロンを自然論代表にしています。意義や考え方は色々ありますが、私が分かりやすいなと思ったものを参考にさせてもらっています。プロローグで短く簡単に書きましたが、「あなたがあなた自身の知恵と能力を用い、苦労して作り出したものは当然あなたのものである。それを他人が勝手に利用することは、道理に反した行為だ」が自然論。「魔法使いの権利を尊重し、魔法使いの創作意欲・創作物が生み出す利益を守る」がインセンティブ論です。
気になった人は少し調べてみてもいいかもしれません。私も調べてみて、「なるほどな~」と思いました。
即日裁きが下された天見は、学園に隣接する教会に向かっていた。
「奉仕活動+懺悔」
淡々とついてくるファイナ。だが、天見にぶつけてくるセリフと同様に、視線も刺々しいものだ。
背中にチクチクとしたものを感じながら、痛む首を押さえつつ天見は何も言えずに先頭を進んでいる。
「まったく、水鏡さんにも困ったものですね~」
やれやれとついてくる燕のおかげで、天見の裁きはあの程度なのだ。パートナーでもない第三者の彼女が、天見は覗き目的ではなかったと証言した。ずっと尾行していたので、証言に説得力があったのだ。
「一体何をやっていたのだ?」
「……探し物」
リコリスが天見に事情を問いただした時も、そう答えて何を探しているかは絶対に言わなかった。ファイナはそうまで頑なな天見にイライラするが、踏み入っていいことなのか判断がつかず、吐き出すこともできずに内に溜める。
「やはり物足りないとは、そういうことなのだろうか」
ファイナはボソッと呟いて自分の胸に手を置く。心音がすぐ分かる。苛立っているためか若干平時より早い。そして隣を歩く燕の胸をチラッと見て、人知れず凹む。
そんなやり取りをしつつ教会につき、天見は緊張した面持ちでドアを開ける。
中に入って最初に目を引くのは、奥にあるステンドグラスだ。太陽の光を反射して光る様子は、静かで厳粛な空間と相まってとても神秘的に映る。
天見はシスターに案内され、一人懺悔室に入り、しばらくして打ちのめされた顔で出てきた。
「厳しいことでも言われたか?」
「いや……微妙に思春期の男子を理解しての説教だったのが恥ずかしかった」
天見は両手で真っ赤な顔を隠した。
「まったく、あなたは本当に悪魔ですね」
後ろからの不機嫌な声に振り返ると、胸元で大きめのロザリオを揺らすシスター服姿のシャロンが立っていた。
「本来なら許されざる行為ですが転入してきたばかりですし、何か探していたのだと聞きました。寛大な心で許します。ちょうど人手も欲しかったことですし」
「人手?」
「今日〈核魔獣〉が出たことで、明日は大丈夫だろうと判断されました」
午後の授業中に警報が鳴ったが、その時天見達は教室で授業を受けていて、〈核魔獣〉の対応に向かうことはなかった。その場にいるならともかく、基本的に討伐や救援に行くのは三年生の仕事らしい。
「明日の休みに学園に来て、子ども達の遊び相手をしてください」
天見はすごい嫌な予感を覚えたが、断れずに弱々しくコクリと頷いた。
案の定と言うか、天見の予感は的中した。
教会の外で、天見は元気が尽きない子ども達に振り回されていた。
小柄な体格通りあまり体力がない天見は、かくれんぼ、鬼ごっことこなし、ボール投げの時には息も絶え絶えだった。
「大変そうですね~」
「まったく、こんなことをしている暇があるなら午前中に行われる『連理の枝』の授業に出るべきだ」
「あ、当たった」
燕と文句を言いながらもファイナ、ベリメスは離れた場所で見守っている。足がもつれて避けきれなかった天見の背中に、思いっきりボールがぶつかった所だ。
「楽をしようとコピー魔法に逃げるから体力がないのです。純真な子ども達と遊べば、彼の堕落した心も洗われるでしょう」
天見にボール投げを任せ、鬼ごっこを終えたシャロンが三人の所に来る。少し息を切らしていたが、足取りは確かだ。
「何か叫んでますよ~」
「俺にも炎の魔球を使わせろ? 子ども相手に何を言ってるのよ、天見は」
いつの間にか子ども対天見の構図となり、いくつものボールが飛び交い、天見は火の球だけでなく、風で速度が上がった球や直視できないぐらい眩しい球をぶつけられていた。
と、ボール投げの輪から、女の子がトコトコとやってきてファイナを見上げ、
「ねえ、何でお兄ちゃんはスカートをはいているのかみんなが聞いて来いって」
純真な質問に、思わず他の三人は噴き出した。
子ども達が勘違いをした要因は二つ。女性にしては背が高いことと……胸がないこと。
「…………水鏡、私もボール投げに参加しよう」
何かが背後から湧き上がっているファイナを、シャロンは必死に止めた。
ボール投げを終えて、座り込んでグッタリの天見の元にベリメスは飛んでいく。
「し、しんどい」
しかし、子ども達の体力は無尽蔵なのか、元気にシャロンへと駆け寄っていく。
「ねえシャロンお姉ちゃん。あの魔法使ってよ」
子ども達にせがまれて、シャロンは胸元のロザリオ型のガジェットにチップを入れる。
「雨上がり、晴れ渡る青空に映える白。天空に浮かぶ雲に、自由に飛び立つ鳥の姿」
モザイク処理された文言が浮かぶ中、シャロンは掌を空に向ける。
「平和の象徴」
現れた複数の白い鳥はそれぞれシャロンから飛び立ち、子ども達の周りを飛び回る。シャロンは細やかに手を動かしながら、鳥を追いかける子ども達を見ている。
その様子を見ている天見は、子ども達以上に目をキラキラと輝かせ、
「スゴイ魔法だ!」
興奮する天見に、ファイナはちょっとムッとする。
「何を言っている水鏡、こんな弱く子どもをあやすことぐらいにしか使えない魔法のどこがスゴイ」
シャロンの魔法は誤って子どもに当たっても怪我がないよう、威力が極力抑えられている。強さ重視のファイナは鼻にもかけないが、天見は違う。
「スゴイだろこのディティール! 翼どころか羽の一枚一枚まで魔法で再現し、フォルムも正確だ。参考にした鳥類がいるはずだ! しかも自在に動かせる操作性と子ども達に捕まらないように動く機動性! 凄すぎる! 極めつけは、見ろ!」
天見が指差す方を見ると、シャロンの背後で少年が鳥を捕まえようとジャンプしたが、鳥は華麗にその手から逃れた。
「見たか、今の!? 操る魔法なのに、目で見ずしてあんな動きができるっていうことは鳥の視覚と自分の視覚が連結している可能性があるんだぞ! なんて繊細な魔法だ」
「ほぇ~、べた褒めですね~」
天見の魔法の理解力が高いのは分かっている。だが、オリジナルの魔法とはその人を体現したものでもある。だから……何か、面白くない。ファイナはムッとして腕組みをする。
天見の肩で足をブラブラさせ、微笑ましい光景に緩んでいたベリメスの顔に緊張が走った。
「子ども達を避難させなさい!」
そうシャロン達に言い放って、天見と共に光に包まれて姿を消した。
いきなり姿が見えなくなり、言われた言葉の意味も分からず「え?」と思っていた直後、隣の校舎から甲高い警報音が鳴り響いた。
「〈核魔獣〉~!?」
「昨日の今日だぞ」
だが、実際に警報は鳴り続いている。
「みんな! 私と一緒に来なさい!」
シャロンは驚く子ども達を引きつれ、教会内に入っていく。
「どこに出るんだ? 早く向かわねば」
「も~! ホントにこの頃出過ぎですぅ~!」
教会と学園に明確な仕切りはない。ファイナと燕は走ってグラウンドに出るが、見上げても〈核〉となる球体は見えない。
その時放送が流れ、
『〈核魔獣〉は教会の後ろ、林に出る! 急いで迎え!』
手荒だが端的で分かりやすく、余裕がないことも教えてくれた。
近くにいるファイナと燕は、すぐさま後ろに広がる林の中に入っていく。どこに出るかは分からないが、外から見て球体が確認できなかったことから、低い位置にあるか中心に近い場所にあるかだと思い、とりあえず中心に向かっている。
(どうせボディを構成したら探さなくても大きくて分かる)
そう考えていたまさにその時、クリアなレッドの三角錐のボディが進行方向に現れた。
向かいながらファイナは舌打ちした。ボディがレッドということは火の〈粒子〉を多分に含んでいるということだ。自分の魔法では同属性で効果が薄い。
燕に攻撃を任せ、自分は防御に専念すべきかと考えていると、
「ナンバーワン、インストール!」
ベリメスの声が前方から聞こえてきた。
二人が木の間を抜けて開けた場所に出た時、天見のモノクルが眩しいほど光り輝いていた。
「コピースタート!」
天見の指輪が鳴動し、渦巻くように光を集める。そして、彼自身が静謐な雰囲気をまとい、歌う様に言葉を紡いでいく。
「深遠なる暗闇、停滞する暗黒、そこに始まりと標を与えよう。
目を開けよ、ここから新たに始めるがいい。
今日という一日目を、我は祝福する」
聞こえてくる文言は、ファイナも燕も知っている有名な聖典の詩だ。
「創生の詩」
ポツリと呟いたその時、〈核魔獣〉の核が鈍く光り出した。それは攻撃の合図だが、天見の動きに目を奪われ、ファイナと燕は逃げるどころか、防ごうとする素振りすら見せなかった。
核から熱線が放たれた瞬間、天見の目が見開かれ、掌を前に突き出す。
「光あれ! 原初の光輪!」
放った瞬間に溢れた光は熱線も〈核魔獣〉も呑み込んだ。〈核魔獣〉の姿は跡形もなく、空に消えていった光は遠くの雲も消し飛ばした。
天見が使った魔法の衝撃は凄まじく、地面を激しく揺らし、余波程度でグラウンドに面する校舎の窓のほとんどが割れたかヒビが入った。
ファイナと燕は、腰をストンと落として地面にお尻をついた。
あのファイナでさえ、呆けた様子で背中を向けている天見とベリメスをただ見ていた。
「お疲れ様。使ってみてどうだった?」
「う~ん、やっぱり思っていた以上に使い勝手が悪いかな。欠点が強すぎるって所ぐらいしかないっていうのもな~。俺も人間だから全ての魔法を愛せないのは仕方ないけど……ホントに見た時からこれはあんまり好みじゃないわ~」
気まずそうに指で頬をかいての答えに、ベリメスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔して、
「そういう天見だから、あの魔法を持つ資格があるのよ」
どういう会話だと思いつつ、まだ動き出せないでいるファイナの隣を、燕が小走りで駆けて行った。
「水鏡さん!」
「え? 二人ともいたの!?」
驚く天見とベリメスをよそに、燕はプンスカと怒って、
「今水鏡さんが使った魔法は神話の時代以降、研究をした者はいても使ったことがないと言われている創世に関する七つの魔法――創世の魔法ですよ! しかも『原初の光輪』は大神が最初に使った魔法とされている特別なものです。つまり!」
ズンズンと指を突き付けて天見を追い詰めていき、ついに彼の背中が木に当たった。
「著作権法に登録されてない魔法ですぅ!」
『……………………はい?』
天見とベリメスは一瞬何を言われたのかが分からず、小首を傾げる。
「違反にならない魔法を持っているのに、何で著作権法違反するんですかぁ~!」
思わず、他の三人はガクッと肩すかしをくらった。
「あんな強力な魔法をポンポン使えるかぁ! っていうか、燕が気にする所はそこだけなのか!? 何か気にした俺がバカみたいじゃないか!」
「想像以上の子ね、この子」
燕のピントが外れたセリフのおかげで我に返ったファイナはその場に立ち上がって、
「コピー魔法使いである水鏡が、大神の魔法を使ったのだぞ。気にするのは本当に水鏡が悪魔……コーピストレスなのかどうかということだろ」
彼女がちゃんと正しいことを言ってくれて、天見とベリメスはうんうんと頷く。
「え? でも、私にとって著作権法違反以上の悪はありませんよ~。水鏡さんが悪魔であろうが著作権法を犯さないなら別にいいですし、人間であっても著作権法を犯すのであれば許せません」
そう言い切る燕。彼女の中にある確固たる基準に、ファイナは二の句が告げないほど驚いた。
その時、遠くの方から林に踏み入ってくる人の声が聞こえてきた。
「天見、早くここから離れましょ。さっきの魔法について聞かれたら面倒だわ」
ベリメスはチラッとファイナに視線をやる。
「天見がさっきの魔法を使ったことは誰にも言わないでよ。それじゃ、さようなら」
最後の言葉にファイナは氷よりも冷たい何かで心臓を鷲掴まれ、一瞬息をつまらせた。彼女の目の前で天見とベリメス、それに燕が声とは逆方向に走り出し、
「ファイナ!?」
考える前に体が動いていたファイナは、気づいた時には三人を追い抜いて先行していた。
「――!? …………ひとまず、リコリンの家に戻るぞ」
四人がいなくなった場所に、木の影に潜んでいた人が現れた。
その人は怒りに任せて木に拳を叩きこんだ。そして、近づいてくる人の気配を感じて身を翻す。
その人も関係の無い者に、ここで見たことを話そうとは思わなかった。
悪魔を倒すのは、自分に課せられた聖なる使命なのだから。
その人の胸元で、大きなロザリオが揺れた。
大神の魔法を所持するコピー魔法使い水鏡天見。彼は本当に悪魔コーピストレスと関係があるのか? と、いうわけで、次回は説明回です。天見とベリメスがファイナと燕に自分達の目的を説明して……。
次回更新は火曜日ですね。もう少しでコピー魔法使い水鏡天見の正体が明かされます。そして、オリジナルVSコピー戦……コピー魔法使いの話で、これには決着をつけないと。




