やってしまったプロローグ
あなたがあなた自身の知恵と能力を用い、苦労して作り出したものは当然あなたのものである。それを他人が勝手に利用することは、道理に反した行為だ。
聖クレストエルク魔法学園の一年C組に、転入生がやってきた。
クラスメイト全員、何かしらの装置を持っていた。ある者は体に装着し、ある者は武具として肌身離さず装備していた。そんな生徒達の三十を超える興味津々の視線の中、装置らしきものを何も持たない少年は、教卓までスタスタと進んでいた。
栗色の髪と一六〇に届いていない身長から、少年という印象がピタリとはまる。他の生徒と同じ鮮やかな赤と白を基調にした動きやすそうな制服姿なのだが、着られている感がスゴイ。
装置を持っていない少年に訝しげな視線を向け始めたクラスメイトは、彼の左目につけられたモノクル(単眼鏡)と、左の人差し指にある高価そうな青い石が入った指輪が特に気になった。
少年――担任が黒板に書いた彼の名前――水鏡天見が教室の最前ど真ん中に立ち、クラスメイトに視線を巡らせ――
鼻血を噴いて後ろにぶっ倒れ、黒板に後頭部を激しくぶつけた。
「声出す前に血ィ出してどうするのよ!」
唖然とする担任とクラスメイトの前で倒れた天見を引き起こしたのは、彼の胸元から飛び出てきた妖精だった。背中に四枚の羽を持つ、手の平サイズより少し大きい妖精だ。ライムカラーの髪を一つにまとめ、肩が見える服に短い淡色のフレアスカートという、何とも妖精らしい格好だ。
妖精に起こされた天見は手で血を拭いながら、
「まあね、俺だってどうかと思うよ……でもしょうがないだろベリメス。この西洋中世風の雰囲気と魔法使いに会えた興奮を考えると、昇天しなかっただけマシだと思う」
ベリメスと呼ばれた妖精は「世話がかかる」とため息をはき、天見の胸元から手を放して左手を腰に当てる。
「そんな調子でどうするのよ。世界中全ての人が魔法を使えるのよ。言うなれば全員魔法使い。こんなんじゃ外も歩けないわよ」
天見の目がカッと見開かれ、勢い込んでベリメスに、
「ということは! 夢見ていた白ひげローブ姿の老人魔法使いやしわくちゃ黒ローブの老婆魔女や、美に固執する熟女魔女や一隊を任されている才能溢れる青年魔法使いや、メガネのがり勉の少年魔法使いや、フリルドレスでステッキを持つ魔女っ娘が――フゥ~」
「あ、ちょっと天見!? 天見!」
ツラツラと口早に並べ立てた天見は興奮しきって頭の血管でも切れたのか、糸が切れた操り人形のように力なくいきなり倒れた。
クラスメイト一同、「おかしな奴」と思うには十分すぎる奇行だった。
目覚めた天見が体を起こすと、胸の所で寝ていたベリメスが転げ落ちた。
「急に起きるんじゃないわよ」
シーツにぶつけた鼻の頭をさすりながら、不満げに口を尖らせる。
「…………ええ~っと、ここは?」
天見はボンヤリとした顔で周囲を見回す。と、そこにカーテンを開けて白衣の保険医がやってきた。意外に若い女性で、天見の目には三十にいっていないように見えた。
「起きたみたいね。体は大丈夫?」
薄紫ショートヘアーのニコリとした女性は、白衣の下はワイシャツにタイトスカートという服装だ。そばに立たれて後頭部を触られると、抑えられた香水が香り、ちょっとした痛みが走った。
「少しハレてるかしら」
天見は立ち上がろうとして前傾したが、すぐに額を押さえて腰を落とす。
ベリメスは心配そうに天見の肩に座って、彼の頬に手をやる。
保険医は天見の状態を確認して、
「……今日転入してきた水鏡天見君よね? あなたのクラスは実技授業中だから無理して出ないでそのまま休んで――」
「実技授業って、もしかして魔法使っているのか!?」
いつの間にベッドから下りたのか、天見は保険医に詰め寄って聞いた。
「え、ええ」
詰め寄られたといっても、身長が低い天見は胸元あたりで見上げてきているので圧迫感はないのだが、凄まじい熱が感じられて保険医は思わずどもった。
「でも、あ、あなた出るつもりなの? 見たところガジェットも――」
「どこで!?」
「グ、グラウンドだけど……」
答えた瞬間、天見は「失礼します」という言葉を置き去りにして姿を消していた。ものすごい速さだった。さっきまでフラついていたとは思えない敏速な行動に、保険医はポカーンと止めることもできず見送った。
息を切らしながらも駆け足でグラウンドまで来た天見は、目の前の光景に思わず足を止めた。
赤い双眸で壁に描かれた的を見定めた、黒より濃く鮮やかな紺色で長髪の少女――背の高い彼女の表現としては綺麗な女性の方が合っている――が、右腕に装着している装置に消しゴムサイズのチップを入れた。
「起動」
彼女の声に装置が反応し、液晶からモザイク処理された文字や模様が現れ、周囲に展開していき右手を輝かせた。そして、彼女はその右手を掲げ、
「二頭一対の理に爆砕せよ」
一足飛びに間合いを詰め、的に向かって拳を突き出す。
「双爆輪唱」
分厚い壁を爆砕しても余りある魔法が、壁の背後の空間までも激しく焼いた。彼女が拳を引けば、ポッカリと焦げた穴が円形に開いていた。
一連の動き全てを――モノクルを装着した左目で――見ていた天見は思わず拍手した。
彼女は拍手をする天見に気づき、無表情な顔を向ける。
「衝撃の方向が定まった綺麗な魔法だな」
天見には無駄に破壊されていない壁の円を見れば、それが分かった。
言われて、彼女は目を瞬かせた。
「天見、次行くわよ」
ベリメスに促されて、天見は紺髪の彼女に手を振ってグラウンドの中央へ走り出す。
残った彼女はそそくさと去っていく二人を目だけで追い、見えなくなってまた的当てに戻ろうとして視線を戻したが、少し黙考した後二人を追った。
天見は実技授業担当の先生に来たことを告げ、まだ体調が悪いので見学していますとことわって、邪魔にならない場所に座っている。
クラスメイトは魔法で的を狙っている。どうやらウォーミングアップを兼ねているようで、体を動かしつつ、各々の装置の調子を見て魔法のコントロールをしている。
みんな和やかに……悪く言えば集中力に欠いて的を破壊している。的は壁に描いてあるものから、浮遊する風船のようなもの、不規則に動く人型のものなど多様にある。
「しばらく見ない内に随分と文言がコンパクトになったわね~」
天見の頭に座るベリメスの手には、彼女のサイズに合わせた赤い表紙の本があった。
「文言って?」
「魔法を発動させる発言の前に唱える呪文のことよ。昔は普通の魔法でも一分ぐらいかかったし、ものによっちゃ数十分かかるものもあったのよ……ほら、あっち見て」
会話の途中でベリメスに言われ、天見は視線を移動させる。そこでは男子生徒が腕の装置にチップを入れ、「起動」と言った後にモザイク処理された文字と模様の中で地面に手をつけ、
「大地を餌とする緑色の王!」
「ほら、あれが文言」
と、解説したが、モノクルの奥の目で一心不乱に見ている天見は聞いているのか、いないのか。
「緑色蔦縛!」
発言の一瞬後に地面から緑の蔦が飛び出してきて、風船の的に絡みつく。
「そのおかげかしらね。昔の魔法使いは覚えることが多かったせいで体を鍛える暇がなかったから貧弱な子が多かったけど、ここの子達はそんなことなさそうだし」
ベリメスの言葉通り、魔法を使った男子生徒の後ろでチップを装置にセットした男子生徒は、中々にガッシリとした体格をしていた。
「俺にかしずく風の精霊どもよ! 眼前の敵を両断しろ! ――エアスタッパー!」
袈裟切りに振り下ろした腕の軌跡にそって風の刃が発生して、的を蔦ごと両断した。
「今度はあっち。おそらくあの体や武具につけた機械がそれを可能にしているんでしょうね」
「俺にはないのか?」
聞きながらも、天見の視線はモザイク処理された文字と模様の中で、躍るように一回転している女子生徒の姿に釘づけだ。
「天空で舞え――天翔流、羽衣!」
見上げるほど高い校舎の屋上に届きかねない大ジャンプをし、跳び上がった頂点から雨のごとく水の塊の魔法を乱打して、全て壁の的の中心に当てた。
「天見は特別なんだから必要ないわよ。でも、人間もここまできたのね~いっそ感心するわ……防御系の魔法も欲しいわね。ストックにも限りがあるし、取捨選択していかないと……」
ベリメスは赤い表紙の本を見ながら、難しそうな顔をして呟く。
「とりあえずたくさん見るぞ。せっかく魔法世界の魔法学校に来たんだし」
ウキウキとしている天見を見て、ベリメスは微笑ましく表情を緩ませ、
「それじゃ次は……あら」
ベリメスの声に反応して天見が顔を上げると、そこに先程の紺髪ロングの女子生徒が立っていた。高所から無表情の視線で見下ろされる圧。それにベリメスは不機嫌そうな顔を見せるが、天見は怯んだ様子もなく向こうからの言葉を待っている。
「私はファイナ=グリューテイル。聞きたいことがあるのだが、少しいいか?」
「俺は水鏡天見。何でもどうぞ」
天見は話しかけてくれた魔法使いに喜んで気づかないでいたが、周囲のクラスメイトはファイナが来たら露骨に距離を取っていた。彼女は天見の隣に座り、彼の腕や足を無遠慮に確認してから、
「キミのガジェットは何だ? 得意な属性は? どういった魔法を使う?」
そう聞かれ、天見は前のめりにグイッと顔を彼女に近づける。
「ガジェットって、やっぱりその機械のことを言うのか!?」
「…………」
天見の質問返しに、ファイナの目は無感情に細められた。
「まさかキミは「ガジェットを知らない」とでも言うのではないだろうな?」
「……………………あ~、いや~、何でもない。変なこと聞いて悪かった」
と、そそくさと立ち上がってどこかに行こうとした天見の手を、ファイナはすかさず掴んで引き留めた。
「ガジェットはチップを読み取る機械のことだ。チップの中にはデータ化した魔法の一部が入っている。ガジェットとチップのおかげで長々とした文言も、複雑化する動作も簡略・省略することができるようになった。チップを読み取る機械をガジェットと言うので、形は様々だ。私のはスタンダードな腕輪型だ」
ファイナは二人に右手首にある腕輪型ガジェットを見せた。青のメタリックカラーで中心部に半球状の液晶がついている。天見の感想としては、
「カッコいいな!」
ベリメスも少しは興味あるようで、ガジェットに近づいて旋回する。
「さて、キミの質問には答えた」
ファイナは右手を下ろし、天見を掴んでいた左手で彼を引き寄せて強い視線を飛ばす。
「今度はキミが答える番だ。ガジェットは? 魔法の属性は? どういった魔法を使う?」
どうやら無回答は許されないらしい。そう確信できるほど、ファイナは無表情でプレッシャーをかけてきた。
「ガジェットは持ってないけど……」
「忘れたのか? 信じられないドジっ子なのだな」
「いやいやいやいや、ドジっ子とか違うわ。持ってないの。持ってなくても魔法が使えるんだよ」
「ガジェットを使わなくても魔法が使えるのは当たり前だ。私はそんな程度の低い魔法について聞きたいのではない。キミはオリジナルの魔法を創作しているのか? それとも誰かに師事をしているのか?」
「ちょっと待て。程度が低いって聞き捨てならないぞ。ファイナは魔法使いのくせに魔法を差別する気か」
その少し怒気を含んだ天見(転入生)の言葉に、周囲のクラスメイトは内容などどうでもよくハラハラし出す。
「ガジェットを使わずに放つ魔法なんて子どものオモチャのようなものだ。あんなもの、十五を超えてまだ戦闘に使っている者は、ガジェットを使いこなせない未熟者だ」
「どんな魔法にだって長所と短所はあるだろ。ようは使い所だ。そんな単純なことも分からずバカにする方が未熟者じゃないのか」
「真に優秀な魔法はどんな状況であろうとも打開できる強さがある。よって、短所・欠点・弱点が多いほどその魔法は劣っていることに他ならない」
「魔法に強弱はあっても優劣は存在しない。まさか魔法使いにこんなことを言うとは思わなかったが……強さばかりに気を取られるなんて脳筋か!」
淡々と話すファイナと強く譲る気がない天見の間で火花が散る。
ベリメスはその様子を黙って楽しそうに見ているが、周囲のクラスメイトはまた被害者が出るのではと、気が気じゃなかった。
「ふむ。ならば、試してみるか? キミの魔法が私の魔法に比べてどれほど劣っているのかを」
「試させてくれるんなら願ってもない。その乏しい発想力を後悔させてやる」
二人は同時に立ち上がった――その時、
「! 天見、気をつけて!」
ベリメスの注意喚起に少し遅れ、グラウンドに甲高い警報が響く。
「三日前に出たばかりなのに、もう〈核魔獣〉が出てくるのか。続きはまた後だ、キミはひとまず避難しろ」
そう言って、ファイナは天見から離れていった。周囲のクラスメイトも機敏に動き、担当の先生が天見を校舎の中に避難させた。慌ただしい展開で声を挟むこともできなかった彼は、そこでようやくベリメスに聞いた。
「〈核魔獣〉ってベリメスが言っていた……」
「そ。私達が解決しなくちゃいけない問題のせいで頻出しやすくなっている災害よ」
ベリメスがグラウンドの中空を指さすと、そこに濁ったダークブルーの球体が浮いていた。次の瞬間その球体が鈍く発光し、いくつものクリアなグリーンの立方体が球体を囲み、歪な多角形のボディを構成した。
「あれがその〈核魔獣〉か!?」
天見は巨大なそれを見て、興奮の声を上げる。
「魔法のエネルギー源である〈粒子〉は人の体内で属性ごとに染色され、魔法の効果終了後にまた無色の〈粒子〉に戻るんだけど、属性に染色された〈粒子〉の中には戻りきらないものがあってそれが徐々に集合して核として物質化し、一定量を超えると〈核魔獣〉になるのよ」
ベリメスの説明を聞きながら、より一層天見は前のめりになって〈核魔獣〉を見る。
「ほらほら、そんなくいるように見てないで倒しに行くわよ。魔法の試運転も兼ねていい相手よ」
「!? ついに、ついに長年の憧れだった魔法を使うのか…………うっしゃ~!!」
天見は勢い込んで両の拳を胸の前でギュッと握る。
その時、〈核魔獣〉の球体が鈍く光り、ボディから放たれた幾条もの光線が地面や校舎に直線の焦げた傷跡を深く残していった。
それを見て天見は怖気づくかと思いきや、
「〈核魔獣〉に何か弱点とかあるのか?」
「う~ん、弱点ね……あれのボディはグリーンで木属性が多分に含まれているから攻撃に木属性は避けた方がいいわね。同属性だと耐性があるから消耗戦になりやすいの。あと〈核魔獣〉は意思が無く、無目的に魔法を放出しているだけだから、対応さえ間違わなければそう危険じゃないわ。で、ダークブルーの球体があるでしょ? あれが核。あれを破壊すれば大気に戻るわ」
「なるほどわかったそれじゃ行こう早く行こう早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!」
「少しは落ち着きなさい!」
ベリメスをせっついて背中を押す天見は、校舎内から援護に向かう学生に紛れてグラウンドへ向かった。
グラウンドでは学生が数人単位のグループを形成し動いていた。最初こそ〈核魔獣〉の攻撃を許したが、グループの攻守がしっかりと分けられていて、攻撃されてもしっかりと防御し、合間をついて攻撃してボディを破壊していた。攻守を分けているのは、攻撃・防御でいちいちチップを変える手間を省くためだ。
前衛を担当しているグループの中から、ファイナが一人で飛び出した。
輝く右手を〈核魔獣〉のボディに叩き込み、大爆発でダメージを与える。粉々に砕けたボディが細かい光となり、大気の中に消えていく。
軽やかな動作で〈核魔獣〉から離れ、着地する。
学生の数人が苛立ち気な視線と雰囲気を彼女に向け、
「仲間殺し(キリングメイト)のくせに」
「理事長の孫だからって調子に乗って」
吐き捨てるような声が聞こえたが、ファイナはそんなものを気にした素振りもなく、素早くガジェットのチップを入れ替える。
ダークブルーの球体が鈍く光り、〈核魔獣〉を中心に衝撃波が走った。
「一切を通さぬ炎の断絶――朱雀宝門流、寂静火壁」
ファイナが腕を振って地面に刻んだ火の弧が垂直に上がり、炎の壁が衝撃波を防いだ。
その後でファイナは周囲を見やる。くだらないことをして集中力を欠いた者が衝撃波に弾かれ、見晴らしがよくなっていた。〈核魔獣〉に目を移せば、核が露出しかけており、後一撃万全の魔法を叩き込めば倒せると見当をつけ、拳を握り腰を落とす。
その時、後ろからの音に気づいて肩ごしに振り返り、
「!?」
思わず息を呑んだ。
天見はベリメスを引きつれ、一直線に〈核魔獣〉に向かって疾走していく。その顔はまるで遊園地に行くのを楽しみにしている小学生のようなドキドキワクワク顔だった。
〈核魔獣〉しか見ていないその目はファイナに気づかず通り過ぎ、その耳は後ろの制止の声すら聞こえてない。
「遠慮無用の全力で行くわよ!」
「コピー魔法使いの美学一つ! コピー魔法が必要な場面では躊躇なく使う! 遠慮なんてするつもりもない!」
走っている天見に並ぶベリメスは赤い表紙の本を開き、
「ナンバースリー、インストール!」
ベリメスの声に反応して、天見のモノクルのフレームが緑に点滅する。
「コピースタート!」
立ち止まった天見は地面に右手をつける。
「大地を餌とする緑色の王! 緑色蔦縛!」
地面から飛び出してきた蔦が〈核魔獣〉の一番下の立方体に絡みつき、移動を封じる。
だが、〈核魔獣〉は蔦を気にした素振りもなく、その場で球体を鈍く輝かす。
「ナンバーフォー、インストール!」
今度はモノクルのフレームが藤色に点滅する。
「コピースタート!」
天見の左手にある指輪が、渦を巻くように光を集める。
「俺にかしずく風の精霊どもよ! 眼前の敵を両断しろ! ――エアスタッパー!」
天見が袈裟切りに振り下ろした腕の軌跡にそって、風の刃が発生する。〈核魔獣〉から放たれた巨大な水流がその風の刃に両断され、細かく散って消える。
霧雨のような水を浴びながら、天見は爛々と目を輝かせる。
「ベリメス! 次は!?」
「はいはい! ナンバーファイブ、インストール!」
「コピースタート!」
再びモノクルのフレームが藤色に点滅し、指輪が集める光の中、天見は踊るように一回転しながら腕を動かす。
「天空で舞え――天翔流、羽衣!」
高々と跳躍し、〈核魔獣〉の核よりも高い位置まで跳び上がった。
ベリメスは天見の髪をしっかりと掴みながら、
「決めなさい! ナンバーツー、インストール!」
モノクルが赤く点滅し、天見は〈核魔獣〉の核に向かって落下しつつ、
「コピースタート!」
青い指輪と共に輝き出した左手を掲げ、
「二頭一対の理に爆砕せよ!」
勢いよく拳を突き出す。
「双爆輪唱!」
天見の拳が半ばまで破壊されたボディに突き立った瞬間、轟音とともに膨れ上がった爆発が〈核魔獣〉の核をのみこんだ。ガラスが割れるような音が響き、〈核魔獣〉の姿が薄らいでいき、最後は消えるように霧散した。
着地した天見は抑えきれない喜悦に体を震わせ、拳を力強く握りこむ。
「……~~っすごい! 凄すぎる! これが魔法!」
有頂天になった天見のそばでベリメスは赤い本を閉じ、
「初めて魔法を使ったとは思えないわね。これなら問題なく、世界も救えそうね」
と、何やら変な空気を感じ取った。
周囲を見渡すと、テンションが果てしないほど上がった天見を遠巻きにし、学生達が騒然としていた。そして――走りこんでくる女子生徒。
彼女は刀の柄にあるガジェットにチップを入れ、
「起動ぉ!」
間延びした声の主はモザイク処理された文字と模様をまとい、
「闇夜を照らす月、姿を変える月は水面に映る――明暗月夜流刀剣術、水月!」
刀身が薄い水に包まれた刀を抜き放った。
ベリメスは慌てて天見の頭を押し潰すように下げさせ――彼の頭が一瞬前まであった場所を刀が裂いていった。
「な、何するのよいきなり! 危ないじゃないの!」
すれ違った短い赤毛の女子生徒は振り返り、
「一年C組著作権委員、聖籠 燕ですぅ。あなたを著作権法第一条『著作権に登録された魔法を著作者の許可なく勝手に模倣し、大衆の前で戦闘・営利目的に使用することを禁ずる』に違反した疑い……いわゆる著作権法違反で拘束させてもらいます~!」
「…………は?」
刀の切っ先を向けられながら、天見の口から呆けた声が漏れ出た。
『コピー』魔法使い水鏡天見は、まだ何も知らない。
魔法使いの権利を尊重し、魔法使いの創作意欲・創作物が生み出す利益を守り、文化を発展させることを目的とする。
それが、『著作権法』である。
投稿小説は初めてで、とりあえず定期的に更新するのを心掛けたいと思います。よろしくお願いします。
【追加コメント】
多くの人に見てもらい、プロローグの大事さを再認識しました。実力不足なのは自覚しておりますが、せめて『コピー』魔法使い表記している理由だけは知ってもらいたいです。
そこが私のかなりこだわりポイントですので、プロローグを読んで趣味に合わなかった人もできたら十五話をお読みください。コピー魔法使いを『コピー』で区切っている理由が書いてあります。
わざわざお越しいただき、ありがとうございました。