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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
コピー魔法使いの学園生活
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天見の信条

 シャロン=ニスレスト。二年C組著作権委員。光属性の使い手。シスター見習いで放課後や休日に学園の隣にある教会で従事している。著作権に対しては自然権論の考え方でたまに燕と衝突することがあるが、基本的には良い先輩後輩の関係を保っている。天見を悪魔呼ばわりしたことから『コーピストレス』のことを知っていると思われる。

 まんまと二人をまいた天見とベリメスは、学園の隅にある林の方を歩いていた。


「なんであの二人はああも引っ付いて来るんだ」


 天見は歩きながら伸びをして、そのまま手を後頭部にやる。そんな彼の様子を、肩に座るベリメスはクスクスと微笑ましく見ている。


「可愛いものじゃない。私はいいと思うけど」


「どうしてだよ?」


「天見が一人にならないからよ。まさかコピー魔法を使うことがこれほど人に忌避されるものだとは思っていなかったわ」


 ベリメスの言う通り、天見の嫌われっぷりはすごいものだった。見ただけで魔法をコピーするというのが広まっていて、誰もが視界に入ることすら嫌がる。


 天見も全ての人と仲良くなれるとは思っていなかったが、魔法使いに距離を置かれるとけっこうダメージが大きいはずだ。だが、そのダメージをまだ大して感じてないのはあの二人のおかげだろう。


「でも、二人に……特にファイナには話せないだろ」


「そうね。理事長の孫娘だしね」


「そこで何をしているのですか」


 声の方を振り返ると、シスター服姿のシャロンが歩み寄って来ていた。話し声が聞こえて様子を見に来た、という所だろうか。


「なにその恰好?」


 ベリメスがシャロンの服装を指さして尋ねる。彼女は今、制服ではなくシスター服を着ている。


「私は放課後に教会で従事している見習いシスターです。聖クレストエルクはミッション系ですから私のような人も少なくありません」


 シャロンが視線を向ける方を見ると、木の向こう側に屋根に十字架がある建物が見えた。


 その後でシャロンは天見の周りを見渡し、


「あなた達だけですか? 燕は?」


「まあ、ちょっと邪魔なんで」


 すると、シャロンの目が訝しげに細められた、


「――ちょっと来なさい」


 シャロンは天見の腕を取って、有無を言わせず引っ張って行く。


「いや、俺はやることが」


「いいから来なさい。時間は取らせません」


 天見を強引に引っ張って、シャロンは教会の入り口に向かった。三人が教会に近づくと、ちょうど学園の男子生徒が肩を落として出てきた。


 シャロンは天見から手を放し、見ているかもわからない男子生徒におじぎをして見送った。そして顔を上げてから、


「我が校には三つの特徴があります。一つは『連理の枝』の養成。一つはミッション系。そしてもう一つは魔法の熟練度を上げるため実技系の授業に力を入れていること」


 天見に向き直り、真剣な目でまっすぐ彼を見る。


「実技系の授業に力を入れる。そのこと自体は良いことだと思います。〈粒子〉量は増え、魔法への理解も深まり、扱いも上達していく。現に我が校の卒業生の多くは、魔法を仕事の中心にする職や専門の学校に進みます。ですが、生徒の多くは今勘違いをしています」


「勘違い?」


「はい。〈粒子〉量の多寡で魔法の優劣を決め、強い魔法を使い、勝負をして人に勝つ。いつしかそんな強さ偏在、野蛮な思想が蔓延するようになってしまいました」


 それに関しては、ファイナの脳筋セリフや親衛隊の言い合いに、心当たりになるようなものがあった。


 威力がある魔法に魅力を感じるのは分かるが、体内〈粒子〉がなくなれば魔法が使えなくなるのだから、もっとバランスを考えた方がいいと天見は思うのだが。


「詳しくは言えませんが、先程の人の悩みもそれに関することでした…………〈粒子〉量が少なくても、彼らには己自身を体現した誇れるオリジナルの魔法がある。それなのに、弱い・使えない・勝てないだけで不当に貶められているのです」


 悔しさに顔を曇らせていたシャロンが、キッとした視線で天見に訴えかける。


「彼らの苦悩が分かりますか? 他人の魔法をコピーして強い魔法を使おうとしているあなたは、彼らに対して恥ずかしいとは思いませんか?」


「全く思わない」


 睨みつけてくるシャロンに対して後ろめたい所が全くない天見は、真っ向から視線を飛ばす。


 まさかそんな態度をされるとは思っていなかったのか、シャロンは気後れした。


「別に俺は威力がある魔法だけを使いたいなんて欠片も思わない。俺はコピー魔法使いとして美学を持っているが、その中に相手の弱点となる魔法で攻める、相手より威力がある魔法で攻めるっていう項目はない。それは賢い戦い方で、俺が考えるコピー魔法使いの戦い方じゃない。魔法と真剣に向き合い、いかに工夫して知力を尽くして戦うか、それがコピー魔法使いの戦い方だ」


 天見は明らかに呆れたため息をついて、手を振る。


「大体にして、悩んでいるってことはあいつもシャロン先輩も強い奴が称えられるこの状況を受け入れているんだろ? わざわざ苦手な種目で競い合ってご苦労なことだ。俺だったら〈粒子〉量が少なくって強い魔法が使えなかったらしょうがないって諦めるね」


 小馬鹿にした物言いに、シャロンのまなじりがすぐに上がった。


「あなたという人は――」


「そして、自分の得意な種目にかける」


「え?」


 怒気が抜けるようなシャロンの呟き。天見は気にせず言葉を続ける。


「シャロン先輩の言う通り、本当に誇れる魔法があるというならその魔法の特性を熟知しそれを伸ばすべきだ。強さ威力で負けているならスピード・重量・効果・十分に力が発揮できる状況・造形何でもいい。一点集中で伸ばす。それが本来の目的なんだろ? 強弱にだけこだわるような脳筋達なんて関係ない。オールマイティなんて目指さず、自分の道を行けばいい」


 強さにこだわる今の状況を何とかしたい。それは、強さにこだわっているからに他ならない。そう天見に指摘されて、シャロンは口をつぐんだ。


 天見はシャロンの表情を見て余計なことを言ったかな、と少々思いながら前髪をかく。


「う~ん、まあね、それは俺の意見ってことで……あ、それに、シャロン先輩はあいつのことを可哀想だとか不幸そうに見ているけど、俺に言わせればそう悲観することじゃないと思う。むしろ俺のように背は低い、体力はない、イケメンじゃない、勉強ができるわけでもないっていう、生まれた時から他人より劣っていることが多いっていうのは、ラッキーなことでもある」


 顔を上げるシャロンに、天見は指を突き付ける。


「夕飯は何がいいって聞かれて、何でもいいって答えられたら逆に困るだろ? そういうことだよ」


「そう割り切れるのが、天見の強さよね」


 頭の上にクエスチョンマークを浮かべるシャロンを残して、天見は軽く手を振って、ベリメスと共に林の方へ戻っていった。



 聖クレストエルク魔法学園から伸びた石畳の道は、クレッセントの町に続いている。その道はそのまま町の中心を走る大通に繋がっていて、クレスト通りと言う。


 その道を疲れた様子の天見はベリメスを肩に乗せて歩いている。


「あ~、昨日今日で怪しそうな場所を探しているのに全然見つからない。何であの学園はあんなやたらに広いんだか」


 聖クレストエルク魔法学園は校舎も大きいが、敷地面積はさらに大きい。敷地の中に林や池、川まである。その広大さゆえ、魔法の大会やイベントごとがあれば観客席を設け、多くの人を受け入れられる。


 一人でその全てを見回ろうとしたのなら、一日二日では終わらないだろう。


「〈柱〉の反応が大きすぎるから、中心がどこにあるかもよくわからないし……あることは間違いないんだけど……」


 ベリメスも見つからないことは予想外のようで、顔を曇らせる。


「手がかりゼロっていうのが厳しいな~。学園の案内図にも表記なんてないし……やっぱり学園のことに詳しい常識人の協力者が欲しいな」


「そうね。でも、協力者には事情を説明しないといけないから慎重にね」


「まあね、あんな悪魔がいるんじゃな~」


 二人は昨日見た『コーピストレス』のことを思い出し、ため息と共に項垂れた。


 色々な予想外はあったが、アレが一番の予想外なことだったかもしれない。


「おい、邪魔なんだよ! そのチンケな魔法なら隅で十分だろ、場所開けろ!」


 騒がしい声にベリメスが目をやると、公園で数人の若者が騒いでいた。体格がよくガラの悪そうな四人が、ワイシャツに黒スラックス姿の学生三人にすごんでいた。


 彼らがいるのは整地された動きやすい場所で、狙いを外した魔法が外に出ないよう高いフェンスで仕切られている。


「僕達が今から使う予定なのに」


「あ~ん? なんなら勝負してやってもいいんだぜ。てめえらの下級レベルのチンケな魔法とよ」


 罵られた学生達は悔しそうに顔を俯かせている。相手の方が人数が多い上に年上そうだし、自分達の魔法もそれほどスゴイわけではないから言い返せないでいる。


 見ていてもしょうがないとベリメスが顔を天見の方に戻すと、そこに彼の姿はなかった。


「魔法をバカにするな」


 天見が五人に突っかかっているのを見て、ベリメスはぐしゃぐしゃの線を頭上に浮かべて目元に手をやる。


「はぁ!? なんだテメェ! いきなりしゃしゃり出てきて何言ってやがる!」


「魔法をチンケ呼ばわりするな。どんな魔法にだって使いようはある。謝れ」


 真剣な顔のセリフを聞いて、一瞬呆気に取られた五人は一気に噴き出した。


「おい、おまえら。この小さい兄ちゃんにおまえらの魔法がどれだけチンケか見せてやれよ」


 困惑していた三人の内、一人が勇気を出して魔法を使った。傾けた入れ物から流れ落ちる水が、魔法によって凍った。


「いや~、便利便利。確かに夏に氷屋とかやった時には役に立ちそ――」


 軽口を披露していた男の両頬を、天見が片手で掴む。


「動くな!」


 いきり立ちそうになる仲間連中の機先を、天見の大声が制した。


「水分を一瞬で凍らせる魔法か。さて、言うまでもなく口や鼻には水気がある。だけど知っているか? 眼球にも水分が含まれていることを」


 天見のセリフに、掴まれている男はビクンっと肩を跳ねらせて天見の腕を引き離そうと掴むが、天見が空いた手を目元近くにやると動きを止めた。


「俺はコピー魔法使いで、一度見た魔法を使えるようになる。信じる信じないはそっちの勝手だが……この魔法が本当にチンケかどうか、実際に喰らってみるか?」


「ま、まふぇ! わふぅかった! あひゃまひゅ、あひゃまひゅよ!」


「チンケな魔法って言って魔法さんごめんなさい。全員で」


 謝るって魔法に!? と全員が驚愕し、アホみたいなセリフに口ごもっていると、天見が捕まえている彼の目元をついに掴んだ。


『チンケな魔法って言って魔法さんごめんなさい!』


 そして、天見が彼を解放すると、


「てめえ、覚えてろよ!」


「このピーコーがぁ!」


 定番の捨て台詞を吐いて四人は逃げて行った。


「天見、何やっているのよ! 変なことに首を突っ込まないの!」


「ごめん。ただ、魔法を軽く見る言葉に我慢が出来なかったんだ」


 天見の向う見ずなセリフに、仕方ないとばかりにベリメスは苦笑して肩から脱力した。


「今の魔法はアップロードしないからね」


「取捨選択は基本的にベリメスに任せるって」


 そして、天見は三人の学生に向き直り、


「魔法はおまえらが自分達を成長させて使いこなしてくれるのを待ってるんだからな。バカにされて黙っているんじゃなくて、しっかりと理解して――」


 と、その時、


「ピーコーはどこですか~!」


 聞いたことのある声が彼方から迫って来ていた。


 なぜここに!? と疑問を考える前に、天見とベリメスは脱兎のごとく逃げて行った。


 いきなり走り去られて、残された三人は目をパチクリとさせる。そして――、


「待たせたな! 正義の味方『神の使徒』参上!」


 遅れて新たに姿を見せた白い布で顔を覆った男。意気揚々と現れたのはいいが、タイミングが悪くって空っ風が吹いた。


「いや、あの~、通りすがりのコピー魔法使いさんが助けてくれました……けど~」


 申し訳なさそうに恐縮する三人。その背後を抜身の刀を持つ燕が走り抜けていったりする。固まる男が居た堪れなくって、三人は軽く会釈して結局その場を後にした。


「やはりピーコーは悪魔だ!」


 残された『神の使徒』から、天見はいらない恨みを買った。



 通りを急いで戻った天見は、レンガ造りの三階建ての屋敷を見つけた。町の中心部に近いのにその屋敷はかなり大きい。一般人の天見は思わず見上げて呆けてしまったほどだ。


 おっかなびっくり玄関のドアを叩き、対応に出てきた老執事に驚きつつも説明し、快く迎え入れられた。


「水鏡」


 玄関ホールの赤い絨毯の上で中を見回していると、階段からファイナが下りてきた。


「こっちだ。『連理の枝』の部屋がある」


 自分が案内すると、ファイナは老執事に説明して下がらせる。


「聖籠が水鏡を探しに出て行ったが、会わなかったのか?」


「え? いや~、全然知らないな。俺達学園から真っ直ぐ帰ってきたもんな?」


「ええ。絶対確実に見ていないわね」


 確かに、見てはいないだろう。空っとぼける二人だが、ファイナは気にした様子もなく「そうか」と呟いて、先行して案内をする。


 歩いていると、天見は物珍しそうにキョロキョロしている。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。この屋敷を制圧しようと思ったら軍隊が必要だ」


「いや、別に警備上の観点から見ていたわけじゃないんだけど」


「……不可解な奴だ。ならばなぜそんなやたらに見ている?」


「こんな立派な西洋風の屋敷に入るのって初めてだから、珍しいんだよ」


「そうか? この屋敷はリコリンが学園に近い場所に自宅が欲しいと言って建てたものだから、それほど大きい方ではないぞ。屋敷のほとんどの者は通いだしな」


「…………」


 もう天見には言葉もなかった。心理的、いや、経済的に二人の距離がグンッと開き、間に川だか谷だか山だかが出来た。それが分かったベリメスは、この二人は本当に合いそうにないわねっと、心の中で呟いた。


 三階に来たファイナは、部屋のドアの前で立ち止まる。


「ここは私の両親がこの町に来たら使う部屋だ。二人も当然『連理の枝』で、かなりの実力者だ。世界中の大会に出場しては勝ち上がっていく」


 そう説明しながらファイナはドアを押し開き、中を一目見た天見は、


「お邪魔しました」


 反転して廊下を戻ろうとした。


「待て」


 すかさず、ファイナが天見の手を掴んで引き留めた。


「なぜ帰る」


「逆にあなたは、なぜ平然とこの部屋を紹介できたのよ」


 ベリメスに言われ、ファイナは無表情ながら頭上に疑問符を浮かべる。


 ため息をついたベリメスは天見の肩から飛び立ち、


「見慣れているから気づかないんでしょうけど、もう一度部屋の中を見なさいよ」


 眼前に飛ぶファイナに促され、部屋の中を確認する。


 寮の『双葉』の部屋より広い中は天井にまで届く本棚、光るシャンデリア、アンティーク調のティーテーブルや椅子、その他調度品があり、絨毯がひかれて綺麗に整っている。なんら問題はないし、中にも入らず帰る意味などない。


「ベッドが一つしかないけど、あなた天見と同衾(どうきん)する気?」


 部屋の中央隅にあるベッドはキングサイズで、一つだけ。


 気づいたファイナの全身は瞬時に燃え上がった。


「あっつ!」


 天見は掴まれていた手を振りほどいて、飛び火しなかった手を勢いよく振って冷ます。


「そ、それ、ぐらいの覚悟も無しに、『連理の枝』に、誘ったとでも、思うのか」


 無表情ではあるがたどたどしい言葉に、全身の炎は消える気配がない。言葉に反しているのは一目瞭然だ。


「いや、無理しない方がいいわよ。寝ている間に屋敷が全焼したら笑えないし」


「同じ部屋でももういいけどベッドはファイナと燕が使え。あれだけ大きければ燕が落ちる心配もないだろ。俺は柔らかそうな椅子で寝るから」


「……うむ、そうか」


 さすがのファイナも無理強いはしてこず、ようやく鎮火した。


「ファイナちゃ~ん!」


 背後から聞こえた声に天見が振り返るより速く影が横を通り過ぎ、その影はファイナの胸に飛び込んでいった。何とか受け止めたが、衝撃でファイナは二・三歩下がった。


「もう~、家に帰ったらファイナちゃんがいるなんてさいっこう! 就業時間内に全ての仕事を終えてきた甲斐があったわ! さあ! 今日はパーティよ! 夕飯はファイナちゃんの好きなもので埋め尽くしてあげる!」


 ハイテンションのリコリスにまくし立てられ、先程のようなことがあっても顔色一つ変えなかったファイナが(全身はのぞく)、燃え尽きたような儚い笑みで話を聞いている。


「あ、久し振りに一緒にお風呂に入る!? そうね、そうしましょう!」


 と、強引に腕を引っ張られる状況になって、ファイナの顔に生気が戻ってきた。


「もう! もう一緒に入るような歳ではない!」


 そう聞くとリコリスは不満そうに頬を膨らませ、


「え~、いいじゃないのスキンシップってことで……まあいいわ。じゃ、明日は一緒に入りましょ。明日もバビュンっとすぐ帰ってくるから!」


 ファイナは曖昧に笑って答えなかった。


 二人の邪魔(正確に言えばリコリスの邪魔だろう)をしないよう、天見は静かに部屋の中に入る。入る間際に、すがるようなファイナの視線と目があったが、家主の不興を買うわけにもいかないので黙って合掌を返した。


 そして、夕飯の一品にパンプキンスープが出された。天見はファイナに「好きなのか?」と聞いたら、やたらに弾んだ声で「そうなのだ」と答えていた。

 う~ん、もうちょっと騒ぎたい。この章は学園生活を中心に日常パートにするつもりだったのになぜか天見が語ることが多くなる。

 次回は天見とベリメスがリコリスと面談します。そして、「物足りない」発言に新たな疑惑が浮上してしまい……。まあ、すぐ次話投稿します。

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