燕の実力VS劣化コピー魔法
天見が転入して四日目、相変わらず奇異の視線を集めて登校しているが、今日はその視線がちょっと上向き――天見とファイナ、燕の頭のたんこぶに向けられている。
「燕、おはようございます。って、その頭どうしたんですか?」
呼びかけに燕が顔を向けると、そこにシスター服姿のシャロンが立っていた。
「あ、シャロン先輩おはよ~ございま~す。気にしないでください~」
シャロンは少し首を傾げながら、訝しげに「はぁ」と生返事をした。
「今日は朝から教会なの?」
気をきかせて、ベリメスが話題を変えてくれた。
「はい。明日に予定していたイベントをどうするか、という話し合いがありまして」
「イベントって何ですぅ?」
シャロンは残念そうに頬に手をあて、
「子ども達が遊びに来るはずでしたが、いつ〈核魔獣〉が出るか分からないから延期にしようかと……子ども達は楽しみにしているようなのでできれば行いたいのですが」
「〈核魔獣〉がいつ出るのかって、大気〈粒子〉濃度で分かるんじゃないのか?」
天見が教科書で見た記述によると、大気中の〈粒子〉濃度を測定する機械があり、それで〈核魔獣〉の出現を察知できる。それを使って学園では〈核魔獣〉が出る時に警報が鳴る。
これはもしかして捜索に使えるんじゃないかと天見はベリメスに聞いたが、そんなものより私の方が〈粒子〉の集まりに敏感だから必要ないと断言された。
「普段ならばそうなのだが、最近は常に警報値と警戒値を行き来していて不安定なのだ。〈核魔獣〉を倒しても安全値まで下がらないなんて初めてだ。学園の玄関に濃度計があるから確認してみるといい」
ファイナからの話を聞いて、天見は深刻な顔で口元に手をやる。
「そのせいで町中のどこに出るかも分からなくて~、都警も困っているらしいですよ~」
「都警の代わりに何度か『神の使徒』を名乗る集団が〈核魔獣〉を倒しているらしいが、あれもどうなのだろうな。暴れ回るように倒すから逆に仕事が増えているという話もある」
「それより」
シャロンは話を切って、厳しい視線をファイナにやる。
「『連理の枝』になってもいない異性と一緒の部屋に住むなんてはしたない。あなたには淑女としての慎みがないのですか? それにコピー魔法使いをパートナーにするなんて不毛です。彼は他人の魔法をコピーするだけで、自身を成長させることはありません。そんな怠惰な相手をパートナーにしていては、あなたもいずれ堕落してしまいますよ」
天見に説教は効果が薄いと思ったのか、今日は対象をファイナに変えてきた。
ファイナはスゥーッと細めた冷ややかな視線をシャロンに送り、
「不可解なことを言う。水鏡は私の『連理の枝』に内定している。私達のことをあなたにとやかく言われる筋合いはない」
「おい、いつの間に内定まで話が進んでいるんだよ」
見上げてくる天見から、ファイナは視線をそらす。
「……外堀から埋めていこうかと」
「自分の手腕を見せるってそういう所なの?」
ベリメスのツッコミに、ファイナは明後日の方を向いて「魅力が通じないから」とボソッと呟いた。
「あなた達の『連理の枝』を快く思わない人はたくさんいます。自分の行動を省みることですね」
言いたいことだけ言って、シャロンは教会の方へと戻っていった。
実技の授業でグラウンドに立っている天見は晴れやかな顔でストレッチをしている。
「なあ、この授業中に魔法を使うことになったらファイナの魔法を使ってもいいか?」
すぐさま燕がジト~っとした目で睨んできたが、天見に悪びれた様子はない。
「何だかんだ言いつつ、やはり使うとなると強力な私の魔法を使いたいのだな」
「っていうか、他に許可をくれそうな子なんていないでしょ」
聞くまでもないと、ベリメスは周囲に視線をやる。
四人がいる場所は四日前にファイナが一人で的当てをしていたグラウンドの端も端だった。天見を警戒し、あからさまに距離を取られていた。
「動機は何であれ使いたいと頼み込まれたのなら協力するのもやぶさかではない。それにやはり私の魔法の魅力を知るためには、使った方がいいだろう」
そう端的に許可を出すが、ファイナの右つま先は地面に立ってグリグリと円を描いている。照れているのか嬉しがっているのか。
「よし、言質は取った! それじゃ早速ベリメス!」
せっつかれて、ベリメスは虚空から赤い表紙の本を出した。
「はいはい。ナンバーシックスインストール」
「赤き尾を残し、星――」
「待て」
慌ててファイナが止めた。なぜ止める? と疑問顔の天見に、
「私は朱雀宝門流の免許皆伝であって、のれん分けされているわけではない。使用権はあっても教授権はない」
説明されても、天見の頭上のクエスチョンマークは消えない。
「つまり?」
「あのまま水鏡さんが使っていたら、勝手に魔法を教えたとして、ファイナさんが朱雀宝門流に怒られる所だったんですぅ~」
ガクッと膝から力が抜けた天見は、うずくまって膝に顔をうずめる。
「…………あ~……なんかまるで砂漠を遭難してやっとオアシスを見つけたのに見張りがいて水にダイブできず、スポイトで喉を潤しているようなもどかしさ」
「的確な表現ね」
ベリメスが同情するように頷く。
その時、何やらグラウンドの中央がざわついているのに気づいた。
「なんか向こうが騒がしいですね~」
「血気盛んな連中がケンカでもしているのだろ。珍しいことでもない」
ファイナの言葉を聞いた瞬間、天見は「魔法使いのケンカ!?」と走り出していた。
四人がクラスメイトの囲みを抜けて最前に顔を出すと、天見が期待するようなことにはなってなかった。
「これは遊びだよ。いつも君達が言っていることじゃないか」
「ひ、ひぃぃぃぃ! わ、悪かった! 助けてくれぇ!」
泣き叫ぶ男子生徒の腹に黒い球体がのしかかり、彼を地面に沈めていく。彼は何とか球体をどけようと掴むが、少しも動くことがなく圧されて気絶した。白目をむき、舌をダランとさせている顔面をわざわざ踏み潰し、黒い球体を杖の先でもてあそんでいる男子学生は残っている二人に歪んだ笑みを向ける。
「やめ、ヤメテくれ! 許してくれよ~!」
腰でも抜けているのか、立ってもいられないその二人は、泣いて許しを求めている。
「許してくれって意味が分からないな。強ければ何をしてもいいんじゃなかったっけ!」
恐れおののいている二人はガタイが良く、制服をだらしなく着崩して一見して素行がよろしくないと見当がつく。彼らを圧倒している杖を持つ男子は校則通りにキッチリと制服を着て、これといった特徴がないさえない人だった。
一方的な暴力だが、襲われている方にも何か非がありそうな感じがする。
「おい、先生は?」
「さっき気分が悪くなった生徒を保健室に連れて行ったわよ」
タイミング悪く、止めに入る人もいないようだ。
期待とは違った展開に天見は厳めしい顔で、見ていて気持ちのいいものでもないと反転した。
が、その腕を燕が掴んで引き留めた。
「ちょっと待ってください。あの魔法……もしかして……」
燕の真剣な横顔を始めて見るかもと、天見は軽く驚いた。
周囲から痛々しそうに息を呑む音が聞こえ、天見は体を前に戻した。
そこではさらに一人が倒れ伏し、残った一人も腰が抜けて動けないようで、地面を惨めに後ずさっている。杖の男子がトドメを刺そうと杖を振りかざし、
「起動!」
言葉に反応してモザイク処理された文言が出現し、杖の先にあるはめ込まれた白い小さな石が、光る粒子を渦巻くように集める。
「アックサネイト、ブリューテッサ、グローダーク。終焉なる闇の真球よ、愚かなる敵を這いつくばらせよ!」
文言を発した時、天見の隣にいた燕が飛び出し、柄にチップを入れる。
「真なる闇の球体!」
「闇夜を照らす月、姿を変える月は水面に映る――明暗月夜流刀剣術、水月!」
水を宿した刀が黒い球体を真っ二つに両断した。
勢いよく飛び出した燕は地面を靴で削りながら着地し、刀の切っ先を杖の彼に向ける。
「あなたが使っている魔法はプロ魔法使いの『常闇の奥にひそみし者』の魔法に酷似していますぅ。著作権委員として使用しているチップをあらためさせてもらいま~す!」
燕が言っている間に、残った一人は四つん這いで逃げ出した。
邪魔をした燕に、杖の彼は血走った凄惨な視線を送る。
「うるさいな~。遊びの時に憧れの人の魔法をマネするなんてよくあることだろ。リスペクトだよ、リスペクト!」
「マネとは思えないクオリティーに見えますけどね~。魔法のコンテンツである文言、発言、魔法の形状と効果、以上四点が類似しています。話を聞かせてもらいますよ~」
「この魔法を使う僕に勝てるとでも思っているのか! 今度は本気だぞ!」
再び彼は杖を振りかざし、文言を唱える。
「明暗月夜流刀剣術、水月・三日月の型!」
燕が横薙ぎに刀を振るうと、水の刃が刀から放たれた。杖の彼は文言を途中でやめて、身を伏せてギリギリで避けた。
「チップを変えず、文言も使わずに別の魔法を出したぞ!?」
天見は燕を指さしながら、驚いて隣のファイナに解説を求めた。
「チップに入っている魔法のデータは五~七割だ。自己負担している所でアレンジをすれば応用の魔法は使える。おそらく聖籠のあの魔法は、刀を水で覆う状態は待機段階なのだろう。アレンジをすることであの状態から別の魔法が使えるんだ」
燕の刀を注視するとまだ水で覆われている。一発こっきりというわけではないようだ。
「ちくしょう! あの魔法さえ、あの魔法さえ使えば、僕は誰にも負けないんだぁ!」
杖の彼は喚き、意固地になってさっきと同じく杖を振りかざす。
「え?」
「水鏡も気づいたか」
「そりゃ気づくでしょ。何よあの子、失敗したやり方を工夫もなく繰り返しているわよ。隙だらけじゃない。使い慣れていないにも程があるわよ」
それだと燕の魔法を今度は避けられそうにないが、何故か燕は彼が魔法を使うのを待っていた。
「真なる闇の球体!」
杖の先から放たれた黒い球体。燕は右足を引いて半身になり、切っ先をそれに向けて柄を両手で持つ。
「明暗月夜流刀剣術、水月・満月の型!」
刀を覆っていた水全てを使って放った水球が黒い球体にぶつかり、空中でせめぎ合った後に二つとも消滅した。
「バカな! ぼ、僕の、僕の魔法が」
「かなり『常闇の奥にひそみし者』の魔法に類似していますけど、やっぱりこれはチップ分の魔法でしかない、劣化コピーです!」
燕はショックを隠し切れない相手に一足飛びで迫り、みね打ちで昏倒させた。
天見は燕に頼まれて杖の彼を担ぐのを手伝った。するとファイナも黙ってついてきて、四人は保健室にきた。
杖の彼をベッドに寝かし、保険医の綾乃は疑いのあるチップを球状の装置に差し入れ、椅子に座って半円状のズラッとキーが並んだキーボードを操作し始めた。すると、球状の装置に繋がっているクリスタルが発光し、表面にズラッとした文字や模様を浮かばせた。
「あの装置って何?」
「そうか、チップもガジェットも使わない水鏡は知らないかもしれないな。あれはチップに文言を入力したり、刻紋を刻んだりする機械だ。学園にも寮の一階にもあったのだが……男子と女子の方にはあるが『双葉』の一階にはなかったな」
「先生のは特別で~、チップの情報も確認できるんですよ~。文言を閲覧したり、入力した日や更新した日とか~……後は、著作権法に登録されている他の魔法と比較したり、同じ文言の場所をマーカーしたり」
『へ~』
天見とベリメスは興味深げに、綾乃の後ろから様子を覗きこんでいる。そして、クリスタルを見ていた綾乃は手を止め、いつもの微笑みを消して難しい顔で振り返った。
「やっぱり、これは魔法のデータが入ったチップに刻紋が刻まれたものだわ。データ入力されてから刻紋を刻むまで間が空きすぎている」
ポカンとする天見とベリメス、何が深刻なのか分かっていない。
「オリジナルの創作を始める場合は、何も入っていないチップを用意し、それに刻紋を刻んでからデータを入れていくのだ。だが、売られている魔法の場合は逆で、データが入ったチップが売られていて、そのチップに刻紋を刻んで使えるようにする」
ファイナが淡々と説明してくれて、二人は会話に入れる。
「なら、あの子はどこかでそのチップを買ったわけ? じゃ別にいいんじゃないの?」
ベリメスの言葉に、綾乃は首を横に振る。
「ところが『常闇の奥にひそみし者』の魔法は売りに出されていないわ。これは企業どころか著作者本人も通さずにコピーした違法チップね。中々上手くできているけど、コピーできているのは四割ほどね。後は似たような魔法を参考に推測で作られているわ」
「私はそこら辺を見極めて、私の魔法でも相殺できると判断したんですよ~、えっへん」
「これがこの世界の一般的なコピー……か」
得意気になっている燕の横で、天見は球状の装置に刺さっているチップを見つめる。
やりきれない想いから、天見は拳を握った。
この魔法の本来の実力はこんなものではない。四割しかないからだとか、そんな問題ではない。使い手が全然この魔法を理解していなかったのだ。
名刀を持っているのに鞘から抜かず、鞘の方を持って殴りかかっていたようなものだ。
(憧れている人の魔法? その人の何を見ていたと言うんだ。あんな強さだけを振り回すようなやり方、全然愛を感じられない!)
ポンポンっと頭を叩かれた。顔の前に下りてきたベリメスが、シワの寄っていた天見の眉間をグリグリと撫でくり回し、恥ずかしそうに天見は眉間を手で押さえる。
「著作者が企業と提携して売りに出すのが合法のチップだ。しかし、プロの魔法だとあまりに〈粒子〉量が必要で買っても使えないことが多く、趣味や記念に買う人ぐらいであまり売れない。だから、魔法を売りに出して一発当てることは、宝くじを当てるようなものだ。気軽に使える〈粒子〉量で、自己負担する部分を説明書で簡単に理解できる、買ってでも使いたい魔法なんてそうはない」
「数十年前に魔法はもう全部出尽くしたっていう人もいるぐらいですからね~」
クリエイターの生みの苦しみはどこの世界も一緒なんだなぁ~と、天見はしみじみと感じた。
「でも杜若先生? あの人が『常闇にひそみし者』の魔法を使えるほどの〈粒子〉量を持っているとは思えないんですけどぉ~」
燕がベッドに寝る杖の男子を指さし、みんなの視線がそっちに向かう。そう言われて、天見は初日のファイナを思い出す。〈粒子〉量が不足するとガジェットが反応しなくなる。話しぶりからして、プロの魔法の〈粒子〉量は相当なもののようだ。学生が何発も使えるものではないだろう。
「あなた達はもう戻りなさい。次の授業もあるでしょ」
綾乃に言われて時計を見上げる。もうほとんど授業の時間が残っていない。
実技の授業にどれだけ縁がないのかと、天見はガックリして出て行った。
三人がいなくなった保健室で、綾乃は違法チップを機械から引き抜いた。
「このチップはおそらくこの前捕まった著作権法違反の犯行グループが所持していたもの……そのチップはまだ全て回収されていない……あの子は買ったの? それとも」
放課後の神に捧げる祈りが終わった瞬間に、天見は「こういうの何か性に合わないな」と言いつつ、カバンを持って教室を後にしようとしていた。
「みかが――」
「シィ~ですぅ」
天見に話しかけようとしたファイナの口を燕が塞ぐ。その間に、天見はベリメスと一緒に教室を出た。
「何をする」
手を引きはがして、ファイナは睨みつける。が、燕は鈍くその視線に気づかず、教室のドアから天見の背中を見つつ、
「グリューテイルさんの方こそ何をするつもりだったんですかぁ?」
「今日こそ放課後にある『連理の枝』の授業見学に誘ってやろうと思ったのだ」
「そんなの行くわけないじゃないですかぁ。いつも放課後は忙しそうにどこかに行くんですよ~」
「そうかもしれないが、聞いてみないと分からないだろ」
「そんな儚い希望は胸の成長だけで十分ですよ~。それよりも内緒で後をつけましょう」
ファイナの怒りを押し止めたのは、続いた言葉が気になったからだ。もしその言葉がなかったら、教室を戦場にしただろう。
「今日は撒かれないように隠れて尾行するんですよぉ。水鏡さんが何をやっているか……著作権法をホントに守っているか気になりませんか?」
「気には……なる」
「何をやっているか」が。
「それじゃ静かに行きましょう」
口元で人差し指を一本立て、ファイナと燕はこっそりと天見の後を追った。
廊下の柱の影から二人は天見とベリメスの様子を窺う――周囲をキョロキョロとしていた。
「周囲に人がいないか確認していますねぇ~。怪しいですぅ。コピーした誰かの魔法を人知れず使うため、人気のない場所を探しているのでは」
「まさか」
そう答えつつ、ファイナはもしかしてと思う。天見の魔法に対する『執着』『執念』すら生ぬるい表現のように聞こえる想い……。
「……たとえそうだとしても、あそこなら別に人目につくわけでもないし、営利目的でも戦闘に使うわけでもない。問題は無いだろう」
「何を言っているんですか。日々の教育が大事なんですぅ~」
と、天見は廊下にある蓋を開けて、すぐ蓋を閉めてそそくさと場所を移動する。
「あ、行きました」
天見がいなくなったので、二人は天見が開けた蓋の所に来る。
「これは……配管点検するための蓋」
「もしかして、配管点検のバイトでもしているんでしょうか?」
「そんなわけないだろ」
念のため蓋を開けて中を確認する。天見が蓋を開けていたのは一瞬で、できるとしたら何かを入れるぐらいだが、変なものは入っていない。
あまりここにいると天見を見失うので、二人は気になりつつも彼を追いかけた。
それからも尾行を続けているのだが、
「不可解だ。一階にある蓋という蓋を開けて確認し回っているぞ」
「使われてなさそうな部屋も確認してますねぇ。誰かのチップを盗ってコピーするんじゃないかと心配していましたけどそうじゃないみたいだし……もしかして、放課後にイチャイチャしている人達でも見つけようとしているのでしょうか?」
くだらないことを言いだす燕に、ファイナはうろんげな目を向ける。
「神聖な学び舎でそのようなことをしている者などいない」
「え~、いますよぉ。著作権委員の先輩から聞いたことがあるんですけどぉ、誰にも見つからない秘密ポイントっていう有名な噂の場所が」
「有名な時点で見つかるし秘密でも何でもない」
ファイナは口早に燕の言葉を否定した。
「あ、次はあの部屋みたいですね。確かにあの部屋には蓋がありますからね~。私もよく使うので覚えていますぅ」
燕に気を取られていたファイナは、天見に意識を戻した。だがすでに彼の姿は見えず、キョロキョロとする。
ファイナが天見を見失ったことに気づいて、燕が指差して入った部屋を教えてくれる。そして、瞬時にファイナは飛び出す。
「あ、グリューテイルさん。見つかっちゃいますよ~」
という燕の注意も聞かず、ファイナはドアを開けた。信じられなかったことに、本当に天見はその部屋にいた。
蓋を閉め終わった天見は、荒々しく開いたドアに驚いた顔を向ける。
「何をやっている、水鏡」
「ファイナ!?」
いきなり入ってきたファイナの射殺しそうなほど鋭い視線に戦慄を感じ、天見は汗を流しながら身構えた。
「ここは女子更衣室だ」
『へ?』
天見とベリメスはキョトンとした顔で、同じ声を出す。
そう意識してみると、室内にこもる空気も何やら甘い感じがした。今まで男子更衣室しか入ったことのない天見には、未体験ゾーンだった。
と、ガチャとドアの開く音に首を巡らせると、バスタオルを体に巻いた、水で艶光る金髪ショートのシャロンと目が合った。彼女はシスター服に身を包む前に、身を清めていたのだ。
大きな目をパチクリとさせるシャロン。着やせするタイプなのか、制服姿では分からなかった大きめな胸。そして、バスタオルから伸びる四肢は日に焼かれておらず白く、水を弾いて球の雫が流れ落ちている。
大きな学園だけあって、更衣室に備え付けのシャワー室まであるんだ。と、天見は頭の隅っこでそんな風に考えた。
「きゃあああああああああああああああ!」
悲鳴と共に放たれた光の魔法に目を奪われた天見は顔面に喰らい、余りの眩しさにしばし視力を失った。
美少女と同室にしたはいいけど、主人公特典を何もやっていない。でもまあ、そう簡単にファイナとアクシデントを起こされたら、彼女の自発性を損なう恐れがありますから。うん、仕方ない仕方ない。決して主人公特典が苦手ということではございません。
昔やったゲームで、魔法を普通にお店で買うものがありました。その時はどうやって売っているのだろうと思いましたけど、自分なりにこうやったら売買できるのではと思った一つの答えがデータを入れたチップでした。
とにかく、次回はついに天見があのナンバーの魔法を使います。ここまで引っ張っといてなんですけど、天見とベリメスが挙動不審な行動をした時にほぼ書いたようなものですよね。
そろそろ物語を動かさなければ、次回更新は金曜日予定です。




